第2話:初手・枝で邪神撃破からの、定食屋開業計画
こんにちは、小橋零です。前回の世界で女神をすっかり丸め込み、「どこでも美味しいおにぎりが無限に作れるスキル」とプレミアム帰還パスを手に入れた俺。今度こそスローライフだといきなり畑の真ん中に降り立ったわけですが、相変わらずのカンストステータスのおかげで、そこらの木の枝を適当に投げたら厄災の使徒が秒で消滅しました。強すぎるのも考え物ですね。せっかく手に入れた廃屋で「おにぎり処・零」を開業したはいいものの、果たして定食屋の夢は無事に叶うのでしょうか。それとも、またしても神様の手違いが炸裂するのか……。第2話、開幕です!
光の粒子が収まった瞬間、零の視界に広がったのは、お約束の暗雲立ち込める魔王城の謁見の間――ではなく、なぜか一面に広がるのどかな田園風景だった。
「……あれ? 魔王城直通じゃないの?」
呆気にとられる零の背後から、ボロボロのローブをまとった初老の聖職者が、ハアハアと肩で息をしながら駆け寄ってきた。
「お、おお……! 伝説の異世界勇者様ですね! 私はこの村の神官長です! 今まさに、深淵の邪神の使徒が村を襲いに――」
「あ、どうも。小橋零です。使徒って、あの空を飛んでるキモい巨大イカみたいなやつですか?」
零が指さした先では、黒い瘴気をまとった全長五十メートルの触手生物が、村の畑を踏み荒らしながら「ギェエエエ!」と威嚇していた。村人たちは阿鼻叫喚の地獄絵図である。
普通ならここで勇者が聖剣を抜いて熱い名乗りを上げるところだが、零は足元に生えていたただの「そこそこの木の枝」を拾い上げ、フッとうそぶいた。
「さて、ちゃちゃっと終わらせて、おにぎりの米の調達に行きますか」
「は? 木の枝で何を……! それは邪神の使徒ぞ! 聖なる儀式を経なければ傷一つ――」
「うるさいな、パパッとやって終わりだから」
零が軽くため息をつき、極めてアンニュイなモーションで木の枝を放り投げた。
瞬間――音速の何倍もの衝撃波が空間を引き裂き、木の枝は邪神の使徒の中心核を寸分狂わず貫通した。
次の瞬間、使徒の巨体は静止し、まるでガラス細工のようにパリンと音を立てて綺麗な光の粒子へと分解されて消滅した。
村を絶望のどん底に陥れていた災害が、文字通り「秒速ゼロ・ワン」で消え去ったのだ。
静まり返る田園。神官長は目を見開き、顎が外れたようにガクガクと震えている。
「い、今の……ただの木の枝投げですよね……? 神話の時代の大魔法でもこんな一撃は……」
「いや、ステータスが最初からカンストしてるんで、何投げてもこうなるんですよ。あ、そうだ。この辺で美味しいお米が買える場所知りませんか? あと、水が綺麗で交通の便がいい空き物件とか」
「へ……? お、お米……?」
プロ勇者・小橋零の頭の中には、すでに邪神討伐の報酬でもらった『どこでも美味しいおにぎりが無限に作れるスキル』をどう活かすかという商売のことでいっぱいだった。
その後、神官長をはじめとする村人たちの狂気的なまでの感謝と崇拝を「いや、もうそういうのいいんで」と適当にかわし、零はさっそく村のはずれにあった廃屋を買い取った。
「よし、看板は『おにぎり処・零』でいいか」
無限に湧き出る極上の米を、前回の世界で仕入れた秘伝の塩と合わせ、最高潮の握り加減で三角にまとめる。一口かじれば、口いっぱいに広がる芳醇な甘みと絶妙な塩気。あまりの美味さに、通りすがりのスライムすらも香りに釣られて行列を作りかけたが、零に一瞥された瞬間に爆散して消えた。
「ふう、やっぱり生きていくなら魔王退治よりこういうのが一番だよ」
熱いお茶をすすりながら、おにぎりを頬張る零。
しかし、その平穏は長くは続かなかった。店の上空の空気が突如として歪み、お馴染みのまばゆい光の柱が再び零の体を包み込み始めたのだ。
「――おや? 待て待て待て、まだ開店して初日だぞ!」
「あ、小橋零くん! 次の世界で魔王軍がクーデターを起こして――」
「ふざけんな! 俺はおにぎりを握りたいんだよ!」
激昂するプロ勇者の叫びも虚しく、11回目の異世界ライフは、早くも12回目の強制送還によって強制終了させられるのだった。
第2話をお読みいただきありがとうございます!
まさかの「そこそこの木の枝で邪神使徒をワンパン」という雑な無双を挟みつつ、ちゃっかりおにぎり屋を開業してしまった零。しかし、平穏なスローライフを許さないのがプロの異世界転生者としての宿命なのか、早くも不穏な光の柱に包まれてしまいました。開店初日で強制送還とか、飲食店経営者として前途多難すぎますね。
果たして零は無事に美味しいおにぎりを世界中に広げられるのか、それとも12回目の世界へ強制連行されてしまうのか。次回、怒涛の展開をお楽しみに! ブックマークや感想をいただけると、零がおにぎりを握る手にも力が入ります。それではまた第3話で!




