魔法と苦手と兄妹と
アンリの指示で6限までの間にクラスメイトたちの状況を聞きに行く
もう少し那美さんたちと話をしたかったのだが、当の那美さんが固まったまま動かなくなってしまったのでそれも叶わなくなってしまった
仕方が無いので近場にいた魔法練習組に話しかける
「調子はどうかな上手くいってる?」
声をかけたのは月夜野さんを中心とした獣人や魔族の子が集まっているグループ
「フェリンくん以外は割と順調ですよ」
「神至助けてくれ、全然魔力が操作できない」
月夜野さんの辛辣な言葉に少し情けない声を上げるディル
迦倉さんとレヒトさんはふたりで話しながら魔法の練習をしている
ウェルズさんとフィークスは同系統の火属性が得意ということもあってか自然と2人1組の形で練習しているようだ
一応クルトの奴もいるが大人しくしている様なのでそっとしておく、本当に変わったものだ
「6限でしっかり見るから今は月夜野さんにたっぷり扱かれてくれディル」
「待ってくれ!めちゃくちゃ厳しいんだ、せめて何かコツを──「さ、続きですよ」アァァァ!」
体格差をもの戻せずディルを引きずっていく月夜野さん。あんなに叫ぶとはどんな練習をしてるんだ?と思ったものの現状把握を優先し2人を尻目に別グループに移動する
別こちらのループは深於さんと那美さんを除いた人間で固まって練習しているようだ
「こっちの調子はどうかな?」
「あ、神至くんじゃん聞いたよ、クルトあの美人なんでしょ」
「そうだよ、あの見た目だけはいいからなぁ」
真っ先に反応したのはテルクスさんだ
聞きたかったこととは違うことが帰ってきたが概ね順調そうな雰囲気だった
ついでにこの場にいるまだ自己紹介をしてもらっていない2人を見つけたのでそちらも声をかける
「そっちの2人はまだ名前教えて貰ってなかったよね、良かったら教えてもらえるかな」
「お、神至くんじゃんいいよ〜俺は朱裂 蜻蛉んでこっちは」
「東雲 アリサです、どうも」
「ありがとう、2人ともよろしくね」
朱裂くんは割と活発なタイプなのだろう茶色の短髪に少し日焼けのした肌。線は細いもののしなやかな筋肉運動は得意そうな感じ
東雲さんは長い白髪を持ち鋭い目つきをしているが話し方や立ち振る舞いからとても大人しめの雰囲気をしている
このクラス地味に見た目と雰囲気が違う人が多くないか?呪いとは関係なしにと思ったところで6限の予鈴が鳴る
6限が始まり両グループが1度集まったところでアンリからの指示を受ける。それぞれ1人ずつ散開しクラスメイト各員の魔法の練度や威力その扱い方を見る
クラスメイトたちの魔法を一通り見た後に得意な人、苦手な人と言った具合にグループを再度作り直す、俺とアンリがそれぞれのグループに別れ指導を行うという形で最終的に収まった
ちなみに俺が担当するのは魔法を扱うのが苦手な方だ
「それじゃこのグループは魔法苦手組という事で」
「頼む神至は優しく教えてくれると助かる」
「あはは、ディルはまた魔力操作からね」
「ディルは俺より魔法下手だもんな」
「うぐっ、わかった」
ディルをからかいながら集まった面々を見るこちらにいるのはディルを筆頭にレヒトさん、宮本くんそして朱裂くんと東雲さんだ
「各々魔法を扱うに当たって苦手な事とかある?ディル以外で」
「俺はイメージが上手くまとまらないかな」
「はい!俺は魔術基礎がそもそも苦手です!」
「魔力量が少ないので、えっと上手く形にならないです」
「私も宮本くんと同じでイメージかな」
「なるほど大きくわけて2種類か・・・」
みんなの話を聞き少し内容を整理する
