願いと約束と帰還
何も無い闇の中をただひたすらに歩いていた
真っ直ぐ、ずっと真っ直ぐ
当てなどある訳もなく、示す光もなく、闇の中をただひたすらに進み続ける
景色は変わらないけど、時間が経つ毎に少しずつ、怨嗟の声が小さくなっているようにも思えた
でも振り切れたとは思わない
なぜなら俺の心は時間と共に冷えていき、感情を少しずつ剥がされたように凍りついていくからだ
前は怨嗟の声に呑まれることがあっても、こうはならなかった
その事を今更になって疑問に思う
こうなる直前の事、皆との最後のやり取りを思い出す
俺を呼び止め、引き留めようとしてくれた
嬉しかった。決めたはずの覚悟が揺らぐ程に
仮面を砕かれ、閉じた心まで、こじ開けられたような気分だった
それは嫌な気分では無く、むしろ心地よくて、何処か認めて貰えたような気がして
学園にいたいという俺の気持ち。背中を押すような皆の行動によって確かに俺の心は高鳴った
帰りたい、皆といたい。そう強く思わせてくれた
それに何よりも、生まれて初めて感じたあの感情を、確かめたい。もう一度感じ取りたいと思っている
けれどそれも今は、何処か遠くの事の様で、はっきりとした熱は感じられない
思考するこの間にも、怨嗟の声は離れるように小さくなっていく
今のこの心寒さは怨嗟によるものじゃないのか?
消えるように小さくなっていく声、にも関わらず俺の心は冷たく凍りついたまま
その理由を考える
怨みの籠った声達の、体に残った怨念のせいだとずっと思っていた。でもそうでないのなら、この心を凍てつかせる思いは一体何なのだろう
歩みを止め、暗い闇の中1人で立ち尽くし、この気持ちについて考えながら何も無い空を見上げる
───ああ、そうか
答えに辿り着くまでにそれほど時間はかからなかった
今まで思ってこなかった感情を飲み下し、納得した。少し呆れ気味に声が漏れる
『寂しかったのか』
独りになる孤独感、皆と引き離された事に俺はどうも寂しさを感じていたらしい
本当に自分の感情一つロクに分からないなんて、人にあるまじき事だよな
自分の感情を理解し、前に向き直る
するとどうだろう先程まで、何も無い暗闇だったはずの視界が、唐突に晴れ、それに合わせるように今度は身体を動かせなくなってしまう
いや、歩いていたつもりだ、本当は身動きひとつ取れていなかったのだろう
ぼんやりとした映像を見ているような視界、焦点が定まらず少しぼやけている
その朧気な視界が急に真っ白になり、想像を絶する何かを受けたのは分かった
けれどダメージはない。痛みも感じない
その事から怨嗟に呑まれ身体が動かせていないのだと、そう理解するのに時間は掛からなかった
いつもなら無意識で、事が終わった後に記憶だけ残っているのに今回は違っている
こちらの意識ははっきりしているのに、身体の制御だけは出来ない
その違和感に不快さを覚えながらも、俺はただ見ているだけ
まるで冷えきった心が、動く事を拒んでいるみたいだ
光が収まるにつれ、体にこびりついていた何かが取れるような感触がした。けれどそれが何かは分からない
視界がまた戻ったかと思えば、肩と腿に衝撃が走る
その直後に宮本くんらしき輪郭の人が目の前に現れ、その両手に握る物をこちらに向けて振るってくる
抵抗はしない、出来ない。思うように身体は動かせない
少し身体が軽くなった様な感じがすると、攻撃の波が収まりこちらを攻撃していた輪郭が離れる。すると今度は入れ替わるように青い髪が目の前に現れる
深於さんだろうか
振り被った拳と腕に絡みつくような龍らしきものが見える
ぼんやりと眺めているだけ、どうせ何も感じはしないと抵抗もせずにそれを受ける身体
そして俺の顔に凄まじい衝撃と痛みが走る
───!?
