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トラウマの説明と友人と

意識の奥、心の深層


自らが抱える心の闇


その闇の中へ、ゆっくりと潜り込むように、深く、深く沈んでいき、指先からじわり、じわりと黒く染まっていく


藻掻こうとしても。体は冷たい水に覆われたように、寒くて、痛くて、思うように動かせない


混濁する意識は、時間が経つにつれ、解ける様に霧散していく、まるで自分が、自分でなくなるかのように


揺蕩う様に意識が無くなっていく中


突然パチリと衝撃が頬を叩く


それにより闇の中から引き上げられる様な感覚が身を包み、霧散していた意識が形を取り戻す


身体は動く、心は少し歪んでいる


そうハッキリと、認識できるようになってくる


思考さえ戻ればあとは起きるだけ


拳を固く握り、ゆっくりとあげる


そして自分の顔に全力で打ち込み


「起きろ」


と声にならない声を出す


何も無い、ただ真っ黒な闇だったはずの辺りは、だんだんと色を取り戻し、その姿を現す


このひと月で見慣れた景色に、何をしていたのか思い出す


そうだった、まだ実技の途中だ


自分の学園にきた理由を思い返す


己以外の誰かの為に行動し、救える人になりたいと


そうあれるようにと、願ってこの学園に来た事を


目の焦点が定まり正面を見る


警戒する獣の様な気迫を放つディルが、そこにはいた


「ありがとうディル、良いパンチだった」


目の前の友人に一言、そう発すると緊張が解けたのかその場にドスンと尻もちをついてしまった


思考は出来るようになってきたが、まだ少しふわふわするし身体も震えている


でも、それが分かれば今は十分だ


辺りを見回すと後ろにフィークスと朱裂くんが転がっていた


位置と体勢から投げられたのだと分かる、やったのはおそらく俺なのだろう


ディルの後ろにはアンリが心配そうな顔でこちらを見ている


その更に向こう側クラスメイト達がこちらを見ている

その全ての視線がこちらを慮るように、何があったのか様子を探るような目をしている


だいたいの状況は掴めた

ならやる事は一つだ


その場に静かに正座して頭を下げる

「迷惑かけて申し訳ない!」


盛大にやらかした時は土下座に限る

これは養父から教わった事

・・・まぁ、あの人はしょっちゅうしてたけど


一瞬静かになったが、直後に前後から笑い声が響く


ディル、フィークス、朱裂くんの声だ


「顔上げろよ神至」


笑いながら話しかけてくるディルの声に顔を上げる

困ったような、しょうがないなという顔をしながらこちらを見ている


「ほら立った、立った。そのままじゃ汚れちまうだろ?」

「あ、ああそうだな」


その言葉に従いゆっくりと立ち上がるとディルが肩を組んで来る


「急に謝り出すからびっくりしたぞ」

「悪い、迷惑かけたから謝らないとって思ったから」

「気にすんな、気にすんな。俺ら投げられただけだし。いつもの訓練に比べたら余裕余裕」


明朗快活に笑うディルに少し安心する

とりあえず前みたいな暴れ方はしていないみたいだ


「プゴ、明日のお昼は奢ってもらうプゴ!」

「あ、ずるいぞホープ!神至俺も!」


ディルと俺のやり取りを見て大丈夫だと思ったのかふたりが後ろから声をかけてくる


「あぁ、もちろんだ。迷惑かけた分くらいちゃんと返すさ」

肩を組まれたまま、顔だけ動かし返事をする

そのまま合流してきた2人も合わせ、男4人で話していると、いつの間にかクラスメイト皆が集まって来ていた


「神至さん、もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。ごめん避けるようなことをして」

「いえ、少し驚いただけですので問題はありませんよ」


