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理を持つもの〜非常識が常識を学ぶ為に学園に入るようです~  作者: 馬蟹 巳裕
─始月─ 出会いと呪いと顔面パンチ
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~エピローグ~ 見えない心と自覚する心

祝勝会の中1人外れた所にいる神至くんを見つける

女子グループから離れ、彼に近づいてみるとこちらに気付いてはいないようだったので声をかける


返って来た言葉は「楽しそうな顔が見える」というもの

少し気になったので私も真似して壁に寄りかかり視線を正面に向ける


あぁ彼はこの光景を見ていたのか


豪華な装飾の中、祝勝会を楽しむクラスメイト達が目に映る。そのどこを切り取ってもキラキラと輝くような笑顔で、見ているこちら側まで嬉しくなってしまうようなそんな光景


アンリ教官と学園長は飲み比べでもしてるのだろうか、次々とお酒を飲み2人に絶え間なく次のお酒を持ってくるスタッフの人達を引かせている


この場の誰もが時間を気にせず今を楽しんでいる。彼の心の内は分からないけど、これは確かにとても良いと私も思う。思った事をそのまま伝えると、嬉しそうに笑って応えてくれた


視線を手元に落とし、不意の笑顔に対する緊張を誤魔化す様にグラスの中身を回す


少し無言の時間が出来きた事で緊張を落ち着ける

しかしこのまま何も話さないというもの、少し勿体無い気がして話題を探す

その中でどうしてこの学園に編入したのかふと気になり聞いてみる


私の質問に警戒するような素振りは見えない

本当に気になったから聞いただけ、それが彼には分かるのだろう。だからすんなりと話してくれる


話してくれたのは学園に編入する前のきっかけから

冒険者であったことは周知の事実、でも彼がEXランクの冒険者だった事は私しか知らない


そしてきっかけとなる半年前の事件を知った。

大切だと思っていた人。そう口にする彼の顔は苦しそうな、困ったような顔をしていた

おそらく彼女だった人、だと思う。怖くて聞けなかったし『彼に大切にして貰えた人』に対して私は少し嫉妬してしまった


こんな事考えるなんておかしな話だ

彼が昔どんな事をして生きていようと、どんな女性と付き合っていたとしても。それは私には関係のない話だ

それなのに心の内に少し黒い物が、嫉妬心が宿ってしまう


冒険者を離れるきっかけを聞いた上で、私は何一つ気の利いた言葉をかけることは出来なかった。魔物に殺られて人が死ぬ、それはただの学生である私でもわかる事だ。でも何も言葉を掛けられない、その事が悔しくて、情けなくて少し顔が強ばってしまう


