仲間と歴史と狂人と
みんなに説明をした日から3日
俺は未だあの夢に魘されまともに眠れていなかった
ズキズキとする頭を抑えながらベッドから起き上がる
「今、何時だよ・・・」
窓の外はまだ暗くカーテンの隙間から覗く光は薄らとしていて白く儚い明るさが月の物だと教えてくる
寝不足で苛立つ心を沈めながら、ベッド脇の机に置いていた端末を手に取り時間を確認する
表示された時刻は1時22分
まだ深夜だ
あの日から目覚める時間がどんどん早くなっている
まともに睡眠が取れない事への苛立ちと不安が募るばかりだ
そのままいても気分は晴れないため、立ち上がり部屋を出る
向かう先はいつの間にか増築されていた地下室だ
増築された地下室はトレーニング用の部屋になっていて、パイトの奴が自腹切って出したらしい
言ってくくれればそのくらい払ったのにと、先日伝えたが当の本人には拒否されてしまった
誰でも使っていいと言っていたので気分転換に使わせてもらう事にしよう
だるい体と頭を引きずる様に地下室への階段を降りる
「?誰かいるのか」
階段を降り切るまであと数段というところで部屋から薄らと光が零れているのに気が付く
中に入ると、煌々とライトに照らされるトレーニング器具たちとマシンの数々
ダンベルにバーベルと言った有名なものから、ジムに行かなければ見ることの無いような、トレーニング用のマシンが数多く並んでいる
奥にはマットが敷かれ、サンドバッグや天井から吊るされた綱にスピニングバー。果てはミットまでもが置いてある
これだけの物を揃えて。増築までするとは一体いくらかかったんだと考えてしまう
その中で黙々と懸垂をする男が1人
とんでもない重量のバーベルを脚に掛けながら大粒の汗を流している
「パイト、こんな時間までトレーニングか?」
声をかけるとこちらに気が付いたようで目線だけこちらに向けて一言だけ発する
「ム?力人か少し待て」
そういうと懸垂を数回した後、脚にかけているバーベルを片手で握り懸垂用のバーから手を離す
ストンと大きな音を立てることなく着地する姿に少し引いてしまう
パッと見で100キロ以上あるであろうバーベルを持ちながら、その着地はどう考えてもおかしいだろと内心驚く
「眠れないのか」
こっちが驚いている事など、微塵も気づいていないであろう様子で汗を拭きながら声を掛けてくる
「あぁ、どうにも変な時間に目が覚めちまってな」
「難儀なもんだな、まぁいい。座れ話くらい聞いてやる。問題はお前個人の物でも人に話せば少しくらいは楽になるだろう」
そういうと奥のマットの方まで歩いていくので、俺もついて行き、パイトの前に顔を合わせる様にして正面に座る
「原因は知っている。だがお前がそれについて今、何を思っているか、どう考えているか話せ。ウヌは相談に乗ることは出来ぬが、愚痴を聞くくらいは出来よう」
「ははっ!珍しいなパイトがそんなに饒舌なの」
「ヌ?そうか?いや、そうであろうな。ウヌは弱り果てたオヌシを見たくないのだ。なぜなら──」
「そこまでだ。ったく分かったよ大人しく話すわ」
パイトが口走ろうとした言葉を遮り、大人しく今考えていることを話す事にした
全くいつも寡黙で筋トレの事しか考えてないと思っていたのに、そうでもないんだな。パイトなりに俺の事を考えていてくれたという事なのだろう
この男、パイト・レクス・ヘルカイドスはリベリオンで戦士長を務めている。肉体的な強さもそうだが、見た目からは想像がつかない程に軍略にも秀でている
そう考えれば俺がダメになっているなんてすぐ気付くのも当然か
「それで?何を話せばいい。話題くらい振ってくれんだろ?」
「フム、そうだな。オヌシは現状をどう考えておる」
腕を組み、少し悩んだ様にしたが、すぐに言葉が返ってくる
「良くは無いと思っている。けどどうしようもないってのが正直なところだな」
「それは何故だ」
当然とでも言うように疑問で返してくる
「何故ってそりゃあお前、心の傷なんてそう簡単に治るもんじゃないだろ?」
「それはそうだ。しかしオヌシは少なくとも、4月までは問題ないように見えていたのだが・・・待て、オヌシ隠しておったな?」
流石と言うべきか、俺がもう大丈夫だ。という体でいた事にすぐに気付いた様子
「いつからだ?何故もっと早くに言わなんだ」
「ずっとだよ、半年前からずっと。いくらかマシになってたのは事実だし。仲間のアイツら相手はずっと一緒にいたから大丈夫だったんだと思う」
少しムッとしたように話すパイトだったが、俺の言葉を聞いていつもの真顔に戻る・・・戻ったよな?
