授業と合同訓練と一触即発
秘密を開示し、抱えるものを周知してから数日
あの後も何度か個別の話し合いをする場があり、吐き出せるものをそこそこ出し切ったので、もう色々と気にしなくて良いと言う事実に気分が軽くなった
最初に周知した翌日こそ、戸惑いや距離のとり方が分からないと言った意見も出たが。今まで通りで頼むとお願いしてるし、特に気にする必要もないと伝えてもある
そうしていつも通りに授業を受ける日々に戻ったはずの俺は現在
どういう訳か、教室の前方、教卓のある所に立たされていた
「あのー、アルケー教官なぜ俺が前に?」
「その疑問は尤もだろう、君は私よりも魔法に対して理解が深く、適切に扱えている。しかも魔眼で魔力の量や質。色で属性分けもできると聞いた」
「それは確かにそうですけど」
「故に君に教鞭を取ってもらった方が効率が良いと判断した。私としても君の魔術講習は受けてみたくてね」
「そうなんですか?」
「そうだとも、元々魔法は得意じゃなくてね。専攻も魔導銃や戦術機の扱いが主となる。なのでこのクラスの担当は君に任せようと思う」
思い切り職務放棄なんだが・・・
まぁ先月まではなかった大きなクマに、疲れからであろうげっそりとした顔を見るに、相当大変なのだろう
選択科目の軍用魔導技術に一般科目の魔術基礎学
Bクラスの担任もしながら2学年の学年主任だ
1人の人間に対応し切れる量の仕事じゃないのは容易に想像が付く
「座学のテストは君の授業範囲から出題するからそこは安心してくれ。と言っても魔術基礎学のテストは殆ど実技のような物だけどね」
座学のテスト?そんなのあるのか
知らない情報に首を捻りながらとりあえず言われた通り授業を始める
前に何人かには説明した魔法に置ける基礎的な理解方法を全員に教える
口頭での説明より文章や図として見た方がよっぽど記憶に残るだろう
ついでに実技の時に成果の確認もできるしちょうどいいか、と思っているが・・・俺は一応学生なのに、なぜ教官として活動している時間が増えていくのか不思議でならない
唐突に始めさせられた授業で、教本もなしに行っためだろうか。クラスメイトの半分くらいが死に絶えたように机に突っ伏していた
一応正面のモニターには、手元の端末で書いた関係性や理解の仕方など、事細かに書いたモノが映してはあるのだが難しかったか?
「あ、頭が痛い」
「情報量が多い・・・」
「情けないわねあなた達・・・ところで那美、後で教えてくれる?全然わからなかったから」
「あはは・・・深於ちゃんも分からなかったんだね」
魔術や魔法が苦手な生徒が軒並みノックアウトしたようだ。逆に言えば魔術や魔法が得意な生徒は余裕を持って理解出来た様子
「今日の内容で分からないことがあれば聞いてくれ、まだ触りしかやってないから。次回以降はもっと難しくなるぞ」
「「えぇぇぇ〜」」
ディルと迦倉さんが露骨に嫌そうに声を溢す
「理解が深まれば自ずと魔法を使う時の感覚もよく分かるようになるから、頑張ってくれ2人とも」
「うへ〜座学は苦手なんだよ〜」
「神至〜補習してくれ〜わからん」
「もちろんだ、他にも補習が必要なら言ってくれ。俺の寮でまとめて面倒見るよ」
『はーい』
教官達の授業とは違い、ほんわかとした雰囲気のまま魔術基礎学の時間は終わりを迎えた
授業後、アルケー教官に呼び止められ少し話をする
「神至、今後もやってみてくれないか?俺としてもかなり勉強になった」
公私で一人称を使い分けるのか、俺ならどっかで間違いそうだなと思いつつアルケー教官に答える
「構いませんけど、アルケー教官はいいんですか?」
「構わんよ、一クラス分授業内容を考えないでいいから俺としてもかなり助かる。学園長には伝えておくからその分バイト代として貰ってくれ」
