理を持つもの
カーペットがいなくなりその場に残された俺たちは黒井の遺体を回収しジジイの空間魔法に突っ込む
先程までしばらく放置してたが、流石に野晒しは同義に反する。どんな悪人であれ、塔の外で死んだ人間は送るところには送ってやらないといけない。その辺は俺もジジイも同じ考えの様だ
これはおそらく冒険者をしている、していた者特有の考えだろう。どんな人間であれ遺体が残るのなら荼毘に臥す、塔の中では遺体も遺品も何も残らない。そんな環境にいるからこそ身に付く考えなのだろう
回収し終えた後会場の様子を確認する
客席側の避難は教官たちを中心に、何人かの生徒が一緒になって順調に進めている。もう過半数が実技棟から出ている様で随分と行動が早い、過去にも似た様な事があったのだろうか
周囲の確認をしつつEクラスの集まっている所に目を向ける、こちらの心配など一切していないのだろうか、もしくは先程のカーペットの話題でもちきりなのだろう1人を除いて話しながらではあるものの、会場にいる全員が避難を始めている。だが那美さんだけまだ動かずにこっち見てる
一瞬目が合ったように感じたが、すぐに振り向き那美さんも他のみんなと一緒に行動し始めた。気になることでもあったんだろうか
そういえばフィークスはまだトイレに籠ってそうけど大丈夫なのだろうか、クラスメイトの所を見ていても姿が見えない
考える事が多くて思考がまとまらないが、とりあえず
「ジジイさっきの避難命令って、他の棟にも伝わってるのか?」
「もちろんじゃ、何かあるのかの?」
島より大きな隕石が降ってきているというのにあまりにも落ち着いている様子。結界の効果は意味をなさない可能性があるのに随分と余裕だな、まぁ何となく理由は分かるが
「いや、クラスメイトが1人会場内にいないからちょっと気になっただけだ」
「なるほどの、まぁ問題ないじゃろて、校内全域に届く様に音魔法の『拡声』を使っておる。お主とワシ以外は全員避難できるじゃろ」
しれっと俺を巻き込んでやがるが。まぁそこはいいか、今に始まった事じゃない
実技棟と校舎を繋ぐ通路は避難する人でごった返しているので、ジジイの転移魔法で校舎の方に移動する
「今更だけど、転移魔法使えんだな」
「当然じゃなろお主、未だに使えんのか」
「悪かったな」
「いや、この学園に侵入した時も転移じゃなくて跳んで来ておったんじゃ、察しは着いておったが相変わらずじゃの」
「うっせぇ」
空間魔法は苦手なんだよと悪態をつきながらも、呑気に会話しながら校舎を登っていく
普段は話し声で賑わい、そこかしこに生徒がいるはずの校舎の中は今は誰もいない。そのせいか少し寂しげな雰囲気を感じる
窓から外を見て影が少しずつ、確実に大きくなってきているのが見えている。本当はもっと急いだ方がいいだろと思うがジジイに大人しくついて行く
俺一人だと迷子になるのは目に見えてるしな
その後、校舎最上階の屋上にたどり着くのに数分と時間は掛からなかった
屋上に上がり周囲を見渡す。中々景色の良いものだ、と普通なら思うのだろう。残念ながら今は見える範囲全てが黒い影に覆われ、せっかくの景色もいまいちだ
空を見あげれば実技棟にいた時よりも遥かに大きなな姿となった隕石がある
あと1時間もしないうちにこの島に落下し、その全てを破壊するだろう
「で?どうすんだよ」
「とりあえずはお主が破壊してくれた結界の修復じゃの。やるだけやってみるから少し待っておれ」
そう言うと俺から少し距離を取る
攻撃型結界魔法は機能自体しているただ強度が少し落ちている、それはあの日俺がぶち抜いた穴が空いたままになっているからなのだろう
隕石の方に向かうようにして歩いていたジジイが屋上のフェンス手前で立ち止まり言葉を紡ぐ
「我、智の理を有する者」
言祝ぐノーデンスの足元に大きく、そして黄金に輝く魔法陣が現れる
聞いての通りだ。理の力を持つ7人、その1人がこのジジイだ