表情があまりにも変わらないから分かんねぇな
「クラスではどうだったのだ」
「大丈夫だった、と思う。正直分かんねぇな。もしかしたら気付いてないだけで、ずっと震えてたのかもしれない」
「そうか、この間話していた通り、説明は皆にしたのだろう?」
「あぁ、皆心配してくれた」
「・・・良きクラスメイトに恵まれたな」
「そうだな、俺もそう思う」
感慨深く話すパイト、その表情はあまり変化が見て取れないがどこか嬉しそうに見える
その雰囲気のまま先程よりも穏やかな声色で言葉を紡ぐ
「力人よ、オヌシはどうしたい。このままで良いとは考えておらぬであろう」
「それはもちろんだ。治したい、と言うより前を向いて立ち直りたいって感じかな」
嘘偽りのない本心
ただ忘れてしまって良いとも思ってはいない
俺の中でなにかが引っかかっているからだ
忘れてはいけない大事な事が、俺の記憶からすっぽりと抜け落ちてしまっているような。そんな感覚
「そうか。であれば友を頼ると良い。案外オヌシが思っているよりもあっさり立ち直れるやもしれん」
「どうだろうなぁ〜、こんな面倒臭い奴が頼っていいもんかな」
俺の言葉にそれはおかしいとでも言うように不思議そうな顔をする。オイ、なんでそんな顔してんだ
「ヌ?オヌシが面倒臭い事など今に始まった事ではないだろう。言う事は聞かないし、約束も守らない。挙句塔に行ったまま帰って来ないのだ。その度に駆り出されていたオヌシのパーティメンバーが不憫でならんかったぞ」
「うぐっ、随分とキツいこと言ってくれるじゃねぇか」
全て本当の事なので何も言い返す事が出来ない
俺が思っているよりも、皆俺の事を見てくれているんだな
「事実だ。オヌシは自分の興味と考え一直線だったからあの時はああなってしまった。そうだろう?」
「・・・あぁ、そうなんだろうな」
「だが今は違う。友に恵まれ、話し合い、相手を慮り人の為にとあろうとしている」
「そうか?そうだと嬉しいが」
「今一度オヌシの心に問うてみろ、何の為に、どうしたくてこの学園に来たのかを」
それはもうこの学園に来ると決めた時から変わらない。俺は俺の持つ力を誰かの為に使いたい
自分の欲は自分で満たす事が出来るから。余った分で人を助けたい。そう思った
だから今ここにいる。この学園に来た
「フム、自分の中では在り方を持ってはいる様だな」
「なんで分かんだよ」
「ソレはオヌシが顔に出やすいからだろう」
さも当然の様に言われ少し疑問に思う。そんなに顔に出てるか俺?自分では制御出来ているつもりではあるけど。案外そうでもないんだろうか
「そんなに顔に出てんのか?」
「なんだ、オヌシは隠しているつもりであったのか。随分と分かりやすかったぞ」
「マジかぁ〜」
案外自分でも分かっていないものなんだなと、我ながら呆れてしまう。パイトが特殊なのか俺がわかりやすいのか・・・まぁ後者だよなぁ
「そんな事はまぁいい。まだ時間はある、もっと話を聞かせろ、こんな機会は滅多にないのだから」
「あぁ、今度は何が聞きたいよ」
「そうだな───」
