試合と解呪と反動と
──side那美──
試合が始まってからと言うもの驚きの連続だった
開幕速攻のホーリーランス。防ぐ人受け切る人は何人も見てきたけど基礎魔法のダークボールで打ち消す人は初めて見た
それは周囲の歓声を聞けばどれだけ凄いことなのか容易に分かる
大抵そこを防いだとしても陽くんの試合は短期で決着が着く
2手目、3手目のホーリーランスの物量で押し切ってしまうから
にも拘らず彼は全て打ち消し、大量のホーリーランスに対しては反属性のダークウォールでかき消していた
並大抵の人にはできない芸当だと思う
しかもその全てにおいて無詠唱
無詠唱魔法を使うのにはイメージが大きく影響するとされているけど瞬間的な判断で適切な魔法を使うイメージを構築してるそれだけでも相当戦い慣れていることが伺い知れる
その後の戦いも学園生では見たこともないような攻撃的とも取れる戦法で距離を詰める
身体強化と武器への魔法付与はまだ理解ができた。実際にAクラス以上の学園生であれば可能なこと、しかしそれを用いて高速で飛んでくる光の槍を的確に打ち落とすという芸当はあまりにも非常識過ぎる
この辺りで歓声が一気に溢れ観客側の熱量がより増して行く事を肌で感じる
一撃も食らわずけれど決定打もない状態だったがホーリーランスを打ち落とした後彼が距離を詰めた事でその状況も変わる
近接戦に持ち込み肉薄する。陽くんの攻撃を避け、続けて刺突攻撃。躱されるものの魔法を撃ち込んでいた
言語化するとこんな感じになるが異様としか言いようのない動きだった
基本的に近接攻撃を仕掛ける際は魔法攻撃は出来ないか疎かになるがそれを同時に並列処理しながら立ち回るなんて凡そ人にできる芸当ではない
「凄い・・・」
目の前に広がる光景にただただ目を見張る事しか出来なかった
「なんて動きしてるの?本当に同じ人間なのかしら」
深於ちゃんも同じ気持ちのようだった
対して今まで攻撃を受けた事の無かった陽くんが初めてダメージを負った事に観客側は大盛り上がりだった
陽くんの突進を受け少し後退するのと同時にダークボール撃ち込み更にダメージを与えていく
至って冷静にでも視線を外さず丁寧に様子を観察する様なその表情から、まるで子供を相手に加減して試合をしてる様にすら見える
少し問答があった後陽くんが大きく叫び怒りで神名まで解放していた
荒れ狂う魔力が普段はぼんやりとし見ることの出来ない魔力がハッキリと形を持って見える程に濃く放出されていた
「ちょっと!まずいんじゃないの!?」
「そうかな?何だか大丈夫そう」
学園長が張った防護結界は物質に関しては完全な防御を得るが人に対してはそこまでの効力を持たない
本人の精神力に依存するからだ
コレは学園生なら誰もが知っていること
だが彼はそんな事知り得ないだろう
でも彼は冷静な態度は崩していない、むしろ少し感心した様な表情で、どこか残念そうにしていた
普通なら神名を解放した段階で降参するのだが彼はそれを迎え撃ち維持していたダークボールで剣の腹を撃ち弾きそのまま陽くんの顔を思いっきり殴り飛ばした。
決着が着いた
『勝者、神至 力人!』
教官のその一言で会場が一斉に沸いた
誰もが陽くんが勝つと思っていたのだろうそれが編入してきたばかりの男の子が勝ちきって見せたのだこの会場の盛り上がり様も納得がいく
同時に終わったのだと、これで婚約関係も陽くんとの繋がりも七門であるということ以外無くなるのだなと自覚した
正直婚約解消の実感は無かった、そもそも婚約しているという実感が無い。会う度貶され嘲笑される、どうして今までそれに納得していたのだろうと今は思う
しばらくすると陽くんが倒れピクピクと痙攣したまま運ばれて行った
「これでようやくあのクソ野郎とも婚約解消ね」
「そう、だね・・・私って嫌われてたのかな」
「どうかしら、単に那岐の性格が終わってただけじゃない?」
そう話している間少し心が沈んだ
やはり見た目のせいであんなにも酷いことを言われていたのだろうか