「ありがたい話ですけどバイト代は結構です。俺もうかなり稼いでるんで、その分学園の補修とか生徒の環境作りに当ててください」
「ガハハッ!そうか流石EXランクの冒険者は言う事が違うな」
聞いての通りアルケー教官は俺の正体を全て知っている
だから他の教官と違い比較的気兼ねなく話すことが出来た
授業に関しても、負担が増加する原因の一端は俺でもあるから、少し手伝うくらいは問題ないだろう
「そうだ、1つ連絡事項があるのを忘れてた。今日の実技はBクラスとEクラスの合同で行う。みっちり鍛えてやってくれ。それとクラスメイト達に伝えて貰えると助かる」
「ええ、構いませんよ伝えておきます。内容はアンリとアルケー教官と相談する形になると思いますが大丈夫ですか?」
「ああ、構わんぞ。それじゃまた実技の時にな」
公平に冷徹な性格と1ヶ月前は思っていたがそうでもないらしい
思ったより贔屓が強い。強くなるとふんだ生徒や既にそれなりの実力を持つ生徒に対してはかなり優しい
その点に於いてEクラスはかなり気に入られている
鼻高々ではあるが堂々と贔屓するのは教官としてどうなのだろうか
そんな事を考えながら先程聞いた連絡事項をクラスメイトに伝える。それぞれ反応は違うが、概ね肯定的な返事が帰ってきて少し安心した
先月の試験で色々あったから、変に恨んでたりしないだろうかと思っていたけど。試験が終わればそれでいがみ合いも終わりというものなのだろうか
─実技棟─
昼食を終え少しの眠気に誘われながら整列したみんなを見る
もうなんか教官側にいるのが当たり前になってきたな
実技棟で生徒が揃うのを待ちながら、アンリとアルケー教官に挟まれ真ん中にいる、今日は黄泉とゲンコツババアはいない。そもそも毎日いるというわけでもないのだが
「それで?今日何するんだよ」
「アルケー殿からはいつもの訓練に参加させて欲しいという話だ」
「なら全員一緒に神名解放の訓練か?」
「いや今日は違う。まぁお前なら大丈夫だろうし何とかしろ」
「いや説明くらいしろよ・・・」
結局相談もクソも無かったな、と思いながらあくびをしていると全員揃ったようでアンリが号令をかける
「これよりEクラス及びBクラスの合同実技を行う。先月の試験でのいがみ合いは今日は忘れろ、共に訓練する仲間として協力する事。いいな!」
『はい!』
元気な声に耳を打たれながら身体を解す
「今日は全員で模擬戦をやってもらう」
「クラス対抗か?」
「いや、違うぞこの場にいる生徒全員で我々3人と同時に模擬戦を行う」
「模擬ってレベルじゃねぇだろ・・・」
俺のつぶやきに同意するようにEクラスの面々は頷く
Bクラスは少し怯えているようにも見える
「ルールはシンプルだ、お前たち全員で我々を倒して見せろ。制限時間は5限の終わりまでだ出来れば6限は自由時間として、好きに使って構わない」
「おお!やるぞ!」
「いや、無理でしょ神至いるのよ」
アンリの話に即座に反応するディルだが深於さんからすぐにツッコミが入る
「当然我々が本気でやればお前たちは手も足も出ない。そこで、3人全員に一撃でも入れられたらその時点で我々の負けとする。これならギリギリ何とかなるだろう?」
Eクラスはその言葉にやる気を漲らせているが、やはりBクラスはイマイチ乗り気では無さそうだった
何かあるんだろうな、だからこそアルケー教官がわざわざ俺たちに合同訓練を申し出てきたのだろう
アンリの説明を聞きながら思考していると最後にとんでもない事をぶっ込んできた
「我々に一撃を与えられた者はその功績を讃えて、その一撃を受けた教官が何でも1つ願いを叶えてやろう」
