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神名と声と一太刀

走りながら目に映るのは、結界の中を埋め尽くさんと少しずつ増殖と肥大化をしていく黒い触手


それと同時に、叩き砕く様に地面を、穿つ様に結界を攻撃している


まだこちらを敵として認識していない、力人の無意識によるものなのだろうかあるいは───


神名を解放したにも関わらずこちらには見向きもしない


半開きの口に虚ろな瞳、壊れた人形の様にただそこにあるだけの状態


叫び過ぎたのだろうか、その口からはもう声は出ていない


その悲痛な姿が、那美の心にどうしようもない程に突き刺さる




「前衛は深於さんと俺が受け持つ、ディルは那美さんの護衛しながら中衛、那美さんは後衛でいいか?」


指揮を執るのはフィークスくん

神名解放と同時に何か別の事をしたみたいで見た目が変わった


その姿は学園にいる人間なら誰もが知るヒーローみたいな人、クリムゾン・カーペットその人だった


「任せろ!ついでだこの際敬称もういらないだろ」

「それもそうか、じゃあ深於、那美、ディル行くぞ!」

「おう!」

「分かった」

「任せてください!」


深於ちゃんが敬語使ってる・・・


少し雑念が混じってしまったが、非常事態で神名解放までしているのに、何故だか少し落ち着いている


さっきの訓練までは歩くだけでも辛かったのに今は不思議と動けている


私の知らない力でも働いているのかな

なんてそんな事を考えてしまう


触手の攻撃範囲、その少し外側で指示の通り一足先に立ち止まり、矢の無い神弓を構え魔力を装填する


不思議、使った事など一度も無いのに、どう扱えばいいのか手に取るように分かる


『神弓・神産み(イザナミ)の弓』

この神名の持つ権能。その1つ


神話において伊邪那美が産んだ神の力を使う事ができる。けれど私はまだその段階にないのだろう


今はただ光の魔力を込めることしかできない


魔力を溜め始めた所で前衛2人が声を上げる


「一発食らっときなさい!」

「灼けろ!」


黒い触手と接触したのが見える


視界に映るのは、水龍を操りながら黒い触手を殴打する深於ちゃんと


野太刀と呼ばれる大きな刀を振るい触手を端から切り刻んで行くフィークスくん


龍に食べられたり、切りつけ灼かれる触手


さらに2人と私の間で、中衛としてディルくんが氷魔法を使い、隙を埋めるように立ち回っている


3人の猛攻により、触手から霧散した魔力をアンリ教官が吸収する事で少しづつその数を減らしていっているのが分かる


このサポートがなければ私たちはダメージを与えることすらできなかったのかもしれない


その様子を見ながら魔力を装填する勢いを上げる


初めはただの矢だった物が、次第にその大きさを変え、自分の周りにも矢を展開していく


数十、数百と数を束ねた所で前衛に声を掛ける


「行くよ!」


「わかったわ!」

「承知!」


2人が同時に応え距離を取り、その隙間を埋めるように矢を全て解き放つ


神技・極光ノ一矢


放たれた極光の矢とそれに続くように数百の光の矢が触手を撃ち抜いていく




「俺も行くぞ!『アイスランス』」


那美に感化され、普段では考えられない量の魔力を操り、氷の槍を展開する


そして那美の攻撃が届かなかった触手に向け、その全てを放つ


矢と槍の突き刺さる音が小さく響くこと数秒


2人の魔法攻撃により、蠢いている触手全てが破壊され消滅する


「よし!やったぜ!」

「まだだ、力人を直接叩け!前と同じだ、こちらに意識を引き戻せ!」


ディルが喜ぶのも束の間、破壊された触手は、すぐさま再生しその形を取り戻す


「マジかよ」


「もう1回やってみよう!」

「もちろんだ!」

「ええ、任せなさい!」


那美の声に全員が応える中

一人、様子の変わった触手に即座に反応するフィークス


