実技と魔法と呪いの相手
─実技棟Ⅱ─
規模感がおかしいと
そう思うのは何度目だろうか
外から見る分には普通の武道館
中に入ればいきなりコロッセオのような巨大円形闘技場が広がっている
空間魔法で拡張しているのはわかる、かなりの広さだ収容人数だけなら数千人は入るんじゃなかろうか
各クラス毎に整列し担任の話を待っているであろう人の群れを少し遠くから見る
2人と別れた後迷子になり彷徨っていたところをジジイに捕まり着替えた後にここに連れられてきた
「なんで俺はあっちじゃないんだよ」
当然の疑問
生徒として編入しているのにも関わらず教官側に並んでいることは常識的ではないと思うのだ
「なんでって、それはオヌシが実技教官として登録してあるからじゃろうて」
「は?聞いてねぇぞオイ」
「今言ったからのホッホッ」
髭を擦りながら笑うジジイを横目に睨んでいると生徒達、特にEクラスの辺りが少しザワついたのを感じた
何の話をしているかはほとんど聞こえないので検討もつかないのだが
この状況とは関係ないがこうして遠巻きに生徒全体を見ていて気づいたことがいくつかある
それは傍から見てもEクラスの面々の魔力量や密度は他クラスよりも多いこと
各クラス個々人で飛び抜けているものはいるし、さすがにSクラスメンバーには劣るが魔力だけで見ればかなり強い部類に入る
それから意図的に呪われている人達がEクラスに集められている
何をどうしたらあんなに集められるんだか
「クラス配置の件、俺がEクラスなのはそういう事か?」
「なんじゃ今気がついたのか、実力が生徒の枠に収まらんおぬしをただのクラスなんぞに配置するわけなかろうて」
あのクラスメンバーおぬしの為に集めたようなもんじゃしのぉとサラッと言いやがった
それも初耳だオイ
ただそう考えれば納得いく所もある
「魔力からしてどう見たってハイランクの連中なのにあのクラスにいるってことはほぼ全員が呪いでまともに魔法が使えないとかそんな感じか」
名家の人間まであのクラスにいる以上そういう事なのだろう事実那美さんに至っては姿が分からないくらいの呪いを纏っているくらいだし
「そういう事じゃな、おぬし解呪くらいできるじゃろ?普通の生徒だけではつまらんからの恣意的に呪われたものも入学させどう変化していくか見ているのが面白いんじゃよ」
「その様子だと呪われたまま卒業しちまうやつとかも居そうだなオイ」
「それはもちろんワシは特に手を出したりせんからの」
「またあの時みたいなことしてんじゃねぇだろな」
少し声に怒りが漏れる
俺の過去にも関係のあることだ
また同じようなことをしているのならば今回こそ殺さないといけなくなる
「なんじゃ気にしておったのか」
「当然だろ、次は殺す。あの時確かにそう言ったぞ」
「安心せい、あの時の様な実験はしておらん」
本気で殺しに来られたら勝てんからのぉ
と飄々とした態度を変えない
相変わらずのクソジジイだ
過去の一件を頭から振り払い意識を戻したところでEクラスの面々がこちらに向かってきていることに気がついた
「なぁアンリが言ってた特別教官て」
「おぬし本当にいつもより頭の回転が鈍いようじゃのう、おぬしじゃよEクラスの特別教官は」
生徒だっつってんのにこの有様はなんだ
体のいい様に使われている事に少し腹が立った
しかしいつもより思考が鈍いのも確かだ冒険者やってた時じゃ考えられないな
俺が教官側に立たされてる時点でEクラスの特別教官なのはすぐに分かる事なのに自分でも気が付かない内に呆けてしまっていたようだ
「Eランク諸君。君らの特別教官はこの男じゃ、編入前は冒険者をしておった生粋の戦闘狂じゃ。こやつから学べば得るものも多い心して学ぶように」
「誰が戦闘狂だコラ」
ジジイの説明への返事はまばらだった
教官が俺ということに不満がある者も多いのだろう
第一印象があれじゃあなぁ
「不満があるのは重々感じていますが、特別教官ということでしっかり担当させてもらいます、まぁそんな感じでよろしく」
全員に一々魔眼の件を説明するのも面倒だし後で周知すればいいだろ
「あの、元冒険者という事だけどランクの方はどの程度なのでしょうか?」
おずおずといった感じで質問してきたのは兎っぽい耳のシルエットの子
声からして女の子だろうがそんなに緊張するだろか?
