─閑話─ ジジイとババアと美女2人
大人達がただお酒を飲んで話すだけのお話
ギルド内の酒場、その一角に
誰も近寄ろうとはしない、異常な雰囲気を纏う集団がいる
酒場の真ん中にある1番大きな席、そこを占拠しているのは全員がSランクオーバー、挙句1人はEXランクでこの学園島に於いて知らぬ者はいないノーデンスだ
その内1人は完全に酔いつぶれ、他3人は気にした様子もなく酒を呷っている
そんな集団が話している内容とは───
「はぁぁ・・・那美もついに恋するお年頃かぁ。お姉ちゃん寂しい!」
「うるさいぞ黄泉、何回目だそれ」
「まぁ気持ちは分からんでもないさね。私も孫に変な虫が着くようなら、滅殺しかねないからねぇ」
「相手が力人なのは幸か不幸かと言ったところじゃの」
───ごく普通にありふれた?身内の恋愛模様を憂いての話だった
「そりゃあ私だって那美が幸せならぁ?いいとは思うけどぉ、相手がアイツじゃ私勝てないじゃない」
「勝ってどうする」
「そりゃあ私の良いように使うでしょ」
「・・・・」
ダメだコイツという顔をしながらまた酒を呷るアンリ
いつもより幾らか機嫌は良さそうであるものの、酒の進みはいつもの倍近く早い
「あの力さえなければ、力人も悪い男じゃないんだけどねぇ、強いて言うなら口が悪いくらいかい?」
那美の話から話題を逸らすように相手の力人の話に持っていくオルフィリア
「そうね〜確かに口悪いけど、アイツの場合育ちの問題?というより養父のせいじゃない」
「割と性格も難ありじゃないか?アイツ興味の向いた事に対して一直線だろう?」
「そうじゃのぉ、学園に編入してからは随分と大人しくなったようじゃが」
「いや、門限ギリギリで帰ってくるし。連絡もないからティリファがよく叱ってるぞ」
「放浪癖は相変わらずなのかい」
少し苦笑したように話すオルフィリアに、追加の注文をしながらアンリが答える
「放浪と言うよりは、クラスメイトと遊びに出かけて遅くなるって感じだな」
「それくらい、良いじゃない。学生は勉強して遊んでなんぼよ」
「確かにそうさね。1人で何処かに消える訳じゃないから、まだいいと思うけどねぇ。それより聞いてるだけだと、あの子オカンみたいになってるじゃないか」
元の放浪癖、と言うよりも塔に篭もりきりだった時を知っている面々からすれば、随分とマシに感じるのだろう
話の流れからティリファの事を話し始めるアンリ
「今のティリファはしょうがないんじゃないか?力人への好意が反転してるし・・・いや、最近はいつもの雰囲気に戻ってきてるか?」
「そうか〜ティーちゃんいるのか〜。那美も大変ね、めちゃくちゃ強いライバルいるじゃない」
「なんだい、あの子まだ自分の気持ち伝えてなかったのかい?」
「それはしょうがないだろう。半年前のあの件で1度ティリファは明確に拒絶されてるからな。怖くて踏み出せないのもあっただろう」
「あーそんな事もあったんだっけ」
「罪な男だねぇ、力人も」
「今は下手にボロを出さないように、好意を反転の呪いで隠しているみたいなんだが。最近の様子を見ている限りあれは反転と言うより中和だな。随分と公平な接し方をしてる」
女性陣が少し呆れたように話す中、話題についていけないノーデンスは1人黙々とワインを飲み続ける
「やっぱり養父のアイツが悪くない?今消息不明なんでしょ?」
「放浪癖の筆頭みたいな男だからねぇ、アレに関しては私にも何の連絡はないさね」
ここに来て漸く自分も参加できると感じたのか、ノーデンスが1つ問いを投げかける
「あやつがどこにおるのか、誰も分かっておらんのか」
「全くだな影も形も、痕跡すら無い」
「今後の対策としてヤツの力も借りたくはあるんじゃがのぉ・・・」
「難しいだろうな、力人もどこにいるのか知らないようだし」
「最悪力人に丸投げじゃダメなのかい?どうにかできそうな気がしなくもないけどねぇ」
「いくらあやつと言えど、一人じゃどうにもならんのぉ。それに、これ以上何か抱えさせたら流石にキャパオーバーじゃろうて。せめて発作だけでも何とかなれば良いんじゃが・・・」
この場にいない人間の話で盛り上がり、とある問題に対する話が浮いてくるが
「とりあえず私の方でも探しては見るけど、那美がぁ───」
「・・・こやつ、どうにかならんかの」
ワインを飲みながら冷めた視線を送る、いい加減聞き飽きてきているのだろう
「無理だな、普段から妹妹ってうるさいのに、今日はいつも以上に出来上がってるからな」
「しょうがないさね。身内が、ましてや大事にしてる妹に、好きな男ができたって言うんだ。こうなるのもやむなしだろうさね」