「深於引くぞ!」

「えっ!はぃぃぃぃ!」


肩と膝裏に素早く手を回し抱き上げるフィークス

それに対する反応は、いつもの勝気な様相など欠片も見られない


そのまま駆け出すと2人がもといた場所に触手が叩きつけられる


「こっちを狙ってきたな」

ぽつりと呟く様に声を溢す


「~~~~~!」

抱き上げられたまま言葉にならない叫びを上げる深於


「こちらを敵として認識した!お前ら本番はここからだ!」

その言葉通り力人が虚ろな瞳を5人がいる方に向け、結界や地面を攻撃していた触手がその矛先を変えていく


既に次の攻撃を準備していた那美がまた一斉に矢を放つ


しかし、極光の矢は触手を破壊するがそれも一本だけ。他の矢は蚊でも打ち払うようにかき消される


「さっきより強くなってる!」


「ディル!前に出ろ!深於を置いたら俺も出る!」

「任せとけ!」


後退しながら指示を出すフィークス、そのまま深於を那美の傍まで連れていき丁寧に下ろす


「深於、ここから水龍を操って触手を破壊してくれ、君なら出来る。俺は知っている」


真っ直ぐに見詰められ、少し茹で上がった様な顔になる深於だったが、すぐに切り替えてそれに応える


「任せてフィークス、あなたの道は私が作る」

「ああ、任せた」


それだけ言ってすぐに前線へ駆ける


深於のやる気が満ち溢れ、それに呼応する様に先程よりも攻撃が苛烈になる


水龍の攻撃が先程の喰らう攻撃のみならず、魔法も展開し全てを薙ぎ払わんとする勢いで触手に向かって攻撃を始める




「さぁ!クリムゾン様の糧になりなさい!神至!」

「深於ちゃんそれは敵っぽいよ・・・」


魔法矢を番えながら少し呆れたように声を漏らす那美


最前線で一人戦い続けるディルは数本の触手から受ける猛攻をものともせずその全てを打ち返してる


「まだまだぁ!魔法の雨に比べたら余裕だぁ!」


氷を纏う大剣を振るえば触手が端から凍りつき

もう一度振るえば砕け散る


背後からの攻撃は氷魔法を使って防ぎ、受けたところから氷結させて貫き砕く


深く物事を考えず、感覚だけで上手いこと力を扱っているのだろう


初めての神名解放による高揚感、その昂る感情とアドレナリンにより動けている


実際ディル体はビキビキと悲鳴を上げているのだが、それを無視と言うよりも気付いていない


フィークスを除く全員が身体の限界を超えて更に力を引き出していく


「ディル、道を作ってくれ突っ込む!」

「あいよ!」


その声を聞き、フィークス周囲の触手を凍らせ動きを止める。そこから更に力人へ向かう氷の橋を作る


形成された氷の橋を一気に駆け上がるフィークス


それを止めようとしているのか、鋭く突き刺す様に蠢く触手


だがその全てを水龍が喰らい、切り裂き、破壊する


触手をあらかた破壊し尽くした後、橋を守るようにその身で包み水のトンネルが出来上がる


これなら行ける


野太刀を空間魔法に収納し全力で駆け抜ける


そして───


「目を覚ませ!神至 力人!」


炎を拳に纏い全力の一撃を叩き込む


打ち付けた拳から劫焔を吹き上げる高火力の一撃


的確に打ち込まれたソレは力人の顔面にしっかりと刺さっている


「やったか?」


溢れた声は誰のものだったのだろうか


全員が気を緩める事なく力人を見つめる


フィークスの攻撃が決まった

それは全員が分かっている


触手は動きを止めその形を保てなくなったのだろうか、端から解れるようにして消えていき力人を覆う黒い魔力も消えていく


「やったわ!」

喜びの声を上げる深於


しかし


「ホープ!フェリン!離れろ!」


焦ったように叫ぶアンリ


その声に名前を呼ばれた2人とも反応する


ディルは即座に自分に向かって風魔法を打ち込み、結界の端まで吹き飛ぶ。傍から見ればイカれた行動だが、この場に於いては最善とも取れる行動だった


フィークスも即座に撤退に入るが