そうしてパイトと話を続ける。今までしてこなかったような、くだらない雑談や、昔あった出来事のあらましだったり。気づけば俺は眠っていて目覚めた頃にはパイトはいなかった
時間を確認した頃には10時を過ぎていて、当然遅刻だった
「おざーす」
三限の途中だが気にせず教室に入るとギョッとした様子で教官がこちらを見てきた・・・俺を何だと思ってんだ
「おはようございます神至くん、体調はもうよろしいのですか?」
体調不良と聞いていて来ると思ってなかったのか。先程の反応の理由を察して丁寧に答える
「はい、もう大丈夫です。ご心配おかけしました」
「そうですか、アンリ教官にはもう会いましたか?」
「いえ、まだです」
「では私の方から登校した事は伝えておきますので、神至くんは席に着いて続きから受けてください」
「分かりました」
返事してから1番後ろの席に向かうとディルとフィークスがいつものように迎えてくれる
「よう、遅かったな神至、体調もういいのか?」
「あぁ、大丈夫だ昨日よりは元気だ」
「サボりじゃなかったプゴか」
「違わい、サボる理由がないわ」
「プゴゴッ、神至くんは勉強得意だったプゴね」
席についてテーブルの端末を起動する
今の授業は───コレだ
歴史の教科書を選択しページを開く
今日の内容は1000年前の話だっけか?
「神至よくそんなスラスラページ開けるな」
「こんなもんじゃね?前日の授業の内容覚えとけばいいし。次がどこからなのかはしおり機能使って保存しとけばいいしな」
俺の言っている事がよく分からないのか不思議そうな顔をしている
「いや、何言ってんのかよく分かんねぇんだけど」
「ん?タブレット置いた時にテーブル側の端末と同期するだろ、その時に記録したしおりも一緒に残るはずだけど」
「マジかよ、そんな機能あるの知らなかったぞ」
「そこ、盛り上がるのはいいですが。もう少し静かに」
「はい」
「すいません」
話し声が大きすぎたようで叱られてしまった
歴史学の担当はヘイス教官という女性で結構淡々と進めていくタイプの人だ
おかげで皆この授業の時は大抵みんな眠そうにしている
「では先程の続きです。1000年前に起きた事変と同時期に戦争があった話はしましたので、ここで皆さんに問題です。この事変で起こった大きな変化とはなんでしょう」
間が空いて直後に問題か、まだ定着していない知識を固めるために良いように使われたな
とはいえ1000年前の事変と言えば、知らぬ人はいないであろう出来事。この世界が異世界と繋がりあらゆる全てが渾沌と化した時代
その辺での大きな変化というのは魔力、魔法がこの世界に発生した事だろう
つまりこの事変が起こるまで、世界には魔法がなかったというになる
当時の事は知識でしか知らないとはいえ、現在の生活からは考えられないほど不便だったに違いない
ありとあらゆる物を原動力に魔力を用いる現代社会に於いて、魔力と魔法は切っても切れないものとなっている
ヘイス教官が指しているこの出来事は、魔生事変と呼ばれ現在の暦にもなり、今は西暦3017年で魔生歴997年となっている
ヘイス教官からの問題は月夜野さんが回答していて、内容も俺が知っていることと変わりなかった