さすがにコレには驚き目を見開く
いやまぁ実際には動いていないのかもしれないけど。
でも確かな痛みがある
視界は上下左右をぐるぐると目まぐるしく回り、己の身体がバウンドしている感覚まである
身体が止まる頃には酷い船酔いみたいな感じになり、かなり気持ちが悪くなった
けど今度は視界が明瞭になる
先程までは、ぼんやりとしか見えていなかったものが、はっきりと見える
相変わらず身体は自由に動かせないけど、それは確かに怨嗟が弱ったのだと感じ取れた
俺の身体を勝手に使っていることに、友人たちにまた迷惑を掛けたことに腹が立つ
凍りついたはずの心は、いつの間にか寂しさを上回る怒りという感情が火を灯し、次第にその大きさを増していく
怨嗟が魔法を使ったことが感じ取れる
俺の最も得意とする重力魔法
鮮明に物を写すようになった視界が、見える範囲の全員を地面に叩き付けるのを捉えた
『いい加減にしろ、いつまで見ているだけのつもりだ』
聞こえなくなった怨嗟の代わりに、今度は自分の声が聞こえる
その声に応える様に心に灯った火が燃え盛り次第に大きくなっていく
そうだいつまで好きにさせるつもりだ
これ以上、友人も仲間も傷つけさせては行けないと、身体を動かそうと藻掻くと
楽しそうな声が、狂った笑い声が聞こえる。俺を笑っているのかと思ったが、そうではなかった
身体がかざす手に、誘われる様にしてディル、深於さん、フィークスが俺の目の前に磔にされた形で固定される
嫌な予感と妙な既視感に、半年前の、あの時の光景が脳裏を過ぎる
そうか、そういう事だったのか
アニを殺したのは俺の身体を使った怨嗟達なのだと、そして奴らはまた同じ事をしようとしているのだと、理解した
そして同時に心の底から怒りが湧いてくる
怨嗟達は手を高く掲げその先に魔力を集めている
止めなければ行けない、ソレだけは許されない
藻掻いても、抵抗しようにも身体は言う事を聞かない、情けなくも身体の制御権を奪われたまま
そんな俺に、助けを求める声が聞こえた
「─── お願い、助けて神至くん!」
叫ぶ全てではないが声が届いた、届いていた
その声が薪となりさらに気持ちは燃え上がる
凍りつき寂しさに満ちていた心は完全に溶かされ、小さかった火種は大きな炎に変わっていく
聞こえたその声に応え無ければ
彼女の願いに応えたい
助けよう、助けなければ
俺の力はその為にあるのだから
なりたいと願った自分の姿をもう一度頭に思い浮かべる。誰かの為に、人を助ける存在になれるように、その為に学園に来たのだと。再認識し心の炎を滾らせる
集められた魔力の制御を奪い取る。その為に身体全てを動かせなくても、口くらいは動かせよう
出来る事を模索し、念じるように、意志を、願いを強く保つ
助けるために、止めるために、振り下ろされるその手に合わせるように口を動かす
「タクト」
魔法をかける先は決まっていた
空に落としたあと、まだ落ちて来ていない俺の愛刀に向けて魔法をかける
願いを形にするように魔法の制御を意志の力だけで奪い取りみんなを解放する
これ以上傷付けないように、優しく丁寧に風魔法で体を包み皆を一箇所に集める
これから来る物の被害を受けないように
視界に映る光景に驚いた様な怨嗟の声
不思議そうにしながら、再度魔法をかけようと、怨嗟が俺の体で手を上げようと動かす
けれどもうその手に魔法は宿らない
それよりも早く、音よりも速く
『真理』が俺の心臓を貫く
遅れてやってくる爆音と、地面すら砕く着地と爆風に全身を包まれる
さすがにコレは痛いな・・・
俺の感想など怨嗟達に届いてはいないのだろう
頭の中で酷く叫ぶ怨嗟の声を聞きながら俺は一度意識を失った
───
次に目を覚ましたのは、酷く焦燥した、今にも泣き出しそうな声が響いている時
身体の状態を確認するよりも早く、身を起こし周囲の状況を確認する
聞こえてくるのは、走りながら泣き叫ぶ黄泉の声
黄泉の走る先、視界に映るのは異常な形で隆起した大地と数時間前に俺が倒した、このフロアのボス
仮称として極大仁王とでも呼ぼうか、それは巨大な手を隆起した地面に向け振り下ろしている
誰かがそこにいると勘づき、考えるよりも早く身体が動いた
ただ全力で地面を蹴り、駆け出す
影も残さぬ速さで、音もさえも置き去りにして一跳びで隆起した大地の上に立つ
「───あ」
驚いた顔をしながらこちらを見て、気の抜けた声を上げる人物
そこにいたのは那美さんだ
その姿を確認して、仁王を見上げる頃には、攻撃を躱す事の出来ない所まで拳が迫っていた