コイツの持つ理は智。知識の掌握や探求を司ると言えばいいのだろうか、簡単に言い換えれば全知だが、ありとあらゆる全てを見通せる物じゃない
現代までにおける知識の全てを閲覧する様な力らしい
「世の智、その全てを知り極め、探究せしめる者なり」
「理の力を持って世界を法則を見定める」
「智を持って世界を導く神となり」
「己が欲求を満たす者なり」
「智神顕現」
詠唱が終わり魔法陣も消失する。見た目での変化は特にない。しかしその身に纏う魔力と雰囲気、そのどれもが普段のノーデンスとは全く違うものとなる
黄金に輝く魔力を纏い、何処か神々しい雰囲気を持つ
理の力自体どんな物なのかよく分かっていないが、ただ人を神の領域まで無理やり押し上げる力であるのは間違いない
それは神名解放の様に擬似的に神の力を引き出すのとは訳が違う。全く新しい神に自らが成る様なものだ
「では始めよう。結界修復、強化」
両手を高く掲げ俺がぶち抜いた結界の修復を始める
元々小さい飛来物は今までも破壊できていたが、それでは足りないのだろう。故に結界を修復し強化まで施している
その姿を後ろから眺めていると、噴き上がる炎と共にカーペットが現れる
「こちらは避難が完了した。様子はどうだろう?」
「見ての通りだ、今ジジイが結界の修復と強化してる」
「ふむ、強化までしていれば問題は無いか。では少しオレから君に1つ伝えておこう」
手持ち無沙汰さなのか俺に少し話をし始める
「あの男、黒井についてだが過去は知っているな?」
「まぁ一応」
「では現在所属している組織については?」
「それは知らない。興味も無い」
「そうか知らないのであれば教えておこう」
別に知る必要ないと思うんだが、どうしても伝えておきたいらしい。俺の返事を待つこともなく語り始める
「奴は力の理を持つ者の信者の組織『力こそ正義』という所に所属している」
「のが多い上に随分とダサい名前だな」
よりにもよって力の理なのかよ。と思ったものの口には出さない
「コレでもかなり巨大な組織でな、姿を見せたことの無い、力の理を持つ者を教祖として崇めているらしい」
「七面倒臭い奴らだな、そんなのいい迷惑だろ」
「だろうな、だが7人の理を持つ者の中で最強とされる男だ。姿形は誰にも知られず、口外されることも無い。それが自ら力こそ正義と口にし組織を率いている様だ」
「はぁ?んだよそれ聞いた事ねぇぞ」
「おや、意外だなそれなりに情報収集能力を持っていると思っていたが知らなかったか」
カリオスからはそんな情報一切聞いていない、もしかしたら知ってはいるが、あえて俺に教えていないのかも知れない。情報を持っていても俺から聞かなければ必要以上に話す事はないしアイツ
「まぁ確かに他の6人は全員姿が出てるからな、力の理を持つ者を騙っても誰も疑わないか」
「騙っているとは、面白い考えだな。まるで君は本人を知っているかの様な発言じゃないか」
「まぁな」
力の理を持つ男はコレまで存在自体は知られているもののその姿までは世間に知られていない。知っているのは一部の人間だけ
そもそも理の力自体マイナーなのだ、詳細を知ってる人がそもそも少ない
「その姿を公にしている6人の内、所在まで分かっているのは4人だけ。他の2人は姿こそ明かしているが行方不明が常だ」
その2人はしょうがないと言えよう。1人はコロコロ性別変えてるし姿も変わる。もう1人は俺と同じ筋金入りの塔攻略者で滅多に外界に現れない
カーペットと話しているとノーデンスの方は修復と強化が終わったようでこちらに歩いてくる
先程までの神々しさはなくいつもの胡散臭いクソジジイに戻っている
「何やら面白そうな話をしておるの」
「力の理を持つ者の組織に着いての話をしていました」
「迷惑極まりない奴らだよな」
「ほっほっほ、お主からすればそうじゃろうなぁ」
可笑しそうに笑うジジイに少し辟易する
コイツ知ってたな?