イメージ構築はすぐできるものでもないが俺の魔法を使うイメージをそのまま説明して練習してもらうか
他のメンバーは魔術の方かな
「じゃあ宮本くんと東雲さんはイメージ構築の練習をしよう、他のメンバーは魔力操作の練習で。どっちもサポートはするから頑張ってみて」
前者二人は割と乗り気だったが後半三人は若干疲れたような声で返事をする
「大丈夫ちょっとびっくりするけど、魔術操作くらいすぐ出来るようになるから」
宮本くんと東雲さんに俺が仲間から教えてもらった各属性の司る物を教えそれを元に練習するように伝える
こちらの2人はとりあえずコレで良い
それでも難しいようであればまた別の方法を考えることにしよう
問題は魔術操作が苦手な三人の練習だ、一応幾つか方法はある
ひとつは時間はかかるものの順当に魔力を操作出来るようにして魔法に繋げていく方法、コレは1番無難なやり方で今やってもらっている内容だ
次に魔法にするのではなく魔力だけで球体を作る方法、体に流れる魔力を体外に放出して形を作る、使う属性のイメージを作らないといけない魔法にするよりも簡単ではある為こちらの方が覚え自体は早い
最後に他者が魔力を送り込み体の中にある魔力回路を強制的に開く方法、コレは受けて側の負担がかなり大きいのでほぼ最終手段と言える
レヒトさんはともかくディルと朱裂くんはまともに魔力を扱えていないから即効性だけ取れば荒療治にはなるが魔力回路を強制的に解放させる方法でやろうか
魔眼に切り替え魔力操作をしている三人を見る
ディルとレヒトさんは魔力量自体は少ないが質は良いものだコレを生かさない手はない
逆に質はそこそこであるものの2人よりも魔力量の多い朱裂くんは見た感じほぼ全くと言っていいほど魔力操作ができていない
うん、ディルと朱裂くんは強制解放するしかないなその方が早い。レヒトさんは魔力のみの球体生成が出来るようになれば魔法が使えるようになるだろう
方針が固まった為3人の方へ移動し先程考えていた内容を説明する
「レヒトさんは一旦魔法の構築を止めて魔力だけの球体生成をしてみて、ディルと朱裂くんは強制解放するから頑張ってね」
「なんだその強制解放って響きが怖いんだが」
「右に同じく!」
「あ、あの魔力のみの球体って作れるのでしょうか?」
「ふたりは説明するよりやった方が早いから後でね、魔力の球体は基礎魔法のボール系魔法を使うイメージで属性を持たせない方法なんだけど難しかったかな?」
「何となく分かりました。その、体内の魔力を操作して球体を作るってことですね?」
「そういう事だね、1人になるけど少しの間それで練習してもらってもいいかな?」
「は、はい分かりました、やってみます」
そう言うとレヒトさんは少し離れて練習を始めた
レヒトさんを見送ったあとディルと朱裂くんの方へ向く
「じゃあ2人とも向こう向いて貰っていいかな」
「わ、分かった」
「信頼は出来るけどなんか怖いな」
ふたりがこちらに背を向けた状態で並んで立つ
どちらも落ち着いているようなので2人の肩に手を乗せる
「ぶっちゃけ楽に魔法使えるようになるけどめちゃくちゃキツイから頑張って耐えてね」
「「え?」」
2人の腑抜けた返事を聞いた後魔力を流し込む
「おお。なんか暖かいな」
「そうだね、ポカポカする」
「まだ大丈夫、これからキツくなるから」
2人の様子を見て流し込む魔力量を少しづつ上げていく
魔力を他人に流し込む上に外部から操作するのは中々に難しいのだが探っている感覚的に回路自体は2人とも出来上がっているみたいだ、これなら多少無茶してもいいか?
