記憶と暴走と解放と
プロット崩壊の音が聞こえる・・・
七門連中か絡んで来た日から2日経った
今日も今日とて訓練だ
正直なところ飽きてきている
五月に入ってからすでに、もう何日も経っているというのに、全体での合同訓練もなければ、組手や模擬戦の類もない
そんな変わり映えのしない日常に、退屈し始めていた
今までそんな事考えもしなかったのに、やはり寝不足が原因なのだろうか
相変わらず眠れぬ日も続いていて、今日に至ってはもう1時間も眠れていない
いい加減アイツを夢に見ることも、発作をどうにかしないとだよな・・・
俺個人の話はさておき、第一グループの担当が変わった
理由は黄泉のヤツがあまりにも那美さんばかりを見ているからだ
一応全員の面倒は見ていたが、8割方那美さんに着いて、事細かにアドバイスしていた。そんな状態をアンリが許すはずもなく
「まともに指導出来ないのなら、お前は別に行け」と首根っこを掴まれ、引きずられながら連れていかれた
叫びながら抵抗していたものの、アンリの力に敵うことなく、ズルズルと引きずられて行く姿は滑稽という他なかったのだが、那美さんが少し可哀想だった
叫ぶ姉を見て、終始顔を赤らめていたのが目に入ってしまったのだ。身内が恥を晒している訳だし、恥ずかしく思うのも仕方ないだろう
そんな訳で、今日はゲンコツババアが第一グループの担当となったのだが
これはコレで問題な気がするな・・・
と言うのも、今度はババアが深於さんにかかりきりとなっているからだ。
「ふっ!はァァ!」
「ヒッヒッ、まだ早く打てるだろう、やってご覧」
「はい!」
少し離れたところから聞こえる気合いの入った声に、ため息を吐く
自分を敬愛する若者相手に、テンションが上がったのだろう。聞いての通り、今は神名解放の訓練そっちのけで2人はスパーリングをしている
なんであんな元気なんだよ、あのババア
そのせいで残ったメンバーは、結局俺が見る事になり今に至るという訳だ
「ディル、調子はどうだ?」
「うぅぅおおおおお!キツイ!」
「OK分かった頑張って」
「嘘だろ!?アドバイスとか無いのかよ!」
「つったってなぁ」
那美さんとフィークスは魔力制御が安定している為、次のフェーズに入り、名を口に出して更に難しい調整をしているのだが
ディルはまだ魔力制御が安定しない
故にほぼマンツーマンで面倒を見ている感じだ。一応他2人の様子も魔眼で確認はしているが
那美さんは名を口にしてから、魔力の揺らぎが少しだけ大きくなったが、今のディルより安定して制御出来ている
フィークスも2つ目の名を口にしているが、アレはもはや普通に神名解放が出来るのだろう
揺らぎは殆どないし魔力量も揃っている、というかほぼ1つの魔力として制御出来ているのだ
見ている分には辛そうにはしている為、どういう状況なのか推し量っているところだが、なんとなく感覚で実力を隠すための演技をしていると感じる
考えるのを止め目の前のディルに向き直る
本人にやる気はあるのだが、繊細な魔力制御が上手くいっていない
ほんの一瞬安定する事もあるが、すぐにまた揺らぎが大きくなる
こればかりは俺ではどうにも出来ないし、俺のサポート無しで制御出来なければ、後々苦労するのはディルだ
なので今は心を鬼にして、ただディルを眺めるだけの状態が続いていた
「何か無いのか?上手く制御する方法とか、コツとか!」
「無いな、強いて言うなら慣れだ」
「またそれかよ!ちくしょう」
滝のように汗を流しながら悪態をつくディルに、少し申し訳なく思う
一応方法が無くも無いというか、有るにはあるのだが
黄泉の時に経験しているし、暴走する危険性があまりにも高すぎる
その方法というのは自分の大事な人を失った気持ちで、若しくは最も憎む相手を殺すつもりで力を行使することだ
理の力を使わないとしている現状では、後の対応があまりにも厳しい
故に今の俺は見ている事しか出来ない
まぁ、あまりにも揺らぎが酷くなるようであれば、サポートに入るがそれ以外は基本的に見ているだけ