心配そうにしてくれるクラスメイト達、その殆どは状況を理解できてはいないのだろうが、それでもその気持ちは何となく伝わってくる


あれだけ酷く震えていた身体も今は落ち着きを取り戻している。まぁ、まだ少し震えているのには変わりないが


「神至、大丈夫なんだな?」

俺の様子を少し離れた所で見ていたアンリが、こちらに合流して声をかけてくる


「見ての通りだ、完全にって訳じゃないけど、かなり落ち着いた」

「そうか」


その言葉を聞いて、安心したのかホッと一息付くと表情が少し和らぐ


「実技の途中で悪いんだけど、皆に説明させてもらってもいいか?」

アンリとクラスメイト達に確認する様に声を発する


「・・・構わない好きにしろ」

一瞬間が空いたのは、俺がまたさっきの様になる事を危惧しての事なのだろう


でも、また同じ事が起こると仮定するなら、事前に知っておいて貰った方がお互いのためになる


無駄に傷ついて欲しくない。その場の俺の反応はその人を嫌悪している物ではないと。知っておいて欲しいのだ


昔一度、それで酷く傷付けてしまったことがあるから。同じ轍を踏む訳には行かない


「それじゃあ説明するから皆集まってくれ」


俺を囲うようにみんな集まってくれる

必要以上に距離が近くない事も今の俺にはとてもありがたい。が


「説明の前にディル?いつまで肩組んでるの?」

「いいじゃねぇか」

「いや、話しにくいから一旦離れろよ」

「ほーい」


俺の心内を察してなのか、いつも通り気楽に話してくれる。それが何より救いとなった


「それじゃあ話して行こうか、まずはさっきの状態についてだな」


その場に座り込んで話し始める

皆も長くなると感じたのか、俺が座ったからなのか、各々楽な格好で座り話を聞いてくれる


「あれは発作みたいなものなんだ」

「は〜いリキリキ、なんで発作が起こるの〜?」

「ステイ、ステイ今からその話をするから待ちなさい」

「は〜い」


迦倉さんが間に入ってくれた事で少し雰囲気が和らぐ

「俺が元々冒険者やってた事はみんな知ってるな?」

「知ってるよ〜」

「今更知らないヤツはいないだろ」

「そうですね、皆さん知ってると思います」


「その冒険者やってた時に少しトラブルがあってね、当時付き合っていた女性を目の前で失ったんだよ」


軽い口調で話す割に内容が重いからか、皆の表情が少し曇る。アンリなんてまぁすごい顔をしてる。けど皆の反応は気にせず話を続ける


「コレがまたすごい性格の持ち主でね、ちょっと苦労したんだよ」

「自慢か?自慢なのか!?」

「はいそこ、ディル、少し黙って」


ディルの反応やツッコミにみんながくすくすと笑う


「それで?その女性となんかあったのか?」

「さっきも言った通り目の前で死んでしまった。まぁ魔物に殺られて死ぬなんて、冒険者の中じゃ至って普通の事なんだけど。俺なら助ける事もできた。でもそうはしなかった」


皆が口を噤み、何とも言えない顔をする中、1人不知火くんが口を開く

「どうして助けなかったんだ?」

「それは・・・浮気現場を目撃したからだな」

「へ?」

「は?」


気の抜けた声が周りから聞こえる

こちらを見ている表情もなんともまぁ間の抜けた顔をしている


「仮にも冒険者ともあろうものが塔の中で密会してたんだよ。で、俺はたまたまそこに居合わせてしまった」


本当はやる事ヤッていたのだが。そこまで詳細を言う必要はない。この場にいるのが男子だけならいざ知らず、女子にまで聞かせるのは少しばかり申し訳なく思うから


「そんな事があったんですね」

「そう、その場に出くわしてしまった俺は頭ん中真っ白でさ、なんも考えられ無くなってボーッと突っ立てるだけで。魔物にも気付かず、そのまま目の前で浮気相手諸共ぺしゃんこにされたって訳だ」