その後の内容も、相変わらず知っている事ばかりで、目新しさは感じなかったが。やはり教える人が変わるとその話のニュアンスも少し変わってくる
例えば先程の魔生事変のすぐ後に起こった戦争
異界対戦と呼ばれるこの戦争では、太平洋のど真ん中に突如として現れた島と他の国とで起こった戦争だ
仲間から教わった時は、こちらの世界の惨敗と聞いていたが、ヘイス教官の話だと惜敗とも取れる言い方だった
これに関してはおそらく前者が正しい
魔法を碌に扱えない人間が、機械だけで太刀打ち出来る通りがない。現在であっても単純な火力兵器は殺傷能力は高いものの魔法を打ち破る事は出来ないのだから
残りも約1000年前の話が続き、新しく知識が増えることはなく。いつもの様に時間が流れていくだけとなった
───
「神至くん体調はどうかな?クマ酷くなってるように見えるけど」
那美さんからの質問だ
「一応は大丈夫、ちょっと眠いけど」
授業後、俺の周りに数人が集まってきて様子を確認しては人が入れ替わる。なんだか見世物にでもなったかのような状況だ
そんな状況であるものの、向けられる視線からは心配を感じて少しばかり心が温まる。けれどそれと同じかより大きく、申し訳なく思う気持ちが強い
「寝不足は美容と心の大敵よ、無理に眠れとは言わないけど、寝れる時に寝ときなさい」
「ありがとう深於さん」
体が震えるのは、もうここ数日で当たり前になってきてしまっているからか、あまり距離を詰めて話をしようとする子はいない
変に配慮させてしまい、申し訳ないな本当に
集まってくれたみんなに一声かけ。次の授業が始まるまでの間少しだけ目を閉じ体を休ませる
目を閉じると現れる。瞼の裏に焼き付いて、消えなくなってしまったアイツの姿。その口はこちらに何かを伝えるように動く
覚えのない口の動きとこちらに届かない声
何を伝えるために今こうして現れているのか、それとも俺の変化によるものなのか
考えたところで答えは出なくて、体は休めても、心が休まることはなかった
─実技棟─
「神至動けるのか?」
「まぁ、大丈夫だと思う。今日は他にも2人いるし何とかなるだろ」
「それもそうか。無理はするなよ、今日はどの道お前じゃ役に立たないからな」
「ヒデェ言われようだなぁ」
アンリに酷い扱いをされていると今日から手伝ってもらう外部講師の2人がやって来た
「しょうがないじゃない。あなた神名解放できないんだもの」
「ヒッヒッヒ、神名ないからねこれに関してはしょうがないさね。諦めな力人」
「そんなに言われんでも分かってらぁ」
それにしても気軽に声かけられて、日中暇そうにしてる2人にしたけど、学生のみんなからすれば恐怖の対象も良いとこだよなぁ
片や現役Sランクの死神姫、もう1人は元Sクラスの厄災魔拳とどちらも化け物じみた強さで有名な2人だ
「全員集まれ、実技を始める」
アンリの号令にゾロゾロと集まるクラスメイト達
黄泉は確か俺がいない間代わりに講師やってくれてたんだっけか?那美さんと深於さん以外が少し驚いたような顔をする。2人は事前に聞いてたな?
