サボりと出会いと秘密の開示
─翌朝─
スッキリとした気分で目を覚ます
久方ぶりの快眠を喜ぶよりも、寝そべったまま天井を見上げ、少し物思いに耽る
今日はアニが夢に出てくる事はなかった
それはあの過去を飲み干す事が出来たという話ではなく。単に俺の中の怨嗟がアニの声と姿で、俺にストレスをかけるのをやめたのだろう
今更になってあんなにも繰り返し思い出すなんて、今思えばおかしな話である
きっかけは蓋をしていた記憶
その蓋に穴が空いた事から、漏れ出た記憶を読み取って夢の中で姿を再現していたのだろう
まだ思い出せていない事も多い、アニとの出会いから別れに至るまでは思い出せてはいるが、それよりももっと昔。俺の体がこうなる前は未だに思い出せずにいる
どうして今になって記憶の蓋が開き始めたのかは定かではないものの、その変化はきっと良いものなのだろう
現に今の俺は、過去と己の罪に向き合う事が出来るようになった。漸くそこまで成長したとも考えられる
過去はともかく、アニへの罪。その罪悪感を抱え続けていたのは事実であるし、今も変わらず残っている
例え彼女を殺したのが怨嗟達であったとしても、それは俺の身体を使って行った事。ならその罪も俺の物であると考えるのはおかしな事では無いはずだ
真相を知り、明確な答えを得た今
この件でもう怯える事はない。それは俺自身が今後一生抱えていく物として、心の中での整理がついたからだ
だからもう夢に見たとしても恐れる事は無いし、発作もすぐにとは言わずとも次第に収まっていくだろう
考えが一段落ついた事で思考を一度止め、まだ少し疲れの残った身体を起こし時間を見る
「え」
・・・・・完全に遅刻の時間だった
午前11時24分、時計の示す時間に身体が硬直した
いくら疲れていたとは言え、流石に寝すぎたなコレは
昨日は色々あって、結局寝たのは1時過ぎだったと記憶しているが、いくらなんでも寝すぎだろう
急いでベッドから降りて制服に袖を通し、顔を洗う為に洗面台へ向かう
鏡に写るのは自分の姿
目元のクマは、まだ完全には消えていなくて少し残っている
そして前と少しだけ違う、短くなった髪が目に付く
伸びたまま放置されていた前髪と襟足が短くなり、以前に比べてずいぶんとスッキリとした印象になった
昨夜帰った時にティリファにお願いして切ってもらったのだ。今までに無いほどに心配され、説教されながらではあったけど、その作業はとても丁寧なものであった
新しくなった自分に、ここから始め直そうと気持ちを切替える。そう言うつもりで髪を切った
変化を噛み締めた後、顔を洗い急いで寮を出る
当然、誰も残っていないため一人駆け出していく
過去を受け入れ、装いが変わり、気分が明るくなったからなのだろうか。その足取りは今までになく軽やかであった
─学園─
「着いたはいいものの、今から授業ってのもなぁ・・・」
時刻は12時過ぎ、四限がそう遠くない内に終わる時間帯だ
今から行くのは流石に中途半端だと思い、一人勝手に学園内を彷徨いていた
内心、教官に見つからないか少しドキドキしているが、なんだか悪い事をしているみたいでワクワクしている自分もいた
「───ここは」
しばらく学内をさまよっているとある教室?が目に止まった
図書館と書かれた札の着いている部屋だ
窓はなく中の様子は見えない
時間はあるし軽く見るくらいなら良いか、と特に深く考える事もなくその部屋に入る
中に入り目に映ったのはありとあらゆる場所が本で埋め尽くされた世界
流石に床には本は無いが、壁も本棚も隙間ひとつなくピッチリと本で埋め尽くされていた
「はぁ───すげぇなぁ」
今の時代本など滅多に見かけることはない
それは殆どが携帯端末に置き換えられているから
「これだけ大量の本、どうやって集めたんだか」
誰もいない部屋で独り言を呟きながら部屋の奥へと進んで行く
数多くの本、その全てが種類毎にタイトル順に並べられている
語学書に、歴史書、数学に魔術教本、果ては漫画に小説とパッと見ただけでも凄まじい蔵書の数だった
「へぇ、色々あるんだなぁ」
本棚を眺めながら奥へ奥へと進んでいくと、パッと開けた場所に出る
大きな長机と仕切りのされた小さな机の沢山並んでいるエリア
なんだか自習用の部屋みたいだなと、記憶にあるもの比較する───までもないな、こっちの方がでかいし豪華だわ
そんな感じで1人楽しく散策していると
奥に人がいるのが見えた、授業中であろうこの時間に一体何をしているのだろうか。サボりか?
