結果と後処理と祝勝会
実技試験から1日
昨日あんな事があったばかりだと言うのに学園は平常運転だ
いつも通り好奇の視線に晒されながら校門を潜ると奥の方で何やら人だかりができていた
学年問わず人が集まり随分と楽しそうに賑わっている
気になったので近づいてみると、大きな魔導看板が立っている。言うなれば電光掲示板だ、そこに昨日の試合結果が全学年掲示されていた
あの後教官たち残って作業してたのかよ。可哀想だな
ジジイなんか俺たちよりも早く帰ってったのに・・・
責任者の無責任な行動に辟易しつつ結果を確認する
掲示内容は各クラスの戦績と学年毎の最も優秀なクラスが大きく表示されている
1年と3年のトップクラスはSクラス、これは妥当だな
戦績も3年は3対0、1年も最初の試験だと言うのに3対0と非常に優秀な成績を残している
問題は2年だ。今回最も優秀なクラスとして表示されているのはなんとEクラスだった。そんなに優秀な結果なのだろうか?
戦績を確認すれば4対0となっている
確かにBクラスを全滅させたのは事実だが、個々人であればともかく、Sクラスの方が全体の能力的にまだ上だと感じる
しかも勝利数が4になっているということは、あのエキシビションマッチも成績に含まれたということになる。これはまた面倒なことになる予感がするな・・・
「まじかよ2年Eクラスがトップだってよ」
「ありえなくなーい?」
「Eクラスってあの神至って先輩がいるクラスだろ?すごくね」
とまぁ周囲の反応は様々だ。同学年や先輩などはあまりよく思っていないというか、なんでこいつらがって反応をしている。逆に後輩組は比較的好意的に感じてくれているようで少し安心する。
俺の後ろにも人が集まってきたな、気付かれる前に退散しよう
隠れるようにそそくさとその場を後にし、教室へ向かう
教室に入るといつもの4人に出迎えられる
「おはよう神至くん、今日はいつもより早めだね」
「おはようプゴ、昨日はよく寝れたプゴ?ボクは熟睡だったプゴ」
「よう神至、今日の実技は何するんだ?」
「おはよう、あんたにしては珍しく早いわね」
「みんなおはよう。それから1人ずつ喋ってくれ、聖徳太子じゃないんだから、流石に聞き取りきれない」
みんな結果をちゃんと確認したのだろう。声にハリがある。それにクラス全体の雰囲気が少し浮き足立っているように感じる
「今回の結果ってどう思う?」
とりあえず1番奥の席に座り試験の基準がよく分からないので話題を振る
「どうも何もかなりいいだろ?最優秀クラスに選ばれてたくらいだし」
「そうプゴね、ボクとしてはSクラスの方が少し高いと思ってたけど違ったみたいプゴ」
「なんでだ?俺たち全員勝ったじゃないか」
「グループ単位ではプゴ、個々人の戦績としては一部活躍出来なかった子もいるプゴ」
「確かにそうね。私たちは全員が1体1で倒しているけど、他のグループだと爆発で全部吹き飛ばしたり、乱射で倒しまくってた子いるしね」
「確かにそうだね。それに神至くんが黒井教官倒したから加点されてるのもあるかも」
「なるほどそういう事か、確かに今回1番活躍してたのは神至だし、クラスの評価って言うと少し違ってくるか」
各々が冷静に結果を考えている。今の結果に満足はしているものの足踏みしている様子は無い感じだ
いい傾向だな、ただ俺としては基準の明示をして欲しいところなんだが、他のみんなが納得しているならそれでいいか
後でジジイに聞けば大体の基準くらい教えてくれるだろうし
一通り話し終えた辺りでアンリが教室に入ってくる
「お前ら席に着けホームルームの時間だ」
それぞれが話していたところから動き席に着く
その様子を見て満足そうに頷くと口を開いた
「昨日の結果だが全員確認したな?」
アンリの言葉にまばらだが返事が返される
一応の確認と言った所だろう。返事を受けて正面の巨大モニターに先程見た学年別の成績表が映される
