↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/38

閉ざした心と衝突と闇


塔に潜ってから10日経った


長い、長い時間だった


瞳を閉じて、眠りに着けばあの日の光景が俺を襲う


それは今も変わらない


数時間も眠れないで目を覚まし。その不機嫌を晴らすように、嫌な物から目を逸らす様に


魔物を見つけては狩り、斬り付け、殺した

途中戦闘している冒険者に割って入ったりなどかなりの乱暴な事もしている


1人になるためにと言い訳をして

周りの不興を買いながら、そうこうしている内に気が付けばこんな所まで来てしまっていた


「何、やってんだろうな俺」


思い出した記憶を整理して


吹き出す感情を整理して


荒んだ心を落ち着けた


瞳を閉じればそこにはやはり、アイツが


アニが映る


見覚えのない口の動き


今はそれがなんと言っているのかはっきりと聞き取れる


嘲笑う様な顔で、塔入る時のいつもの装いで


口角を吊り上げながらこう言うのだ




「人殺し」と




俺の心を突き刺すようなその言葉は


ただ俺をを罰する為にあるとそんな気がしている




あの日以降体を痛めつける様に塔の魔物を狩り尽くし


50階層まで到達し


フロアボスを鏖殺した所で漸く落ち着いたこの心は


ただ空っぽな器のように何も無い


心を喪ったかの様に、ただ虚無感に浸り


月明かりの照らすこのエリアの真ん中でただ一人座り込んでいる


どれくらいそうしていたのだろうか

数分だったような気もするし、何時間も経ったような気もする


エリアボスが再出現していないと言うことはまだそれほど時間は経っていないのだろう


外の時間でおよそ1時間程でボスは復活する


と言うのも塔の中は外とは違う時間が流れているのだ


階層が深くなるほど時間のズレが大きくなる

どの塔であってもそれは変わらない


時計つけて来れば良かったな、と無いものを願うくらいには正常に思考が出来るようになってきていた


それと同時に逃げるように置いてきてしまったクラスメイト達に想いを馳せる


悪い事をしてしまった


その自覚はある


闇に呑まれたあの時間は、意識こそ無かったが記憶はしている


それは俺の中に残った他の人や生き物たちの怨念が、俺がやった事を忘れさせまいとする憎悪によるものだろう


学園は、クラスのみんなは今頃どうしているだろうか

もう俺の事など忘れて、いつも通りの日常を過ごして居てくれるだろうか


こんな、自分の感情1つすらロクに制御出来ない化け物など、いない方が心地よく過ごせているのではないだろうか


どれだけ時間に差異が出ているのか分からないが、外の時間でも4、5日は経っているだろう


考えながら顔を覆う仮面になぞる様に触れる


懐かしい仮面と身を覆う黒い鎧

どれも冒険者として活動していた時に使っていた物


仮面はアニから初めて貰った贈り物だ

当時は何の気なしに喜んでいた事をはっきりと覚えている


今思えばデザインも悪く、不気味な仮面であるのだが大切に思っていた相手からの贈り物


喜ぶ理由なんてただそれだけで良かったのだ


当人がどんな気持ちで贈ったかなんて知りもせずに


空間魔法で常に取り出せるようにしていたが、アニを殺した時から身につける事はなかった


理由はアニを手にかけた時に着けていたものだから


それを今身につけているのは、やはり己を罰する為だ


これらを身に付けている間はあの時に戻った様な気がして、それが自分への罰なのだと


そんな自己満足に浸っている


自己満足と言えば、考える時間が欲しいと言った


けれどそれはこの気持ちを落ち着かせる為だ


こんな風に暴れ回るためでは無かったはずだ


あの時の事、まだちゃんと謝れていない


でも俺はもう学園に戻る事は叶わないだろう


暴走してしまった


危うくクラスメイト達を手に掛けるところだった


アニの事よりも、その事がずっと深く俺の心に突き刺さる


たった1ヶ月ちょっとしか過ごしていないのに、俺にとっては、かけがえのないものになっていた事に今になって漸く気がつく


初めて出来た友人達、仲間や国のみんなとは違う関係性