俺も神名解放ができれば、そんな事しなくても上手いことコツとか教えられるのだろうか
どうしたものかと思考を巡らせているとババアがやってくる
「なんだい、まだ魔力が安定しないのかい」
「スパーリングやってて、指導してないババアに言われたかねぇんだが」
「ヒッヒッヒッ、いい子がいたもんでねぇ久々に楽しかったよ」
「そうかい」
ポンポンと腰を軽く叩きながら嬉しそうに話すオルフィリア
普段は腰の曲がったしわくちゃの婆さんなのに、一度戦い始めれば、スっと腰を伸ばし軽快に動き始める。これでまだ奥の手を隠してるというのだから、恐ろしいという他ない
「さて、深於ちゃんもこれから神名解放の訓練さね、ディル坊の方は相変わらず魔力制御が問題かい?」
「そうだな。瞬間的に安定する事はあるけど、すぐに揺らぐ、体力あるから継続できてるけど。このままだとちょっとな」
「なるほどね、少し見てやるさね。アンタはあっちの2人と少し話しておいで」
状況を報告するとすぐに指示が出る、年の功と言うやつだろうか。面倒見がいいのはありがたいが、変な事にならなきゃいいけど
ひとまずババアの指示に従い2人の様子を見に移動する
「那美さん調子はどうかな?」
深く集中しているであろう所で声を掛けたからか、魔力が大きく揺らぐ
「あ、うん大丈夫かな?」
「疑問形なんだ」
「うん、自分では上手く行ってる感じはするんだけど、もう一押し何か欲しいかなって」
「なるほどね」
魔眼を使っている影響か分からないが、あまり体が震えることはない
元々那美さんといる時だけは、不思議と体が震えることがないので、今はあまり関係ないかもしれないけど
「どうかな、上手く出来てるかな?」
「大丈夫だと思う、綺麗な魔力だよ。揺らぎも少ないしいい感じに制御できてる」
綺麗と言った瞬間大きく揺らいだが、すぐに元に戻る
少し不思議に思ったが特に気にする必要もないか
「そのまま動ける?」
「ちょっとだけなら」
そういうとフラフラと覚束無い足取りで少しづつ、こちらに向かって歩いて来る
様子を見ながら少し、ふと気になった事を考える
神名解放は、授かった神の名から力を引き出す
言わば外付けのバッテリーみたいな物と聞いている
対して理の力は内に封じていたものを解放する感覚だ
明らかに人に扱える力ではない、けれどなんの問題もなく扱えている
なんなんだろうな理の力って
白と闇の混色の魔力が急にグラつき体勢を崩すのが目に入った
「あっ」
という那美さんの声が聞こえ、反射的に体が動く
うっすらと見える体の輪郭を捉え、肩を抱き留め転びそうになった那美さんを支える
体に触れた瞬間、ズキりと深く刺すような痛みが頭に走る
・・・触れるのは不味かったか
肩に触れている手から感じる、女性らしい華奢な骨格、柔らかな肉感
それを知覚し、自覚すると尚の事痛みが増す
どこか遠くでシャラシャラと鎖の音が聞こえる気がする
「大丈夫?怪我してないか?」
「あ、うん大丈夫。ごめんね、すぐ離れるね」
言いながら素早く身を引く那美さん
対してこちらは頭の痛みが強くなっていく
「神至くんの方こそ大丈夫?顔色かなり悪くなってるけど」
「大丈夫、じゃ、ないかも」
「誰か呼んでくるね」
「頼む」
走り去る那美さんを見送る
さっきまで揺らいでた魔力が落ち着き、完璧に制御出来てる。すごいな無意識であれだけ───
ズキンと
鼓動に合わせて脈打つ様に、頭を刺す痛み
思考が途切れ、膝からその場に崩れ落ちる
「クソっ頭いてぇ」
瞳を閉じてその場に蹲る
その瞬間、網膜に焼き付いたあの光景が蘇る
アイツが潰れるその瞬間を
ゆっくりと頭から地面に潰れていくその様を
何度も繰り返し思い出している光景
大きな圧力を掛けられたように、頭頂部からひしゃげていき
頭が潰れ、腕が落ち、膝が砕け、身体の内に収まっているものがぶちまけられ
最後には地面のシミとなる
これは俺がこの目で見た光景だ、間違いない
───でも、どうして拳がない?