「そう言うもんか」
「ワシにはよく分からんのぉ」
「アンタにそう言う情緒ないだろう、学園もどうせ自分の知識欲、人間という被検体を見るための場なんだろう?だからああ言った事になるんさね」
「ホッホッホ、痛いところを突いてくるのぉ」
「ジジイの趣味はどうでもいい。なんにせよ目下の問題は力人のことだろ、あの発作いい加減どうにかしないと。クラスの連中どころか学園が消えかねないぞ」
「再発した原因に心当たりは無いの〜?」
「ワシにはさっぱりじゃの」
「私もだ」
「私の店来た時は体が震えてるくらいだったから、まだ発作に至る程ではなかったねぇ」
「例の件か」
「そうさね。態々私のところに来て、部下に調べさせた人員全員を買い取れ。なんて言い出すもんだから驚いたもんだよ」
まぁ金銭的な負担はなかったけどね。とビールを呷りながら話す
「その子たちどうしたのよ〜」
「もちろん帰りたがってた子は、家に返したさね。でも帰る場所の無くなった子もいてね。そういう子は私のところで引き取ったり、リベリオンに送ってやったりしたさね」
如何せん数が多くて捌くのに苦労したよ。と肩を窄めるオルフィリア
「それで?ジジイの方はどうなんだ」
「弁済やら謝罪回りの方は一段落着いたところじゃよ。問題はヤツの協力者の方じゃの。生徒の中から探さねばならん上に、力こそ正義の人員にもおるようじゃ。現状は、はっきり言って手詰まりじゃな」
「力人頼ればいいんじゃないの?」
「後始末を請け負った手前、おいそれとはな。あやつの部下を頼る分には良いかもしれんが」
苦い顔をするノーデンスに他の追及は特になかった
「まぁ発作については、那美に任せてもいいんじゃないかしら、あの子アイツにベタ惚れみたいだったし〜」
「そんなになのか」
「なんでアンちゃんが気付かないのよ〜」
既にこの状態になってから数杯のジョッキを空けているというにまだ飲み続ける黄泉
「お前の妹だけを見てるわけじゃないからな、私は」
「そういえば、アンタのクラスにいるクルトだけど、随分落ち着いたみたいじゃないか」
「ああ、それは婆さんの孫のおかげだろう」
「おや、クリムがかい?」
「そうだ。1年の頃のヤツは知らんが、タコの姿で固定されたクルトに、クリムはよく話しかけていたみたいでな。人の形をしてなかったから気兼ねなく話せていたんだろう」
「そうかい、あの子がそんな事を」
孫の成長を嬉しそうに穏やかに笑う
「そのクリムも呪われてたみたいだが、何か知ってるのか?」
「それは息子夫婦のかけたものだよ。昔は結構やんちゃな子だったからね。私みたいになるのを恐れたんだろうさ」
「確かにおぬしみたいになったら、またバケモノが生まれるからのぉ」
「人の身を捨てたジジイに、バケモノ呼ばわりされたかないね。まぁかけた本人達からすれば、親心ではあったんだろうさ。私じゃ解呪できないから、力人には感謝しないとだねぇ」
「よくアイツが解呪したって分かるな」
「そりゃあ分かるさね。門音と陽門の契約と言う名の呪いを、反故にできるような解呪ができるんだ。そんな事できるヤツ、力人以外に呪呪くらいなもんさね」
「それもそうか」
宵が深くなる中、大人たちだけの話し合いは続く
今後の事、訓練についてと話す内容は様々だが、結局は力人の話になる
各々が心内に秘めたものを吐き出す事はないが、変化を喜んだり、現状を憂いたりする
それだけ神至 力人という存在がこのメンバーの中で大きな存在であるのだろう
「さて、そろそろ良い時間じゃろうて、このくらいにしておくかの?」
「そうしようかね、明日もあるし」
「だな」
言いながら立ち上がるノーデンスに、続くようにして2人が立ち上がる。残る1人は机に突っ伏したまま妹の名前を呼び続けている
「ほら起きろ、黄泉。帰るぞ」
「いやぁ〜那美といる〜」
「ここにお前の妹はいないぞ」
「そんな事はないわよ〜。ほらこんなにもひんやりしてて気持ちいいじゃない」
「それはテーブルだ、いい加減目を覚ませ」
「いや〜」
「・・・」
これ以上の問答は無駄と判断したのだろう、その場を離れ黄泉を置いて帰る3人
一応受付には声をかけ、知り合いのハゲに全て任せると伝言を残したがどうなる事やら
元パーティメンバーだ、各々がどういう性格なのかは把握している。故に面倒が起こる前に退散するのは当然だろう
3人が帰った後、予想通りと言うべきか
酔った黄泉に事情を知らない冒険者グループが絡み、血祭りに上げられるのだが、それはまた別のお話