自分の事など棚に上げてこっそりと、その人物に近づいてみる
顔は見えないけど、その容姿。というか髪はよく見える
ディルやティリファの銀髪とはまた違った輝きを持つ白い髪。かなり丁寧に手入れがされているのだろう、随分とサラサラとしていて柔らかそうな感じ
その事から女性だと分かる。他にも制服の隙間から薄っすらと腕が見える。何か書いてるのだろうか、紙に何かを書き起こしている
見た感じ腕は細くしなやかで筋肉量は少なめ、少し浅黒い日焼けしたような感じの肌。中東辺りの出身だろうか。あの辺なら知り合いも──
少し近づき過ぎたようでコチラの方に女性が向いた
随分と整った顔だ。なんかどっかで見たことある様な気がするけど・・・それは兎も角この学園は美男美女しかいないのか?
呆気にとられる俺の事など気にもとめずに声をかけてくる
「誰?」
「あ、どうも神至 力人と言います。綺麗な髪ですね?」
咄嗟の事でつい変な事を口走った、これじゃあただのナンパ野郎だ
「ナンパ?それにどうして疑問形なの?」
「いやナンパじゃないよ、それとそこは何となく」
ほらやっぱりナンパだと思われた
「そう、で?どうしてこんな所にいるの?まだ授業中でしょ?」
「うーん質問攻めだなぁ、ここにいるのはサボりです教官には言わないで貰えると助かる。というか君もサボりじゃないの?」
「・・・私、特待生だから授業を受けるのは自由なの。というか、そう神至ってあなたの事なのね」
何かに思い至ったかのように頬に手を当てる。うん絵になるな。これでナンパだと思われてなきゃいいんだけど
「悪い噂が沢山流れてる男です」
「あら、そう?そうでも無いわよ。たった今ナンパしてくるまでは、少なくとも私の中での印象は悪くなかったわ」
「さいですか。それで?君の名前は?」
「───知らないのね」
少し間が空いた。驚きのようにも見えるが、コレはなんと言うかクラスの皆に常識の無さをツッコまれる時と似たような感じがする
「編入生ですんで」
そんな体のいい言い訳を述べて視線を躱す
「そういうものかしら?一応名乗っておくわ、私の名前はレイナス。レイナス・G・オースよ」
「・・・・・」
「何かしらその表情」
あまりに聞き覚えのあるファミリーネームと特徴的なGというミドルネームに固まってしまう
それは俺の元仲間であり、理の力を持つ男のソレと同じだったからだ
俺が今どんな表情をしてるかは分からないが、たぶん凄い変な顔をしているんだろう
驚きはある、けどそれ以上に面倒事の気配がして内心とても微妙な気持ちだ
とはいえ気になることもあるし、それを確かめない訳にもいかないと少し質問をする
「あんた、ソロモンの血縁か何かか?」
「・・・そう、あなたも父と私を比べるのね」
「乳?・・・父!?アレが?」
「違うのかしら?というか一国の王に対してアレはいくらなんでも失礼じゃないかしら」
今口に出したソロモンというのがその男
魔導王国ソロモンの国王で『神喰狼』の元メンバーだった男だ
本人は「お忍びで遊びに来てる」とか宣っていたけど微塵も姿を隠していなかったし、しょっちゅう国の人に連れ帰られていた覚えがある
ちなみに俺の基本的な座学の先生でもある
メンバーの中で比較的真っ当な人間である事から白羽の矢が立ち、俺に色々と教えてくれていた
しかし、アレの娘か・・・なんか複雑だな・・・
「何か言ったらどうかしら」
怪訝な表情で言葉が投げかけられる
こちらとしては驚きのあまり、それどころじゃないんだが
「あぁ、うん、知り合いの娘って聞いてちょっと驚いたんだごめん」
「・・・あなたみたいな人が父と知り合い?ふざけてるのかしら」
「いや、事実だよ」
ジトりとこちらを推し量るような目で睨み付けられる。俺なんも悪いことしてなくない?