深於ちゃんと話していると体から紫色の煙のようなものが立ち上がっているのに気が付いた
「那美!?どうしたのそれ!」
「分からない、でも何だかとっても気分が晴れてく気がする」
体の内から悪いものが抜けていくような感覚、おかしな事が起こっているのは事実だがそれとは裏腹になにかに押さえつけられる様な感覚から解放された様に思う
数分と経たずに体から出ていた煙は消え普段の様子に戻った
「これが呪いだったのかな?」
ふと思った事を口にすると
「うん、解呪出来てるね」
いつの間にこちら側に来ていたのか神至くんが近くに立っていた
前は合わなかった目が合うようになっていた
虹色のとても綺麗な虹彩をした瞳
初めて会った時には気が付かなかったけどよく見ると首の辺りに傷がある
冒険者時代のものだろうか
それ以前にかなり体格が良いように見える
前はこんなに魅力を感じる事はなかったのに、どういう訳だか少し心が軽くなった
「あんたいつの間にこっちに来たの?」
「ちょうど今来たところだよ、ジジイとの契約が完了したから解呪自体は出来てるだろうけど一応確認しとこうと思ってね」
さも当然かのように解呪したと彼はそう言った
やはり彼に呪いをかけられていたのだろう
そう思うとまた少し心が沈んだ
「まだ完全には解呪できてないからどこかに契約書的なものがあるんだろうけどそっちは那美さんのお姉さんに連絡すればすぐじゃないかな」
「えっ」
どうして姉の事を知っているのだろう
まだ姉がいる事など話していないのに、そう思うと少し怖くなったがその疑問もすぐに彼が晴らしてくれた
「あぁ、そう言えば黄泉と知り合いなの言って無かったね」
「あんた黄泉さんと知り合いだったの!?」
門音黄泉それが私の姉の名前
Sランク冒険者で結構な有名人だ
「何処でお姉ちゃんと知り合ったの?」
「どこでも何も元々同じパーティーメンバーだよ俺」
「なっ!?」
深於ちゃんの驚いた様子がハッキリと伝わる、なんかすごい顔してる
それも当然だろう姉の所属するパーティーは全員がSランク以上で構成される冒険者の中でも最上級の人の集まりなのだから
そこにいたということは彼もSランク冒険者だったのだろう
「あんたなんで学園なんかに入ってきたのよ」
「常識を学ぶため?」
「なんで疑問形なのよ」
呆れたように呟く深於ちゃんの言葉に少し笑ってしまう
「あははっ」
「俺の非常識さが笑われている!?」
「たしかにさっきの試合も非常識だったわねあんた」
「そんな馬鹿な」
かなりショックを受けた様子の神至くんに訂正の言葉をかける
「ごめんなさい、そこを笑った訳じゃないの」
「そうなの?なら良かった」
「ただ、2人のやり取りが面白くって」
「そう?これくらい那美とだってするじゃない」
「うん、でも珍しくって」
「そうかしら?そんなにおかしなやり取りじゃないと思うんだけど」
うん?と頭を捻っている深於ちゃんを見ながら少し考える
心の中を縛っていたものが消えた様な感覚からか昔の様に笑う事ができるようになっている事を
友達との会話ってこんなに楽しかったのだなぁとしみじみと思った事は2人には内緒だ
「そうだ那美さん1つ言っておかなきゃ行けないことがあったわ」
「何かな?」
改まった風に声をかけられ少し緊張する
「君とても綺麗だね」
「えっ、あっ」
ドクンと心臓の跳ね上がる音が聞こえる
一瞬勘違いしそうになるが魔力の事だ分かっている
それなのに何故かとても嬉しくて、でも急に言われて言葉に詰まってしまう
「あんた急に何言ってんのよ、やっぱり非常識ね」
「ちゃんと魔力が見えたもんでつい」
「ありがとう」
深於ちゃんのお陰で少し落ち着き感謝の言葉を述べる
「うん、俺が見てきた中でも一番綺麗だよそれは断言する」
彼には私がどう見えているのだろうか少し気になる。けどそれはこの言葉が示している通り魔力が綺麗なだけなのだろう
魔眼を閉じて私の姿を見たら彼も陽くんと同じ様に言うのだろうか、そう思うと少し怖くなった