直感で分かる、俺の移動速度に今の彼女は耐えられない、彼女を抱えての全力は無理だ
ともすれば取れる選択肢はひとつ
「ちょっとごめんね」
「ふぇ!?」
一言だけ声をかけ那美さんを抱きしめる
そのままこちらを叩き潰さんとしている巨大な手を受け止め、衝撃が彼女に向かない様にその全てを受け切る
圧倒的な物量に、物の数秒で隆起した大地は粉砕され、留まることのない轟音を鳴り響かせながら拳は大地を割る
打ち付けられた拳が上がる頃には小さくないクレーターが出来上がり、その中心に男女2人の姿が残る
「あー、流石に重いな。那美さん怪我してない?」
「────」
拳を押さえていた手をプラプラと振りながら那美さんに声をかけるが、顔を真っ赤に染め、パクパクと口を動かすばかりで声は出ていなかった
死に目にあったんだ、そりゃ声も出なくなる
そんな見当違いな考えをしながら、那美さんを抱き上げその場を一度離れる
向かう先はひとつ、泣き叫ぶ黄泉の下へ
「うぅぅぅ、那美・・・那美ぃ・・・」
魔物の攻撃で那美さんが死んだとでも思ったのだろう、ボロボロと大粒の涙を流しながら泣く黄泉を叱責するように声をかける
「いつまで泣いてんだ、立って早く避難しろ」
「うるさい!元はと言えばアンタのせいで───那美?」
怒鳴りながらこちらを見る黄泉
泣きながら怒った顔で視線をこちらに向けると、キョトンとしたような、情けない顔になりながら声を漏らした
俺が抱えてい那美さんの姿を見て安心したのだろう、飛び上がり那美さんに抱きつく
そのままの状態では落ち着かないだろうと思ったから、ゆっくりと那美さんを地面に下ろす
「良かった・・・本当に良かった・・・」
「おねーちゃん、く、苦しい」
とりあえずはこれでいいだろう
抱き合うふたりを尻目に極大仁王に目を向ける
相変わらずの大きさ、顔が目視出来ないほど高い身長に少しため息を吐く
身体を動かせる様になってすぐにコレは少しキツイぞ。と内心毒を吐きながら手を横に伸ばす
「来い」
その一言で『真理』が飛んでくる
鞘はどこに行ったか分からないけど、とりあえずこの一振があればいい
刀を正眼に構えふと気づく
・・・俺、何も着て無いんだが・・・
纏っていた鎧は無く、上半身裸の状態で俺は行動していた様だ
そりゃあ、那美さんだって赤くなる
こんな変態に急に抱き着かれたら、不審者、セクハラで通報ものだ・・・通報、されないよな?
格好がつかねぇな、と情けなくなりつつも空間魔法を使って制服を身に纏う
これでいい
装いを整えた所で仁王が動いていることに気が付く
片足を引き拳を振りかぶった様な格好
既に溜めきったであろう力を込めた拳がこちらに向け、放たれる
ゆっくりと動いて見えるソレは、実際にはかなり速い。それこそ空を飛ぶジェット機を見ているような物だ
そんな状況になっているにも関わらず、慌てる事もなく冷静にゆっくりと構えを上段に直す
「悪いな、少し八つ当たりさせてもらう」
怨嗟を抑え込めなかった自分に対しての怒りと友人達を傷つけた怨嗟に対する怒り。その矛先を目の前にいるただデカいだけの的に向ける
数時間前と同じだ、内に籠る怒りを全て吐き出すように全力で、手も足も出させずに確実に仕留める
「神喰一刀流・秘奥」
目を閉じ、息を止め、音さえも聞こえなくなる程に感覚を絞り、集中する
養父に贈ってもらった技を、今出せる最速で最大の一撃を放つ
「『理断』」
相手の形をイメージする、その輪郭を正確に捉えるように
そして形作ったイメージを両断する様に刀を振るう
複雑な動きはなく、ひたすらに速く、ただ真っ直ぐに、魔力すら纏わずに刀を振り下ろす
距離を考えれば当然切れる筈がない、それは火を見るより明らかだ
けれど敵から遠く離れたこの場所で、振るわれた刀は空を斬る
確かに斬ったと、この手に握る刀から感触は伝わってくる
止めていた息を吐き出し、音が戻ってくる。ゆっくりと目を開き、その姿を視界に収めれば。極大仁王とその周囲の空間が一瞬上下にズレる
空間は何事も無かったかのように元に戻るが、仁王の身体は左右に分かたれる
放たれた拳はどこにも向かうことはなく
突き出した形のまま轟音と暴風を起こしながらその場に崩れ落ちた
「討伐完了」
『真理』を空間魔法で収納して2人の元に近づく
「どうした?そんな顔して」
目を見開きあんぐりと口を開いている那美さんとその隣で口をパクパクとさせている黄泉
この姉妹は死に目に会うと声が出なくなるのか?