「それは──「ランクについては秘匿という事にしておこう」は?」
俺が冒険者としてのランクを言う前にジジイに遮られた。別に説明したところで特に問題は無いと思うんだが
「それはどうしてでしょうか?」
「何、特に気にする必要は無いという事じゃよ。仮に低ランクだとして舐めてかかられては教官として意味をなさんからのぉ実力は見て測るものじゃよ」
「なるほど、分かりました。ありがとうございます」
少し不服といった感じではあったもののジジイ相手に深く追求するつもりは無さそうだった
その後クラスのメンバーをいくつかの班に分けたあとそれぞれに順番に付いて実技指導を行うことになった。
今日のところは1組だけという事で
那美さんと他四人の班を見ることにした
さっきの約束もあるしね
メンバーは那美さん、深於さん、ディル、フィークスそして先程質問をして来た兎耳の子
ほぼ知ったメンツなのは深於さんのおかげだろう集められた側のメンバーからはちょっと恐怖を感じる、唯一フィークスだけが嬉しそうだったのが不思議だ
「それじゃー実技なんだけど今まで何してたの?」
「アンタ何も知らないの?」
「面目ない特別教官なのはさっき知ったもんで、何をすればいいのかさっぱりなんだ」
「そういう事ね、学園長の考える事は分からないわ」
「おっしゃる通りで」
深於さんとふたりでしばらく話していたところ
「とりあえず何ができるのか知ってもらった方が早いんじゃないか」
というディルの発案により今日の方針がまとまった
「とりあえず的に魔法ぶつけて貰う感じでいいか」
土魔法を使い的を生成する
「無詠唱かそれくらいはできるか」
「教官ならまぁできて当然ね」
いやに上から目線なのはこの際置いておこう
「じゃあ1人ずつ撃ち込んでって、壊してかまわないから」
一番手はディル
魔力量自体は少ないものの見えている魔力の色から密度の高さは伺える、例えるなら深緑の色針葉樹の並んだような魔力密度。属性的には風か
「ウインドランス」
右手を前に出し呪文を詠唱する
放たれた魔法はそよ風の様なものだった
「まぁこんなもんだEクラスじゃ大体みんなこんな感じだぞ」
想像より酷いというか
「一般人より酷くないか?」
ウインドランスは本来風を槍の様に集め敵に向かって放つ魔法。これじゃ生活魔法のドライヤーと同程度だ
「結構きついこと言ってくれるな」
一応ここ優秀な学生が集うって聞いてるからなぁ
獣人である事を差し引いても余りにも威力が弱い
本来密度の高い魔力を持つ者は威力の高い一撃は放てるものの連発はできないと言った特性がある
けれどあの程度の威力しか出せないと言う事はやはり呪いのせいでまともに魔法が使えないのだろう
「それじゃ次はボクの番プゴ」
少しシュンとしたディルが戻っていく中
次にフィークスが前に出て魔法を放つ
不思議なものだフィークスの魔力は白と赤の混成。
本来色別の魔眼で見えるのは本人に一番適正のある魔法の色が見えるはずなのにそれが2色もある。珍しいのは確かだがこのクラスにいるのは少しおかしい気がする。魔法を扱う才能という点ではこの学園でもトップクラスの人間だろうに、なぜこんなクラスに所属しているのだろうか
「ファイアボール」
詠唱によって生成されたら火球は大きさは申し分ないが魔法に込められる魔力密度が極端に低い
ボールを投げたような速さで射出され、的には当たったもののペシュンと言う音を立てて消えてしまった
「僕はこんな感じだプゴ」
魔力量と密度そのどちらも飛び抜けているはずなのにあの程度の威力それにフィークスは呪われていない
意図的に能力を制限してるのか?