「なんか体痛くないか?」
「そうだね、ピリピリしてきた」
魔力操作に集中しているため2人の声は届かないちょっと本気で魔力を流し込む
「イダダダダ!」
「神至くん?結構痛いよこれ!」
全ての回路を解放しきるまでまだかかるな・・・よし本気で行くか
魔力を送る手に少し力が入る
「もういいんじゃないか?」
「おれもそろそろ限界だなぁ」
「じゃあ本気で行くよ」
「「まじ?」」
2人の身体から放出される魔力を確認しつつ耐えられる範囲で魔力を流した瞬間
「「アァァァ!!」」
男二人の叫び声が響いた
クラスメイトどころか他のクラスの人までこちらを向いているが気にしない
崩れ落ち四つん這いの状態の2人を魔眼で見て、先程より2人とも魔力量が増えている事を確認した
「神至ぃ、なんだコレ全身めちゃくちゃ痛いぞ。オイ」
「奇遇だねフェリン俺も同じ事思った」
「お、喋る余裕あるんだじゃあ立って魔法使ってみて」
「「鬼か!!」」
2人ともそう言うがしっかりと立ち上がる
まだ少し全身が痛むのだろう少しフラフラしているものの問題は無さそうだ
2人のために的を用意する
「さぁやっていこう」
「これで魔法使えなかったら恨むからな」
悪態を着きつつ構えを取るディル
「ウィンドランス」
最初期に見たものとは比べ物にならない量の魔力で風の槍を形成する
質は問題無い上手いこと魔力を操作できている
思ったよりいい感じだな
そのまま射出された槍は的を貫き穿つ
「「おお!すげぇ!」」
想定以上コレを維持できるのなら今後さらに強くなれる、しかし2人とも息ぴったりだな性格が近いしいのだろうか。それはともかく
「じゃあディルそのまま魔力操作の練習に戻ろうか」
「なんで!?せっかくこれだけ魔法が使えるようになったんだ普通に魔法の練習で良くないか?」
「そういう訳にはいかないんだ、魔力操作で回路を上手いこと回さないとまた閉じるんだ」
「つまり?」
「またさっきのヤツしないといけない」
「分かった、すぐやります!」
少し青ざめたと思ったらすぐに魔力操作の練習を始めた、かなりキツかったのだろう
まぁ俺も何度かやってるから分からなくは無いが
「さて次は朱裂くんやってみようか」
「OK、その前にひとついいかな?」
「いいよ」
「そもそもさっきも話したけど俺、そもそも魔術基礎の時点で苦手だから、どんな魔法を使えばいいか変わらないんだ」
「なるほどね」
魔眼で確認した限り適性があるのは火属性だ、とりあえずその方向で練習してもらおうか
「まずは基礎魔法のファイアボールから始めてみようか」
「分かったやってみる」
そう言うと朱裂くんはディルと同じように構えを取り詠唱を始めた
「ファイアボール」
形成した魔法は普通より質が少ないが大きさは一般的なサイズより少し大きい
こちらも想定よりいい感じだな
そのまま射出されたファイアボールは的にに当たる
破壊までには至らないものの的の中心に大きな傷をつけ焼き焦がす
「魔法ってこんな感じなんだ、ありがとうこの体験は貴重なものだよ」
「喜んでもらえたのならよかった、じゃあ朱裂くんも魔力操作の練習に戻ろうか」
「OK分かった、やらないとさっきのヤツもう一回やる羽目になるんだもんね」
「そういう事だね」
先ほどディルに話した内容を聞いていたのだろう、いやに早いスピードで移動しディルに合流して二人で魔力操作の練習を始めた
その後他の三人の様子を見て魔法の扱いを確認する
各々直接面倒を見れていたわけではないから上達の具合やそれぞれの素の状態を知っているわけではない
でも実際に見せてもらった魔法はそれぞれEクラスというには想定していたよりも皆のレベルが高い
最初に見せてもらったものが印象に残っているのもある、しかしこの短期間で各員成長しすぎではないだろうか特に力を使ったりはしていないのだが
その後五人の様子を見回りながら細かい点を修正したり、アドバイスしたところで今日の実技は終わった
実技後の空き時間にディルと朱裂くんが叫んだ事についてかなり質問攻めにあったが詳細の説明はしなかった、言えばおそらく簡単に強くなれると思い込んで試す奴が出てくる
そうなれば確実に死人が出るだろう、そんな方法他人には取ってほしくない
厳密な方法として魔眼で状態を確認しながら魔術回路を一つ一つ解放する
その上で全ての回路を解放した後に大量の魔力を流し込まないといけない
魔眼持ちであり、繊細な魔力操作ができる事が絶対条件である
俺の他に確実に成功できる人間がいるとするならジジイか俺の仲間の数人だ
強制解放の話をしたとき周りの人がピンと来なかったのはそれが原因だろう
―放課後―
ホームルームが終わり学園から解放される
一日の授業が終わり感じたことのない充足感が体に満ちている
何気に初めてじゃないかちゃんと最後まで授業受けたの
・・・アレ?冷静に考えると今まで登校してきたのに最後まで意識保ってたのは今日が初なのか!?