「冗談にしても品が無いわ・・・勉強の邪魔よ消えなさい」
「さっきから気になってはいるけど、俺の扱い酷くないか?」
「あら、編入初日に問題起こすような悪い男に対しては、随分と丁寧な扱いだと思うけど?」
この野郎、さっき言ってた感じと全然違うじゃねぇか
その物言いに少し腹が立ち、煽るように言葉を返す
「特待生って事はさぞ、優秀なんだろうな」
「そうよ?何か文句でも?」
「いや?その割には名前聞かなかったな、と思っただけだ。ソロモンの娘だろ?普通クラスが違えど噂くらい耳にするだろ」
「っ!問題も起こさず真っ当に生活してるのだから当然じゃない」
いかん、何か地雷を踏んだ気がする
明らかに怒った表情に、周りの空気が少しピリついている。魔力が波たっているのか?
「それに、父と私は違うわ比べないでちょうだい」
彼女の怒った声に合わせるように空気が少し震える
気になるな・・・
静かに魔眼を展開し周りの様子を見る
───そういう事か
彼女を囲むようにその周囲をクルクルと飛び回る物が目に入る
色の着いた光の玉に薄く透き通る様な羽の生えたナニカが舞っている
ソレの幾つかはこちらを睨む彼女と同じように怒った様な雰囲気を出していて、それとは別に自由気ままに飛び回る物もいる
「精霊か」
「どうしてそれを!?」
ガタッと椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がるレイナスさん
漂う魔力から驚きと困惑が見て取れる
この分だと誰にも話していないのだろう。それを初対面の、それも凄い失礼な奴に言い当てられたのだ驚きもする
それに合わせて精霊たちも慌てたように彼女の背中に隠れた
・・・うん、なんか可愛いな
「あなた何者なの?」
「寝坊した挙句、授業サボって散歩してる元冒険者の編入生です」
「そう、話すつもりは無いって事ね」
焦燥と警戒、殺気にも似た感情がこちらに向けられる
こんな所で暴れるつもりか!?
