試合と呪いに顔面パンチ
ジジイの保護結界を待つまでの間、周囲を見渡す
なんというかすごい人数集まったな
実技棟2階にほぼ全ての生徒が集まっているのではないだろうか
実技授業はどうしたアンタらと思わなくはない
それらをほっぽり出してでも見てみたいのだろう
片や学内トップ、片やブサイク発言をした噂の編入生
全体的ザワザワとして落ち着かない様子が伺える
偶に聞こえてくるオッズがどうのと言う事から賭け事なんかもやっているのだろう
「逃げずに現れるとはキミ本当に無謀なんだね」
「無謀かどうかはやってみないと分からないと思うぞ」
陽門のやつに声をかけられる
今闘技場内にいるのは俺とコイツそして審判としてアンリがいるだけ、他のクラスメイト達は客席側だ
「神至分かっているとは思うがやり過ぎるなよ」
「分かってるわジジイにも言われたそれ」
ほんとうに分かっているのかと言いたげな雰囲気だが
分かってはいる、ただ実際に手加減出来るかどうかはあまり自信がない
今までは塔の魔物相手に全力だった為その感じだとまずいって話だろう
言われなくてもあの力は使うつもりはないし使う必要が無い
陽門の奴を現段階で評価するならば今まで倒してきた魔物の中で強い部類の奴らと比べてもまだ弱い
いいとこ中層のエリアボス程度だろう
改めて陽門の方を見る
武器を取ってくるとは言っていたが流石名家と言ったところか
オーダーメイドの聖剣らしきものを握っている
おそらくは魔法剣だろう色別の魔眼では見ることが出来ないものの普通の剣とは違う雰囲気を纏っている
「結界の準備は終わったぞ」
「それでは試合を始める、結界の効果より客席に攻撃が届くことはない、そしてお互いに怪我をすることも無いだろう。ただ死ぬほど精神力が削られる、その点は留意するように」
ダメージが精神力に変換されるタイプの結界か客席側は強固な防護結界を張っているようだ
コレなら半分くらいの力で壊さずに行けるだろうとりあえずはそこを上限にしておくか
「それではこれより演習試合を開始する!双方距離を取れ!」
ふたりで背を向け距離を取り少し歩いたところで振り返る。およそ10メートル程の距離だろうか
剣での攻撃が届く間合いではない
この場合まずは魔法の撃ち合いから始めるのがセオリーだろう
「構えて」
アンリの号令に合わせ剣を構える
こちらは中段の構えを取り相手の様子を伺う、対してあちらは肩に剣を乗せ重心も左に偏った状態で立っている
こちらを完全に舐めているのだろう
それは構わない、敢えて好意的に考えるのならば魔法を使うために脱力していると考えられなくもない
「始め!」
「ホーリーランス」
開始の号令と共に光魔法を放ってきた
先程見ていたEクラスの面々が使う魔法と比べ密度や速さが桁違いに高い手をかざすことなく任意の場所に魔法を生成できるようだがそれ程脅威ではない
『ダークボール』
無詠唱で相反する闇魔法の球体を展開し相手のホーリーランスにぶつけて魔法を打ち消す
攻撃系の魔法は球体、槍、剣、広範囲と後になるに連れて扱う難易度が上がる
ランス系は中級クラスの魔法になるがこれだけ扱いが上手いと他の上位魔法も使えるだろう
いくらか歓声が聞こえる。魔法同士の対消滅が面白いのだろう。とはいえそちらに気を割くつもりはない、強いて言うならここで勝っていくらか好感度をあげておきたいところ
「へぇコレを防いで来るんだ、ならこれはどうかな!ホーリーランス多重展開」
光の槍が5本展開されこちらに向かって飛んでくる
少し動くか
陽門との距離を保ちつつ円形に走り出す
それに合わせて光の槍もこちらに追尾する様に追いかけてくる