学園に登校して三日目にして漸く最後までいたという事実に軽くショックを受けていると、ディルから声が掛けられる、フィークスも一緒だ
「神至、いいか?」
「分かった行こうか」
「ボクも一緒していいプゴ?」
「うん、大丈夫だよ。この間のお礼もできてないからもてなしくらいさせてよ」
3人で俺の寮へ向かう事にした
こちらを見ている人物がいる事には気が付かずに
寮への帰り道、行きとは違った視線を幾つか感じる
女生徒からは侮蔑に近い視線、男子生徒からは興味の視線、亜人系の生徒からは感謝や羨望に近い視線
何がどうしてこうなっているのだろうか
今日は特に問題という問題は起こしていないはずなのだが
昼の一件など、とうに記憶から消し去りそんな事を思いながら歩く
並んで歩いている2人の様子を見ているとフィークスの方は一度行った事があるからか落ち着いた様子だがディルの方はあまり落ち着いてはいない様子だった
「ディルなんかソワソワしてるね」
「ん?ああ、ティリファに会えると思ったらなんだか怖くなって来てな」
ずっと探し続けていた妹にようやく会えるのだ喜びはあるにしろ怖いとはどういう事だろう?
「なにか怖いプゴ?」
「ずっと会ってなかったんだ何を言われるか、会ったところで何を話せばいいか分からなくてな」
そう言う事か、怖いというよりも不安なのだろう
でも心の底で会える事が嬉しくて情緒が安定しないだからソワソワしているのだろう
「大丈夫じゃないかな、女子寮侵入の件は謝った方がいいと思うけど」
「そうだった、それもあるよな」
ティリファの方だって本当は会いたかったはずだ
入学早々兄がやらかしてタイミングを逃しただけで
第一声は厳しい声がかけられる事は覚悟しておいて貰ってあとは今までの事をゆっくりと話し合ってもらうのがいいだろう
しばらく歩いていると生徒の数が減り変わりに邸宅のような豪華な建物が増えてくる
「本当にこっちの方なのか?」
「うん、一応この区画に俺らの寮があるよ」
この学園、便宜上浮遊島としよう。この島は4つの区画に分かれている
1つが学園区画、校舎を中心として学校関係の建物が集まる区画だ
次に商業区画、こちらは買い物が出来るお店が集まった区画で娯楽施設なども多く揃っている。休日は学生やほかの区画から集まる人達で賑わう所だ
そして今いる貴族区画、各国の金持ちやら貴族やらが集まる高級街と言ったところ整備された道路には高級車がよく走っている
もう1つの区画は今は関係ないのでまた行った時にでも考えればいいだろう
これら4つの区画に分かれている、学生は普段学園区画か商業区画にしか行かないからこちらに来ることなどほぼないだろう
貴族区画に入って少し歩いたところにやたら豪勢な門が現れる
その前まで歩くと俺とフィークスが立ち止まる釣られて少し歩いたところでディルが止まる
「ここが俺の寮だよ」
俺が声を掛けた事でディルが門に向き直る
そしてそのまま口をあんぐりと開いたまま動かなくなった
「プゴゴ、初めて来るとそう言う反応になるプゴよね」
どうやらフィークスも同じ反応をしたようだ、かく言う俺も初めてここにきた時かなり驚いたものだが
「じゃあ入ろうか」
先んじて門を開いて入る俺に2人が着いてくる
フィークスは2度目という事もあるのか周りの様子を見ながら入っているが、ディルは緊張しているのかカクカクとした動きで着いてきた