「はっ!?」
「面白い」
何でアルケー教官は乗り気なんだよ、と思いながらみんなの方を向きちょっと後悔した
全員の、特にEクラスの目が俺に向けられ、獲物を見定めた獣の様に静かにギラついていた
「嘘だろぉ」
「マジだ。その代わり我々も一切の手加減はしない。そのつもりで挑め、以上!」
アンリの説明が終わり1拍の沈黙後
正面から音の壁でも向かってきたのかと思うほどの圧を感じる
「おっしゃァやるぞぉ!」
「お願いは私のものよ!」
「コレはチャンス!」
「素晴らしい!では全力で行かせて貰うとしよう!」
「ヒャッハー!神至倒してお菓子食べ放題にしてやるぜ!」
「が、ががんばります!」
「良いわぁ!私の業火で焼き払ってあげる!」
「プゴォ!やるプゴ!」
まぁ聞き取れた範囲だけでコレだ。何やらされんだ全く、恐ろしいなオイ
歓声にも等しい大声で騒ぐEクラスに、Bクラスの面々も当てられたのか、次第に小さくガッツポーズをしてみたり、拳を上げて喜んでみたりと、うちのクラスと比べれば大人しいものだがそれぞれにやる気が見て取れる
「ちなみにお前たちが負けた場合は訓練の内容を3倍キツくする。覚悟しておけ」
盛り上がりに水を差す様な言葉を投げながらニヤリと笑うアンリ。いや、ホント性格悪いなぁコイツ
だが当の本人達には聞こえていないのだろう、盛り上がったまま俺たち教官グループと距離を取りながら作戦会議を始めていた
それとは別にこちらに向かう人影もあった
Bクラスの女性2人が俺の方に近づいて来ていた
「あの、神至さん試験の時はごめんなさい。それからありがとうございました」
俺の前まで来て深々と頭を下げながら謝罪と感謝の言葉を述べるのはユグシルさんだ
そんな彼女の少し後ろに隠れる様にしながら隣にいるのは猫耳の子。確か迦倉さんに撃ち抜かれた子だ
「ん?何かあったかな?あったとしても俺が勝手にやった事だし気にしなくていいと思うぞ。あと同級生なんだから敬語もいらない」
「───っ!はい!ありがとう」
とぼけたフリで言葉を返すと、満面の笑みでお礼を言って、先に行ったクラスメイト達を追いかけていく
前に見た時のみすぼらしさやげっそりとした感じは無く、明るく元気になったように思えた
「満足か?」
「何がだよ」
「お前の望んだ通り、誰かを助けられたじゃないか」
「ああ、そういう事か・・・うん、悪くない気分だ」
俺はなりたい俺に既に近づいていたんだな
帰ってこなければこの事に気付くことも出来なかったのか、本当にクラスの皆には感謝しないとだな
「俺としては仕事増やされて困ったもんだったが、生徒があんなにも明るく変わったんだ感謝する神至」
「そこはほら、ジジイが全部悪いんで、あいつシバけばいいと思いますよ」
無茶言うなと、ガハハと笑い武器を構えるアルケー教官。談笑の時間は終わりってことか
持っているのは軍用の魔導銃を改造した物、正式な形状を知らないがアサルトライフル型で何となく殺傷能力の高さは伺える
俺も新しく支給された木剣を取り出し肩に乗せ余裕を見せる姿で立つ。アンリも珍しく自分の得物を取り出し地面に突き立てながら生徒の様子を見ていた
漆の様な黒、取り込んだ闇そのまま色にしたような、輝きを呑み込む色をしたレイピア
それはアンリの神名を如実に表しているようにも見える
本当にガチでやるつもりなんだなぁと思っているとアンリが号令をかける
「さて、始めるぞお前ら!準備はいいか!」
『はい!』
返事を聞き満足そうに笑みを浮かべたあと、一瞬で感情を排斥したように表情が凍りつき真顔で叫ぶ
「はじめ!」
その号令と同時に近接組が一斉に駆け出し、こちらに向かってくる
「わぁ・・・えぐいなぁ」