くだらない話をして、みんなで笑い合い


偶に俺の非常識をみんながツッコんでくれる


そんな平和な日々に俺は心の底から幸せな時間だったと思っていた


そんな大切な時間を自分でぶち壊したのだ


だから、当然戻れるとは思っていないし。戻ろうとも思わない


このまま、学園も国も何もかも投げ捨てて


1人塔の中でゆっくりと消えるように死んでいくのがお似合いだと、そんな自嘲めいた考えが頭を埋めつくしている


せめて、最後に謝る位はしないとだよな


自分の中で考えがまとまり、答えを出した

ならあとは動くだけだ


・・・でもどうしても体が動かない


身を裂くような痛みが心に走る


本当は嫌だ、そんな事分かっている


でも俺は人殺しだ


分かっている!


あの発作は自らの手で、大切な女性を手にかけたから起こるようになったもの


不意に触れる事が、近づく女性が怖くなった


それは、また俺が力をコントロール出来ずに殺してしまうことを恐れたからだ


悪いのは俺だ


例えそれが事故であったとしても、アニを殺した事は俺の罪である事に何ら変わりはない


だから俺は1人にならなければ行けない


そんな事分かっているのに───





───どうしても体は動かなかった


視界はぼやけ、仮面の下が濡れていく





月が照らす闇夜の中で、男は1人泣いている

それは自らの罪を苛んでのもの

それから心温まるあの環境へ望郷の念


2つの涙は冷たく、けれど温かいもので、閉ざした心に差す一筋の光の様にも思えた




ひとしきり泣いたあと覚悟を決める


俺は1人になろう


そう決めて立ち上がる


俺の存在そのものが異物で迷惑になる

それは俺が1番よく分かっている


だから独りになると、心に固く決め、仮面の下にその心ごと固く閉じる


もう少しすればエリアボスが再出現する頃だろう


その前にこの場を離れなければ、今の俺では戦うことを放棄して死ぬ事しか出来ない気がする


最も死んだ程度でこの体が死ぬことを許してくれるとは思わないが


自らに重力魔法でもかけたかのように

重く、沈み込むような一歩で大水晶に向かう

あそこまで行けば門の前に転移できる


1ヶ月と少しの思い出を振り返りながら着実に足を進めていく


別れを告げるように一つ一つ、丁寧に思い出しながら


「「─────!!」」


ふとこちらを呼ぶような声が聞こえた気がした


そんなはずはない


ただ疲れているだけ、だからクラスメイトの声なんて───


「神至!!」

「神至くん!!待って!」


はっきりと聞こえた、ディルと那美さんの声に思わず歩みを止め、振り返りそうになる


走る足音に混じって2人の声が近づいてくる


いやそれだけじゃない


2人の後ろには他のクラスメイト達がいるのだろうか、後を追うように複数の足音が聞こえる


固めた覚悟が揺らぎそうで、みんなに背を向けたまま少し俯く


また少し涙が溢れてしまう


ダメだ、ダメだ!


そう何度も頭の中で叫んだ

みんなの顔を見たらあの教室に、帰りたくなってしまう




だから



背を向けたまま、俺は逃げた


大水晶まで行けば俺の逃げ切り───


そう思うよりも速く


一発の銃声の後に俺の肩をライフルの実(・)弾(・)が掠めた


「!?」


流石に驚き、これには振り返ってしまう


視線の先、弾丸が飛んできた方向に目を向ける


見えてしまった、俺を見るみんなの顔が

少し怒ったような、心配するような顔が


そして何より安心した様な、那美さんの顔がはっきりと見える


「───っあ、なんで・・・」


声と共に少しの安心感が心に灯る


そのせいで立ち止まったまま少し硬直するが。すぐに首を振り切り替えようと、銃声の主を探す


見つけるのに時間はかからず、向かってくるみんなの1番後ろ


そこにはドS感満載の、とてもイイ笑顔をした迦倉さんが、スナイパーライフルを構えて銃口をこちらに向けていた


「・・・嘘だろ」


先程の一瞬の安心感など消え失せる程に、心を撫でるように少し冷たい風が吹く


背を向けて逃げれば確実に撃ち抜かれると判断し、咄嗟に愛刀を空間魔法から取り出す


その間にも銃弾は何発も飛んでくる


「──っ!!」


危ねぇ!