門を抜けそのまままっすぐ寮に向かう
寮の扉もこれまたやたらと豪華な装飾に彩られていて本当に何処の貴族の家なのだと言った感じだ
この辺りからフィークスも黙ってしまい皆無言で寮に入る
「「うわぁ」」
寮に入って第一声がコレだ
赤と金を基調としたカーペットに建物全体が装飾の入った白い壁高そうな壺に謎の鎧
正面階段の左右を小さな滝が流れている
どう考えても貴族の邸宅だコレを寮と言い張るのはあまりにも無理がある
驚いたまま何も言わなくなってしまった2人を他所に先に帰ってきていたティリファとアルテに迎えられる
「おかえりなさい神至さん、ご友人ですか?」
「貴方にも友人が出来ましたのね、夕食の準備はしていますのでいつもの部屋に先に行っててくださいな」
「ただいま、ありがとうアルテ助かるよ。ティリファはちょっと残ってくれるかな?」
「分かりました」
俺の言葉を聞き、後ろの2人。特にディルを見て大きく目を見開いたのを見逃さなかった
随分と驚いただろう、何の連絡も無しに兄を連れてこられたのだから
アルテは俺に一声かけたあとすぐに移動してしまった
忙しいのだろう
「それで私を残すということは後ろの人の件での事でしょうか?」
「そうだよ」
「なるほど、では神至さんのお部屋へ行ってください。アルテさんには私の方から話をしておきますし、お食事の方も持っていきます」
「三人分くらい運ぶぞ?」
「いえ、先に行っててください」
「あっ、はい」
それだけ言うとティリファはアルテを追って調理場に向かって行った
少しピリついているようだが怒っていると言うには少し雰囲気が柔らかく思える
態度が少し冷たいのはディルの事で急に連れて来たからだろう
「なんか、怒ってなかったか?」
「ボクもそう思うプゴ」
「うーん、そうでも無さそうだけど。とりあえず言われた通り俺の部屋行こうか」
邸宅2階に登って左奥の部屋そこが俺の部屋だ
2人とも最初より緊張が抜けて来たのか部屋に行くまでの間廊下に飾ってある絵や壺などを観察していた
俺の部屋に入るとふたりはまた感嘆したように声を上げた
「すげぇ」
「すごいプゴ」
部屋のサイズは俺にはよく分からないが、部屋の隅にキングサイズのベッド、俺は使わないがドレッサー?という物がある
ベッドの横に勉強用の大きな机とその近くにクローゼットが付いている
ベッドと反対側の扉の先には扉がふたつあり、ひとつはトイレもうひとつの扉の先には大きな浴槽とシャワーがある
ベッドと扉の間には空間がありそこには大きなテーブルと椅子が四脚壁には大きなテレビが埋まっている
ここは一体どんなホテルなんだと言いたくなる
「明らかに部屋のレベルが高すぎるなココ」
「プゴォ、スゴすぎるプゴ」
驚いているふたりを机の方に案内しティリファを待つ、先程解けた緊張がまた戻ってきたのかふたりともソワソワしている
しばらく沈黙があったがディルがそれを打ち破る
「アンリ教官に常識を教えろとか言われたけどこの部屋に住んでる相手に常識も何も無くないか?」
「いや、俺も用意された寮に来ただけでこんな凄いところだとは知らなかったんだよ」
「初めて中に入ったプゴだけど神至くんは貴族様なんだプゴ?」
「いや、貴族ではないけど。冒険者やってた時の稼ぎがそこそこあるくらいだよ」
これはそこそこじゃすまないだろとふたりにツッコまれる。そう言う物なのだろうか?