「ホーミング出来るのか」
走りながらダークボールを展開し、ひとつずつ相殺していく
全て打ち消したのを確認してから陽門が声をあげる
「まだまだ余裕そうだねなら一気にあげていくよ!」
ホーリーランスの詠唱と共に光の槍が15本展開され、こちらに向かって一斉に射出される
一芸だけか?それじゃあ俺は傷ひとつ負わないぞ
『ダークウォール』
一度足を止め地面に手を付き黒い炎の様な壁を作り光の槍を打ち消す
防御系の魔法は主に2種類、壁を作るか身にまとって鎧とするか今回は敢えて壁の方を選んだ
視界をさえぎった事で相手の姿は見えなくなるがそれは相手も同じ
『エンチャント・ストロング』
付与魔法で自身の攻撃力を上げる
壁が消えた瞬間、先程陽門が立っていたところに駆け出す
「基礎くらいはしっかりできているじゃないかそれ次だ!」
またホーリーランスだ今度は本数は減り5になっているが先程よりも細く鋭い、スピード特化だな
相手が射出するよりも早く木剣に闇魔法を纏わせる
飛んできた光の槍を一本また一本と打ち払いながら距離を詰めるその間にこちらもダークボールを展開し自身の近くで待機させる
「高速化したホーリーランスを打ち落とすなんて中々やるじゃないか!でもその木剣ごときで僕に勝てるかなぁ!」
距離を詰めた事で肩に担いでいた剣を振り下ろしてきた、大振りすぎて剣筋が簡単に読める
走りながら陽門の右袈裟を左に飛んで交わし隙を付いて木剣を突き出す
「シッ!」
「おっと」
肩口を狙った突きだったが体を逸らされてよけられてしまうが想定の範囲内
距離を取った所に待機させていたダークボールを叩き込む
「うわぁ」
これは予測できていなかったのかモロに食らっていた
「どうしたこの程度か?」
言い終わると同時にダークボールを更に5つ展開、待機させる
実際この程度それなりに実力がある者なら余裕でできるだろう
相手の体捌きを見て近接攻撃を仕掛ける。体勢を崩したら魔法を叩き込む基礎中の基礎だろう
土埃が晴れた所で陽門の方を見る
魔力が怒りで大きく波打っているのが見えた
「お前!この僕に傷を付けたな!」
実際には傷など負っていないのだが、攻撃を食らうこと自体初めみたいな反応だった
恐らく陽門の家が持つ権力に恐れて対戦相手がまともに攻撃出来なかったが故に優勝できたとかそんなとこなんだろう。これで優勝はあまりに弱すぎる
「どうしたそんなに怒って、かかって来いよ」
「貴様ァァ!」
短気すぎる、このくらいの煽りよくある事だろうに、問答無用の魔法多重展開で封殺しないだけ優しいぞ俺は
陽門が怒りに身を任せた突進をしてくる
見た感じただのタックルなので敢えて受ける
剣くらい突き立てたてたらどうだと思いながら、タックルを受けた勢いを利用して後ろに下がり待機させていたダークボールを撃ち込む
「うわあああ」
全弾命中、それなりにダメージになるだろう
転がりながら吹き飛んでいく陽門から目を離さず次弾装填同じく5発分
しばらく転がり続けた陽門を見ていたが、剣を使って威力を減衰させることなく壁にぶつかっていた
壁にぶつかり少し呻き声をあげたものの体勢を整えてすぐにこちらを睨みつけてくる
「この僕が、この僕にこんな無様を晒させるなんて、許さない!許さないぞお前!」
幼稚な反応だな、自信があった割にお粗末な動き。怒りで行動が単純になるのは分かるがこれは酷い。まるで俺が虐めてるみたいじゃないか
まだ立ち上がる事が出来ているところを見るに余力はありそうだがこれ以上はもう戦闘にならないな
一方的な蹂躙になりかねない
「次は?」