「見ての通りだ4月の実技試験に於いてこのクラスは最優秀クラスだと認められた。お前達良くやったな」
その言葉にクラス中が沸き立つ
アンリが他人を褒めるなんて滅多にないからだろう
「うるさいぞ、喜ぶのは後に取っておけ」
騒ぎ立てたクラスメイトが一瞬で静かになる
和気藹々とした雰囲気が落ち着いたいつもの雰囲気に戻る
「今回の実技試験の結果を元に学園長からお話があるそうだ。皆心して聞くように」
そう言うと教室の扉がガラガラと開かれジジイが入ってくる
それと同時に教室の空気が変わり、緊張感を感じる程に少し張り詰めたようになる
「ほっほっほ、そんなに緊張せんでも良い。ちょっと話をしに来ただけじゃからの。さてこの教室最下級のクラスにしては随分豪華だと思った事はあるかの?」
「あります」
ジジイの言葉に対してクラスを代表して真っ直ぐに答える月夜野さん
何言い出してんだ?いきなり
「良い答えじゃ。この教室はとある人物の融資により出来上がった物じゃ、後で礼くらい言っておいても良いかもしれんな」
言いながらこちらを見てニヤつくジジイをそういう事かと睨み返す
こっち見んな下手なことすんな、俺が出資者とばれたらあとが面倒臭い所の話じゃ無くなる
「まぁ本題はここからじゃ、今回の実技試験の結果このEクラスはSクラスよりも優秀だと証明されたことになる」
こちらを見ていたかと思えば急に全体を見回し言葉を投げかけてくる
皆その発言に要領を得ないのだろうが。言い回しやジジイの醸し出すイタズラな雰囲気に、嫌な予感は全員が感じ取っていそうだ
「そこでじゃ本クラスに於ける教室没収は一時的になしとしよう」
一時的にという言葉に全員が硬直する。クラス全員のなしで良くないか!?という心の声が聞かなくても分かる
「その代わり期間を設ける、7月の期末試験までに全員が神名解放かそれに準ずる力を得ること。これが達成された暁には正式にこの教室をEクラスのものとしよう」
言いたいことを言い満足したのだろう。それだけ言って早々に教室から出て行った
アンリは事前に聞いていたのだろう。ジジイが出ていったあと頭を抱えながら教卓の前に移動する
「まぁなんだ。私もできるか限り協力はする。頑張れ。ホームルームは以上だ。授業の準備をしろ」
アンリも言うだけ言ってその場を後にする。残されたEクラス生徒はアンリが居なくなった途端、阿鼻叫喚の嵐となる
「無理だぁ!」
「終わった!この教室ともおさらばだぁ!」
「短い幸せ教室だったなぁ」
とまぁ想像に難くない反応だ
かくいう俺も少し反応に困ったくらいだ
その日は授業、実技と一部を除いての生気がない1日となった
「あー、帰りのホームルームだがお前ら明日の放課後は予定を空けておけよ、祝勝会をするからな」
『はーい』
気の抜けた返事にアンリは特にないも言わない。朝の件を引きずっているのは今日1日を通して見ていたからだろう
「通達は以上だ。気を付けて帰れよ。神至お前は着いてこい」
「うい」
帰り支度をするみんなに別れを告げてアンリについて行く
おおよその推測は出来る。要求の件で呼び出しがあるのだろう。疲れきったアンリの顔を見てそれくらいは分かった
教室を出てアンリについて行く。
「なぁ力人、お前何とかならないか?」
「無茶言うな、俺の力と神名解放じゃ全然性質違うから教えるのは無理だぞ」
「だよなぁ・・・ハァァァ」
大きすぎるため息を吐きながら歩くアンリに少し同情する
その後諦めが着いたのか、はたまた何か思いついたのか。実技授業の内容ついての話を少し詰めた所で目的地に到着した
見慣れた学園長室の扉
豪華な装飾の割に煌びやかさはなく、厳かな雰囲気を持つ木製の扉
ここなら1人でも来れたな、と考えているとアンリが扉をノックする
「学園長、神至を連れてきました」
「入って良いぞ」
ジジイの返事を受けてから2人で学園長室に入る