背を向けたその方向から掠れた声が僅かに聞こえる


「わ、れ・・・ちから・・・こと、わり・・・もつ、もの」


何も映していない虚ろな瞳は、確かに敵を見定めていて、その力を解放しようと言葉を紡いだ


直後、力人を中心として結界内部にある全ての魔法が消失する。フィークスの纏う炎も消え、氷の橋は砕け、水龍は霧散する


立て続けに同じ範囲の空間が歪み、波紋を広げる様に地面に罅が入って行く


足場を失ったフィークスは、為す術もなく地面に叩きつけられ、その場に縛り付けられたかのように動けなくなる


「ぐっうううう!!」


落下のダメージはほんのわずかだが、全身にのしかかる様に降る異常な重みに苦痛を露わにする


確かに当たった、コレで目覚めるはずなのに。どうしてだ!?と重力に縛り付けられた身体で考える


魔力は練れるのに魔法として出力ができない

原因は1つしかない、それは分かっている


神至 力人しかいない


現状も聞いた話も、一体どれだけの事を隠して生きてるというのか


己の内にある怒りの感情とそれとはまた別に困惑が交錯し思考がまともに出来ない


怒りは、問いたださねばならないという想いから

お前が『力こそ正義』という組織を率いるものなのか。そう聞かねばならない


困惑は、聞いたあの話が全て本当なのか教えて欲しい

という友人としての想い


抱えるものが多いのは俺も同じだと、そう伝えたい


しかし


この状態では指は1つ動かす事が出来ず。ただ地に伏せるのみだった




最悪だ、これ以上は本当にまずい

どうにかしなければと心が騒ぎ立てる


でも手立てがない


半年前のあの時の再演


それだけは阻止しなければならなかった


しかし結果はこのザマだ


このままやつが理の力を解放してみろ、間違いなく全て終わる


あの時はパーティメンバーが全員揃っていたから対処できた


他の理の力を持つ者が揃っていて漸く止めた


その災害がまた引き起こされる


塔の階層、そのひとつが死滅する程の厄災が


生(・)命(・)力(・)消すという神にしか許されぬ所業が


また引き起こされると予感した


視界に入る生徒たちの神名解放が解けていくのが見える


おそらくは魔法無効化の影響だろう


律儀にも実技の間は効果を切っていた様だ、でなければハナからこちらの攻撃など一切通用しない


届かない


そう痛感する。


人の身を超えたナニカに神の名を与えられただけの人間がどうこうできる話ではそもそもなかったのだ


僅かに見える力人の口元が動いている


そのことに気付くと自嘲気味に乾いた笑いが口から溢れる


予感は的中した。このまま為す術もなく死ぬのか、と諦観してしまう


膝から崩れ落ちる様にしてその場に座り込むアンリ


直後に全員の頭の中に声が響く




『まだ生きておるかの?』


ノーデンスの声だ


精神魔法の念話と空間魔法を使い無理やり繋いでいるのだろう、少し雑音が混じっている


頭に響く声に応えるようにして口を開く


「ああ、全員まだ生きてる・・・もう長くは無いがな」


『であろうな、状況は見えておる。動ける者はおるか?力人の近くにおるそやつを回収して欲しい』


「無理だ、重力魔法を広範囲に展開してる近づいたらそのまま潰れる」


淡々と状況を伝える


どうにも出来ないと、そう言う他ない




しかし───




「私が、行きます!」


それに応えたのは那美だった


まだ1人だけ神名解放を維持している

それが意地なのかはたまた、力人を想っての成せる業なのか


既に限界を迎え、動けるはずがないのに前線に駆け出す那美


重力魔法により異常な圧力を掛けられるはずなのに、その一切を無視して真っ直ぐに突き進んでいく


「───どういう事だ?」

『ホッホッ、中々良いものを着けておる』


重力の雨を突き進む那美


その左腕にキラリと輝くブレスレットが見えた


魔法の無効化───いや、吸収か!?