魔眼を閉じ、距離を取る
「風の精霊よ──」
こちらに手を向けながら精霊に言霊をかけている
せっかくの蔵書がダメになるだろうがと魔法無効化を最大限展開すると
四限の終わりを知らせる鐘が鳴り響いた
「───っ、命拾いしたわね。さよなら」
集中が削がれたのか、或いは正気に戻ったのか。言霊による詠唱を止めると足早にレイナスさんは去って行った
「・・・なんだったんだ?」
ナンパに間違えられた挙句、一方的に魔法で攻撃されそうになるとは、ソロモンのやつめどんな教育してんだか
ボリボリと頭を掻きつつ俺も図書館を出て、その足でEクラスの教室へ向かう
頭の中に残るのは当然レイナスさんの事だ
精霊魔法も気になるのだがそれよりも
「やっぱどこかで見たことあるんだよなぁ・・・」
独り言を呟き、すれ違う他の生徒の事など気にもとめずに歩きながら、記憶をほじくり返すように確かめているといつの間にか教室の前に立っていた
まぁそんなに深く考える必要はないか、早々会うことも無いだろうし
思考を切り、扉を挙句普通に中に入る
「おは───」
いつもと変わらない、少し遅めの登校と思いながら教室に入ったつもりが
「───よウゴォ」
凄まじい勢いで頭頂部を叩かれおかしな声が出た
「何シレッと入ってきてる。何時だと思ってるんだ」
「痛えぇ──アンリじゃん、なんでいんの」
叩かれたところを擦りながら見上げると拳を握りならが笑顔を向けるアンリがいた
「もう1発行っとくか?」
「すみません、勘弁してください。寝坊しました申し訳ございません」
あまりの怒気に即座に謝罪する
だって殴られたら痛い、だからしょうがない
「はぁ。寝坊して、学園に来たかと思えば、図書館で時間を潰してるわで何をしてるんだお前は」
「なんで知ってんだよ」
寮長だから朝の様子は兎も角、その後の行動まで全てを把握されていて少し怖くなる
「なんでってそれはお前、お前の端末のGPSを監視してたからに決まってるだろう」
「なにそれ、知らない」
「今言ったからな、それにクラス全員でお前の現在地は共有してる。サボりは見逃さんぞ」
相変わらずの情報共有の遅さに帰ってきた感があるが───待て、今クラス全員で共有って言ったか?
「俺のプライバシーは!?」
「ない」
「無いのかよ!」
「安心しろ流石に授業中だけだ、放課後と休みの日は切れるようになってる」
俺とアンリのやり取りを見ていてたであろうクラスメイト達が笑う
流石にこれには、文句のひとつでも言わないと行けないと立ち上がるとアンリがすかさず言葉を続ける
「もしまた唐突にいなくなっても良いように、こういう措置を取るしか無かったんだ、反省しろ」
「俺は迷い猫か何かか!」
やり取りを続ける俺とアンリに笑いながらディルが近づいてくる
「あははは!冗談だよ神至。位置情報を常に確認できるのはアンリ教官だけだ。それに俺達も監視される事になったからあんまり気にしなくてもいいと思うぞ」
「それはそれでどうなんだよ・・・」
少し辟易としながら答える俺に今度は迦倉さんから声がかかる
「リキリキの秘密をね、共有するに当たって〜必要らしいよ〜」
「あぁ、そういうことか」
納得は行かないが理解は出来た
理の力然り、俺が話していなかった秘密を知るに当たり、俺の事を快く思わない誰かに狙われる心配をしての措置なんだろう
「なら、最初からそう言えよ全く」
嘆息しながらアンリに言葉を返す
「元を正せばお前のせいだ、諦めて受け入れろ。それから今日の実技は無しになってる。その代わりお前の口から全部ちゃんと話せ。いいな」
「ああ、分かった」
伝えるべきことは伝えたとばかりに立ち去るアンリ
一応返事は返しつつ、これでやっとゆっくり出来ると思えば、今度はクラスメイト達に詰め寄られる
「神至くんまたサボり〜」
「もう大丈夫なのかな?」
「さあ、約束通り洗いざらい話しなさい」
「リキリキ元気になった〜?」
「神至!飯だ飯!飯行こうぜ!」
「ボク、お腹空いたプゴ早く行くプゴ」
あまりの勢いに少し後ずさるが、逃げる間もなくフィークスに担ぎ上げられ、食堂に拉致された
移動中他の生徒からの視線が痛かったが、まぁ今更すぎて特に気にすることも無かった