「今日より外部講師を招いて神名解放の訓練を行う。お前ら失礼の無いように」
アンリの発言に少し安心したような感じを見せるクラスメイト達、やはり教え方の問題だろうか
「はぁいひよっこ達。久しぶりね、門音 黄泉よ。忘れてないわよね」
「私は初めての子の方が多いだろう。オルフィリア・レヒトだ。名前くらいは聞いた事あんるじゃないかねぇ。まぁよろしく頼むよ、ガキンチョ共」
「この2人にも今日からの訓練に参加してもらう。常にいる訳では無いからいる時に最大限利用しておけ」
「アンちゃんがいちばん失礼だよ」
黄泉のツッコミをスルーしつつみんなの様子を見ていたが、ゲンコツババアが自己紹介をした瞬間に強く反応を示したのが2人いるな
ひとりはレヒトさんだが、伝えてなかったのか。酷く驚いた様子で、口をあんぐりと開いたまま固まってしまっている。見た事ねぇぞあんな表情
もう1人は深於さんだ。まるで憧れの人が目の前にでもいるかの様に目を輝かせている。この反応は意外だったけど。もしかしてあの戦闘スタイル、コレの真似してるのか?やめた方がいいと思うけどなぁ
「何か言いたそうな顔してるねぇ力人、文句でもあるのかい?」
「いや、なんもねぇよ。とりあえず皆の事は頼んだわ」
「そうかい?ならいいけども」
どうしてこうも勘が鋭いのか、やっぱ恐ろしいなこのババア
その後、俺は特にする事も無いので、クルトと一緒に端に追いやられた。他のクラスメイトはいつも通りの3グループに分かれそれぞれ教えを受けてるみたいだ
クルトと2人になるのは学園だと初めてか、何か話す事があるかと思考を巡らせていると。向こうの方が先に声を掛けてくる
「それで?この後どうするのかね?」
「どうもこうもやる事ねぇだろ。俺は神名持ってないし、お前は解放できるしで、模擬戦くらいしかやる事ねぇよ」
「ふむ・・・そうか。なら久方振りに私の相手をしてはくれまいか」
クルトは少し考えるような仕草をした後、模擬戦を申し込んでくる
確かにそれしかやる事ねぇ。とは言ったがなぁ・・・
「んだよ急に」
「何、大したことではない。私をのした後、君が何故ああなったのか。話は聞いたが1戦交えるのが早いと思っただけだ」
「別に構わねぇけど、何企んでんだ」
「クハハッ信用が無いな私は」
「当たり前だ、お前がどれだけ悪辣だったか忘れたのか?」
「痛み入るな、過去の私はそうだった、でも今は違うのだよ。この姿でいる事がその証明にはならないかね?」
そう言って手を広げ、自分の姿をよく見せようとする
確かにこの間までは女性体を主として使っていたのにも関わらず、俺の話を聞いてからは男性体を使っている様だった
「分かった。物のついでだ、一本取ったら呪いもうひとつ解呪してやるよ」
「そこまで求めたつもりはないのだがね」
仕方がない、という俺の態度に少し苦笑しながら得物を空間魔法を使い取り出した
三又の槍、人型の時はそれがメインだったな
それを見て俺も本来の武器である『真理』を取り出す
「おや、木剣ではないのかね」
「この間ぶっ壊したからな。今はこっちでやってる。というかそもそもお前相手に加減とかする訳ないだろ」
「クハハハッ、やはりお前も変わったな」
何か面白い事でもあったのかひとりでに笑い出す
「んだよ。本気で両断されてぇのか」
「いやすまない。あまりにも変わったお前を見てついな」
「ソレ、よく言われんだけど何が変わってんだか俺には分かんなぇな」
「そうか、自覚は無いか。では少しばかり話しておこうか」
「・・・」
返事は特にしない。どうせ勝手に話し出すだろ
いつもより真面目な雰囲気に少し驚いた事もあるが特に言う事はない
「あの頃、仲間に囲まれ、冒険者として優秀であったお前は、傍から見れば人気者にも見えただろう。しかし以前は何をするにも、始めるにも常に1人だった・・・塔に行くのは今も変わらないかもしれないがね」
その言葉に否定も肯定もしない。ただ、黙って静かに聞く