妙にニヤニヤしているジジイに少しイラッとするが、まず先に現状確認をしないと、灸を据えるの後でもできるからな
「それより結界は?」
「強化は施したがどこまで耐えるかは分からぬ、結界割れたらお主に任せるとするかのぉ」
「分かった、全力でいいんだな?」
「もちろんじゃ、せっかく編入した学園が消し飛ぶのは嫌じゃろう?」
こちらの心を見透かした様に笑うジジイを無視しながら、空を覆い尽くす巨大隕石に目を向ける
結界との接触まであと数分と言ったところか
大きくなりそして近づいた事で形を把握出来る、とはいえ正面からしか見えない、後ろにどれだけ伸びているかまでは分からないな、デカすぎる
「アレ隕石ってより、岩とか島だよな」
「そうじゃの、魔法で生成した岩を大気圏外からこの島に向けて直接落としておるんじゃろ」
どうりで身体から溢れ出た魔力の割に弱かった訳だ
アレだけの強さを真っ当にこちらへ向けていれば、そこそこいい勝負になっただろうに
「そろそろか」
「じゃな、力人準備せんで良いのか?」
「結界が割れてからでも間に合うだろ。どうせ力を解放すればあんなのただの置物と変わんねぇよ」
緊張感のない発言をそれぞれが口にする
目の前に広がる光景はそれこそ世界の終わりと捉えてもおかしくないはずなのに、この場にいる誰1人として大した問題とは思っていないようだ
そしてついに島とも取れるような巨大な岩が結界に接触する
結界に触れた端からバチバチと大きな火花を散らしながら消失していく。見ているものからすれば花火が絶えず花開いている様な光景だろう。結界に衝突してもなお巨岩は勢いを緩めることはなく、そのまま落下し続ける
重さに耐える布の様に、少しずつその形を変形させていく結界を見て思う。あの感じだとすぐ結界は崩壊するなと
「おぉぉすごいのぉ、ワシの結界が歪んでおる」
「随分と呑気ですね学園長殿」
「ほっほっほ、力人がおるからの。何が起きても問題にはならんよ」
「おいジジイ、俺の事なんだと思ってんだ」
「それはもちろん、現世における最強だともそれ以外に表現のしようがないのぉ」
愉快そうに笑うジジイに俺は呆れる他なかった
そんなやり取りをする中、階段を駆け上がる音が聞こえその後すぐ屋上の扉が開かれる音がする
「見つけた!ここにいたんだね神至くん!」
急に後ろから名前を呼ばれ驚き振り返る
そこに居たのは汗を流しながら大きく息をする那美さんだった
「那美さん?なんでここにいんの?」
「学園長先生と、急にいなくなって。それで、フィークスくんも、戻ってこないから、心配で」
絶え絶えの息で捲し立てるように話す那美さん
そうか、心配してくれるのか
友人からの心配に不謹慎ながら少し嬉しく思ってしまう
「那美さん一旦落ち着いて、フィークスなら多分大丈夫だから」
「そうなの?」
「カーペットさん、フィークスっていう俺の友達のことお願いしてもいいか?」
「分かった承ろう。それと、呼ぶならせめてクリムゾンの方にしてくれ」
それだけ言うと炎と共に姿を消した
何考えてんのかわかんないけど、生徒の為に動いてくれるなら良い奴ではあるのだろう
情報も貰ったことだし、後で何か礼でもしないとかな
「コレでフィークスは大丈夫」
「本当に?」
「ああ、本当だよ。学園のヒーロー様だからね、悪い様にはならないよ」
それを聞いて少し落ち着いたのか大きく深呼吸して息を整える那美さん
「それじゃ神至くんも避難しないと」
「俺は大丈夫だよ、アレ何とかしないといけないし」
そう言って巨岩の方を指さす
もう結界は限界を迎える寸前だった
「無理だよあんなの、どうやって──」
那美さんが言い終わるよりも早くガラスの砕ける様な音が、耳を裂く高音が島中に響き、同時にけたたましくサイレンが鳴り響く。結界が割れた事を、緊急事態を知らせる為に
「やっぱだめか」
「そうじゃのでは頼むとしよう」
「どうしてそんなに落ち着いてるんですか!?」
まぁ那美さんの疑問、怒り?は当然のものだろう。この世の終わりを彷彿とさせる巨岩がたった今、学園を保護していた結界を破壊したのだから