周りの反応を見てもいつも通りと言った感じだった
コレは触れない方がいい感じか、冒険者時代にも能力を意図的に隠してた奴を知っている。触れてはならない暗黙の了解と言うものだろうか
「次は私ね」
のっしりと戻るフィークスの次に深於さんが前に出た
彼女も呪われていないし名家だ。本来であればかなり強いはずだ、魔力量は少なめではあるもののその密度は先の2人よりもかなり高い
「ウォーターランス」
詠唱に合わせて水が槍の形で現れる
放たれた放たれた魔法は的に刺さって停止した後ただの水に戻った
・・・こちらはなんというか魔力操作が雑すぎる
収束させる事はできているものの周囲に散らばる魔力が多すぎる
水門の人間にしてはあまりにも魔術レベルが低い。恐らく近接主体で魔法は苦手なのだろう
「次は私がやります」
出てきたのは兎耳の子この子も呪われてはいない、茶色の魔力を波たてている事が少し気になるところではあるが他と比べて普通そうだ
あ、そういえば名前聞いてないな
「アースバレット」
詠唱から石の礫が周囲に生成され高速で発射される
生成速度、射出スピードは申し分ないさしずめ石の散弾銃と言ったところ
そして魔法を撃ち込まれた的は爆音と共に消滅した
先程までの面々と違いしっかりと的を破壊している。ダメージの蓄積もあったのだろうがそれでも俺が想定していた範囲、一定以上のダメージが入れば壊れるように生成している為この結果は当然と言える
「いいねこれくらいやってくれないと」
「わたしあなたが嫌いです」
第一声がこれか、中々にキツイ
「それはまぁ、第一印象的に?」
「人を容姿でどうこう言う人は最低ですから。何故かおふたりはあなたを許しているように見えますが私は許しません」
性格的に何となく生真面目なんだろうというのが想像できる、他者に対する言葉にこれだけの感情が乗るのだ随分と優しいものだ
「色々と説明はさせてもらったからね、ところで名前おしえて貰ってもいい?まだクラス皆の名前聞いてないんでね」
「私は月夜野です、それじゃ」
それだけ言うと彼女は戻って行った
随分とまぁ嫌われたなぁ
こればかりは仕方がないマイナススタートになったのは今日の朝から嫌という程感じている
関係性を構築するにもまずはある程度の好感度を稼がないと行けないな
「最後は私が行きます」
少しショックを受けていたところ最後に那美さんがやってきた
感情を読み取ることはできないが少し勇んでいるような感じがする
先程と同じ的を生成しそこに打ち込むよう促す
「ダークボール」
詠唱と共に黒い球体が生成される
込められる魔力が異質な雰囲気を纏っている
本人以外の魔力がまるで生成を邪魔するように束ねた魔力を解いていく
そして発射される前に霧散してしまった
「こんな感じです」
「ありがとう、コレで全員一通り見せてもらったわけだけど。今のとこ一番実用的に魔法を扱えているのは月夜野さんだけだね」
思っていたよりも魔法が使えないということは把握できた。次は課題を出して解決を測り成長を促す方向にしよう
「ディルくん、フィークス、深於さん、月夜野さんは4人で組んで月夜野さんから魔力操作を教わってくれ」
魔力操作は魔術レベルの事だ
この世界の魔法は主に3種類に分類される
初めに魔術。コレは自身のオドや自然環境にあるマナを操作するとこ。コレが疎かになると魔法を扱う事ができなくなる
次に魔法。魔力に属性を持たせて扱う事で、どの属性を扱えるかは才能によるが、基礎魔法レベルの範囲であれば一般人でも全属性扱うことが出来る
最後に魔導。主に魔導具と呼ばれ、コレは一部の才能のある者が魔石を用いて魔法を付与した道具の事を指す。一般人でも家具として多く流通している事から俺でも知っている
「了解した」
「プゴ」
「うっ、分かったわ」
「・・・まぁいいでしょう」
こちらはこの組み合わせでいいだろう、反応的に各々自覚もありそうだし魔法以前に魔術の範囲でやるべき事が多すぎる
ディルはともかく深於さんはおそらく先程考えた様に近接主体で魔法があまり得意でないのだろう。ディルは呪われているがそれほど大きな影響は受けていないように見える事からそもそも魔術自体が得意ではないのだと思う
呪いの種類も那美さんとは別の自縛的なもの、おそらく過去に自身を呪うような出来事でもあったのだろう
フィークスに関してはよく分からないと言ったところ意図的に力を制限していることは分かるがこんな場で理由を聞く訳にも行かないだろう。秘密は誰にでもあるものだしな
「あの私はどうすればいいかな」
「那美さんは俺と組んで解呪の方を進めよう」
「うん、お願いします」
呪いの種類や状態は把握できているから対応は可能
あとは本人が呪いに対して対抗する術を身につけてくれると俺としても楽になる
それにもうすぐ呪った相手がこちらに来る頃合いだろう線のような繋がりが教室にいた時よりも太く見やすくなっているから