「やる気に満ちてて結構な事じゃないか」
「普段の訓練でもこれくらいやる気に満ちてれば尚いいんだがな」
飛び出して来ている前衛にドン引きする俺とは対照に嬉しそうにする2人。表情くらい喜んでもいい様な気がするけど2人とも口とは違い真顔のままだ
こっちはこっちで怖えよ
2人の様子に怯えながら、指先をこちらに向かう軍団に向けひょいと軽く振り下ろす
『タクト』
全員を地面に縛り付けるように、軍団がいる周辺だけに重力魔法をかける
これで動けないだろ、と軽く見ていたが
「おい、抜けられてるぞ」
「あーホントだ、凄いなあれ対処出来るようになったんだ」
視線の先にいる、地面に這い蹲る集団
その中で数人だけ立ち上がり耐えている者がいた
クルトは耐えられるのは当たり前として他のメンツは凄いと言わざるを得ない
立っているのは第一グループのメンバーと迦倉さんと宮本くんだ
散々食らってきた第一グループメンツはともかく2人は1度しか受けてないのによく耐えたな
ほんの1.5倍程度の荷重しかかけていないとはいえ、体の感覚がおかしくなるのだ、立てているだけ充分凄い
「さて、神至に任せっぱなしでは教官の名が廃る。私とアルケー殿で前衛は行うお前は後衛で援護だ」
「ういよー、2人が近づいた時点でアレ解除するからそのつもりで」
「了解」
「元軍人の力見せてやろう」
そう答えると2人はゆっくりと威圧するように歩いていく
地面に縛られた集団もまずいと思ったのだろう慌てて立ち上がる
うん、1.5くらいじゃ縛り付けるには足りないよな。知ってた
まだそれほど距離が縮まっていないのにも関わらず、立ち上がり始めてるのを見たアンリが、こちらに視線を向けて来たため俺は首を振って応える
ものすごく悪い笑顔を見せたと思ったら、そのままアルケー教官と何かを話した後、駆け出した
・・・何も見なかったことにしよう
2人が走り、ある程度距離が近づいた所でタクトを解除する
慣れない重力変化に体がついていかなかったのだろう何人か転ぶ、耐えた者もいたが直後に赤い影を残しながら走るアンリに狩られ、やはりその殆どが転ばされていく
初めから耐えていたEクラスのメンツはアルケー教官にゴム弾でも撃ち込まれいるのだろう、頭が後ろに引っ張られたようにカクンと空を見上げたと思えばその場に全員崩れ落ちていく
その後はまぁ・・・言うまでもなく
2人が圧倒的な実力で生徒を蹂躙し尽くした
アンリは最初から最後まで全ての生徒を転ばせ続けまともに立ち上がらせる事は無かったし、仮に立ち上がったとしても、速攻で手刀を脳天に叩き込むという鬼の様な立ち回りで生徒を制圧していた。可哀想な事にフィークスとクルトがめっぽうその被害にあっていた
アルケー教官は遠距離主体の生徒の額をひたすら撃ち抜いて気絶させるわ、転んだ生徒の額にも撃ち込んで確実に気絶させるという、こちらもまた鬼としか思えない事をしていた
アンリはともかくアルケー教官も死体撃ちにあまりにも容赦が無かったから特殊部隊上がりなんだろうけど、如何せん絵面が酷すぎて完全に虐殺にしか見えなかった
俺は・・・初手の拘束以外、見てるだけだったなぁ
そんな死屍累々の惨状を背にとてもスッキリとした顔で戻ってくる2人
「エグイな2人とも」
「そうでもない、途中から加減はしてやったぞ」
「そうだとも、我々2人が最初から本当に全力でやっていたら動く間も与えずに死体の山が積み上がるだろうさ」
「笑えねぇ・・・」
あっけらかんとしながら話す2人に、再度ドン引きしながら、入れ替わるように気絶した生徒の元へ向かう
辿り着くのと同時に両手を広げ治癒魔法をかける
「治癒魔法、範囲展開」
外傷はほぼ無いのですぐに目覚めるだろう