ミノタウロス型の大型の魔物、その攻撃で潰れたとそう記憶しているはずだ
おかしい、どうして、なんで────
答えを探そうと思考する度
頭痛がさらに酷くなり、心もぐちゃぐちゃになる
でも理解を拒む心と裏腹に、痛みが増すに連れて何故か頭はいつもより早く回る
アイツが潰れる瞬間の光景
あの様になる原因ならいくつかある
一つは空間魔法による圧縮
これは違う空間圧縮なら上下、若しくは左右から均等に潰れる
もう一つは物理的な殴打
でもこの光景は、俺の見た光景はこれじゃなかった
あの魔物はいた、それは間違いない
けれど拳を振り下ろすその攻撃は俺に向けて出されたものだ
違う!アレはアイツに向かっていたはずだ
だとすればこれは別の記憶か?
思考は止まらず、さらに痛みが増す
もう頭が割れているのではないかと思う程に
呼吸も浅く短い、過呼吸を起こしている
分かっているけど抑えられない
頭の中で鳴る鎖の音は大きくなっている
痛い、苦しい、うるさい
いつもの発作とは明らかに違う
その事に困惑している
そのはずなのに何故か思考だけは明瞭になっていく
そして最後の一つに思考が至る
重力魔法による圧殺
そこに思考が到達した瞬間、鎖にヒビが入る様な音が頭の中で確かに響く
唸る鎖の音はなりを潜め、頭の痛みも少し和らぎ、呼吸が止まる
そんなはずはないと、心は否定する
そうであったと、頭は記憶している
ちぐはぐな記憶と、瞳に焼きついた光景に正しいのは後者だと
アレは重力魔法によるものだと認識する
であればそうだ、それしかない
そんな事が出来るのは、あの場に俺しかいないと
そうはっきりと自覚する
その瞬間、いつか聞いた鎖の弾けるような金属音と共に堰き止めていた記憶が溢れ出る
「────あ、ああ、アアア、ああああああああぁぁぁ!!」
濁流の様に頭を駆け巡る記憶がその全てが
俺のした事を突き付けてくる
あの日仲間と塔に潜っていた事も
あの日見たアイツの姿も
あの人見た情事の一端も
全部、全部思い出して───
───最後に全てを壊した事も思い出した
───
転びそうになった私を彼が支えてくれた
その時触れてしまった
顔色が悪くて、気分が悪そうで
発作を起こしたのだと思った
だからまずアンリ教官の元に走った
状況を伝え振り向いたアンリ教官のあの顔を
彼を見た時のその顔を、私はしばらく忘れる事が出来ないかも知れない
まるで愛しい人を亡くしたかの様な、今にも泣きそうで、見ているこちらまで悲しくなってしまうような、そんな顔を
次にアンリ教官が口にしたのは
「全員逃げろ!力人に近寄るな!」
だった
直後背後から悍ましい程の寒気を感じ、振り返る
そこには蹲った神至くんが、酷く悲しげな声で叫んでいる姿が映った
堰き止めていた何かが溢れる様に
暗くどこまでも暗い漆黒の魔力が全身から吹き出している
アンリ教官の声が響いたからなのだろうか、姉とオルフィリアさんが急いで彼の元へ向かう
1拍遅れて駆け出したアンリ教官
彼の元へ駆けながらまた叫ぶ
「誰でもいい!ノーデンスを呼んでくれ!今すぐだ!」
余裕のないその声と表情に、状況を把握しきれていなかった生徒が動き出す
一部は身を寄せ集まりだし、数人が実技棟の外へ向かう。私は───
───
「オル婆、黄泉結界を頼む!」
「アンちゃんは?」
「中でコイツを抑える、と言っても時間稼ぎが関の山だろうけどな」
叫び続ける力人の様子を見て、最も恐れていた状況になったとすぐに思い至る
クソッ、どうして今更!
転びそうになった門音を支えたとは聞いてる。でも何故それだけでこうなる!?