中は応接室の様になっていて、大きなソファーが2つ腰の低いテーブルを挟む様な形になっている
その奥にはジジイが座る扉と同じ装飾の厳かな椅子と事務処理をしているであろう机がある
入って右側のソファーには失禁3人組が後ろで手を組まされた状態で座っている
その後ろにスーツを着た犬耳の男性が3人を監視する様に立っている
「ほっほっほよく来たの。そっちの方に座るといい」
ジジイに案内され3人と向かい合うように座る
こちらに目を合わせまいとしているのか3人組は俯いたままだ
「では揃ったので始めるとしようかの。ほれ」
空間魔法を使い目の前のテーブルに何枚かの書類が出てくる
書類の内容は黒井のやった内容をまとめた報告書と3人の退学届だ
「まずは3人組の方からじゃな、今回の実技試験の要求によりお主ら3人はこの学園より去ってもらう。良いな」
返事は無いが受け入れてはいるのだろう
この学園は結構簡単に人がいなくなる。それは自分たちもやってきた事だから分かっているのだろう
「身柄はこちらで預かります。それでよろしいのですね学園長殿」
「もちろんじゃよろしく頼む」
あっさりと話が進み3人の処遇は決まった
俺いる意味あるか?これ
「次に黒井の方なんじゃが」
「死亡したと聞き及んでおります。遺体の方も既に昨日預かっていますので、状況の把握はできております」
「話が早くて助かるのぉ」
昨日のあの一件が終わってからすぐに居なくなったのは黒井を届けに行っていたからなのか
1人納得していると男性がさらに言葉続ける
「こちらの3人の他に既に卒業している黒井の協力者、並びにその背後にある組織については、現在調査中であります。両件については結果が出次第報告させて頂きます」
「うむ、お願いするとしよう。さて3人よ神至に何か言いたい事があるのじゃろ?」
国際警察の男性と話が一段落したところで3人組に話を振る
俺に話ってなんだ?
「お前一体何者なんだよ」
「ただの元冒険者だ、それ以上でも以下でもない」
「インチキ野郎が」
「どう思ってもらっても構わない。お前らの認識がその程度ってだけの話だからな」
「チッ」
「お前のせいで俺たち───」
その先は言わせないとばかりに急にジジイから濃密な怒気が放たれ言葉が止まる
「お主らが捕まるのは己の行いのせいじゃ、管理できておらんワシのせいでもある。それをこやつのせいというのは、あまりにも他責が過ぎるぞ小童」
庇ってくれたのだろう
珍しい行動に少し目を見張るが、すぐに怒気が落ち着いたのでこちらもいつもの態度に戻る
「それにこの学園は実力を重視しておる、それは皆が知る所であろう。こやつは強い、お主らはソレに負けたのじゃ諦めることじゃな」
文句はあるのだろう、だが何も言わない。言えないというのが正しいか。悔しそうに、恨めしそうにこちらを睨んだまま3人はジジイの空間魔法によって飛ばされた。
おそらく牢屋の中にでも直接送られたのだろう。全く管理する側の人間の苦労が偲ばれる限りだ
「なぁ、俺が来る必要あったか?」
「一応当事者じゃからの、お主抜きではこの話は出来んのじゃよ」
そうは思えないが、この人がいるということはそういうことなのだろう。そう思いつつこの場に残された男性に目を向ける
「ご無沙汰しております神至殿。お元気そうで何よりでございます」
「こちらこそ久しぶりです。犬飼さん」
この人は国際警察に所属してる犬飼賢治さん。昔馴染みで、俺が幼い頃から養父がお世話になってた人だ
容姿は普通のおじさんで短髪に犬耳を持つ
体格は警察官と言うには細めだが、獣人なので身体能力は一般人に比べればはるかに高い
真面目で誠実なとても良い人だ
この人がこの場にいるということは、担当を押し付けられたのだろう。国際警察関係者や各国の長や国王は理の力について知っている。故に昔馴染みで俺とジジイどちらにも顔が知れている彼が矢面に立たされているのだろう