「そろそろ5限も終わる頃だし一旦休憩に──」
言いかけたところで割り込むように集団がこちらにやってきた
「やぁ那美相変わらず魔法が下手なんだね、僕が教えてあげよう。そんなよく分からないやつよりよっぽどマシだと思うけどな」
声のした方をチラ見する白い魔力の人間がいた他にも赤、黄、茶、緑なるほど七門全員揃い踏みってとこか
「来客みたいだし休憩にしよう6限までに戻ってきてくれればいいから」
白い魔力の奴を無視しつつメンバーに声をかける
ディルと月夜野さんはすぐにその場を離れて違う所へ向かった流石に七門の人間に囲まれるのは怖いというのもあるだろうし獣人だからというのもあるだろう。フィークスがこの場に残ったのは少し以外だった
離れた2人を見送る合わせて周囲の状況を少し確認する
Sクラスの連中がEクラスの各グループにちょっかいかけに来ている様だ
なるほど合同実技という名のイジメか
名門校と言う割にはこいう所はどこに行っても一緒だな
「キミ何様なんだい?」
無視された上に解散指示を出したのが気に食わなかったのか少し怒ったような声でこちらに突っかかってきた
「神至 力人だ、実技の特別教官やってる」
「僕は陽門 那岐だ当然知ってるだろうけど」
「いや知らん」
高圧的、プライドが高そうだ。
そして呪いの繋がりも見えるコレが那美さんに呪いをかけた奴か、いや媒介になってるだけだな
予想通り家の問題と言ったところか
考え事をしているとクスクスと笑っている深於さんがやってきた
「いくらなんでもそれは酷いんじゃないかしら」
そういう割に随分と笑っている
深於さんの俺への敵視はもう完全に無くなっているようだった
「この僕を知らないなんて、君いったいどんな生活してきたんだい?」
随分と自分の事を有名だと思っているようだ
実際大和の人間で七門を知らないものはいないだろう
しかし俺はつい最近まで冒険者をしていたのだ。たかが一国の有名人程度知る由もない
「陽くんはね七門の中でも最も強いことで有名なの」
「へぇ、闘技大会的なやつで?」
「そう、この学園の夏の大会で去年1年生なのに優勝してるのだから知らない人はいないってわけ」
「へぇ、そうなんだ」
学内戦とはいえかなりの実力者が集まるはずのこの学園で優勝となれば相当に腕が立つのだろう
まぁ冒険者のトップランカーと比べればまだまだ未熟と言わざるおえないが
なんでもありのあの世界じゃ行儀の良い闘技大会程度の実力などさして意味をなさないから
「お前随分と余裕だね、この僕が相手してあげようか」
「いいんじゃないか?合同実技だし、学園トップの実力は気になるところだし」
魔力の揺らぎが波立った、特に意識したわけではないのだが気に触ったらしい
別に煽ったつもりはないのだが俺の態度が相当気に食わないらしい
「調子に乗らない方がいいわ」
赤い魔力の子が話しかけてくる
七門でも屈指の実力者に面と向かって言いたいことを言っているのだその態度が気に食わないのだろう
他の奴らもこちらに好意的な態度は無い
「神至くん大丈夫なの?」
「大丈夫特に問題無いかな」
心配そうな声でこちらを気にかけてくれる那美さんに安心させるように声をかける
見た限りコイツの属性は光対処法は闇魔法での相殺が基本になるだろうしついでに解呪もしてしまえば一石二鳥というやつだ
「ルールはどうしようか」
「本当にやるつもりなんだ、いいよルールはなんでもありだ」
少し嬉しそうに魔力が波打つ
なるほど、なんでもありかそれは困った
どう手加減すればいいか分からないぞ
「開始は6限からでいいかな」
「ああ、いいともなんなら賭けよう僕が勝ったら特別教官を辞めてこの学園から去るこういうのはどうだろう」
絶対に自分が負けないという自信が溢れている、産まれてこの方負けたことが無いのだろう
「ちょっといくらなんでもソレは──「いいんじゃないかなのぉ」学園長!?」
深於さんが文句を言ってくれそうだったがジジイがそれをさえぎった
「何問題ないじゃろうて、得物は各自で用意せい力人お主は木剣で良いな?」
「ああ、問題ない」
声もそうだが七色の魔力が愉しそうに揺らいでいる
性格が悪いと言ったらコイツの右に出るものはいないだろう
「本当に大丈夫なの?」
那美さんはずっとこちらの心配をしているようだ
そんなに弱く見えるだろうか俺は
「大丈夫、大丈夫何とかなるでしょ」
「君が思うよりずっと陽くんは強いんだよ」
初めて聞く声色、少し怒った様なそんな感じの声
心配が強いのだろう呪いの内側今まで見えていなかった黒い、闇色の魔力が大きく揺らいでいた
それを見て俺は少し嬉しく思った
理由は分からない、でも少し心が暖まった
「大丈夫、絶対に負けやしないから」
「そこまで言うならキミが勝ったら那美をキミにあげよう。そんな醜女で良ければいくらでもあげるさ」
「えっ」
「ちょっとアンタいくらなんでもそれは!」
・・・聞き間違えだろうか?