一発頬を掠めて行った、あと少しズレてたら頭ぶち抜かれてたぞおい!


疲れきった体と心で銃弾を捌いていく


そうしているうちに、みるみるとみんなが距離を詰めてきている


俺に届くまであと数メートルと言う距離でディルが叫ぶ


「フィークス!頼む!」

「任された」


慣れ親しんだ語尾はなく

その恰幅のよい身体も見当たらず

目の前を覆うように拡がったのは血の色とも取れる真紅の炎


大きく広がり俺の視界を奪ったかと思えば

横薙ぎに野太刀が振るわれその姿を現す


「あぁ、やっぱフィークスだったのかお前」

「気づいてたのか」

「まぁ、何となく」


目の前に現れたのはクリムゾン・カーペットを名乗る赤い衣に身を包む大柄な男


以前は隠していて見えなかったその顔も、今ははっきりと見えている


普段の顔の半分位の面積しかない顔

見慣れない顔立ちで、若いのに少し老け顔なのだろうかイケメンと言うよりはハンサムよりの顔


一言だけ言葉を交わしたフィークスはそのまま炎を薙いだ野太刀を俺に向け全力で振るう


重い体をしならせてその一撃を避ける


「随分な挨拶だな」

「そりゃどうも、みんな聞きたいことが山ほどあってね。俺は先鋒なんだ」


立て続けに振るわれる野太刀を避け、刀でいなし、捌く、なるべく傷つけないようにと無意識に攻撃はしなかった


一合二合と、打ち合えばその太刀筋が己の物と同じである事に気付くのは容易だった


「へぇ、フィークス同じ剣使うんだ」

「あぁ、そうみたいだ。俺も驚いたよ」


お互いの刀で打ち合いながら話をする

こうでもしないと俺が逃げると分かっているのだろう


にしても、強いな

ゼロから教わっている俺よりも刀の冴えもその練度も遥かに上にいるのだと分かる


只者じゃないとは分かってたけど。ちとコレは不味いか?


刀を握る手に少し力が籠る


本気でやらないとこちらが殺られる。そう思わせる程に今のフィークスは強い覇気を纏っている


フィークスと戦闘を始めてから銃撃は止んだ

誤射しないための配慮だろうか


あの状態の迦倉さんを抑えられると言うことは月夜野さんが上手く立ち回ってるとか、そんなところか?


チラリと迦倉さんがいたところに目線を向けると、それにすぐ気づいたのだろう野太刀が襲ってくる


普段はしないようなミスもあり少し押される


「よそ見とは余裕だな、力の理を持つ者よ!」

「あぁそれ知ってるんだ。で?それが何か?」


冷静を装い冷めた声を出すように努める


フィークスの口から理の力が出てくる事に驚きはない

元々知ってたみたいだし


ただ俺が力の理を持っていると言うのはいつ知ったんだろう。結界の中か?