「ある者からすれば孤高にも思えるそのあり方に、私は孤独を見出した」
「それはなんでだ?」
少し疑問に思い問いを投げかける
「あの頃、と言っても私が知っていた時だが、お前は他人から真に理解される事はないと。他人を理解出来る事はないと。そう思っていたのではないかな?」
「まぁ、そうかもな」
「それはあの力によるところもあったのだろう」
返す言葉はない、事実だ
「だが、今は少し違う。元々他人の事をよく見る質ではあったのだろう。それが良い方向へ変化している」
「具体的はどんな感じだよ」
「そうだな、分かりやすく言うのであれば。かつてのお前は自分本位、興味関心の向いたことに対してのみに真っ直ぐだった」
「それが学園に編入してからのお前は他人の為に、誰かの為に持ちうる力を振るっているのだろう?周りをよく見ていた事が表に出て、他人に対する配慮へと変わっている。それが大きな変化だと私は感じている」
あぁ
まさかコイツにそんな事を言われるとは思わなかった
今クルトが口にした事は、俺の在りたい姿をそのまま言語化したような物だ。自分以外の誰かの為に俺の持つ力を使いたいとそう思っていた
なんだ、ちゃんとできてたんだな
「あの頃なら誰に相談するでもなく、説明もなしに消えるように行動していた。先程の模擬戦の話もそうだ。私の知る頃ならば、得物を取り出した瞬間には斬りかかっていただろう?」
「流石にそこまでやばい事はしてねぇよ」
「・・・」
おい、何故何も言わない
俺の言葉に返答する事はなく。そのまま話し続ける
「ここから先は私の推測だが。例の話の一件で君は、女性に対する対人恐怖症のような物を発症する何かがあったのだろう。それは私には知りえぬ事だが、コレだけは言える」
溜めるようにして一呼吸置き
そして言葉を続ける
「私の知る神至 力人は、たかが罵詈雑言如きで心を砕かれる様なひ弱ではない。決定的な原因があるはずだ」
「その原因となった事が、結果として。今、他人の為に力を振るう様になったと考えている。相違ないかな?」
「よく見てるよお前、すげぇな。多分そうだと思う」
「クハハッ前にも言ったが、私はこれでもお前を気に入っているからね。面白い人物を見逃す事はないさ」
「ええい、やめろ気持ち悪い」
クルトの推測は正しい。俺が本当に言葉だけで心が砕かれ、歪んだとは自分でも思えない。今ならもしかしたらショックは受けるかもしれないが、当時であれば尚更意に返す事はなかったはずだ
ただ、アイツの言葉が心に刺さって消えないのも事実ではある
それ以外の何か。クルトの言葉を借りるのならば、決定的な原因を俺は忘れている
だがそれを思い出しかけている、だから今こうして発作がまた出てきてしまっているのだろう
「まぁでもなんかスッキリしたわ。お前に感謝する日が来るとは思わなかったわ」
「ククク、やはり君は面白い。ではそろそろ身体を動かそうではないか、喋るだけではアンリくんに何を言われるか、分からないからね」
「それもそうだな」
クルトの言葉に同意してお互い距離を取る
「始めるぞ」
「ああ、いつでも構わんよ」
刀を鞘から抜き構える
呼吸を整え、しっかりと正面にクルトを捉える
始めよう
構えを少し崩して走り出す。1歩目を踏み込むのと同時に肉体強化と『ダークボール』を数個展開する
対するクルトは余裕の表情で、槍を地面に突き立てたままこちらを見ている
走りながら展開した『ダークボール』を全て射出し先手を打つ
「甘いな」
地面に突き立てた槍を抜きながら『ダークボール』を打ち払う
「悪いな本調子じゃないんでね!」
「それもそうか。では、お互いできうる限りの力で遊ぼうじゃないか!」
勢いを乗せた振り下ろしに対し槍の柄を振り上げる形で受け止める
槍が耳を劈く金属音を撒き散らす様に轟かせ、打ち合いの強さがどれ程のものかを周りの者にしらしめる