那美さんはともかく、黄泉がこんなんになってるの初めて見たわ
若干失礼な事を考えていると那美さんから声がかかる
「神至くん、今のは何?」
「何って斬っただけだよ」
なんてことのないように言葉を返す
なんとも言えない微妙な表情をしたかと思えば、少し呆れ気味の声で嬉しそうに言葉を紡ぐ
「君らしいね」
その言葉に心に灯った炎とは別の暖かさを覚える
この気持ちはやっぱり───
「色々聞きたいことはあるけど。そんな事よりアンタ治癒魔法得意でしょ、あの子達治してあげなさい」
芽生えた気持ちを認識し直そうとした所で黄泉の声に遮られる
確かにそうだ。今は個人的な感情よりも皆の方が大事だ
意識を切り替え言葉を紡ぐ
「我、力の理を持つ者」
「ちょっと!?なにやってんの力人!」
「大丈夫だよ、見ててあげよう」
「?・・・那美がそう言うなら良いけど」
俺が詠唱を紡ぐ中、黄泉に止められそうになるがそれを那美さんが遮る
俺が何をしようとしているのか分かってくれたのだろうか
そのまま言葉を紡ぎ続け力を解放する
「『力神顕現』」
詠唱を終え、白金の魔力に身を包む
「───綺麗ね」
「うん、やっぱり綺麗」
魔力に見とれているのだろう
穏やかな表情が今の2人の気持ちを物語っている様に見える
そんな2人に手をかざし言葉を紡ぐ
「魔力、体力、精神力、回復。治癒能力、一時上昇」
黄泉の傷は一瞬で治り、2人の体力も魔力も全て回復する
「うそ・・・マジ?」
「ありがとう、神至くん」
「元々俺のせいだし、お礼を言う必要はないよ。さ、ほかのみんなも回復させよう」
立ち上がった2人と一緒に皆の集まっている所へ向かう
辿り着くとそこで1人横たわった3人に回復魔法をかけ続けているクルトが迎えてくれる
「やあ、もういいのかね?」
「悪い、世話かけたな」
「いいさ、それより交代してもらっても?」
「ああ、任せろ」
滝汗を流すクルトと代わり2人の時と同じように手をかざし言葉を紡ぐ
「治癒魔法展開、効力最大化。体力、魔力、精神力、回復」
黄泉の時とは違いこの3人は俺の治癒魔法で傷を癒す。圧迫骨折しているであろう青く腫れた身体の部位を丁寧にひとつずつ治癒していく
淡い緑色の光が輝き、数秒と時間を置かず呼吸が落ち着き、その表情も穏やかな物になる
残りの面々にも同様に体力と魔力、気疲れのないように精神力も回復させる
宮本くん、迦倉さん、月夜野さんは軽微な傷を癒し、ゲンコツババアは腰を重点的に癒す
ついでにクルトの頭の傷も治しておく。中身は治らないけど
「これで全員無傷で、ここに来る時よりも元気になったな?」
一通りの治療を終え理の力を解除する
「・・・力人、あなたそんな風に力を使えたのね」
「ん?ああ、たぶんこっちが本来の使い方なんだと思うぞ」
黄泉は暴走して禍々しい方の力しか知らなかったな、そう言えば
俺の理の力はどういう訳か変質する。能力その物に変化がある訳じゃないが俺の意識、どう言う目的で使うかによって、身に纏う魔力が変化する
敵を倒す、殺す事に特化すれば魔力は赤黒く禍々しいものとなり。助ける、救うと強く意識すれば白金に輝く魔力になるみたいだ
今回使ってみて漸くその事を理解した
「そっちの方がいいわよ。前みたいなのは私も怖くて嫌ね」
「そうだな、俺も今の力の方が良いと思う」
黄泉と会話をしている内に、倒れていたみんなが少しずつ起き上がってきていた
「うぅっ────アレ?どこも痛くないな」
「身体もう痛むところないか?ディル」
ディルに手を差し出し身体を起こすのを手伝う
「神至、もういいのか?」
「俺が望んで暴れてたみたいな言い方しないでくれ」