「それじゃこれから始める事、みんなには秘密にしてくれよな那美さん」
「始めるって何を?」
「それは見てもらった方が早いな。那美さん、俺との秘密覚えてるか?」
「うん、覚えてる。」
こちらを見て頷く彼女の顔は、何処か納得したような、少し不満気な表情をしている
また普段見れない顔が見れたな。緊急事態だと言うのにあまりに緊張感のない感想が思い浮かぶ
そのまま那美さんをジジイに任せ屋上の端の方、巨岩に近い位置に移動する
「学園長いいんですか?いくら彼が強くて、変わった力を持っているからってまだ──」
「学生とそう言いたいのじゃろう?」
「はい・・・」
「そう思うのも当然じゃの、まだ編入してひと月もたっておらんからよく分からない男じゃろう。でものぉここから先のあやつのする事をよく見ておくことじゃ。そうすればあやつが何者であるのか少しは分かるじゃろうて」
後ろで何か話しているみたいだが気にしている暇は無さそうだな
半年ぶりの力の解放、トラウマを産んだあの時の光景が頭を過ぎる
大丈夫、大丈夫。あの時は使わなかったから、ああなった。今は違う
呼吸を整え言葉を紡ぐ
俺の持つ理の力を
力の理を解放する為に
「我、力の理を有し統べる者」
コレは七つの理の中で最も強力な力
「理の力を持って世の理を書き換える者」
法則を捻じ曲げ己の思い通りにする力
「力を持って理全てを従える神となり」
この力の前には全てが塵芥
「あまねく全てを掌握し」
この世の全てを自在に操り
「あまねく全てを救う者なり」
心のままに人を救う
「理開門、その全てを解放する」
この力は俺の願いを形にするもの
「力神顕現」
願いは一つ、誰かの救いとなる為に
全身を覆う白金の魔力
足元に展開された魔法陣も同色に色付き輝く
魔力の光に照らされ髪も瞳も眩いばかりに光を反射し白く染まる
その姿は現代に降り立った神。何も知らない者がこの場を見れば、そんな勘違いを起こす者もいるだろう
それほどまでに他者を魅了する圧倒的なオーラを放つ
そんな中、鎖の砕けるような音が響く
他の2人には聞こえない、力人の内にだけ響く音、それは何が砕け、何が変わったのか。今はまだ知らない
本人はその事に気づいてすらいない
久しぶりの全力の解放。踊る心、高鳴る鼓動。その高揚感に溢れ今は些末な事など気にする必要がないのだ
「綺麗───」
理の力を解放し全力を出した力人の、その姿に見蕩れるものが1人
初めて見るその姿、その力に心を吸われる様なそんな感覚に陥る那美
「ほっほっほ。随分と綺麗な魔力になったのぉ」
その横で嬉しそうに笑うノーデンス
彼の事はずっと見てきた。だからこそ今の姿に思う事があるのだろう。昔見た悍ましい魔力とは比較にならない、鮮やかで人を魅了する美しいその魔力に、その姿に
解放した力を確かめる様に手を何度か握る
よし、大丈夫だちゃんと使えてる
半年ぶりの解放だ。加減ミスって周囲を消し飛ばしたりしたら目も当てられない。でもそんな心配は無さそうだな
「やるか」
やる気を吐き出すように一言呟き手を巨岩に向ける
「法則歪曲、対象指定、重力・移動エネルギー簒奪」
その一言で落下していた巨岩はその場で時が止まったかのように停止する。風が吹こうと何かがぶつかろうと動く事はない
「簒奪エネルギー変換、空間圧縮、範囲指定」
続け様に奪い取った重力と質量を別の物に変換する
そして
「消えろ」
巨岩を握り潰すかのように手を握る
音もなく爆縮した巨岩は目に見えぬほど小さく圧縮され、その存在を消したがまだ終わらない。あくまで小さくしただけだ、まだそれを形作っていた魔力は残っている
「魔力簒奪、変換、結界修復・強化」
巨岩は魔法により生成されたもの、つまり魔力でできていると言い換えられる。巨岩を形作っていた魔力。その全て奪い取りノーデンスの張っていた結界の修復と強化に充てる
握りこんだ手を開き両手を結界に向け魔力を放出しながら結界を戻す
巨岩により打ち破られた結界は見る間もなく一瞬で再生される
「余剰魔力変換、自己強化、治癒能力」