見た記憶はあっても聞いた記憶はないから・・・集まって話してた時か、やってくれたな那美さん


秘密を暴露された事に少し気分が悪くなるが、致し方ない。状況説明の為に必要だったんだろう


フィークスが叫ぶように口にした事であの時、結界の中にいなかった面々にも聞こえたのだろう、驚いている雰囲気を感じる


「聞きたいことはたくさんある。けど俺が今、お前に問わなければいけないのは一つだけだ。お前が『力こそ正義《パワー・イズ・ジャスティス》』を率いる者なのか!?」


並々ならぬ怒りを湛えたその声に俺は───




「いや違うけど。そもそも知らんから、そんなダサい名前の組織」


いつもの会話の様になんて事ない声で言葉を返す

それに対してフィークスは


「プゴォッ!?」


素が出たと言えばいいのだろうか、驚き随分と情けない声でいつもの語尾が出た


せっかく顔はいいのにそれじゃあ台無しだろうと思うが、呆けた顔をしたままその場で固まったフィークスの腹に固く握りしめた拳を本気で叩き込む


「ゴホッ!・・・嘘じゃ無いんだな?」

「ああ、それは保証する。力の理を騙っている組織に着いて俺は何も知らない、関与もしてない満足か?」


「そうか、関係ないならい────」


最後まで言い切ることなく、地面に倒れ付すフィークス


鳩尾を的確に叩いたからしばらくは動けないだろう


不意を打つような事、友人を殴った罪悪感に心がまた少し沈んでいく


フィークスを沈めたあと周りを見渡すと、既に囲まれていた


「何の用だ?」

「そりゃねぇぜ神至。俺たちはお前を連れ戻しに来たんだよ」


やめろ


「何故?」

「アンタが、私たちのクラスメイトだからでしょうが」


やめてくれ


「あれだけの事をして戻れると思っているのか?」

「神至さんはなにもしていません、ただ力が溢れただけ、そうですよね?」


そんな分かったように言わないでくれ


「そうだな、その通りだほんの少し力が溢れただけでも十分に人を殺せる」

「あら?それを言うなら私の武器も十分に人を殺せると思わない?」


俺の力と道具はどうしたって違うんだ


「武器は使い用だ生かしも殺しも出来る」

「それは君の力にも言えることじゃないかな神至くん」


頼むからやめてくれ


「残念ながら完全に制御できていればあんな事にはならない。俺は衝撃一つで爆発するような爆弾だぞ」

「君が爆弾なら私はなんだと言うのかね」


お前まで俺を引き止めるのか


「そういえばお前も爆弾だったな、今死ぬか?」

「おや、これは手厳しい」

「ガキみたいなこと言ってんじゃないわよ力人」

「俺は普通にガキだと思うが?」


そうだとも俺はガキさ、感情一つもロクに制御出来ない未熟者だ


「クソガキ、あんたのその心を閉ざした態度が幼稚だって言いたいのさね。分かってるんだろう?」

「・・・・・」


そうさ言われなくても分かってる


「神至くん!私たちはあなたと一緒にいたいの!」


それは───いやダメだ。俺が、俺を許せていないそんなのダメだ


「っ────いや、無理だな。またいつ発作を起こしてもおかしくないし、次はあれの比にならないかもしれない。そうなれば今度はお前らどころか、学園ごと消滅するだけだ」


「そんな事───」


那美さんの言葉を遮る様に重力魔法を展開する


範囲は10メートル


誰も近づかせはしない


誰も動かしはしないと


そう思いながらみんなの体を包むように重力をかけていく


1人、また1人と重さに耐えられなくなった者から地面に這いつくばって行く


だが


「やっぱ耐えるよなお前ら3人は」


「当然よ」

「何度食らったと思っている」

「年季の違いさね、観念しな」


黄泉、クルト、オルフィリア

目の前の3人だけが俺の魔法に抗い、立ち続けている


「この際だ訣別として、最後に相手してやる」


それを合図に3人同時に口を開く


「「「『神名解放(コード・オン)』」」」


「『黄泉神(ヨモツカミ)』」

「『クトゥルフ』」

「『オルトロス』」


「随分と本気だな」

「そりゃそうさね、アンタ相手に手を抜けるほど私らは付き合い浅くないからね」

「そういう事よ、大人しく捕まりなさい」

「断る」

「では、力ずくで行かせてもらうとしよう」


クルトの言葉に刀を構え直す

どうあっても俺を止めたいらしい


揺らぎつつある心を鎮め、今はただ俺を止めようとする敵を見定め、感情を切り捨てる


先に動いたのはオルフィリアだ


いつもの様に拳に直接魔力を纏わせる、だが犬のように変質したそれは、こちらを食い殺さんと鋭く牙を剥いている