その後いつも通りに昼食を終えまた教室に戻る。監視のつもりなのか、或いは不安が残っているのか、いつもより距離の近さというか視線を感じていた
緘口令でも敷かれているのか、秘密に関して特に質問はなく、移動方法以外は本当にいつも通りの食事の時間だった
食事中聞かれた事といえば髪を切った事について聞かれたくらいだった
─午後─
他のクラスの生徒が実技に行くため教室を去った後
Eクラスのメンバーだけが自分たちの教室に残る
俺は今教卓の前に立たされ、まさにこれから抱える秘密に着いて説明しようとしているところだった
生徒側に座っているアンリに少し声をかける
「アンリはそっちなのか」
「私から言うことは特にないからな、必要な事は全て話しておけ」
ホームルームのようにクラス全員が集まり、その視線が俺に集中している
・・・コレはなんというか実技棟で注目されている時とは違う緊張感があるな
緊張感に少し居心地の悪さを覚えながら、口を開く
「さて、皆何から聞きたい?」
話すべき事はそう多くはない。けれど深いところまで話すとそれなりに時間がかかる
だから聞きたいこと、皆が疑問に思っている事を中心に話そうと思った
「はい!リキリキの理の力?っていうのについて聞きたいで〜す」
真っ先に手を挙げ答えてくれたのは迦倉さん
こういう時、気楽に質問してくれる人が居てくれるとすごい助かる。とそんな事を考えながらその質問に答える
「分かった。まずはその事から話そうか。冒険者クラブの皆には前に少し話したね。この世界には理の力という神名とはまた違う力を持つ者がいる」
「世界に7人しかいないんだろ?」
「そう、そのうちの1人が俺だ」
皆一様に驚き、そして首を傾げている
「理の力と言うのはどう言う物なのですか?」
疑問に思ったであろう事を月夜野さんが代表して質問してくる
「詳細については俺もよく分かっていない。けれど人の持つ力とは、隔絶したナニカとだけ言っておこうか」
俺の返答に要領を得ないのだろうやはりその殆どが首を傾げる。だがそれは俺も同じだ
何故このような力があるのか、何のためにあるのか、どうして俺が持っているのか、それは俺にも分からない
「7人全員が同じ力を持ってるの?」
「いや全員司る物が違うな」
「へぇ、じゃあどんなのがあるんだい?」
「そうだな、俺が司るのは『力』でジジイ・・・学園長は『智』を司るのは知ってるぞ」
シレッとジジイが理の力を持ってる事を開示したが、まぁアイツは別に隠してる訳でもないからいいだろ
「学園長もその力を持ってるんですね、ちなみに神至さんの司る『力』というのはどんな物なんですか?」
「言葉の通り、ありとあらゆる力、エネルギーと言い換えてもいい。それを自由自在に操ることが出来る」
またみんなが首を傾げる
「具体的にはどんなことが出来るの?」
「断定してこういう事が出来るって力じゃないんだけど・・・そうだな、例えば魔力を操るとしよう。皆は自分の魔力と周囲にあるマナは操作出来るだろ?」
「マナの操作は出来ないぞ」
「出来る人の方が少ないですね」
俺の話に即答するディルと月夜野さん
「・・・マジか」
マナ操作は普通できないのか・・・
「まぁ、その、自分の魔力は少なくとも操れるわけだ。俺はその魔力を自分以外であっても操作できるって思って貰えばいいんじゃないか?」
「要領得ないけど、なんか凄い力って事だな」
「まあ、その認識でいいと思う。その気になれば体力やら精神力、回転力とか、まぁ力のつくものであれば意のままに出来る。あ、分かりやすく例えるならゲームのステータスを自由に変えられるって思ってもらえばいいな」
「・・・チートじゃねぇか!」
ディルの反応に皆が漸く納得したように頷く
ちーと?と言うのはよく分からないけどなんか凄いものなんだろう
「どうしてその力を今まで隠してたのかな?」
この質問を飛ばしてきたのは宮本くんだ
純粋に疑問に思うって感じで嫌悪感などはない
「単に強すぎる力ってのもあるけど、理の力を持つ人間は何かと狙われるのさ。命とかね」
「殺されそうになった事とかあるのかな?」
「あるけど、大体は一方的にやり返して終わるから危害まで及んだ事は無いね」
その言葉に一様に呆れたような反応が帰ってくる
コレ、そんなに非常識な事か?