走る那美の周辺だけが重力魔法を打ち消している

正確にはブレスレットを中心に半径2メートル程だけ重力魔法の影響を受けていなかった


なんて物を着けてるんだ。魔法の吸収なんて国宝級でもおかしくないぞ


自分がどう思われているかなんて、知りもせず

息を切らしながら、軋む身体にムチを打って、那美は重力の雨を駆け抜ける


那美が近づいた事で、フィークスに重くのしかかっていた重力魔法が打ち消される


すぐに立ち上がる事は出来ず、那美の手を借りながらその体をゆっくりと起こす


「身体が痺れて上手く動けないんだ、肩借りてもいいか?」

「もちろん、早く行こう!」


フィークスの腕を肩に回し、その体を支えるようにしながら来た道を引き返す


結界内部は魔法無効化が効いているはずなのに、未だ尚神名を解放し続けている

それが無ければ既に倒れていただろう


実際、那美以外は強制的に解除され、既に神名解放の反動から動く事もままならない者ばかりだ


それは那美だけが、唯一力人から敵視されていないと考える事が出来る


本人の意識は無いはずなのに、それでも尚、敵視しないのは。浅からず那美に想う事があるのだろうか


重力魔法の影響下から逃れた後


そのまま深於の隣にフィークスを下ろす


「まだやれる事はありますか!?」


気丈に振る舞い声を上げるが、身体は正直だった


アンリの方へ振り向いた直後


神名が解けその場に倒れ込む


「私は・・・まだ───っ!」


力の反動で全身が深い筋肉痛のように、内側から痛み出す


そのせいで動く事もままならず、苦悶の声が漏れ出る


その様子が見えているのだろう、ノーデンスの声がまた頭の中に響く


『大丈夫じゃ、後は任せると良い。ホレ出番じゃぞ』


結界内部にいる全員の頭に響く声


誰かにバトンを渡す様なノーデンスのその声は


微塵も心配などしていないようで、どこか薄情にも思えるが、次の瞬間別の男が話し出す


『え?マジで言ってんのかジジイ。俺魔法使えないんだって、知ってんだろ』


随分と遠くから念話が繋がっているのであろう声。ノイズが酷く、トランシーバーを経由している様な音質のそんな声が頭に響く


那美と深於には聞き馴染みの無い声


その声質から何となく中年くらいの男性だと分かる


歳を感じる割に軽い話し方で、どことなく口調が力人に似ている


『分かっておる。そもそもおぬしに魔法なんぞ要らんじゃろ、早くせい』


急かすように話すノーデンスに、男はまた応える


『ったくしょうがねぇなぁ。一撃だけだぞ多分それが限度だ』


2度その声が響いた時ディル、フィークス、アンリが驚いた様に表情を変える。誰であるか理解するまでに時間を要したのだろう


「師匠?」

「剣神様!?」

「────!?」


理解すると同時に3人が声を上げる

全員がまともに動ける状況ではないというのに口だけはよく動く


『ん?ディルとフィークスじゃん。ほーん、息子が迷惑かけたな悪い』

「「息子!?」」


緊張感の無い話し方と、自分達の名前を呼んだ事で

声の主がが通りすがりの剣神を名乗る人物である事を完全に理解する


それに2人が驚くのも当然だろう、剣神の息子であるなんて那美からは聞いていなかったのだから


「マジか神至、そんなんも隠してたのかよ」

「流石に驚きましたよ師匠」


掠れた声の詠唱は止まず、状況は悪くなるばかりなのに、念話から聞こえる声のおかげだろうか、安心する2人


全く状況についていけていない、深於と那美は倒れたまま静かに話を聞いている

いや、1人は隣に横たわっている男しか目に入っていない様だが


「お前、今までどこで何やって──」

『悪いなアンリ、その話はまたの機会に』


言葉を遮り、詳細を説明しようとしない

時間が無い事は理解しているからなのだろう


『何、世界1つくらい飛び越えて斬るくらい訳ないさ』


訳の分からないことを口にする剣神に一同困惑するが1人勝手に話を進める


『それじゃあ一太刀。神喰一刀流・秘奥『理断(ことわりだち)』』


特に何も起こらず、しんとした静けさが辺りに立ち込める


「おい、何も起こって───」


言葉を紡ぐ途中で声が止まる


目に映る光景に口を開いたまま、固まってしまったから


それは空間に1つ、光が走るように線が引かれゆっくりと伸びるように長くなる


そして隔絶された結界ごと力人の身体がズルリと斜めにズレる


『バカ!結界ごと斬るんじゃないよ剣バカ」

『2回もバカって言わなくても良くねぇ?』


空間を切り裂くルール無用の一太刀


たった一撃で断絶結界もろとも、力人の身体は2つに分かたれ地面に倒れる


オルフィリアの声が念話ではなく普通に聞こえているのがその証拠だろう


「一先ずはコレで問題は解決したかの?」


霧のように霧散していく結界の外から、理の力を行使しているノーデンスが歩み寄ってくる


「多分な、それよりアイツは?劍華(けんが)はどこだ?」