そのまま雑談を続けていると扉をノックする音が聞こえた
「入っていいよ」
「失礼します、神至さんとおふたり分のお食事を持ってきました」
「ティリファの分は?」
「ありますが、後でたべようかと」
「せっかくだし、みんなで食べようディルと話したい事沢山あるでしょ」
「・・・はい、そうします」
ティリファは少し悩んだ様だったが俺の言葉に折れる形で一緒に食べる事にしたようだ
そうして食事が始まったのだが皆無言で食べ進める
・・・なんか気まずいな
今日の料理はハンバーグに付け合せの野菜、ご飯に味噌汁といった一般的な食事だ
料理と部屋の雰囲気はあっていないが味はかなり美味い、今日はアルテとティリファが料理担当だったのだろうか
しばらく食べ進めたところでフィークスが沈黙に耐えられなかったのか口を開いた
「この料理美味しいプゴね、誰が作ってるプゴ?」
「今日の食事担当は私とアルテさんです」
「やっぱりか、家庭料理上手だもんなティリファ、アルテもこの手の料理できるようになったんだ」
「そうかティリファがこの料理を・・・美味いな」
ディルがぽつりと呟く、噛み締める様にゆっくりと味わうように食べている
少し嬉しそうな感じがするがティリファの一言で空気が一気に張り詰める
「それでお話とはなんでしょう変質者のお兄様」
「あぁ、女子寮侵入の件はティリファも知ってるよな、入始式の時表挨拶してただろ?あの時すぐに気がついたんだ。それでどうしても会って話しをしたかったんだ」
「それで女子寮に?」
「ああ」
「全く短慮な所は今も変わってないんですね」
「そう言うティリファは随分と綺麗になったんだな、驚いたよ」
久々に会ったにしては随分と距離がある様に感じたが、お互いに何を話していいのか分からないのだろう
「あの後何があったのか聞いてもいいか?」
「ええ、構いませんよ」
ティリファが話してくれたのは奴隷商人に捕まり、移送されている時に俺たちに助けられた事
その後俺の所属するパーティーで少しの間保護してもらった事
奴隷商人のグループと戦争があった事
その後の話も色々と、俺は今に至るまでの話をほぼ全て知っているため流し聞きしながら食事を食べ進める
他のふたりはティリファの話に聞き入っているのか完全に手が止まっていた
俺の過去に直接関わる話もいくつかあるが特に気にする必要もない肝心な所は話さない様にしてるようだったし
それからしばらくしてティリファの話が終わるとディルが静かに泣いていた
「ティリファが大変な時に近くにいてやれなくてすまなかった、俺があの時もっと強ければ・・・」
「気にしないでください。今はこうして元気に過ごしていますから」
そう言うティリファの目にも少し涙が浮かんでいた
フィークスももらい泣きだろうか鼻をズビズビと鳴らしながらディルの背をさすっている
しばらくしてディルも落ち着いたのかこれまでの事を話し始めた
ティリファや他の人達がいなくなってからがむしゃらに修行した事
通りすがりの剣神に両手剣の扱いを教わった事
それから勉強もしてこの学園に来たこと
通りすがりの剣神の話は少し気になったが聞いたところでその人はもうこの世にいないだろうから深く追求はしなかった
なんにせよお互い話したい事を話す事ができた様で良かった
それからしばらく4人で談笑した後、夜遅くならない様にキリをつけ解散する事となった
「神至、今日は本当にありがとう。感謝してもし足りない。ティリファを助けてくれた事もだ本当に感謝している」
「気にしないでと言ってもディルはずっと感謝しそうだね、ありがたく受け取っておくよ」
「あぁ、そうしてくれると嬉しい」
「ボクは美味しいご飯をご馳走してもらえて満足プゴ!また来てもいいプゴ?」
「もちろん、ふたりともまたおいでよ」
そしてふたりとも手を振りながら自分の寮へ帰って行った