いつぞやから抱えていた頭の靄を晴らす為に、余った魔力を自分の治癒へ回す
スーッと頭にかかっていた薄霧が、風に流されるように晴れて行くのを感じる
やっはり魔眼の長時間使用による影響だったのだろう。そもそも後付けの魔眼自体、短時間の使用であっても脳が焼ききれていてもおかしくはない。そんな物を長時間使用すれば尚のことだ。それが治り冒険者時代のようにはっきりと思考出来るようになった
理の力はやっぱ便利だわ
もっとも自分の魔力を既に治癒に回していたはずなのだが、治っていなかったと言うことは、俺が想定していたよりも遥かにダメージがあったのだろう
そもそもの話、脳にダメージある状態で物事を考えた所でまともな結果になる訳が無いよな
自分の回復が済み、状態を確認した所で簒奪した魔力が尽きた。それに合わせて理の力も解除する
眩い程に輝いていた魔力は消えいつもの姿に戻る
「まぁこんなもんでいいだろう」
「すごい・・・」
「カッカッカッ!ワシが時間かけて直してたもん、一瞬で元に戻すとは流石じゃの力人」
「随分楽しそうに笑うなジジイ」
なんて事のないようにいつも通りの雰囲気で話す
その表情は少し呆れたようにでもどこか嬉しそうなものだった
「神至くん、今のは?」
「俺が持つ理の力。ありとあらゆる力を操る能力と言えば比較的分かりやすいかな」
簡単に説明を行い「どう?怖かった?」と少し自嘲気味に尋ねる
「ううん、怖くないよ。すごく綺麗だった」
純粋な素直な感想に少しホッとする
はっきり言って異常な力だ、到底人の身に扱えたものじゃない。でもどういう訳か反動も代償もなく使う事が出来る。あの姿を見て綺麗と言って貰えるのならそれは理の力が俺の想いに応えてくれたという事なんだろう
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」
那美からの言葉に笑顔で答える力人
それは普段の学園生活でもあまり見せることのない年相応の随分とあどけない笑顔だった
「一つ聞いていい?」
「何かな?」
「理の力って一体何なの?」
恐る恐ると言った感じの質問、コレには少々答えに困ってしまう
何しろ扱っている俺自身がよく分かっていない
「えーっとなんて言ったらいいんだろうか。なぁ?ジジイ」
「そこでワシに振るのか。正直なところワシにもよく分からぬ、力人は生まれながらにして持っていたようじゃが、ワシはそうではないからのぉ」
「そうなんですか?」
「おいジジイ、それは俺も初耳だぞ」
「ほっほっほその話はまた今度するとしようかの。まぁなんじゃ、詰まるところ理の力とは人を神にする力じゃよ」
何となく俺が持っている認識と同じに思える。だが何か違う様に感じる。誤魔化している訳ではなく、敢えて話していない事があるとそう感じた。
頭の靄が晴れたからだろうそういう物を敏感に感じ取っている
まぁ話さないというより話せないの方が正しいんだろうなたぶん。理の力を持つ者がそれぞれ秘密を抱えている、俺もジジイに話していない事もある、その逆もまた然りと言った所だろう。それ以前に関係の無い那美さんがいる、そんな状況でジジイは不用意な事を言うことはないだろう
一方で那美さんは少し疑問に思う事があるのか首を傾げて頭を捻っているようだった
「神名解放とは違うんですか?」
「そうじゃのその辺は力人に聞くと良い、その程度なら教えてくれるじゃろうて」
「どうなの?神至くん」
「神名解放は神話の神の力を借り受けるもので、理の力は全く新しい神として力を振るうって感じかな」
「まぁそんな感じかのぉ」
「よく分からないけど、すごい力って事でいいのかな?」
あまり上手く説明出来なかったみたいだ、頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのが見える
「カッカッカッその認識で良い。理の力なんぞ使ってるワシらでもよく分かっとらん、他の人より変わった力を持っとると言うだけの話じゃよ」
「そうだな、変な力持ってる程度の認識でいいと思うぞ俺も」