皆が沈痛な面持ちの中。元気よく質問してくる人物がいる、迦倉さんだ


「リキリキそれでトラウマになっちゃったの〜?でもそれだけなら魔物にトラウマ持ちそうだよね〜」


迦倉さんの疑問は尤もだ、確かに今までの話を聞けばトラウマになりそうなのは魔物の方だ。肝心な事をまだ俺は言っていないのだから


「まぁなんと言うか、魔物が来る前にその人から色々言われたんだよ。大事に思っていた人に裏切られた挙句、罵詈雑言を浴びせられたら、まぁ大抵の人は傷つくだろ?」

「どんな事言われたの〜?」

「稲見それは流石に失礼よ!」


それを制止する様に月夜野さんが声をあげる

他のみんなも気になりはしているようだけど聞いても良いのかと逡巡している様な感じだ


「いいよ月夜野さん、大丈夫だから」

「ですけど」

「大丈夫、皆に俺のことを知ってもらうにはちょうどいい機会だから。どんな質問でも受け付けるよ」


俺の事を知ってもらうと言うには、余りにも情けない部分を見せている自覚はある。でも普段あれだけ強いと言われる俺ですら、弱い所があると言うのは人間として当然だろう


「それで実際、どんな事言われたの?」


そう聞いてきたのはテルクスさんだ

男子よりも女子の方がこの手の話題は得意なのだろう、異性関係の話で盛り上がるのは国の皆を見ていて何となくだが知っている


「そうだな、掻い摘んでいくつかあげるなら。冒険者として強すぎて人間味を感じないとか、顔はそんなに好みじゃないとか、金以外大した取り柄のない財布野郎とか、あとそもそも異性として魅力を感じたことないとか言われたな」


思い出し口にするとやはり心が形を歪めていく、しわくちゃにされた紙を何度も開いてはぐしゃぐしゃに丸めるように


「・・・掻い摘んでそれなの?」

「ああ、他にもあるけど───これ以上は辞めておこうか」


聞いてるみんなの表情がなんとも言えないというかどう反応したら良いのか分からないと言った感じだ

1部怒ったような顔や悲しそうな顔をしているけど俺は気付くことはなかった


「ひとついいかな?」


挙手をしながら宮本くんが質問をしてくる


「なにか気になることあったか?」

「いや気になるというか、聞いた限りだとおかしな話しばっかりなんだけど、聞きたいのは、本当にそれ付き合ってたの?」

「一応恋人だったって認識だけど、何かおかしいのか?付き合ってくれって言ってきたのは向こう側だし」


「・・・ちなみにだけどデートってした事」

「ない、俺ずっと塔に籠ってたし」

「手を繋いだりとか・・・」

「した事ない」

「キスとかその先とか」

「ない、全くもってない」

「・・・じゃあ一体何をしたんだい?」

「渡された領収書の決済くらいしかした事ないな」


一応、塔から戻ってきた時に一緒に食事する事くらいはあったが、そこはまぁ別にいいだろう


全員が黙り困惑と呆れの表情で俺を見てくる

何だ?何がおかしかったんだ?


その沈黙を破る様に、少し申し訳なさそうにというか、言いにくそうに深於さんが口を開く


「えーっと、神至あんた本当にただの財布として扱われてただけで、付き合っていたとは言わないわよそれ」

「そうなのか?」

「疑問に思った事とかないわけ?」

「なかったな、塔で魔物倒したり、お宝探したりが楽しくて微塵もない」


全員が一斉にため息を吐く

コレは俺の認識がおかしかったと言うことか


「これぞ神至って感じだな」


ディルのその発言に皆が頷く

なんか若干失礼なことを言われてないか?