「本件につきましては私の預りとなっています。先程話しました通り、調査の結果が出ましたらご報告させて頂くのですが。その、出来ればでよろしいのですが・・・」
少し気まずそうに言い淀んだ犬飼さんを見て察する
「調査後の協力ですね?」
「おっしゃる通りです」
主に戦闘力としての役割なんだろうが、まぁいつもの事だな
俺と犬飼さんの話を聞いてジジイが話に割って入ってくる
「力人は現在、この学園で学園生として在籍しておる。表立った協力はワシの方でするとしよう。まぁ本格的に戦闘になるのであれば、力人を引きずり出すがのぉ」
「それはもちろんです。学業を最優先して頂き、どうしてもという場合のみご協力頂ければ、こちらとしては十分です」
フォローしてんだかよく分からない言い方ではあるが、学生として今を楽しんで欲しいという気持ちは伝わった。ジジイなりに俺に気を使っているのだろう
犬飼さんも無理に協力をという感じではないし、そもそも俺に対してそこまで出来る権限を持っていない。それは俺も分かっているから、この辺りが落とし所だろう
「分かりました、ではまた結果が出次第という事で」
「はい、私もコレで失礼致します」
そう言うと学長室から犬飼さんは出ていった
「さて、コレで一件落着かのぉ」
「神至はともかく私まで同席する必要あったのか?」
ここに来て完全に空気となっていたアンリが口を開く
「無いのぉ、まぁしかし生徒がおって担任がいないというのも詮無き話じゃ。管理する立場の人間としての責務だと割り切ることじゃの」
「どの口がそれを言うんだか」
アンリの発言に俺も同意する
管理を怠っていたからこそ今回の様な事案が起きるのだ。もっとちゃんとしろよと思うのも仕方ない事だろう
まぁそんなことより
「黒井の後釜は決まってんのか?」
「一応はの学年主任を担当させているアルケーに任せるつもりじゃ。あやつなら腐った性根も叩き直せるじゃろうて」
「彼ならまぁ大丈夫だろう」
同じ元軍人という事もあってかアルケー教官の評価が高そうな発言だな。アンリにしては珍しく他人を褒める様な言い方だ
その後はジジイに今朝の件で相談をしてから解散となり帰路についた
─翌日─
昨日に引き続き無気力な1日を過ごしたEクラスの面々だが、祝勝会の店の前に着くやいなや活気に溢れた様に元気が戻ってきた。
「すごいね、こんなにいい所で祝勝会出来るんだ」
「リキリキが最後の試合前に学園長に言ってくれたんでしょ〜?すごいね〜」
「やるからにはそれなりに報酬を貰わなきゃだからな」
「思考が完全に冒険者のそれだな神至」
「一応これでも元冒険者だからな当然だよ」
宮本くん、迦倉さん、不知火くんと話しつつ目を前に向ける
今いるのは商業区画にある1番高いレストラン
つい先日来たばかりのあの店だった
ここそんなに高かったのかと内心少しビビっているのはおくびにも出さない。あくまでジジイに要求して勝ち取った体をとる
クラスメイトが全員揃ったのを確認してから、那美さんと深於さんが先陣を切って店の中に入って行き、他のクラスメイトもおずおずと言った感じで後に続く
「ほっほっほ、いい店じゃろうワシが建てたんじゃよこの店」
オーナーお前だったんかいと思いながら、上機嫌で俺の後ろから声を掛けてくるジジイに振り返り一言
「ここ来たことあるわ俺」
「なんと!?」
自慢したかったのだろうが出鼻をくじかれた事で少ししゅんとする。可愛くねぇんだよなぁ
「自慢したかったのにこの店、頑張ったんじゃよ結構」
「まぁでも味は確かに美味いからそんな落ち込むなって」
何故俺はジジイを慰めているのだろうか
昨日の事などなかったかのような態度に呆れつつ俺もジジイと一緒に中に入る
相変わらず豪華な事だ
学長室は質素な割にこういう所は力入れるよなと関心していると、この間会った支配人らしき人物に迎え入れらる。チラリとこちらを一瞥した後に深々とお辞儀をしながら言葉を発する