真っ直ぐな踏み込みから一瞬、姿がブレた様に見えると瞬きする間もなく力人の背後に回る


・・・相変わらず早いな


特に驚いた様子もなく、オルフィリアが移動した事を感じ取り、攻撃されるよりも早く、自らに重力魔法をかけ空に落ちる


空に落ちれば、重力魔法で身体を縛られている周りの人間は普通追いつけないのだが───


「そう易々と逃がすと思うかね?」

「いや、思ってねぇよ」


重力魔法を無効化するのはそんなに難しいことじゃない。かけられた魔法よりも強く自分に重力魔法を反対にかけるだけ


だからクルトが追ってくる事に何ら不思議には思わない


俺の思う通りに重力を反転させているのだろう、俺と同じか少し早く空に向かって落ちている


そしてその状態から権能を用いて容赦なく攻撃してくる


腕を伸ばし、さらにそこから蛸脚のように吸盤のついた触手を伸ばしてくる


その全てを切り落とし細切れにする


「フム、油断も隙もないとは中々辛いな」

「諦めたらどうだ?」

「笑止」


漂うように落ちる中、クルトが急に落下方向を変えこちらに向かってくる


「クラスのみなに頼まれているのだよ、必ずキミを連れて帰るようにとね」

「なんでだ?」


少し心が揺らぐ


組み付く様にさらに触手を伸ばしてくるが、先程と同様にその全てを切り落とす


尚も近づいてくるクルトの相手をするために刀を空に落とし空中で格闘を始める


こちらに伸ばす手を弾き、突き出された拳を受け止める

拳を止められたから足を上げ、こちらの顔目掛けて蹴りを放つがそれも避ける


続け様に避けられた脚を落とすように、カカト落としをして来るが、空いた手でそれを受け止めそのまま距離を離すように投げる


空中で器用に受身を取りながら重力魔法を操作するクルト。攻撃受け止められ、投げられた事など気にも止めずに口を開く


「キミが思っているよりも、キミが彼らに与えた影響は大きいのだろう。だからこうして連れ戻そうとみな頑張っているのさ」

「お前はどうなんだ」

「もちろん私も連れて帰りたいと思っているさ。キミは面白い、何よりその成長を見ていたい」

「そうか」


揺れる感情を、隠した本心を見せないように落ち着いて、静かに冷たく突き放すように言葉を返す


「やっと出来た!さあみんなアイツに見せつけてやりなさい!」


下から声が聞こえたかと思えばクラスメイト全員が立ち上がっている


流石と言うべきか、やってくれたなと言うべきか

俺の重力魔法を殺しやがった


正確に言えば俺の魔法を黄泉の国のものとし、その権限を自分の物にしている


自分にかけている分はまだ解かれていない

となれば皆にかけたものだけ殺したのだろう


死神姫(デス・プリンセス)の2つ名は伊達じゃないな本当に


クルトから視界を逸らした事で触手によって拘束される


「相変わらず気色悪いなこれ」

「っはは。なんとでも言いたまえ、コレで捕まえるのは2度目だな!」


言い終わると俺を地面に向かって投げ上げる


向かう先はクラスメイトがいる場所、その真ん中だ

1人足りないようにも見えるが今はいいか


身を翻し着地と同時に自分と刀にかけた重力魔法を解く


「まったく手荒ってレベルじゃねぇな」

「悪いね、神至くん本当は一対一でやり合いたいけどそん余裕は無さそうだから───」


着地を狩る様に話しながら2振りの刀をこちらに向けて来る宮本くん


猫背の様に見える構えから一方は下から上にもう一方は右から左に交差する様に攻撃して来る


地面を転がる様にそれをよけ立ち上がれば今度はオルフィリアが拳をこちらに突き出してくる


少し攻撃を引き寄せ、拳に直接触れないように腕を内側に弾く


だが


「甘いよクソガキ」


当然読んでいたと言わんばかりに、ニヤリと笑いながら弾かれた勢いを利用し、回転しながらの裏拳


流石に避けきれず、即座に防御体勢を取るが


拳を受けた直後、纏わせている魔力が爆発し体が吹き飛ばされる


「うぐっ!」


飛ばされた先には深於さんがいる

流石にこのままでは不味いと受身を取ろうと空中で身を翻すが、そんな余裕は与えてくれない


身を翻す途中、俺が地面に背を向けた瞬間に踏み込み距離を詰める深於さん


「いい加減、止まりなさい!」


龍を纏った蒼くギラつくメリケンサックが俺を襲う


流石に防ぐ他無いが、それも対して意味を成さない

防御の上から打ち砕く様に、地面に叩きつけられ


「かはっ!」


背中を強打した事で口から空気を全て吐き出す