「このバカに一般常識など求めても無駄だぞ、それは私が保証する」

「いや、いらん保証すんなよ」


アンリの発言に納得したように頷くのに、みんな俺の言葉には疑問を持つように首を傾げる


「え、そんなに非常識なの俺?」

「まぁ、神至さんですから」

「そうだな、神至だもんな」


待て月夜野さんと朱裂くんどう言う事だそれは


「まぁまぁ、せっかくなんでも質問受け付けてくれるんだ。この機会に色々聞いてみようぜ」


話題を変えるようにディルが声をあげ、それに続くように那美さんが手を挙げる


「はい、神至くん質問いいかな?」

「何かな?」

「神至くんはその女性の事どう思ってたのかな」

「俺としては大切に思っていたつもりだよ、何せ初めて恋人って関係になった?訳だったし。だからこそ、その人から言われた言葉で、俺はあんな風になるようになった訳だし」


「つまりアンタは女性恐怖症って事でいいのかしら?」

「まぁハッキリ言うとそうだな」


「私達もやはりその、恐怖の対象になるんですね?」

「そうだな、月夜野さんの言う通りだ。ただそれに関してはすまないと思ってる。結局のところ俺の心が弱いだけの話だからな」


皆が憐れむような微妙な顔してる中、フィークスから質問が投げかけれる


「男子に対しては大丈夫なんだプゴ?」

「ああ、男子は大丈夫だ、女性だけは体が震える。酷くなるとさっきみたくなる」


「でも先月は大丈夫だった」


ポツリと呟く様な東雲さんの発言に、皆も不思議そうに確かにと納得する


「確かにそうだな、先月はここまで酷くなることはなかった。今朝夢にそいつが出てきてから体調が良くないんだ。だから皆が悪いわけじゃないよ」

「今日の朝早かったのは、そのせいだったんですね?」

「そういうこと」


月夜野さんの発言を肯定する、その通りすぎて特に言うことは無いからな


「今後また同じような事があった時私たちはどうすれば良いでしょうか」

「そうだなぁ、女性陣はなるべく近づかずに距離を置いてもらって。男性陣はさっきの3人みたく殴ってくれればいい」

「殴る必要あるか?さっきも思ったけど絵面酷いぞかなり」


怪訝な顔でそう発言するディル


「そこに関しては特に気にせずやってくれ、まともに思考できなくなるから、何しでかすかわからん。その前に止めてくれると助かる」

「神至がそれでいいなら俺は構わないけど」


これで一通り話し、俺から言うことが無くなった所で不知火くんが一言


「神至、お前すげぇヤツだと思ってたけど、結構面倒臭ぇヤツだな」

「雷、流石にそれは失礼」

「不知火てめぇ、なんてこと言いやがる」

「いや事実だろ?強くてすごいヤツなのは変わんねぇし、この話を聞いたらそう思うだろ普通」


ギョッとした様子で、皆が不知火くんを見て注意する。そんな中俺は1人笑ってしまう


「ハハハッ!面と向かって言われたこと久々だわそんな事。確かに面倒だ」


不知火くんを見ていた皆が、今度は豆鉄砲を食らった鳩の様な顔をしてこちらを見てくる


「いいのかよ。結構酷いこと言われてるぞ」

「そうだな、でも今の俺を表すには丁度いい表現だと思うぜ」

「そうか?俺はなんか嫌だぞ」


如何にも不服だという表情でこちらを見てくるディル


「普通はそうなのかもな、それでもきちんと良い所も見てくれてる。不知火くんの中で俺は強くてすごいヤツだけど、なんか面倒臭い所があるってだけの話だ」


彼は事実を述べただけ。ただ、言い回しがストレート過ぎて、人によっては受け取り方が違うのだろう