クラスメイトは言わずもがな、かなり離れているはずの他のクラスの人間でさえ目を向けている
それを知ってか知らずか、攻撃の手は加速していく
2撃、3撃と繰り出す度に2人の手元は速く鋭くなっていき、打ち合う事十数回。とても常人では見えぬ速さに到達する
「加減ばかりで、ストレスだったのでは無いかね」
「そうでもねぇって言いたいとこだが、案外ストレス溜まるもんだな」
「では今はどうかね」
「今?そりゃお前、楽しいだろ。加減いらねぇからなぁ!」
刀と槍が打ち合う轟音の中
両者とも息を切らすことなく、攻撃の手が緩む事もなく会話を続けている
どこをどう見ても、化け物同士の殺し合いにしか見えないその光景に。学生のみならず、教官も息を飲む他なかった
1部おかしなものでも見たように、笑っている者もいるが片手で収まる人数だけだ
数十、数百と武器のみで打ち合う2人
両者共にその顔に浮かべているのは笑顔である
心から楽しんでいるであろうその様相に、見る者が思い浮かべるのは狂気の一言。ただそれだけ
「そろそろ魔法も使おうか」
「上等!」
互いに打ち合いながら魔法を展開する
共に無詠唱、そしてその数もまた非常識である
互いに出せるだけ、制御できるだけの魔法をありったけ出した。そのせいで傍からではどうなっているか見えない程に2人の周りは渾沌とした魔法の壁に覆われる
どちらが撃つのが速かったかなど到底わかる訳もなく
しかし武器の打ち合う音が度々途切れる事から。互いに打ち合い、捌きながら戦っていると認識させてくる
金属の打ち合う轟音に魔法の爆発する音。戦場と言われても差し支えのない状況が続くことおよそ5分
少しずつ魔法が減っていき次第に2人の姿が見えてくる
魔法の壁の隙間から垣間見えるその姿。どちらも手の動きが見えぬほど速くなり、攻防を示すのは金属音のみとなっていく
魔法を全て打ち払い2人の姿が完全に顕になってもお互い無傷のまま、とても学生とは思えぬ強さだ
「まだまだ行けるな?」
「当然」
打ち合いのさなか短く言葉を交わしさらにギアをあげようとする
「ではこれより本気で行こうか」
クルトの発言を聞き打ち合いを止め距離を同時に取る
「神名解放『クトゥ──』」
「久々にノってきた、やってやるよ。我──」
2人が言葉を紡ごうと言葉を口にした瞬間、止められる
「クソガキ、そこまでにしときな」
「クルト、あなたもよ」
力人は喉元に3色の魔法を纏った手刀を突きつけられ
クルトは身体を両断せんとする魔法で構築された黒い鎌をその身に当てられている
Sランク2人が全身から闘志を漲らせながらの一言にどちらも少し落ち着きを取り戻す
「やり過ぎたか?」
「おやおやコレは怖いものだ」
「他の学生が怯えるほどの戦闘なんてするもんじゃないさね」
「そうよ、あなた達規格外にも程があるんだからもう少し加減しなさい」
特に焦った様子もなく止めに入っている2人に規格外と言われてもさして説得力がないんだが、それを言ったら最後。2人まとめて襲ってくるだろうと思い口を噤む
「流石に落ち着いたかしら?」
「ああ、私は大丈夫だ」
「あんたはどうだいクソガキ」
「クソガキは余計だ、俺も大丈夫だ今は落ち着いてる」
まだ少し戦闘の高揚感で心は昂っているが、言葉に嘘はない
「にしても力人あんたアレ解放しようとしたでしょ。ダメよ那美との秘密って事にしてるんでしょ?」
「すまん、久々に本気でやれたからついな」
「相変わらずの戦闘狂だね、そんなんで普段の実技は大丈夫なのかい」
「流石に普段は大丈夫だ」
ババアの心配も最もだが、それに関しては問題ないだろう。普段は意図的に加減してるし、そもそも戦闘を楽しむ程の余裕はない。相手の観察しながらアドバイス考えているんだいくら俺でもそんなに器用じゃない
ひとまずコレで終わりにして4人でアンリの元へ向かう
合流した後、黄泉とババアはみんなの元へ行き残った俺ら2人が叱られたのは言うまでもない