本当はもっとちゃんと、慰める様な言葉を掛けたいのに、今の私にはそれすらできないのだと自分の不甲斐なさに心が痛んだ


その後無気力になったと。言う彼は少し明るい口調で話してくれる。私に気を使って気分が沈まない様に配慮してくれているんだろう

本当に優しい人だ、私なんかのために随分と心を割いてくれる。それだけで十分に私は嬉しかった


続く話で学校に行ったことがないというのは驚いたけど。その後勉強して、この学園に編入したとの事


仮にもこの学園は世界の中でも屈指の学力を誇る学校だ。並大抵の努力では編入できないことくらい私にだって分かる

努力の端をおちゃらけたように「結構頑張ったんだぜ?」と優しく振る舞ってくれる


話す度に、見る度に彼の事をもっと知りたくなってしまう


そんな中あの日の事の話になり謝ってくる神至くん

私はもう気にしていないのに、彼の中ではずっと気にしている部分だったのかもしれない


それがどうにもおかしく感じてしまい笑ってしまう

やっぱり彼は真っ直ぐで優しいとそう感じる


気まずくなってしまったのか、少し微妙な顔をしている彼を覗き込む様に、この話は他の人にもしたのか聞いてみる


それに対する返答は。「していない」という随分あっさりした回答だった

誰も聞く人がいなかったのか、私にだけ話してくれたのかそれは分からないけど少し嬉しく思った


だから「またふたりの秘密ができたね」と少しイタズラっぽく笑ってしまう


少し戸惑った様に一瞬硬直した神至くんだが、すぐにいつも通りに戻り「コレは秘密になるのか?」と考える様に口に出す


今この場ではふたりだけの秘密の話、たとえ後で他の人に話したとしても


今のこの時間が私にとってとても心地よく楽しいものだから。「私がそう思っているからいいの」と口にする


「聞かれたら俺は答えるぞ?」と問い掛けるように、自分でも困ったように話す彼に笑ってしまう


本当に真っ直ぐで優しい人

私に真っ直ぐ向き合ってくれて、心を割いてくれる


理の力と言う大きな力以外にも、私たちに隠してる事は沢山あるのだと思う。けどそれで良い


いつか彼が、自分から話してくれる事が。何となく分かるから


実際、はぐらかすように「隠し事は多いかもしれない」なんて言わなくてもいい事まで言って笑ってくれる


その後急に思い出したかのように、先日2人で出かけた時に言えなかった事はなんだったのか聞いてくる


あの一瞬の出来事をよく覚えているものだ。私ですら忘れかけていたのに


あの日言いたかったことは。「また一緒に出かけて欲しい」とただそれだけ。それはあの日、あの場での嘘偽りのない本心


それに対する返事は「俺で良ければいくらでもお供しますとも」と言う言葉で、しかも先程皆を見ていた時よりも輝いて見える笑顔で答えてくれた


私の返答は「ありがと」と随分と素っ気ない返しになってしまった


嬉しくて、心がいっぱいで、それしか言えなくなってしまっただけ。視線は彼に向けたまま、言いたいことが胸につかえて出てこない


陽くんには抱くことのなかった感情が、満たされた心から溢れ出る想いが、私が彼をどう思うのか知覚させてくる


噤んだ口を開く前に、遠くからフェリンくんが彼を呼ぶ

それをに応える様に声を上げ彼は向こうに行ってしまった。私も戻ると一言かけてその場に残る


1人になった事で、満たされていた心に少し穴が空いたような気分になる。ソレがより私の想いを強調するかの様に心臓が強く脈打つ


あぁ、こんなにも心が温まる物なんだ

映画やドラマ、アニメでしか見た事のない感情が、自分の中に広がっていくのが分かる


最初の出会いは最悪で、怒りもした


次に会った時、私の考えなど打ち砕くみたいに毒気が抜かれて


この身を蝕んでいた呪いを解いてくれた


きっかけはその時なんだと思う


顔も姿も見えない状態で、私の魔力を「綺麗だ」とたった一言。私を見て褒めてくれた


なんて単純な女なんだろうと少し自嘲気味に笑ってしまう


魔眼を通していなくとも私の姿を否定しないでいてくれた


彼は倒れてしばらく会えなくなってしまったけど

その次に会った時、今度は見た目の変わった私を綺麗と言ってくれた


門音の娘としてでなく、黄泉の妹としてでもなく

初めから私を那美と呼んで真っ直ぐに私を見てくれる


常識外れの力を持っていて、隠し事も他の人より沢山あるのだろう


けれどそんな彼に私は恋をしたのだと、この高鳴る心臓が伝えてくる


「私は神至くんが好き」


一言だけ、誰にも届かないくらい小さな声で呟く


それだけで幸せな気持ちで心が、体が満たされていく

先の短い私の最初で最後の恋


こんな私が心の底から誰かを好きになる事が出来るなんて、考えてもいなかった


自覚した事で、よりとめどなく溢れる想いに溺れそうになってしまう


彼にこの気持ちを伝えたらどうなるだろうか

そう考えると少し、心が冷たくなる

まだ出会って間もない、よく知らない私の事を、彼はどう思っているのだろう


不安が、恐怖が、少しづつ心を蝕むようにじわじわと広がってくる


彼はモテるだろう。私なんかよりもよっぽど多くの経験があるかもしれないとそんな事を考えてしまう


でも心覆うように広がる暗い気持ちより、暖かで穏やかな明るい気持ちの方が今は強い


だからこそこの気持ちは、今は、胸の奥にそっとしまっておこう


いつか私が、傷つく事を恐れて、何も出来ないでいた私が


この気持ちを素直に発露する事が出来るその時まで


その日が来るのは思ったよりも早いのかもしれないし、遅いのかもしれない


今はただ自分の中でこの気持ちをゆっくり育てていきたい


心の中でそう決めて女子の集まるところに戻る

今は祝勝会を楽しまなきゃ、せっかくの機会が勿体無い


すこし駆け足で皆のいる所に向かい、話の輪に混ざる

残された時間を零さないように、大切に彩るように楽しい時間を過ごしていく



この一月後思わぬ形で想いを暴露するのを本人はまだ知らない


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