少し辟易としながら話す俺にディルは笑いながら答える
「っはは!その様子ならもう大丈夫そうだな」
「ごめん。また迷惑かけて」
「いいっていいって。ティリファ助けてもらった恩に比べれば、このくらいなんて事ないだろ」
ディルと話していると俺の周りにみんなが集まってくる
「神至さん、あの・・・」
俺を見て少し言い淀む声に向き直る
「月夜野さんか、それにみんなも。ごめん大変迷惑をおかけしました」
集まってくれた皆に向けて、謝罪をする
「まったく・・・世話のかかるクソガキだね」
ババアの言葉に同意するようにみんな俺を弄ってくる
「確かに、不知火がくん面倒臭いって言ったのも今なら頷けますね」
「そうだな、今回の神至くんはほんっと面倒臭かったね」
「いやぁ、本当にすまない」
みんなで俺を囲んで愚痴大会が始まったが、その表情はスッキリとしていて、嫌味な感じはなかった
「ね〜リキリキ〜傷は治してくれたの分かるんだけど〜私たちここに来る時より元気なのなんで〜?」
愚痴の流れを変えようとしてくれたのだろうか、迦倉さんからそんな質問が飛んでくる
「あぁ、それは俺の理の力で皆の体力とか色々回復させたからだよ」
「そ〜なんだ〜リキリキ、凄いね〜」
素直な賞賛に少し嬉しくなる
「そんな事まで出来るのか」
「ああ、これくらいなら簡単に出来る」
「これくらいって、普通は他人の体力やら魔力やらなんて回復できないわよ」
「そういう力なんだしょうがないだろ?」
「あんたねぇ・・・」
いつの間にか起き上がっていたフィークスと呆れたように額を押さえる深於さん
他もだいたい似たような反応だ
「なぁ神至、お前まだ帰ってくるつもりないのか?」
みんなが呆れる中、一人違うことを考えていたのだろうディルが言葉をかけてくる
「・・・」
その言葉に少し他のメンバーがピリつく。俺が即答せず、黙ってしまったのもあるのだろうが、まだ終わっていないと再認識したようだ
「どうなのかな?神至くん」
「・・・少し、迷ってるんだ。どうすれば良いか」
皆一様に黙り警戒するような雰囲気になる、がディルだけは違った
「そっか、なら前にした約束覚えてるか?」
「約束?」
何の気なしにかけられた言葉に、少し不思議に思いながら言葉を返す
「そう約束、前に俺たちが神至に一撃入れた時に、何でもひとつ言う事聞くってやつ。覚えてないか?」
ああ、あったなそんな事。すっかり忘れていた
「あの時は那美さんだけだったな」
「そうそれ」
「確かにあったわねそんな事」
「俺たち3人で跡つけてたもんな」
「んー?あの時聞いた話とちょっと違わないかなぁ?」
深於さんとフィークスの発言に那美さんが反応を返すがディルは気に留める事は無く言葉を続ける
「んで、俺からのお願いな。神至、学園戻って来いよ」
「────っ」
思ってもいなかった言葉に、息が詰まる
苦しさからではなく、嬉しさから言葉が上手く出て来なかった
そんな俺の様子を知ってか知らずか続け様に、深於さんとフィークスも声を上げる
「いいわね。それなら私からのお願いはアンタの秘密全部ぶちまける事で」
「俺からはそうだな・・・もっと強くなりたい。神至だって望んでああなる訳じゃないみたいだし、俺たちだけでも止められるように強くしてくれよ」
「・・・いいのか?こんな人とは思えないバケモノなのに」
「いいだろ別に、神至は神至だ。人より変なもん抱えてるだけだろ」
存在を肯定される
「でも俺、あんまり常識ないし」
「アンタの非常識は今更なのよ」
ありのままを受け入れて貰える
「人も殺してる」
「それを言ったら俺も立つ瀬が無くなるんだが」
少なくとも一人。同じ罪を背負う者がいる