両断された力人に目をくれる事もなく

誰も知らぬ名をノーデンスに問いかけるアンリ


「あやつはここにはおらんぞ。どこから繋がっておるかも分からぬ。全くあんなのが養父だから、力人も非常識になるんじゃ。まあ、ワシも人の事は言えんのじゃが」


文句を吐き出すように話すノーデンス


「アイツめ、全部放り出して居なくなった挙句、今度は後始末までこっちか」


『助けてや──のにそこ──言わな───よくね?』


先程までよりノイズが酷くなり声が遠くなりつつある


「お前今どこにいるんだ」

『無視かよ。まぁいいや、俺はいま───にいるから────帰れない───こと──んだわ、じゃ』


肝心なところは何も聞こえず、その言葉を最後にプツリと声が途絶える。それ以降念話が通じる事は無くなった


「アイツ・・・次会ったら殴るだけじゃ済まさないからな」


脱力した身体で、悪態をつく

その姿はどこか寂しそうで、でも安心したような雰囲気を醸し出している


「相変わらず、自由な男じゃの」


念話の相手には届かないと分かっているが、ポツリと呟く


その後すぐに気持ちを切り替え外部講師2人に指示を投げる


「そこの2人、倒れている生徒達を医務室まで運んでくれんかの?」

「分かってるわ」

「そうさね、このままは可哀想だからね」


返事をするよりも早く黄泉とオルフィリアが動き出し生徒を診る


ディル以外にはこれといった外傷はなく、ただ反動で倒れているだけなのを確認して一先ず安心する


ノーデンスは指示を出した後、理の力を解き、力人に近づく


結界の外で集まっていた生徒たちも危険が無くなったと判断したのだろう集まってくる


「教官!手伝います!」

「ああ、すまない。アイツらを介抱してやってくれ。無理に神名解放したから、相当身体にダメージが残っているはずだ」


アンリの指示を受けすぐに行動に出る生徒たち


何も出来なかった罪悪感からなのだろうか、その顔は少し曇っているように思える


倒れた仲間たちに駆け寄り講師2人の指示仰ぎながら3人の介抱をする


いつの間にか元の姿に戻っているフィークス、身体の痺れが取れたのだろう1人だけ立ち上がりノーデンスの隣で力人の様子を見ていた


「おぬし、正体明かしてよかったのか?」

「非常事態だったので、致し方ないです。それより神至は」


胴体を袈裟に切りつけられ2つに分かたれた状態で地面に転がる力人


心配しているのか、それとも───


「見ておればわかる。こやつはこの程度では死なんよ」


「・・・・・」


無言で力人を見つめるフィークス


しばらくすると。とめどなく溢れ出ていた血が蠢き出し、身体を繋ぎ合わせていく


およそ人間とは思えない動きのそれは、まるで時間が遡るかのように、ピタリと身体が繋げ傷跡も無く再生していく


「コレは───」

「こやつの身体について聞いておるかの?」

「はい」

「こういうことじゃよ。人間と呼ぶには些か、別の物が混じりすぎておる。原因はまぁワシなんじゃが」



2人が話す間に傷が再生した力人は、体を起こしその場に座り直す


意識も戻っている様だ


目元のクマは前よりも酷く

居心地が悪そうにする


「気分はどうじゃ」

「最悪だな・・・全部思い出した。それから、また迷惑かけたな」

「それはよい、前にも経験しておるしの。それよりおぬし、これからどうするつもりじゃ?」

「どうもこうもなぁ・・・学園には居られないだろ」


少し掠れた声で落ち込んだ様に話す

いつものような雰囲気はなく、酷く憔悴している様に見える


それもそうだ、考える事があまりに多い

唐突な暴走、蘇った記憶、不安定な精神

何よりアンリとクラスメイトを殺しかけた事

そのことをはっきりと認識している


「俺は一体何なんだろうな」

「ワシには分からぬ」

「少し、考える時間をくれないか?1人になりたい」

「それもまた良いじゃろう」


2人が話す間、ずっと黙ったまま力人を見続けているフィークス


怒りを携えた様な心配する様な顔に、複雑な心中は落ち着かない状態である事は明白であった


けれど声をかける事が出来ない。何と声をかければ良いのか分からないと言った感じだ


「それじゃ」


フィークスがなにか言いたそうにしているのは感じているが、話を終えたからか、そう言うと立ち上がり歩き出す


足取りは重く、力人の気持ちを表すかのようにその一歩はゆっくりとしている


「待って!」


1人歩くその背中に声がかかる


那美のものだ


「まだ聞きたい事がいっぱいあるの!」


クラスメイトの肩を借りながら精一杯の声を絞り出す


弱々しいそれに対する答えは


「ごめん」


その、たった一言だけで。力人は歩き去ってしまう


誰も追うことが出来ず


残された面々はその背中を見送る事しか出来なかった


その日以降、力人は学園から姿を消した

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