「ノーデンス様、並びに学園の皆様。本日は当レストランにお越しいただきまして、誠にありがとうございます。本日貸切となっております。お食事は立食形式のビュッフェとなっておりますので、心ゆくまでごゆるりとお過ごし下さい」
こちらについて追求というか余計な詮索をしてこないのはさすがと言ったところ
他の皆は表情こそ見えないが全体的に少し緊張しているのが分かる。まさかこんなにいい店に来れるとは思ってもいなかったのだろう
支配人に案内され奥の会場に入ると既に料理が沢山用意されている。飲み物もスタッフの人達が用意してくれるみたいだ。よく見ればこの間の面白い動きをしていたお兄さんもいるな
クラスの皆は、そんな事気にする様子もなく元気に中に入っていく。全くさっきまでの緊張はどうしたんだか
クラスメイト達の様子はともかく、これじゃ雰囲気的に祝勝会と言うよりも貴族の晩餐会と言った方がしっくりくるな
全員に飲み物が行き渡った頃、会場正面にステージが用意されていてジジイがそこに上がり乾杯の音頭をとる
「Eクラス諸君、昨日の今日であまり気持ちが上がらぬ者もいるじゃろうが今日は祝勝会。みなの健闘を祝してワシの奢りじゃ存分に楽しんで欲しい。乾杯!」
『乾杯!!』
割れんばかりの声で乾杯する
そこには昼間の無気力感はなく全員が和気藹々と楽しそうだ。かくいう俺もこの雰囲気は心地がいいものだ
祝勝会が始まってすぐにフィークスを始め何人かの男子が料理に群がる
女子達はグラス片手に優雅に談笑を楽しんでいる様だ
「制服じゃなくてドレスだったらもっと華があっただろうに」
「珍しいなお前がそんな事言うなんて」
俺の呟きに面白いものでも見たかのようにアンリが声を掛けてくる
「そうか?・・・そうかもな」
「短期間でお前も変わったって事だな。それでこの1ヶ月学園で過ごしてみてどうだった?」
「楽しいよ、学校自体が初めてで、色んな初めての経験して、友達も出来たんだから当然だろ?」
心の底からの本音だ
「やたらめったらトラブル持ち込むのは如何なものかと思うがな」
少し嬉しそうに笑ったかと思えばコレだ、嫌味と言うより俺に対する愚痴だな
「それは俺に言われてもなぁ」
俺の回答にフンと鼻を鳴らしながらジョッキでビールを煽るアンリ
「っかぁぁぁ!最高だな美味いぞこのビールお前も飲むか?」
「飲まねぇよ、学生なんだから」
「そうか?お前の国だと16で成人だから普通に飲むもんだと思ってたんだが」
「確かにそうだけど、いいんだよ。この雰囲気だけで十分に楽しいからな」
「ほー、そうか」
俺の回答を聞いてアンリは少しつまらなそうにしながら、ツマミを探してフラフラと歩き出した
1人になった事で壁際に移動する
騒がしくも楽しくしているみんなの様子を見ながら、ゆっくりと飲み物を口に含み、喉に流し込む
随分と質のいいオレンジジュースだ
しばらくの間1人の時間を堪能していると、不意に横から声がかかる
「神至くん、皆の所に行かないの?」
「那美さんか俺はここで大丈夫。皆の楽しそうな顔が良く見えるから」
そう言うと那美さんは俺の隣に移動し、同じように壁に寄りかかりながら前を見る
何気ない行動も絵になるもんだなと思っていると
「本当だね、ここなら皆の顔が良く見える」
「だろ?」
グラスの中の飲み物をクルクルと回しながら俺と同じ景色を共有した那美さんから感想が告られる
料理を奪い合いながら笑い合う男子
集まって仲良く談笑する女子
ビールやらワインやらを飲みまくっているアンリとジジイ
願わくばこんなにも幸せな時間がずっとつづけば良いと思うほどに、この光景は俺にとってとても心地よいものだった
「ねぇ神至くん少し聞いても良いかな?」
「何か気になる事でもあるのか?」
「うん、どうしてこの学園に編入しようと思ったのかなって」
こちらを探る様な感じは無く、シンプルに気になったと言う感じの質問