防いだはずの腕もオルフィリアと深於さんの攻撃で鎧にヒビが入るほどにボロボロになっている


なんつー威力だよ


俺を地面に叩きつけた後、反撃を警戒してか深於さんは距離を取る


クラスメイト達に気を回す余裕がなかったとは言え、この状況は全員が神名解放していると考えて良さそうだ


一対一ならまだしも多対一の状況で、全員に神名解放などされれば流石に今の俺には手の打ちようがない


だがそれでも、負ける訳にはいかない


立ち上がろうと地面に手を着くと


狙っていたかのように全身が氷で覆われ身動きが取れなくなる


やられた


力づくで破壊しようと藻掻いてみても動くのは首だけ、この10日間の疲労と最後の2人の攻撃で完全に力が入らなくなってしまった


どうしようもないと分かっていながら力を込めることは止めない、そうしているうちにディルがやってくる


「帰ろうぜ神至、他の皆も待ってんだ」

「そいつはできない相談だ、また迷惑かける」


真正面からのその言葉にまた心が揺らぐ

けれど拒絶するように冷徹な声を出す


本当はもう動けない、勝てない分かっているはずなのに、それでも俺は諦められない


怖いんだ、俺のせいでまた誰かがいなくなってしまうのが


その弱さが皆の思いを拒絶する


氷漬けになった俺の前に、今度は月夜野さんが立ち声をかけてくる


「事情はここに来るまで一通り聞いています。大丈夫です、神至さん一人で抱え込まないでください」

「どうしてそう言える?自分自身の感情もも力もコントロール出来ないのに」


話を聞いているなら尚更俺はいない方がいいだろう


「それについても何となく察しは付いています。その上で私たちをもう少し信用してください」


何についての察しなのか気にはなるがそれを拒絶する


「ごめん」


返事を聞き悲しげな顔をする月夜野さん


本当はそんな顔させたくないのに、どうしたって否定してしまう


それを横で聞いていたのだろうディルが声を上げる


「なら力づくだ、那美!」


「任せて」


静かに落ち着いた返事


その声が響くと月夜野さんとディルが横に捌ける


姿が見えないと思ったらそんなところにずっと居たのか、気が付かなかった


込められた魔力量と質あれだけ濃密に溜め込んでいたら普段の俺なら気付けただろうに、やはり疲れてまともに思考ができていなかったか


2人の捌けたその奥に極光の弓矢を構えた那美さんがいる


アレは流石にどうしようもない


この状況では避けることも防ぐ事も出来ない


「ごめんね神至くん。でも私たちは・・・私はもっとあなたの事が知りたいの」


こちらを宥めるような落ち着いた声

心の中の固まったものが溶けていくようなそんな声


こんな状況で無ければずっと聞いていたいと思わせる声は、その一言を最後に弓に番えた魔力の矢を放つ


『神技・極光ノ一矢』


回避も防御もできないこの状況で、放たれた矢を受ける


極光はただ真っ直ぐに全身を貫き通り抜けていく


不思議なことにダメージはない、傷も痛みもない


俺の中の何かを壊すようにして一瞬で過ぎ去り


直後にパリンッと何かが砕けるような音を残した


仮面が砕けた音


気付くのにそう時間は掛からなかった、それもそうだ

目を覆っていた暗い部分が晴れ、視界が開けたのだから


ハッキリとした視界の中みんなの顔が見える


やれやれといった表情、安心したような顔、疲れきった顔、少し物足りなさそうにする顔

けれどそのどれもが少し嬉しそうにしている


俺にはそれが少し不思議だった


それに俺は今どんな表情をしているのだろうか


もう体を覆う氷も無くなっているのに逃げる気も起きなかった


尻もちを着いたような体勢で、ただみんなの顔を眺めるだけの俺に那美さんが近づいてくる


もう完全に神名の力を制御出来ているように見えた


キラキラと光り輝く白い魔力、月の夜の空の様な闇の魔力、そのどちらも混ざり合ったその姿、今まで見たどんな人よりも綺麗で目を奪われる


この感情は生まれて初めてだ


名も知らぬ感情が自分の中に生まれた事に驚いている中


駆け寄ってきた那美さんが手を差し伸べながらこう言うのだ


「帰ろう、神至くん」


数分前までの覚悟など露と消え去り、今はただ彼女の手を取りたいとそれが心を満たしている


彼女の手を取ろうと腕をゆっくりと伸ばす


ああ、コレが、この感情が───


自分の中に生まれた感情をハッキリと認識した直後





体からずっと抑えていた闇が吹き出した

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。