始まってからたったの十分程度でこの有様だ、これは残りの時間が怖いぞぉ
全員の治癒が完了して少し経つと、魘されたように声を上げなら全員が目覚める
各々、ゾンビみたいに呻き声をあげたり、悪夢から目覚めるかの様に叫びながら飛び起きたり、素早く飛び起きたと思ったら武器を構える様な格好で、周囲を警戒し始める者もいた
そんな様子を見てアンリが、これまた意地の悪い笑顔で声を張る
「喜べ!お前ら全員、訓練3倍だ。励めよ」
『理不尽!!』
両クラスとも全員が抗議の声を上げる
そう言いたくなるのも分からないでもない、この2人教官の中でもかなり強い方だし。そんな人間が本気で潰しにかかってくるのだ
そりゃあ文句のひとつも言いたくもなる
「ならもう一度やるか?」
「それはいい、次も同様の条件で行こう、勝てば何でも言う事を聞く負ければ、そうだな訓練内容を6倍にしよう」
2人揃ってニヤニヤと悪い顔をしてる
うーん、俺もう見てるだけにしよう。ここに俺が加わると本当に可哀想なことになりかねない
「やってやりますよ!」
「当然です!」
一方的に蹂躙されたばかりだと言うのに、あちらこちらからやる気を絞り出す様に次々と声が上がる
凄いなぁ、また目がギラつき始めた
数分後全然の準備が整い、再度同じような勝負が始まり蹂躙される。今度は完全に見ているだけとなったが
結果はさして変わりなかった
そんな事を数回続けるうちに5限の終わりを告げる鐘が響く
「よし、とりあえずこのくらいにしておくか」
「これで訓練内容48倍かさてどうした物か」
「神至、お前は全員の様子見と治療しておけ、次の内容は私たちで話して決めておく」
「りょーかい」
返事をしながら5度目になった死屍累々の生徒たち全員に治癒魔法をかける
これだけ続けて尚同じように起き上がるんだから、余程俺たちにお願いしたいことがあるのだろう
「みんなとりあえず休憩だ、6限は訓練内容めちゃくちゃキツくなるだろうからしっかり休んでおけよ」
起き上がった全員に届くように声を張り、いつものメンツの所へ向かう
「神至、勝てないんだけど」
「集団で突撃してるのに、毎回同じ負け方をするのは納得いかないプゴ。あとアンリ教官は酷すぎるプゴ」
「あの教官達強すぎないしら」
「もう少し加減して欲しいかなぁ」
とまぁ着いた途端に2人の愚痴を聞かされる
「全員が同じように突撃するだけなら、まぁ結果は変わらないだろうな。何人か行動パターンを変えてたみたいだけどそれでも届かないのは経験の差だろうな」
「頼む神至、倒し方教えてくれぇ!」
「遠距離は魔法の速攻を仕掛ければいいし、そうでなくとも銃を持ってる子もいる足止めしてもらいながら前衛の進路を作れば一撃くらい入れられんじゃないか?」
「それが出来たら苦労はしないのよ」
「そうだね、アルケー教官が遠距離攻撃を使う子全員先に仕留めちゃうから援護できないんだよね」
反省会と意見交換をする最中、Bクラスとはまた別の集団がやって来て、随分と聞き覚えのある男の声が響いた
「やあやあ!虫ケラ同士仲良く訓練ごっこかい?」
また来たのか・・・よく飽きないなぁ
声の主の方へ振り返ると、そこにはSクラス全員が集まっていた。担任である天言教官も一緒だ、何事なのかとEクラスの面々もこちらに集まってくる
その様子を遠目から確認したであろうアンリも、こちらに少し遅れて到着する
「これはこれは、何事ですかな?天言教官」
「どうもアンリ教官、見ての通り挨拶に来たんですよ」
ニヤニヤと笑いながらアンリの問に答える天言教官
その後ろでSクラスの生徒達も、こちらを品定めでもするかのように見てくる
「挨拶?私には喧嘩を売りに来たように見えますが?」