仮にも自分の許嫁の事を醜女だと?ブサイクと言った俺が言えた立場では無いがそれは流石に非常識だろう
それに許嫁をあげるだって?彼女はお前の所有物か何かか
「どういう意味だ?」
「どうもこうも那美の姿が見えてないのかい?痩せぎすで骨ばった身体に顔も整っていない、闇そのものみたいな髪に瞳だ。性格だって陰気で暗い。誰がこんなの欲しがるんだい?」
あぁ、コイツの発言で理解した
彼女がブサイクと言われたのにも関わらずそれ程俺に怒りを向けて来なかった理由
慣れてるんだ。他者から向けられる忌避の目線。言葉は無くとも自分がどれだけ醜い姿をしているのか自覚があるのだろう。そしてコイツの態度や発言、直接的に何度もそういった事を言ってきたのだろう
だから俺の発言にも硬直はしてもそれ程怒りを向けてこなかった。深於さんが代わりに怒ってくれるから自分で怒ることもなくなってしまったのだろう。
「分かった俺が勝ったら那美さんを貰おう、友人として普通の人として彼女を見ることにするよ」
「ははっ!傑作だ!コレで僕を縛るものは無くなるね!どう転んでも僕に利しかない」
・・・・クズが、本気でころ──
「賭けの内容は決まったようじゃな」
俺の様子を察してかジジイが間に入ってくれた
あのままだと開始前に殺ってしまうところだった
「それじゃあ僕は武器を取ってこよう、逃げないでくれよ神至くん」
陽門はそれだけ言うと七門の奴らを引き連れて去っていった
勝手に貰うなどと物扱いしたことを謝罪しようと那美さんの方を振り向く。呪いが薄まっていたようで魔力の揺らぎがと見えた
怯えとは違う悲しみが、震える魔力が今の感情をハッキリと鮮明に俺の目に映る
そして隣に居る深於さんの魔力が酷く揺れている
「那美大丈夫?ゆっくり呼吸して」
許嫁の発言がかなり心に刺さったのだろう聞き取れる過呼吸気味の吐息が心配になる
姿は見えないが背に手を当てて回復魔法を掛ける
少しでも和らぐように
呪いが無くなったわけでは無いが楔である陽門の奴が明確に否定と手離す事を宣言したからか今まで那美さんを覆っていた呪いが小さくなっていた。
まだ彼女のシルエットは見ることができていないものの彼女の魔力がどんなものなのか知ることはできた。
背中をさする手から感じる骨ばった感じから彼女が痩せぎすというのは事実なのだろうがそれは呪いによるもの彼女自身のせいじゃない
しばらくして那美さんが落ち着きを取り戻したので先程言おうとしていた事を話す
「ごめん那美さん勝手に話を進めて、貰うなんて物扱いまでして」
「ううん、大丈夫」
声から聞き取れる憔悴しきった感じから大丈夫でない事くらい俺にだって分かる
そろそろ6限が始まる頃だ、深於さんに那美さんを預けてジジイの元へ向かう
「木剣は?」
「ほれ、これじゃ用意してあるぞ」
「ん」
軽く返事をし木剣を預かる、刀剣型の方が良かったのだがそれは言ってられないな
「力人、一応言っておくんじゃがここで本気を出すでないぞ」
「・・・分かってる」
「本当かのぉ」
ジジイに言われなければ本気で叩きのめしていただろう、今隣にいるこいつから少し怯えを感じ取っている。先程までの愉しそうな様子は微塵も感じない
表面上は飄々した感じは崩さず髭をさすっているようだが魔力の揺らぎは誤魔化せない
「加減はするつもりだ、実技棟少し壊れるかもだけど」
「一応結界張っとくかの、本気のおぬしはワシでも止められないからのぉ」
演習という形で試合をする事になった
前代未聞の編入生と学内トップの試合だ
どこから噂が広がったのか6限が始まる頃には実技棟2階の観客席には人が大量に集まっていた




