表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/20

力と黒と紅と

第3グループの試合が終わり待っていた全員で出迎える

「勝ったよ〜ブイ〜」

いつもののほほんとした雰囲気の迦倉を中心にやたら疲れた表情のみんなを労う

「お疲れ様、大変だったな」

「稲見やばいよ、怖かったよぉ」


情けない顔をしながら俺の方にやってきた朱裂くん

「1番近くで見てたもんなぁ」

「まじやばかったよアレ、神至すげぇわなんであれ捌けんの」

2人で話しているのは3号が蜂の巣になった事だ。実際には防具だけだが、的確に加減して防具だけを完全な蜂の巣になるようにサブマシンガンを連射するという結構な荒業を見せていた


迦倉さんも怒らせちゃダメだなうん、銃持った時に何されるかわからん。当の本人は普段の様子に戻りみんなから頭を撫でられ満足そうに笑っている


失礼なことを考えていると月夜野さんが声をかけてくる

「神至さん、少しいいですか?」

「お疲れ様、何かな?」

「あの、Bクラスの問題の件についてなんですが、あなたはどこまで知ってたんですか?」


ユグシルさんと戦っている時に、話をしているのは見ていたが、あの事を話したのだろう。俺も直接本人から全てを聞いた訳ではないが、たぶん全部知っている


「全部知ってるけど、それがどうかした?」

「どうして助けてあげないんですか、あなたならそれくらいできるのでは?」

辛そうな顔で、少し責めるような言葉が飛んでくる

自分の不甲斐なさに対してだろうか、言葉に少し棘は感じるが、こちらを責め立てるような雰囲気はない。不思議なもんだな、自分とは全く関係がないクラスだと言うのに罪悪感を抱いているようだ


「大丈夫だ、Bクラスに送った要求知ってるだろ?」

「そうですけどもっと───」


月夜野さんの声を遮るように実技棟全体に放送が入る


『Eクラス神至 力人。至急ステージまで降りてきてください、コレよりエキシビションマッチを開始します』


「はぁ?」

「へっ?」

不意に呼び出された事でEクラス全員がこちらを見てくる。ていうかちょっと待て、なんでそんなお前またやらかしたのか?みたいな目で見てくるんだよ。オイ

「神至お前またなんかやったのか?」

「ディルそれは流石に酷いぞ」


俺とディルのやり取りを見てみんな少し落ち着いたのだろう、今度は不思議がる子や心配そうにしてくれる子が出てくる

全員は相手してられないな


「話の続きはまた後でいいか?」

「はい、呼び出しでは仕方ないですから」

月夜野さんには後でちゃんと話をする事にして、ステージの方へ向かうことにする


「とりあえず行ってくる」

「おう!気を付けてな!」

ディルを筆頭にみんなから送り出される

仲間のみんなに送り出されるのとはまた違った感覚に心が踊りやる気が満ちてくる


何が何だかよく分からんがやるだけやってこよう。そう意気込んで通路に向かっているとフィークスが着いてきた


「フィークス?どうかし──どうした?」

何かあるのかと聞こうと向き直ると、フィークスはお腹を押さえ顔を真っ青にしていた


「ぷ、プゴォ。途中まで一緒するプゴ。トイレに行きたくてプゴ」

「なんか悪いもんでも食った?」

「ちょっと拾い食いを・・・」

「そんな、犬じゃないんだから」


先程のやる気はどこへやら。心配になってしまったので、背中をさすりながらフィークスをトイレまで送り届ける


「ありがとうプゴ。ここまででいいプゴ」

「あぁ、お大事に?」

俺の返事を聞くまでも無くフィークスはトイレに駆け込んで行った

見届けたので俺もステージの方に歩き出すと少しして獣の雄叫びが聞こえてきた


「ピギィイイイイ!!」


・・・何も聞かなかった事にしよう


俺はあの声を無かったことにして足早でステージへと向かった




「それで?これはどういう事だ?ジジイ」

ステージに着いて真っ先にジジイを問い詰める

めちゃくちゃ悪い顔してたので確実にこいつが原因なのは間違いない


「ほっほっほ、なにBクラス担任の黒井教官がEクラスは不正しているとの発言があっての。さっきまでの試合結果を取り消し、お主と黒井教官の1体1のエキシビションマッチで決着を付けることになったんじゃよ」