「神至がいいなら別に俺は・・・悪かったな不知火、急に怒鳴ったりして」

「いや、俺の方こそ悪い。思った事口に出しただけなんだ。すまない神至」

「大丈夫、気にしてないから」


謝罪の応酬が続き、皆が話さなくなった所でアンリが口を開く


「これで一通りの説明は終わったな。神至、お前続けられるか?」

「ああ、とりあえずは落ち着いたから。大丈夫だと思う」


俺の言葉のその裏を、探るようにジッとこちらを見つめたあと、少しため息を吐いてまた口を開く


「ならこれでこの話はひとまず終わりだ、お前ら実技はあと1時間残ってる、神名解放の訓練続けるぞ」

『えぇー』


集中力が切れてしまい、やる気が出ないのだろう

声を揃えて項垂れる


「いいから立て、ほら続き始めるぞ」

全員を立ち上がらせて第1、第2グループのメンバーを連れて離れていく


皆の哀愁漂う後ろ姿に苦笑いしながら俺と第3グループのメンバーはそれを見送った


「それで神至さん、この後どうしますか?」


他グループが離れた事で月夜野さんから声がかかる

距離は相変わらず保ったままだ。とてもありがたい


「そうだな、とりあえず皆の様子みながら指示だけ出すことにするよ。本調子じゃないし、またさっきみたいになっても朱裂くんの負担が大きすぎるからな」

「分かりました、では的の方だけ用意していただけるとありがたいです」

「ああ、それくらいならいくらでも」


震える体を擦りながら、少し離れて的を用意する


残った1時間は全員魔法の練習をしてもらった

俺の負担にならないように質問は最低限で、こちらからの指摘もいつもより少なめ


1人距離を置いていることで、思考する時間が取れるが。自分の事なのに上手くコントロール出来ないその情けなさに、あまり考えはまとまらなかった




─放課後─


「神至今日どっか寄って帰ろうぜ」


帰りのホームルームが終わり、帰り支度をする中ディルに声を掛けられる


「いいね、気分転換に遊んでから帰るか」


とは言ったものの、俺に世間一般の遊びはイマイチ分からない


「おっ、乗り気だな、フィークスお前も行くだろ?」

「行くプゴ!」


楽しそうに話すディルにフィークス

せっかくだから朱裂くんも誘うか


「朱裂くんも誘ってもいいか?今日は迷惑かけたし償いも兼ねて」

「いいぞ、もちろんだ。おーい朱裂、お前も一緒に行こうぜ」


離れた席に座っていた朱裂くんに声をかけるディル

ちょうど支度が終わったところだったのかこちらに来る


「なになに?なんの話しよ」

「これからどっか遊び行こうぜって、話してたんだけどよ。朱裂もどうだ?」

「いいね、行こうか。神至ゲーセンとか行ったことあるのか?」

「いや正直さっぱりだ」


遊びと言えば剣術くらいだったし、そもそも塔に篭もりっぱなしでどんなゲームがあるかなども全然知らない


「なら商業区画のゲーセン行って遊ぼう、あそこなら色々できるっしょ」

「そうだな、そうしよう」


教室を抜け男4人で談笑しながら商業区画へ向かう


「にしても神至、彼女いた事あるとは中々隅に置けないよな〜」

「そういうもんなのか?」

「そうプゴね、いつから付き合ってたとかは聞いてないプゴだけど。ボクはいた事ないプゴ」

「俺もないな、ティリファの件があってからずっと鍛錬と勉強ばっかりしてたし」


各々の感想と羨ましがるような視線を浴びる。彼女ができる、いたということは何かしらのアドバンテージになるのだろうか?