「私たちは神至ともっと仲良くなりたいの。だから学園に戻ってきて、お願い」
心からの願い
俺が友を思うように、皆も俺のことを慮ってくれる
「私も皆さんと同じ気持ちです。あなたが何者であれ、私たちのクラスメイトですから」
「リキリキ、帰ろうよ〜みんな待ってるからさ〜」
「俺も今度は一体一で相手して欲しいかな」
「少し前に言った事だが、残った皆から託されている。君を連れて帰ると」
残るクラスメイトからも言葉がかけられ、その優しさと暖かさに感情と共に涙が溢れる
「おあ!?泣くなよ神至」
「───あぁ、悪い。嬉しくて」
「そういう事か、びっくりしたぜ。ならいいか」
「いや、ディルあっさりし過ぎだろ」
沢山のクラスメイトと仲間に囲まれ、こんなに嬉しく思う事は初めてだ
嬉しさに涙して、笑い合うみんなを見て
戻っていいのだと、帰っていいのだと
そう思うと心の底から安心した
「ヒッヒッヒ、力人。アンタいいクラスメイトを持ったねぇ」
「あぁ、ほんとうにそう思うよ」
オルフィリアの言葉、それに対する俺の素直な感想に、少し照れくさそうに笑うみんな
ひとしきり穏やかな時間が流れた後、様子を見ていた黄泉が号令をかける
「さあ、帰るわよ。学園の授業もそろそろ終わる頃だろうし」
『はーい!』
みんなの元気な声を聞き、俺もそれに続き歩き出す
荒んだ心を照らしていた星月夜
それは今は暖かで穏やかな心を照らしている
考えることは沢山あるけど、今はただこの幸せな気持ちを噛み締めるように帰路に着いた
─塔、入口─
大水晶に触れ全員で帰還する
塔の入口である部分から少し離れたところに出た
「帰ってきたな」
出迎えるように腕を組んで立っている人物から安心した様に声が発される
アンリだ、その後ろにはあの場にいなかったクラスメイトが全員揃っていた
こんなところに学生が集団で集まるなどそうそう無いのだろう、厳つい大人共の注目を集めている
「無事に戻ってきたな」
「神至、ゲーセン行かね?気晴らしになるっしょ」
「蜉蝣あんた馬鹿じゃないの?なんでこのタイミングでゲーセンなのよ」
「同意、今はゆっくり休んだ方が良いと思う」
「み、みんな待ってました、よ?」
「なんかウチらより元気そうじゃね?」
少し疲れを感じる皆の表情を見ながら、胸に熱いものが込み上げてくるのを感じる
それを抑えて、声を出す
「待っててくれたのか」
「当然だな、迎えに行かせたんだ必ず帰ってくると思ってたぞ」
「今日がダメだったとしても明日も俺は来るつもりだったぞ」
「クラスみんなで、でしょうが。神至がいなくなってからの、私たちの頑張り見せてあげなきゃいけないもの」
暖かく迎えられたことに、帰ってきたのだと心の底から安心する
「なぁ神至〜聞いてくれよ。今日さ不知火がさあー」
「おまっ、それ言うのか!?」
「いいじゃん話そうぜ、カッコよかったんだから」
寮に戻る途中まで、集団で歩きながら俺がいなかった間の話を聞く
訓練を頑張って完全では無いものの、ほぼ全員がある程度神名の力が解放できるようになった事
今日の授業で不知火くんが教官に真正面から喧嘩売った事
充実した日々を送っていたのかと思えば、俺がいなくて大変だったと嘆くような話を聞けた
アンリは何も言っては来なかったが表情から何となくの気持ちは察した、喜びと同時に少しの不安が見て取れる
明日おそらく俺の抱えた秘密に着いて話をしないといけないのだろう
けど今はクラスのみんなと談笑する時間として配慮してくれているのだと。何となくだがそんな感じがした
明日は少し忙しくなるかなと思いながら寮への道を辿りみんなと分かれた