─side力人─
呪いが解けた事で那美さん本来の魔力が見える
俺が見て来てた中で最も綺麗な魔力これは本当だ
闇色の紫と黒の混じる透き通った揺らぎの落ち着いた魔力
どこか懐かしさを覚えたものの彼女とあった覚えはないし、そこに思考を割く必要もないだろう
ジジイとの契約も終わったことだし魔眼ももういいだろう常時展開など初めてなのだこの後の反動と負荷を考えると憂鬱な気分になる
そう思いながら1度目を閉じ魔眼を解く
再び目を開くと目の前に青い髪でショートカットの女の子と漆黒と相違ない黒髪のかなり細身の女の子がいた
前者が深於さん後者が那美さんだろう
「あら?あんた瞳が黒くなってるわよ」
「魔眼解いたからね、こっちが本来の瞳」
「そう、なんだ」
深於さんはこちらを不思議そうに覗き込んでいる魔眼持ち自体が初めて見るのだろうか、対して那美さんは少し怯えているように見える
那美さんに声をかけようとすると聞きなれた声が2人やってきた
「プゴゴ、すごいプゴね神至くん」
「神至、凄かったんだな」
すごいすごいと言いまくってるふたりの方をむくと
2メートル近い身長の巨漢、体重何キロだ!?と聞きたくなってしまう様な縦にも横にもデカイ見た目をしているのが語尾的にフィークスだろう
隣に居る銀髪を刈り上げたこちらも身長の高い狼の様な耳を持つ男の子はディルなのだろう
「フィークスとディルくんか?」
「プゴ?魔眼解いたのかい?」
「そうなのか?見た目じゃ全然分からないな」
2人ともあまりこちらに頓着する様子はない
先程の試合を見て興奮が少し冷めないと言った様子だった
「そうだよジジイとの契約が完了したから今、魔眼を解いたところだったんだ」
「なら改めてボクはフィークス、ボクを名前で呼ぶ人が少ない理由わかるプゴ?」
「種族がオークと言うのもあるんだろうけど豚とか呼ばれてるのか」
「プゴゴ、正解プゴ」
それは笑っていいのか?と思うが本人はさして気にした様子は無さそうだ
「俺がディルだ、あとくん付けいらないぞあんなの見た後にくん付けされるとなんかむず痒いんだよなぁ」
そう照れくさそうに言うディルを見てひとつ思った事がある。フェリンという名前から今まで気が付かなかったところにやはり頭の回転が鈍っていたのだろうが
ティリファの兄なのだろうか
「改めて2人ともよろしく」
2人に改めて挨拶をし本来の実技授業に戻った
────
「それじゃさっきの続きと行きたいところなんだけどなんでみんないるの?」
言葉通りに先程一緒に実技を行っていたメンバーはともかく他のEクラスの面々も集まっているのだ
というか囲まれている
魔眼を解いて初めて見るみんなの顔はやはりと言うかなんと言うか、俺が今まで見てきた冒険者たちと比べると少し幼く見える
そりゃあ無骨なおっさんとか殺意剥き出しの奴とかに囲まれてた身とすればそう感じるのだろうが、何故そんなにも皆目を輝かせるようにこちらを見ているんだ
「午前までと違って随分と人気者になったわねあんた」
オロオロしてる俺を見かねてか深於さんが声をかけてくれた
「みんな今日のところは一旦元のメンバーで実技をするプゴ。神至くん困ってるプゴ」
フィークスも助け舟を出してくれたが
「うるせぇぞ豚野郎!」
「自分だけ教わるつもりか豚公!」
「豚足に言われたくないわ!」
とまぁ散々な言われようだった
あまりにも可哀想過ぎる
「まぁまぁ、今日のところはいいじゃない。こいつ教官初日でまだ慣れてないみたいだし」
「「「まぁ深於さんがそういうなら」」」
深於さんのお陰で集まっていた面々が解散した
分からんでも無いけどずいぶんと息ぴったりだったなぁ
実際助かったからいいんだけど
「深於さん、フィークス助かったありがとう」
「いいわよこれくらい」
「プゴ、僕は無駄に罵倒されただけプゴ気にしなくていいプゴ」
「いや、それは気にしろよ」
フィークスに対して当たりが強すぎるのが気になるが魔族に対する差別感情からだけとは思えないなんかしたのか?