「力の話はもういいわ、おなかいっぱいよ。それよりアンタの身体について知りたいわ」
飽き飽きというより呆れ果てた感じの声で深於さんから言葉が投げかけられる
「OK、力について気になることがあれば個々に回答するからまた後で聞いてくれ。それじゃあ身体についてだな」
「色々混ざってるって聞いてるけど、実際のところどう言う事なのかな?」
那美さんからの質問、聞いた相手は大方黄泉かジジイと言ったところだろう
隠しているのは傷だけだし、特に秘密にしている訳でもなかった事だ
「8年前、大規模な誘拐事件があったの皆は知ってるか?」
「有名なやつだよね〜、子供ばっかり攫ってたやつ〜」
世界中で同時に起きた事件だから知らぬものはいないだろうし、当時子供だったみんなからすればかなり怖い事件だったはずだ
「そう、その事件だ。俺はその被害者の1人に当たる」
「それと身体がどういう関係があるんだ?」
「誘拐された子供たちは全員ある実験をされたんだ」
「それは?」
「人を掛け合わせたキメラを作る実験、有り体に言えば複数の神名を持った人間を作ろうとしたのさ」
『───っ!?』
アンリ以外全員が息を飲み、何も話す事が出来なくなる。クラスの空気が重苦しくなるが言葉を続ける
「人の肉を継ぎ接ぎ、掛け合わせる。途中で上手くいかないのだと悟ったんだろうな。だから獣や魔物の肉までも継ぎ接ぎながらキメラを作ろうとした」
怖いもの見たさなのだろう、確かめずに居られないそんな様子でディルが口を開いた
「・・・どう、なったんだ?」
「最終的に生き残ったのは俺も含めて2、3人だったかな、それ以外は全員死んだよ。実験に耐えられず発狂した子、未成熟の体には受け止めきれないほどの力に爆散した子、変質して肉体が人の形を保てなくなった子他にも色々あるけど。これ以上はやめておこうか」
鬱屈とした空気、話す内容から明確にイメージできてしまったのであろう、クラスメイトの何人かが少し吐きそうな感じになり。言葉を止めた
助けを求める声も、恨みを怨嗟を吐く声もどれも全部消えてくれない。この身体に刻み付けられた傷と共に記憶の中に残り続けている
「・・・あの、それじゃあ。神至さんの身体は・・・・・」
「ああ、キメラだよ。継ぎ接ぎされた、人型合成魔獣ってところだろうね」
「っ!───ごめんなさい」
「いや、謝る必要は無いよ。話したのは俺だ。皆を不快にさせてこっちこそ申し訳ない」
元の肉体で残ってるのなんて心臓と頭くらいなもんだ。しかもその心臓も既に何度か破壊してる
だから既に俺はヒトデナシなのだろう
そんな事を考えながら皆の反応を待っていると教室奥の方から声がかかる
「なぁ、人格ってキメラになってるのか?」
重い空気の中、先程の話を気にした様子も無く質問を投げてきたのは不知火くんだ
「それは考えたことも無かったな、もしかしたら今こうやって話しているのも、本来の俺ではないのかもしれない」
「・・・悪い、変な質問したな」
「いいさ、気にしてない。それにたぶん性格・・・精神性まではキメラにはなってないと思うぞ。何せ俺の中にはこの肉体の元になったモノの意志、 怨嗟が残っているからな」
不知火くんの質問は中々に興味深いと思った
確かに体も精神も未成熟だった時の話だ。何かしらの影響を受けてる可能性が高い
けれど身体を乗っ取られて、怨嗟の意思に感情が引っ張られる事はあれど。普段の生活で俺の意志や考え方まで怨嗟に取って代わられる事は今まで一度もなかった
「それはつまり、どういう事だ?」
「つまり怨嗟は怨嗟として俺の中にあって、俺自身の意思はとは別にある。言い換えれば俺と怨嗟は別の人格として乖離してるって事だな」