「俺さ元々冒険者してたって話は知ってるだろ?」
「うん、知ってる。君がすごいランクの冒険者だって」
彼女の持つ雰囲気によるものなのか、それとも俺の中で何か変化があったのか
理由は分からないが、自分の事を少し話したいと言う気持ちが今は心に満ちている
「実は半年くらい前にさ冒険者を少し離れたんだよ」
「それはどうして?」
「事故・・・事件って言った方が正しいかな?トラブルがあってさ、目の前で大切だと思ってた人を見殺しにしたんだ」
「・・・・・」
俺の言葉に息が詰まったのか彼女は何も言わない
ただ俺の話を静かに聞いている
「冒険者の中ではなんてことの無い魔物にやられて死ぬ話。でもその場にいるのに俺は助けなかった。そうすることも出来たのに、しなかった。だから見殺しにしたも同然なんだ」
「それは・・・そうかもしれないけど」
少し沈痛な面持ちで話を聞いている。そんな顔させるつもりは無いが話す内容がコレではいたしたか無いか
「その後無気力になって、冒険者を離れて、リベリオンって国でしばらく無為な時間を過ごしててさ。そんな時にジジイに誘われて編入する事になったんだ」
「そうなんだ」
否定も肯定もない、ただ水を飲み下すように受け入れてくれる。その対応が今の俺には心地良かった
「結構大変だったんだぜ?俺学校なんて一度も通ったことなかったから、必死で勉強して、口の悪さも矯正されて、常識もある程度教わって・・・まぁ間違ってたけど」
「ふふっ、そうだね」
「あの時はごめん、もう少し疑うべきだったよ」
「その事はもう良いの」
「本当に?」
「本当に」
言葉の中に優しさを感じる
それが心に染み渡る
「ねぇ、今の話他の人にもしたのかな?」
一通り話し終えた俺を覗き込む様にして見ながら言葉を掛けてくる
「いや、俺の過去の話なんて他のクラスメイトにはした事ないな」
「そっか、じゃあまたふたりの秘密できたね」
イタズラな笑顔で笑う彼女を見てドキリとする
今まで感じたことの無い感情に戸惑いと少しの暖かさに満たされる
「コレ秘密って言えるのか?」
心内を悟られないようにいつも通り振る舞う
何故だか少し緊張するな
「私がそう思ってるからいいんだよ」
「そっかなら俺が他の誰かに話すまでは、ふたりの秘密だ」
「あんまり早く話すと怒っちゃうかも」
「あー、それは約束出来ないな。聞かれたら多分答えるぞ?俺」
「あははっ君らしいね。でもうんそれで良いと思う。真っ直ぐでとても優しいのに、秘密がいっぱいな神至くんらしいと思うよ。実はまだ隠してることあったりして」
「さぁ?どうだろうな。迂闊に話さないようにしてる事は他にも沢山あるかもしれない」
本当に隠している事は多い、でも人に話すような事じゃないのは確かだ
「そういえば那美さん、この間出かけた時に最後に何か言おうとしてたよな?あれ何だったんだ?」
俺の話を終わりにするように少し気になっていたことを聞いてみる
「あれはね、また私とお出かけして欲しいなって言いたかっただけ。みんな出てきちゃって言えなかったけどね」
「そういう事か、俺で良ければ何時でもお供しますとも」
「ありがと」
返事とともに少し頬の染まった彼女の顔は朗らかに、そしてとても慈しむ様にこちらを見ている
他にも何か言いたそうな雰囲気だったが、少し離れた所からディルに呼ばれる
「おーい、神至こっち来いよ。っていうかフィークス止めてくれ!飯が食い尽くされちまう!」
「ああ!すぐ行く!ごめん那美さん呼ばれたから行ってくる」
「うん、私も深於ちゃんの所行くね」
那美さんに一言告げてディルの元へ向かう
暴走列車の如く食事を片っ端から頬張っているフィークスを見て少し呆れたような笑い声が出る
「ははっ、フィークス落ち着け、飯は逃げないよ」
食に狂った友達を止めるために少し駆け足で近づく
その日は寮の門限ギリギリまで祝勝会を楽しみ
俺の学園生活その最初の一月は終わりを迎えた