「喧嘩だなんて、そんな野蛮な事、我々優秀なSクラスがする訳ないじゃないですか」
「では何のために?」
「決まっています、今月末の試験の挨拶ですよ。ちょうど2週間後ですし。敵情視察と言ってもいいかもしれませんね」
「そうですか、暇なんですね」
口調はお互い穏やかにも関わらず、その視線は今にも火花が飛び散りそうなほど剣呑な物だ
巻き込まれたくないので視線をクラスメイト達に向けると、こちらはこちらで既に火花を散らしながらののしりあっている
「わざわざ僕たちSクラスが出向いてやったんだ、感謝して欲しいくらいだね」
「求めないし、そもそもそっちが勝手に来たんだろ、何様のつもりだ」
「黙れよ獣風情が、毎度毎度噛み付いて来やがって、お前は俺らが勝った後必ず後悔させてやるからな」
「噛み付いてきてるのはそっちプゴ」
「おっと豚の癖に言うねぇ、その身体は己が怠惰によるものなんじゃない?もっと俺たちを見習いたまえよ」
「あら?慎ましいのは体だけじゃない、性格は肥大化し過ぎて目も当てられないのに」
「あんたが言うことじゃないわ、性格がゴリラだと戦闘スタイルまでゴリラになって嫌ね」
「あらあら?何か言った?体と胸だけじゃなくて、声まで小さいなんてSクラス失格じゃないかしら」
「なんですって!?」
とまぁ見るに堪えない言い争いがあちこちで起こっている。まぁ掴み掛ったり、言葉より先に殴り合いをしないだけ、冒険者連中よりはいくらかマシだなぁと遠くを見るように無関心を貫いていると両サイドから飛び火した
「「神至!何とか言ってやれ!」」
アンリとディルの声
ディルはまだ分かる、けどアンリお前は自分で何とかしろよと思った
仕方ないと頭をボリボリと掻きながら両者の中心に立つ
そうだな、当たり障りない感じで、両者の間を取り持つような発言がいいか
「あー、えーっと、挨拶?だったか、要らねぇよそんなもん、先月の試験で総合成績で負けたお前らなんて眼中に無い。俺らは逃げも隠れもしねぇから真正面からやってやるよ。うちのクラスはオタクらと違って色んな意味で強いんでな。かかって来いよSクラス」
俺の発言にEクラスは沸き立ち、Sクラスは逆に怒りを全面に罵詈雑言を浴びせてくる
しまったつい、煽ってしまった
荒れる両クラスの中、陽門が前に出てくる
余裕たっぷりの表情でこちらを煽るように言葉を投げつけて来る
「精神状態が不安定なザコに言われたくないね」
「お生憎様、大変仲間思いのクラスメイトたちのお陰でかなり安定してな、そもそも俺に直接戦闘で負けたザコ相手に言われる筋合いはないな」
「アレは!───」
「インチキだとか、本気じゃなかった。なんて言わないよな?ダサいぞソレは、負けは負け、勝ちは勝ちだ。正面切って戦って舐めプで負けましたなんて末代までの恥だぞ───って悪い、婚約者を自ら捨てたんだからお前が末代か」
「貴様ァァァァ!」
「そこまでにしておけ」
殴りかかろうとして来た陽門の前に土門が立ち塞がる
相変わらず短気だなぁ、口でも俺に勝てない事くらいそろそろ学べよ
「どけ夜波!コイツは!コイツを殴らないと俺の気が収まらない!」
「挨拶は終わりだ、口の悪さでは我々の負けだ」
そいつは心外だ、まだ本気で罵ってる訳じゃない
煽りに対して言い返しただけじゃないか
「ただの挨拶だったんだがな。煽り合いがお望みならもっと口汚く話せるぜ。俺の育ての親は口の悪い冒険者でね、この程度こいつ相手ならちょうどいい挨拶だろ。それとも続きは君がするか?」
「お断りしよう」
「そいつぁ残念、でも君とは普通の会話の方が弾みそうだ」
「俺としても君とは1度、普通に話をしてみたいところだが今日のところは遠慮しておこう」