その後5限で組み分けたメンバーに別れて続きを行う事にした、質問は後で受け付けるという約束はさせられたが
「それじゃ那美さん呪いは解けた訳だけど、どこか不調でもある?」
先程からずっと静かなので少し気になっていたのだが解呪直後で体調に良くない影響があれば聞いておきたかった
しかし帰ってきた言葉は体調云々の話ではなかった
「あの、魔眼解いたんだよね」
「うん、そうだね今は普通に那美さんのこと見えてる」
恐る恐ると言った感じで聞いてくる
腰辺りまで伸びた黒い髪、髪とおなじ光を呑む様な黒い瞳、顔立ちも抜けきっていない呪いの影響でげっそりしているが本来はかなり整った顔立ちをしているのだろう、顔のパーツは綺麗に整っている
胸は・・・俺が言う様な事ではないだろう
身長は俺より頭ひとつ分くらい小さいが縮こまっているせいか余計に小さく見える
「その、私の見た目なんだけど・・・やっぱり醜いのかな?」
「いや、そんなことないよ」
即答した
なんちゅう質問しやがるとは思ったけどそれはおそらく陽門のせいなのだろう
「俺が見た目をどうこう言うもんじゃないし、陽門に言われた事引きずってるね?」
「・・・うん」
「なら大丈夫、君は醜くなんかないよ。むしろ綺麗なくらいだ」
小さい頃から大人と同じ世界で生きてきてもっと醜いものをたくさん見てきた
それと比べるのが烏滸がましいくらいに彼女は綺麗だ
見た目が痩せぎすなのは数日もすれば元に戻るそれよりも心の方だ、一瞬とはいえあれだけの扱いを見たのだそれがずっと続いていたと考えれば心の有り様と強さは分かる
「本当に?」
「本当に、嘘は言わない。痩せぎすと言われている今の見た目は呪いによるもの、それは説明したね?」
「うん」
「数日もすれば呪いの影響も完全に消える、君のお姉さんに連絡はしたから残りの楔も無くなる。だからもう自分を責める必要はないよ」
「うん・・・うん」
泣き出してしまった
ずっと自分ひとりで抱え込んで来たのだろう
見た目のせいでという思いは俺には分からない事だが彼女にとっては長く苦しい物だったはず
そもそも罵倒に慣れるとかあってはいけないことだと思う、とはいえブサイクと言った俺の言えたことじゃないんだが
でも少し妙に胸を締め付けられる様な感覚がある
この感覚はなんだ?
それについて考える前にまた目の前に拳が見えた
「ぅお!」
「あんた那美を泣かせたわね」
深於さんだ、そこそこ距離が離れていたのに一瞬で詰めて来たのか恐ろしい
本当に近接特化なのだろう直前まで反応できない速さで拳が降り掛かってきた、しかし今度は避けれた
とはいえそう何度も避けてはいられないこれでも結構疲れてるのだ
「深於さんストップ別に悪いことしてないから!」
「問答無用!」
殺意のこもった拳がしっかりとしたタメを作る
これは痛いぞ食らったらと思うと同時に静止の声が掛かる
「待って、深於ちゃん」
「那美、大丈夫コイツやっぱりボコボコに──」
「大丈夫、大丈夫だからちょっと嬉しくて溢れてきちゃっただけだから」
「そうなの?」
「うん、もう変に苦しまなくて良いんだなって思ったら溢れてきちゃったの」
そう言う那美さんはまだ少し涙を湛えた目で笑っていた
「2人とも仲良いね」
「「それはない」」
ハモってしまった
それを見てまた那美さんが笑う
那美がいいならいいんだけどと深於さんも笑った
俺も釣られて少し笑ってしまう
どうにも締まらないがこれでいいだろう
彼女の呪いを解いた、笑顔を見れた現状、編入2日でよくやった方だと自分に言い聞かせる
このまま皆と仲良くなり友達になれればいいなと思う
笑い合う中プシュッと音がする
「「えっ」」
ふたりが信じられない様なものを見るような目でこちらを見る
視線が顔に集中しているので鼻を少しさする
血だ
「これはダメなやつだな、うん」
その言葉を最後に俺の意識は吹き飛んだ
魔眼を長時間使うと反動が来ると言うのはまぁ常識だ、それを何日も継続して使っていたらこうもなる
さらにいえばあれだけの大人数を見ていたのだ脳への負荷は計り知れない
その後目を覚ましたのは3日後だった