考えたところで訳が分かることもなく、状況は刻一刻と悪くなっていく
力人の体から吹き出る黒く悍ましい魔力が少しづつ形を得つつある
アレが暴れ始めたら、私でもどうにも出来なくなる
はやる心を落ち着ける間も無く、オルフィリアと黄泉から声がかけられる
「アンリ、行けるよ」
「こっちも何時でもいいよ!」
「分かった、カウントしたら同時に断絶結界を頼む!」
「「了解」」
2人の返事を聞きアンリもまた己の力を解放する為に準備をする
「・・・3・・・2・・・1」
「今だ!」
声を張るのと同時に力人の元へ飛び込むアンリ
それに合わせて4つの人影が一緒に中に入る
「あっ!」
黄泉が気付いた時には既に結界は完成してしまっていた
「ヒッヒッヒ、根性あるじゃないか、今時の若者にしては」
「言ってる場合じゃないでしょ!どうしよう」
断絶結界とは、その名の通り今あるこの場の空間と結界内部を断ち切る。空間魔法の中でも最上位に位置する魔法だ
もちろん術者が結界を解けば内と外の繋がりは元に戻るが、今はそんな事が出来ない
それは結界を作った2人がよく分かっている事だろう
「なに、ジジイも来るんだろう?なら大丈夫さね、案外あの子達がどうにかしてくれるかもしれないさ」
「もう!オル婆は楽観しすぎよ!」
そう文句をいいながらも結界を解こうとはしない黄泉
正直なところ、今すぐにでも助けに行きたいところではある
本気で暴れ始めたらアレはもう誰にも止められない
少なくともノーデンスが来るまでの間は何も出来ないのだ
そんな歯痒い気持ちを抑えながら黄泉は結界を維持し続ける
─結界内部─
月明かりの照らすような、仄かな明るさを持つ闇色の結界の中
一人、ぽつりと声を溢す
「全く、世話のやける男だ」
飛び込んだ先、悲痛な声で叫び続ける力人を見る
形を得た魔力はうねり始め、当たり散らす様に地面を叩きつける
刺し違える覚悟をして、力を解き放とうとすると自身の背後から声が聞こえる
「なんだこれ!?」
「結界の中よ、アンリ教官言ってたでしょ」
「すごい結界プゴ・・・コレもしかして出れないプゴ?」
「え?みんなも来ちゃったの?」
なんという事だ、生徒が4人も巻き込まれているではないか
力人を注視しつつ、入って来てしまった4人に声をかける
「お前ら!なんでここにいる!」
「なんか神至がやばそうだったんで」
「私も同じです、体が勝手に」
「ボクはディルに着いてきましたプゴ」
「私は那美が見えたのでつい」
呆れてモノも言えない、自分たちが今どれだけ危険な状態にあるのか分かっていないのか?
「とりあえずお前たちは下がっていろ、ここは私が───」
言い終わるよりも早く、黒い鞭の様な触手がアンリの頬を掠める
「チッ、やってくれる。おい力人まだ私が喋っているだろうが!せめてそれまで攻撃は止めろ!」
そんな言葉が届くはずもなく、力人の体は黒い魔力に飲まれていく。そうして頭を残したまま全身を覆い、黒い触手の様な魔力が、周囲を破壊しようと動き始める
「クソっ聞こえちゃないか、お前ら!明日全身筋肉痛で動けなくなる覚悟はあるか!?」
異形と化して行く力人を見つめる4人に声を掛ける
「よく分かんないけど、神至助ければいいんですね」
「プゴォ・・・荷が重いプゴ」
「私やります!」
「那美がやるなら私がやらない理由はないわ」
一人、乗り気で無い者もいるようだが関係ない
どの道全員で、今をどうにか切り抜けなれば明日はない
「全員、神名解放をした上で神至を叩け!私は全力でアイツを抑える!」
「「「「了解」」」」
有無を言わさぬ命令に全員が応える
「始める前に門音、全員に力人の事を教えておけ!お前の知ってる限り全部だ!」
「いいんですか?」
「構わん。非常事態だ、四の五の言ってられん!」
「分かりました!」
必要な事を伝えるだけ伝えて、自身は当初の予定通りその力を解放する
「神名解放『アンリマユ』」
力の解放と同時に野性味を放つ紅の髪が黒く染まっていき、肉付きの良い豊満な肉体も萎んで行く
それは普段の堂々たる様相、人目を引く美貌も影も形も欠片もなく、戦うにしてはあまりにも貧相と言う他無い姿に変貌する
後ろの4人の反応など気にする余裕もなく、力人に何かさせる前に行動を起こす
「権能発現『|この世全ての悪をこの手に《ワールド・イズ・マイン》』」
能力の発動と同時に力人の纏う闇の魔力を吸い上げる
「ぐっ・・・うううう!」
苦悶の表情と声
