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異世界転生、11回目です。〜プロ勇者は今日も神様の手違いにため息をつく〜  作者: 凪塩 未来


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外伝第2話:ルルと秘伝の塩、そして仕込みの朝

こんにちは、小橋零です。

『おにぎり処・零』の日常は、今日も朝早くから活気に満ち溢れています。本編では看板娘としてすっかりお馴染みになったルルですが、実は彼女がこの店で働くようになったのには、ちょっとした秘密と、ある「塩」を巡る涙ぐましい努力の物語がありました。今回は、ルルが零の背中から何を学び、一人前の「おにぎり処の相棒」になっていったのかを描く仕込みの朝のお話です。外伝第2話、開幕です!

朝の光が『おにぎり処・零』の二階の調理場を柔らかく照らし出す頃、ルルはすでにエプロンをきっちりと締め、額にうっすらと汗を浮かべながら大きな木べらを握っていた。

「零さん、お米の浸水時間、そろそろいいですか……?」


カチコチと正確に時を刻む時計の針を見つめながら、ルルが真剣なまなざしで振り返る。

カウンターの向こうで、零は湯飲みを傾けながらフッと優しく笑った。

「ああ、完璧なタイミングだな。火を中火に落として、そこから五分。蒸らしの時間は絶対に蓋を取るなよ。お前のその集中力なら、もう俺が手を貸さなくても最高の炊き上がりになるはずだ」


「はいっ!」


ルルはゴクリと唾を飲み込み、竈(かまど)の火加減を微調整する。

思えば、ルルがこの店に飛び込んできたのは、街が邪神の眷属に襲われ、絶望に打ち震えていたあの日のことだった。あのときは「おにぎり屋なんてふざけているのか」と本気で思っていた彼女だが、今やこの店の厨房に立つことが、彼女にとってかけがえのない誇りとなっていた。


カチッ、カチッ、と静かな店内に薪が爆ぜる音だけが響く。

五分が経過し、竈の火を落としたルルが、そっと大釜の蓋に手をかけた。


「――開けます」


ふわり、と立ち上った湯気は、ただの白米の香りではなかった。ほんのりと甘く、奥深い大地の息吹を感じさせる『黄金こまち』特有の芳醇なアロマが、調理場いっぱいに広がる。

ルルがしゃもじを入れ、ふっくらと輝く炊き立ての白米をしゃもじにすくい取った。一粒一粒がまるで宝石のようにツヤツヤと光り、湯気の中でピンと立っている。


「やった……! 今回も、見事に炊き上がりました……!」

ルルが嬉しそうに両手をぎゅっと握りしめると、零は「合格だな」と満足そうにうなずき、自分の特製エプロンをさらにキュッと結び直した。

「上出来だ、ルル。お前の炊く米は、もう俺が握るのと変わらないレベルにきている。さて、米が炊けたら次は『塩』の仕込みだ」


おにぎりの味の決め手となるのは、言うまでもなく塩である。

零の店で使われているのは、ただの海水塩ではない。かつて零が数々の世界を旅した折に、神々の領域や秘境の塩湖からこっそり……いや、堂々と回収してきた「次元を超えた秘伝の塩」のブレンドだ。その一粒一粒には微量の魔力とミネラルが凝縮されており、米の甘みを極限まで引き立てる。


「ルル、あの小瓶を取ってくれ。昨日、南西の霊峰で採ってきたばかりの『星屑の岩塩』の原石を砕いたやつだ」

「はい、これですね!」


ルルが差し出した木製の小瓶を受け取り、零は指先にほんの少しだけその塩を乗せた。

「見てろよ、ルル。塩の振り方一つで、おにぎりの命運が決まる。多すぎても辛いし、少なすぎても米の味がぼやける。手のひらの温度、湿度、そして握る瞬間の力加減……すべてがシンクロしたとき、はじめて『究極の塩むすび』が完成するんだ」


零が両手を水で軽く湿らせ、釜から適量のご飯をふわりと手のひらに乗せる。

職人離れした手際で、米粒の配置を崩さないように優しく、しかし確かな芯を持って三回、四回と形を整えていく。最後に、指先でつまんだ「星屑の岩塩」を絶妙な軌道でパラパラとかけ、パリッとした上質な海苔を巻く。


コトン。

目の前の木の皿に置かれた塩むすびは、ただの食べ物というよりも、もはや一つの芸術品のようだった。


「ほら、これを食べてみろ。今朝一番の出来栄えだ」

ルルはゴクリと喉を鳴らし、両手でそっとそのおにぎりを受け取った。

温かさが手のひらを通じて心地よく伝わってくる。一口かじると、ホロリとほどけた米の甘みと、キリッとした岩塩の旨味が絶妙なバランスで口の中に広がり、思わずルルの目から感動の涙がちょこっとこぼれた。


「……美味しい……。何度食べても、零さんの作るおにぎりは、心の底から元気が湧いてくる味がします」

「だろ? 食べるだけでどんな強敵も(精神的に)無力化する、我が『おにぎり処・零』の看板メニューだからな」


零がニカッと笑ったその時、店の表からカランコロンと心地よいドアベルの音が響いた。

「おや、もう最初の客の時間か。仕込みは完璧、準備は万端だ」


ルルは涙を拭い、キリッとした表情で背筋を伸ばした。

「いらっしゃいませ! 『おにぎり処・零』へようこそ!」

外伝第2話をお読みいただきありがとうございます!

看板娘として成長していくルルと、おにぎり作りにかける零の職人魂を描いてみました。最強のステータスを持ちながらも、一粒の米と一粒の塩に全力を注ぐ零の姿こそが、この物語の真骨頂かもしれません。外伝はまだまだ続きます! 次回もお楽しみに!

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