そう声をかける。俺としてはこれ以上長引かせたくないのだが
「もういい、殺してやる。僕をコケにしたんだ報いを受けろ神名解放『伊邪那岐』」
なるほどそう来るか
神名解放は自身に与えられたもうひとつの名前を解放するとこで戦闘力を大幅に増大させる業
先程の評価は訂正しよう、神名解放が出来て、もしその先の力を十全に扱う事ができるのなら優勝も可能だろう
それにしてもまぁ
「魔力は綺麗なのに勿体ないな」
正直な感想だった、アレの纏う魔力はとても綺麗だ混じり気のない純粋な白、目を覆いたくなるほどに眩しい色だ
それなのに性格がアレでは勿体ないというのは本心だ、過去の大戦争の英傑として名を残す程に優れた光魔法の使い手それが陽門だ。先祖が見ていたら泣きたくなる事だろうに
「こうなればもう防護結界なんて無意味だ!一撃で楽にしてやる!」
「ならこっちもそれなりに力を示さないと」
神名を解放すると結界が無効化されるなど聞いた事が無いがそういう能力なのだろう
あちらは解放した魔力を剣に収束させ次の一撃で終わらせるつもりのようだ
なら俺もそれに応えよう、どのみち次で終わらせるつもりだったし
陽門の様子を見つつダークボールを維持できるだけの残し上限にしている量の魔力を右手に収束させる
光魔法付与『ディスペル・カース』
本来は呪われた対象にかけることで解呪をする魔法
この魔法を武器などに付与することで呪いの楔となっているものを破壊できる
魔力消費がかなり激しいものの効果は保証できる
これで陽門を殴れば奴の中で呪いを維持している楔は壊れるだろう
こちらが準備をしている間にあちらは魔力を貯め終わったようでこちらに走ってくる、対してこちらは待ちの姿勢
走りながら剣を持った両手を上にあげる。間合いの少し外側まで陽門が迫ったところで叫んだ
「喰らえ陽門流剣術!『光断』」
単純な上段からの振り下ろし
濃密な魔力を纏った一撃喰らえばさすがに一溜りもないだろう
しかし
振り下ろしを限界まで引き寄せ、展開、維持させていたダークボールを剣の腹に向かって横から全てぶつけ相手の剣を弾く
そのまま右側に少し移動し重心も右に寄せ拳を引きタメを作る
「なっ!?」
剣を弾かれると思っていなかったのか、呆気にとられたような声を出す
「これで終わりだ」
魔力の揺らぎの中、朧気に見える頭部に思い切り拳を叩き込む
拳は正確に顔面を捉えたようでバキバキと骨の砕ける音が響く
そのまま腕を振り抜き陽門を殴り飛ばす
思っていたよりも威力があったようでそのまま壁に向かって一直線に飛んでいき
数瞬と経たないうちに壁に激突し轟音を響かせた
吹き飛ばした際の風で土埃が舞っていたがしばらくすると晴れた
同時に地面に横たわったままの陽門の姿が見えた
「そこまで!勝者、神至 力人!」
わぁっと歓声が上がる、一部絶望した様な声をあげる者もいるようだが
勝利に歓声など初めての体験だがそれほど心躍る感じはしない、けれど少しスっとした感じはある
闘技場が流行るのも分かるような気がした
歓声に耳を傾けながら陽門の方を確認する
壁の方は破損無しか、恐らく防護結界で吸収し切れるダメージに限界があるのか、それとも受けての精神力依存で変換する気力が無くなると防護できなくなるのかアンリの説明的に後者な気がするが
「おい、やり過ぎるなと言っただろう」
「防護結界というよりアイツの精神力のせいじゃないか?」
「それは否定しないが、加減はしたんだろうな」
「一応、上限を普段の半分くらいには抑えてやったぞ」
それでこの結果かと呆れ果てたように呟いたあとアンリは陽門を回収しに行っていた