そんな事を考えていると朱裂くんから質問が飛んで来る


「あん時聞けなかったんだけどさ、何がきっかけで付き合う事になったのさ」


他愛もない話。そんな風で変にこちらを気遣うでもなく、軽い口調で話してくれる。それに流されるように俺も口を開く


「んー?どうだったかな。確か塔の中でパーティメンバーと一緒に魔物と戦ってた所を手助けしたんじゃなかったっけな?」


忘れていた記憶を引っ張り出すように記憶の中を探す。初めの出会いは何時だっただろうか


「覚えてないんかい!」

「あのころは本当に塔の事しか考えてなかったからな、寝耳に水ではあったさ」

「プゴォ、神至くんの話はいつも塔の話ばっかりプゴね」

「しょうがないんじゃねえか?冒険者だったんだし」


少し呆れたような朱裂くんとフィークスにどこか納得しているようなディル

昼間のあの状態と比べればはるかに調子は戻って来ている。この分なら明日は今まで通りに戻るだろうか


「塔と言えば、神至冒険者クラブ入ったんだろ?どうなのさ」

「まだ低階層だからそんなに面白くは無いかな。久々の塔で楽しんではいるけど」

「へぇ、最高到達階とかあるのか?」

「塔なら3つ踏破してる、やっぱり深くなればなるほど魔物は強いし、やりがいあるな」


「踏破してるってお前それ、Sランクじゃねぇか!」

「プゴ!覚えてるプゴ。塔をクリアしたらSランクになれるプゴ!」

「あれ?2人に言ってないんだっけか?」

「「聞いてない (プゴ)!」」


急に大きな声を出した2人に、周囲の人が驚きこちらを見てくるが。すぐに知らないフリをする

まぁビックリするよな


「まぁでも納得したわそりゃ強ぇ訳だ。にしたってなんで学園来たんだよ。そんだけ強けりゃずっと冒険者でも良かったんじゃないか?」


ふと疑問に思ったという様に問い掛けられる


「それに関しては今日話した件が原因で少し離れてたんだよ」

「なるほどプゴ、でもそれと学園になんの関係があるプゴ?」

「それは俺が塔を離れてうだうだしてる時にジジイに学園に誘われたのが大きいかな」

「気分転換みたいな感じか」

「それもある。けど1番は、学校行ってみたかったってのがあるな」


そこまで聞くと少しの間考える様にして3人とも黙り込む


「・・・?もしかして一度も学校に通ったこと無かったのか?」


漸く合点がいったのか若干恐る恐るといった風にディルが聞いてきたので、肯定する


「そうだぞ」

「え?今まで本当に冒険者しかやってなかったの?」

「ああ、冒険者以外してないぞ」

「「マジかぁ」」


呆れ半分納得半分と言わんばかりの表情で朱裂くんととディルが声をあげる


「そりゃあ一般常識とはかけ離れるわ」

「ディルのいう通りだよ、よくそれでここまでやって来たね」

「最近その事を痛感してばっかで、返す言葉もございません」

「勉強は?大変だったんじゃないプゴ?」


少ししょぼくれた俺を気遣ってかフィークスが話題を変えてくれる


「編入試験のために死ぬ気で勉強したぞ。そもそも知らない事ばっかだから、仲間に色々教えてもらって頑張った」


「この学園レベル高いもんな〜」

「俺もこの学園にするって決めた時は、かなり勉強したからな、座学は今でもギリギリだし」

「プゴォ。ボクも座学は苦手プゴ」

「そうなのか?授業内容もある程度分かりやすいと思うけど」


俺の疑問にディルが少し項垂れた様に肩を落とす


「コレは、理解力の差か・・・」

「もしかしてかなり頭いいプゴ?」

「いや、詰め込まれた知識の量が多すぎて、俺もどこまで理解してるかはわかんねぇぞ。今のところ知ってる範囲の内容だから着いていけてるだけで」

「それは充分頭いいって」

「だな、教えて欲しいくらいだ」

「ボクも同感プゴ」


そん感じで雑談しながら商業区画に到着した。この間那美さんと来た時とはまた違った様に感じる

この前は休日だったからその影響もあるのだろうか、学園終わりで制服姿の人が多い


どことなく和気藹々とした雰囲気が漂っていて少しほっこりする


学園が終わったあとはこういう感じで、遊びに行くのが普通なのか。普段は直帰するか、塔に向かって一直線に進んでいくからあまり考えていなかったが今思えば商業区画の方へ向かう学生が多かったように感じる


その商業区画のとある店に吸い込まれる様に入る3人について行く


中に入るとガチャガチャと色々な音のする所だった

音以外にも目に映る物全てが新鮮で、この空間にいるだけでもなんだか少しワクワクして浮き足立ってしまう


「よし!なにからするか!」

「無難にクレーンゲームとかじゃね?」

「ボクはレースゲームしたいプゴ!」


慣れているのであろう3人は臆せず進んでいく。対して俺は初めて見るものばかりで、色んな物に目移りしていた


「神至、迷子になるなよー」

「待ってくれ、その言葉は俺にかなり効く。学園内で迷子になった事あるから。よく知りもしない場所で、1人にされたら本当に迷子なるぞ」


「マジかよ」

「そりゃねえって」

「・・・本当に迷子なったプゴ?」

「マジだ」


一瞬静かになったかと思うとディルがプッと吹き出し笑い始める


「アハハハッ!マジか!マジかよ神至!」

「ハハハッ、神至もそういう所あるんだな、意外だわ」

「プゴゴッ、初めは広くて迷うプゴね」


ゲラゲラと爆笑するディルに、少し安心した様に笑う朱裂くん、フィークスはよく分からないけど笑っているようで皆可笑しそうにこちらを見ている


「しょうがないだろ?こっちは見知らぬ土地でアレコレ分からねぇんだから」


少し不貞腐れた様な言い回しになってしまったが、別に怒っているわけではない。それは3人も分かっているのだろう


「あー、笑った笑った。神至意外と抜けてるとこあんだな。迷子にならないように離れるなよ?」

「俺は小さい子供か!?」

「まぁディルの反応もしょうがないさ、なるべく俺らから離れないで行動してもらって」

「ボクが監視しておくプゴ」

「ええい、やめろやめろ!恥ずかしい。さっさと遊ぼうぜ、教えてくれるんだろ?」


俺を揶揄うようにくだらない事で笑い合う。こんな楽しい事はそうそう無くて、いつの間にか昼の事などすっかり忘れてしまっていた


「ああ、もちろんだとりあえずクレーンゲームでもして、こんなんあるぞーみたいな感じで行こうぜ」

「いいね誰が1番早く取れるか競走する?」

「競走するならレースゲームがいいプゴ」

「フィークスそればっかだな楽しいのか?」

「プップップー。ボクはレースゲームなら皆を置いていくくらい早く走れるプゴ」


3人に連れられその日は門限ギリギリまで遊び倒した。友人との初めての体験に帰るまでの間ずっと楽しい気持ちのままだった




遅くなると連絡を入れ忘れた俺が寮に帰った後

ティリファにしこたま怒れたのは言うまでもない

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