1秒闇を吸う度に骨張った体が軋み悲鳴を上げる
それと同時に力人の体に残る怨嗟の声が押し寄せる
『いやだ、まだ死にたくない』
『痛い、痛い、痛い』
『暗い、見えない、何もない』
『恨めしい、怨めしい、生きる人間が恨めしい』
『殺せ!殺せ!殺せぇ!』
たったの1回、ただの一息
それだけでいとも簡単に限界を迎える体
「ゴブッ」
重すぎる魔力量と密度
そして精神を蝕んでくる怨嗟を浴びて吐血するアンリ
「クソが、後で綺麗に治して貰うからな、力人」
口から吹き出した血を拭い、ボロボロになった体を無理やり動かし再度魔力を吸い上げる
こんなもの、人ひとりが抱えられてたまるものか
それはどちらに対しての思いなのか
表出しているのは一部とは言えこれだけの闇を、たった一人で抱えている力人に対するものか、はたまたそれを無理やりにでも吸収する自分に対するものか
1回の吸収は時間にしておよそ1分
稼げている時間はそれだけ、吸い上げた闇と吹き出る闇、そのどちらも今は拮抗しているのが幸いか
力人はなんの動きも見せることはない
暴れているのはまだ触手だけだ
その時間でアンリの指示通り、那美聞いた話を掻い摘んで第一グループのメンバーに話す
理の力の事、身体のこと、そしてこうなるきっかけとなった事を
「ごめんね、触りだけしか話せないけど。みんな行けそう?」
「ああ、充分だ!コレが終わったら色々聞かせてもらわないとな!」
「那美はやるんでしょ?なら私もやってやるわ」
那美の説明を受け2人は気合い充分と言った感じだが、1人他とは違う反応を見せる者がいる
フィークスだ
「那美さん、今のは話は事実でいいのかな?」
いつもの雰囲気と違い、静かに、冷たく殺気立った面持ちののフィークス
語尾まで忘れてしまう程に、怒りを顕にしているはずなのに、その態度はあまりに静かで冷徹と言わざるおえなかった
「うん、そうだよ。私も詳しくは知らないの。だからコレが終わったらみんなで一緒に話を聞こう」
「・・・分かった。じゃあ俺からも一つみんなに秘密にしておいて欲しい事がある───」
アンリが力人の闇を吸い上げる事およそ3分
もう立つ事もできずにいるのに、今なお闇を吸い上げ続けている
片膝を突き、左手はもう上がらない、吐血はもうダラダラと口から流れっぱなしになっている
しかし後ろには生徒がいる。今はその意地だけでどうにか持たせている
まずいな、もう視界が───
あまりにも血を流しすぎた影響だろう。ぼんやりとし始めた視界
気合いで持ち直そうと気を張り直した瞬間
背後から声が飛んで来る
「教官!行けます!」
那美の声だ
体は限界で、意識も半分飛んでいるのに、何故か口角が釣り上がる
「よしっ!始めろ!」
その声に応えるように、4人の声が同時に響く
「「「「神名解放!!」」」」
「『伊邪那美』」
「『於加美神』」
「『フェンリル』」
「『フェニックス』」
全員が神名を解放しその様相を変質させていく
身を包む絶大な力に飲まれそうになりつつも意地だけで持ちこたえる
光と闇の混色魔力を纏い、神々しい弓を携える那美
深い蒼色の魔力を龍の様に変質させ、その両拳に水を纏わせる深於
氷の様に冷たい魔力を身に纏い、得物である大剣を氷で覆い固く握り締めるディル
紅の魔力でその身を覆い、身体を別の姿に変質させるフィークス
その手に握る、鞘のない野太刀は血のように赤く染っている
想いはそれぞれ別にあれど、今はただ悲しげに叫ぶ友人の為にその力を振るう
「どうだ、やれそうか?」
「ああ任せろ、キツいけどやってやる!」
「前衛は任せなさい」
「私たちで神至くんを助けよう」
十全とは行かなくとも、解放までやってのける生徒を背に少し笑い声が溢れるアンリ
「時間を稼げ、出来るならヤツを元に戻す!いいな!」
「「「「了解!」」」」
「全員死ぬ気でぶちかませ!」
それを合図に全員が飛び出てアンリを超えて力人に向かっていく
若者の成長速度が羨ましいこった
と心の中で呟くアンリ
「私も負けてられんな」
吸収した魔力を力に変える
骨ばった体に少しばかり肉が着き、元の姿が朧気ながら顔を見せる
「全快とは行かないか、重すぎるぞお前の闇は」
口元の血を拭い、立ち上がる
その姿は先程までボロボロだったとは思えない程、堂々と立っている
完全でないとは言え傷は癒えた、なら私がやる事は一つ
また両手を力人に向け吹き出し続ける力人の抱える闇とも言える魔力を吸い上げる