自分の中でも考えをまとめながら言葉を続ける
「ほら、発作起こした時に変なの出てきただろ?アレは怨嗟が内側から出てきた物なんだよ。肉体の制御権を奪われる事は何度かあったけど。俺の意志まで侵された事は無いんだ」
「なるほど、神至は神至だけど身体を動かそうとする意思は神至と怨嗟の2つある。より簡単に言い換えるならば二重人格って事か」
「そういう事だな」
正確に言えば二重人格では無く俺と怨嗟達になるから多重人格の方が正しいのだろうが、そこまで言う必要は無いだろう、話がややこしくなりそうだ
陰鬱とした上に、小難しい話になりクラスの空気は重いままだが、何となく俺の状況は理解してもらえたと感じる
「あの、身体の事とは関係ないと思うんだけど、ひとついいかな?」
「構わない、何でも答えるよ」
続いて質問を投げかけてきたのはテルクスさん
「神至くんがさっき言ってた発作、アレも結局怨嗟のせいなの?」
そこに疑問が浮かぶのも当然だろう。傍から見れば様子がおかしくなった直後に、おかしなモノが出てきてるんだ。不思議に思うのもおかしくはない
「発作の原因は前話した大切に思っていた彼女の死。その原因は怨嗟だから、そうとも言える。魔物に殺されたと思っていただけで実施には俺の身体で怨嗟が彼女を殺していたんだ」
「前聞いた話と少し違うのはどうして?」
当然の疑問、これについては包み隠さず全部話そうと思う
「それはたぶん、俺の心が耐えられないから記憶を捏造してたんだと思う。嫌な記憶に蓋をして逃げた訳だな。怨嗟に身体を乗っ取られてる間は、動かしている意思はないけど、その時の記憶は保持してるんだよ」
「てことは、自分が殺したみたいな記憶になるって事?」
「そう、だからこの間は唐突に記憶を思い出して、あんな事になったって訳だな」
少し考えるような仕草をした後、テルクスさんはまた言葉を続ける
「なんかそれって神至くん悪くなくない?結局は怨嗟がやった事なんでしょ?」
「確かにそうだ。けどあの時は自分でやった事だと思ったから、あんな風に情けない姿を晒した訳だし。どの道俺が怨嗟をちゃんと抑えられなかったのが、一番の原因だからな、その罪も含めて俺が悪いのさ」
重苦しい空気がどんどんと大きくなる
反応は様々であるけど好意的に受け取る者はいなかった。納得いかないって感じの顔が多い
「それじゃあ、あまりにも神至くんが辛くならない?」
ポツリと呟くような那美さんの声が静まり返った教室に響く。言った本人はあっという表情をしていたけど
他のクラスメイト達は同意するように頷いていた
にしても、そうか。辛くなる・・・か
「考えてもなかったな、辛くなるなんて。怨嗟の行いも含めて全部俺の責任だと思ってた」
「何もかも全部自分のせいって言うのは、ちょっと傲慢がすぎるぜ神至。怨嗟は怨嗟、神至は神至ってさっき自分でも言ってたじゃねぇか。罪悪感を感じる事はあっても責任を負う必要はないんじゃねぇかな」
ディルの言葉にまた皆が同意するように頷く
・・・そうか、俺は何もかも背負い過ぎているのか
確かにそうかもしれない、でも償いくらいはしないといけないと考えている。アニ本人へ償う事は不可能だ。だから俺は俺にできる範囲で誰かを助けることの出来る人になろうとしたのだろう
「ありがとうディル。もう少し考えてみる」
「おう!相談くらいしてくれよ話し相手くらいならいくらでもなってやるから」
「ああ、頼む」
先程まで重苦しかった空気がディルの声で少し晴れたように感じる
「気になることはもう無いか?」