「分かった、機会があればその時は」
「ああ」
最後にそれだけ言うと暴れる陽門を担ぎあげSクラスの集団の中に戻っていく
「離せ!オイ、聞いてるのか!?クソっ次は必ず勝つ俺をコケにした事後悔させてやるからな!」
はいはい、せめて一人称くらい固定できるくらい余裕もってからそういう事を言おうね〜なんて思いながら2人を見送った
2人が完全に見えなくなってから天言教官から声がかかる
「満足ですか?私のクラスの優秀な生徒をコケにして」
「優秀・・・優秀?あの程度の挨拶もロクに受け流せず、癇癪起こして殴りかかろうとするやつが優秀?眼科行った方がいいのでは?」
「───っ!口の利き方に気を付けなさい!浮浪児風情が!」
「またそういう、人を見下す言い方を・・・アンタ確か雷にも同じような事言ったんだってな?」
「それが何か事実でしょう?」
「ただの確認ですよ。それにしても・・・そうか、ちなみにエキシビション、俺も参加しても?」
「っ!・・・え、ええ、いいでしょう。たかが生徒ごとき1人増えた所でなんの問題もありません」
「そうですか、どんな準備をしていただいても構いません。逃げずに戦ってくれればそれで結構です。ただ───」
「私も逃げも隠れもしません。それと、ただなんです?」
「俺の大事な友人達を馬鹿にしたんだ、楽に負けられると思うなよ」
思い切り睨みつけるように天言教官を見つめる
「ヒッ、あ、あなたこそ、私を敵に回した事後悔なさい!」
吐き捨てるように言った後、Sクラスを率いて立ち去る天言教官
これは言葉にはしないが、俺は大事にした物、大切に思うものを傷つけられるのが心の底から嫌いなんだ。だから少し柔らかい言葉で言い換えたが、本当なら楽に死ねると思うなよと言いたかった
けど、ここは学園だ。そうポンポンと人死が起きてはたまったもんじゃないだろう
やってもせいぜい重力魔法で内臓ぐちゃぐちゃにする程度で留めとくかな
Sクラスの立ち去る方を見つめたまま立っていると、1人振り返る人影が目に付いた
白く、長い、見覚えのある髪を揺らしながら、黄色い瞳が視線を俺に向ける
何を考えているかまでは流石に分からなかったけど、少し嬉しそうな顔で、呟くように動く口元はハッキリ見えた
『やるじゃない』
そう言われている様な気がした
それだけ呟くと振り返って彼女はまた前を向いて歩き始めた
彼女の俺に対する評価がよく分からん、嫌われてんだか、好まれてんだか。まぁ少なくとも先程のやり取りは彼女好みであったのだろう
そんな事を考えていると後ろから少し重めの衝撃が走る。人の体がのしかかるようなそんな感覚
───って、待て、重い!しかも多い!
「やるじゃねぇか流石、神至!」
「プゴォ、口の悪さもこういう時は役に立つプゴね」
「小っ恥ずかしいこといいやがって、このこの〜」
「中々いい啖呵だったのではないかね」
「見直したぜ神至、ちょっと恥ずかしかったけどな」
「分かった分かったから、というか貶してんのか褒めてんのかどっちだよ。あと重い!フィークス重い!」
「名指しプゴ!?」
男子連中がのしかかって来て重い、けどこれはこれでなんか楽しいから良いかと1人納得する
解放されたあと少し照れたような女子メンツ達からも感謝されたり、発言の事を問われたり、口の悪さを指摘されたりとまぁ、色々言われた
俺は何かおかしな事でも口走ったのか?と思いながらも、そんな楽しい時間はあっという間終わりを告げ
その後すぐにみんなにとっては、過去一苦しい地獄の様な訓練となった
まぁ喧嘩売られて何もしないアンリじゃないから、ああなったのも頷けるが、流石に100倍圧縮訓練は酷すぎたのではなかろうか