愉快愉快と笑うジジイにこればかりは同意する
持ち得ぬ者に説明した所で理解を得られるとは思っていない。別に突き放している訳じゃない、理解が難しいなら多少大雑把でも比較的好意的に取ってもらえば良い、そんなところだ
まだうんうんと考えているようで首をかしげている那美さんだが、屋上の扉が勢いよく開かれた事で中断される
「那美!こんなところにいたの!?」
那美さんが駆け込んできた時よりも大粒の汗を流しながら深於さんが現れる
「深於ちゃん!どうしてここに?」
「どうしたもこうしたもないわよ、あなたがいなくなったから探しに来たんでしょうが」
「そうだったんだ。ごめんね深於ちゃん心配かけて」
無事な事に安堵したのか深於さんは那美さんに抱きついたままその場にへたり込む
その後ろからまた人が現れる
「いた!神至ここにいたのか心配したぞ」
「プ、プゴォ、2人とも早いプゴ」
息を切らすことなく入ってきたディルと対照的に絶え絶えの息で走ってきたのはフィークスだ
「なんか窓の外ででけぇ隕石消し飛んだの見たんだけどまさか神至がやったのか?」
「凄かったプゴ、おっきい隕石がパッ!ってマジック見たいだったプゴ」
「あー、あれはジジイがやったんだよ」
しれっとやった事をジジイに擦り付ける
俺がやったと言ったところで信じないだろうし、そんなバケモノに何を思うかなど想像したくない
ならよく分からないやつに被ってもらう方が俺としては都合がいい
「プゴォ、さすが学園長プゴ」
「でもなんで神至も一緒なんだ?」
「それは試合終わった後だったし、ジジイの近くが1番安全だからだろう」
「確かにそれもそうか」
完全に口から出まかせだが信じてくれた様だ
「そういえばフィークス、クリムゾン・カーペットとは会わなかったのか?」
「会ったプゴ、ボクはトイレの中だったけど」
あの状況でまだ籠ってたのか・・・
「一緒にいないけど、どうしたんだ?」
「俺たちが合流した時にはもういなかったぞ」
「ボクがトイレの中にいるのを確認して、その後ふたりが近くに来てることを教えてくれた後いなくなったプゴ。お腹の調子も治まったからその後にふたりと合流したプゴ」
「そうか、礼くらいしたかったんだけどな」
「まぁまたどっかで会えるだろ、一応学園の生徒ではあるみたいだし」
「そうなのか?」
雰囲気からして相当な手練だったし、教官か冒険者かと思ったがそうではないのか
「プゴ、普段は生徒裏の姿は正義の味方、中々格好良いプゴ」
「そういうもんなのか」
「水門の奴は会えなくてショック受けてたけどな」
「その話はいいじゃない!」
那美さんに抱きついたままこちらに向けて言葉を投げてくる深於さん
あの様子からするにファンか何かなのだろう
「1回助けて貰ったことがあるだけで、別に気になったりとかして無いわよ!分かるわよね!?」
なるほどそういうことか実に分かりやすい
まだ色々とギャーギャーと騒いでいるがそれもまた楽しいものだ。ついその様子を見て頬が緩む
「ちょっと神至なんで笑ってんのよ」
「いや、アレだけの事があったのに随分と楽しそうだなと思っただけだよ」
「そうなのか?俺はてっきり──」
「てっきり何よ」
「───いや何でもない、というか待てなんでメリケンサック着けてんだよ」
ディルの言う通り深於さんは先程まで那美さんに抱き着いていたはずなのに、今はしっかりと両足で立ち。拳にメリケンサックを着け握り込んでいる
「ディルは深於さんがクリムゾン氏に惚れてると思ってるプゴ?」
「おいバカ、フィークスお前」
「へぇ、面白いこと考えるじゃない。乙女の純情弄んで楽しいかしら?」
「待て待て!にじりよって来るな!」
「問答無用!」
「あはは〜、深於ちゃん程々にね」
「アァァァァ!」
喧騒を流しつつ大きく伸びをする
何はともあひとまず学園危機のは解決した。後は試合結果を見るだけだ、一応これでBクラスの失禁3人組は排除出来るし、この後の問題もそう時間をかけずに解決出来るだろう
この日の授業は終わりとなり、結果は後日改めて掲示される事となった