「特にはないで〜す」
少しでも明るく振舞おうとしてくれるのが感じられて申し訳なく思う
このままってのも少し居心地が悪いよな、と考えこの際俺個人に関する秘密を全部ぶちまけてみようと思った陰鬱としたものだけでなく。呆れて笑えるようなものを
「なら俺から1つ話しておこうと思ったことがあるんだけど・・・」
途中で止めたことで皆が静まり返り、身構えるのを感じる。警戒するのも当然だろうと思いつつ、なるべくいつも通りに、なんてことは無いという風に言葉を紡ぐ
「実は俺、このクラスの出資者なんだけど、何か聞きたい事はある?」
「え?」
「はっ?」
「へァ?」
やったなという顔で額を抑えるアンリを除き、全員がマヌケた顔で声を溢す
一瞬静かになったと思えば
『はああああ!?』
ガラスが割れるのではと思うほどの大声で全員が驚いた
驚くのも無理は無い、面倒な事になるのが目に見えていたからこそ話さなかった。けど今は雰囲気を変える為にはちょうどいいだろうと思ったのだ
俺の予想通り、先程までとはうってかわりみんなが一斉に話し出す
「マジ!?」
「マジマジ、大マジだ」
「いくら掛かったんだよ!?」
「兆くらい?あんまし覚えてないな」
「兆!?」
「ちなみに全部ポケットマネーだ」
「どんだけ金持ちなんだよお前!」
重苦しかった空気が驚きと呆れに満ちて次第に明るくなっていく
「一、十、百、千・・・・兆───ちょー」
「あ〜輝夜が倒れた〜」
あっ、指折りしながら数えていた月夜野さんがおかしな声を上げながら倒れた
盛大なツッコミと質問の嵐に飲まれながら、回答していく
どうやって稼いだとか、何に使ってたとか。
学生にあるまじき異常な金額だと知らない俺からすればさして気にした事はなかったが、コレは普通じゃないらしい
「あーなんか神至らしいや、何も言えねぇ〜」
「EXランクの冒険者はすごいだろ」
「それ、あったね。Sより上なんだっけ?」
「番外のランクだ、理の力を持つ者はココに分類されるんだよ」
次から次へと質問が周り色々な事を話す
EXランクという事、養父が剣神を名乗る変態という事、養父が起こした事件に俺もいた事
なるべく明るい話題になる様に考えながら話した
少しでも皆が前向きに捉えてくれるように願いながら
話が終わる頃にはもう実技の時間は終わっていて、少しずつ教室の外も騒がしくなっていた
「やべー、神至やべーわよくそんだけ色んなもん隠してたな」
「なるべく話さない方がいいと思ってたんだよ。先入観とか変に持たれても嫌だろ?」
「いや、もうそんな次元じゃないだろ」
「なんか頭痛くなってきたわ。非常識過ぎてどこをどうツッコめばいいのかしら」
「はーい総括!神至くんは凄いけど変な人って事で!」
『異議無し!』
テルクスさんが元気よくまとめそれにみんなも同意する
しかし凄いは分かるが変な人は流石に心外だぞ
「心外そうな顔をしてもお前は十分非常識で変な奴だ。自覚しておけ」
「ひでぇ!!」
アンリと俺のやり取りに皆が笑う
楽しそうに、可笑しそうに。そこにはもう俺の話で暗く沈んだような皆の顔はなかった
漸く戻って来たと少し感慨深く思う
たったの10日、現実時間で3日しか経っていないのに酷く久しぶりな気がする
昨日感じた寂しさも遠い過去のように消え去って今はただ。心からの暖かさに身を包まれていた
楽しい時間は終わりを迎え、アンリが俺の横に達言葉を紡ぐ
「さて、教室の授業は終わりだ。明日からは普通の生活に戻る。全員気張っていけよ」
『はい!』
元気の良い返事に身体を打たれながら、久々の登校は幕を下ろした