「うちのクラスが不正なんぞする訳ねぇだろうが」

みんなの頑張りを無意義にするような行為に腹が立ってくる


「分かっておる、だが黒井教官は納得行っておらぬようじゃのぉ」

ヘラヘラと笑いながら話すジジイを見て提案者が黒井なのは分かった、でもそこまでする必要がどこにも───こいつまさか

「お前もしかして俺に黒井を処刑させて自分の手間減らすつもりだろ」

「・・・なんのことかノ?」

「思ってんじゃねぇか、裏返ってんぞクソジジイ」

図星を突かれて少し黙ったのがその証拠だ、何年お前と一緒にいると思ってんだ。そのくらい察しがつく

呆れてため息を吐きつつ話の続きを促す


「ま、まぁあれじゃ。お主が勝てば結果は元通りEクラスの勝利じゃ要求もそのまま通す、それでよかろう」

「いやもうひとつ要求する」

「ふむ、何かな?」

「勝ったらEクラス全員で祝勝会するから、商業区画にある1番高いレストランお前の奢りで」

「カッカッカッ!随分と思い入れが深くなったようじゃの、まだひと月も経っておらんぞ」


冒険者時代には見た事もない笑い方をしている。随分と楽しそうだ。そんなに俺の発言はおかしかったのだろうか

「いいんだよ、俺がそうしたいんだから」

「分かった約束しよう、このノーデンスの名においてお主の望み叶えてしんぜよう」

「カッコつけんな」


それだけ言って特設ステージに上がる

黒井は既に上で俺を待っていた。


「やあ、神至くん。君たちEクラスは一体どんな不正をしたんだい?」

「そんなことしてねぇよカスが。お前こそ自分のやってきた事振り返った方がいいじゃねぇのか」

お互いに相手を煽り合う、こちらは少し怒りが増すだけだがあちらは違ったらしい


「何が言いたいクソガキ」

態度がいつもの柔和なものから刺々しくなり言葉遣いも悪くなる


チラリとジジイの方を見る、意図が伝わったのだろう。結界を強化し攻撃が完全に客席に届かないようにした上で、光魔法と水魔法を組み合わせたモニターを作り出し客席によく見えるようにしてくれた

ご丁寧な事にスピーカーまで作り出してやがる


コレで試合内容はよく見えるし、会話も全て客席まで伝わる。さぁて処刑の始まりと行こうか


「現2年生Bクラス担任、黒井 狩斬(くろい かりぎり)お前のやった下劣極まりない行為について、今ここで、試合を始める前に告発してやる。とぼけてもいいけど証拠の類は全て揃ってるぜ」


俺の言葉に黒井の眉がひくつく、かなり苛立ってるな

周囲の観客からは何が始まるのか分かっていないのだろう、ザワザワと落ち着かない感じの声が至る所から聞こえてくる


「では私のやったというその行為というものを説明してもらおうじゃないか」

腕を押さえるようしてキツく手を握っている

今ここで激昂すればそれこそ事実と取られかねないからだろう

だから話を聞くまでは耐えると言った感じの面持ちだ


どこまで耐えられるか見ものだな

「じゃあまず端的にやっていたことを羅列しよう」

そうして俺はまず黒井が今までやってきた生徒に対する悪事を全て口頭で説明する


生徒全てに良い顔をしつつ、実力の高い生徒に対しては優遇措置をとることで、実力の及ばないものや亜人種への当たりを強くする

そうする事で意図的に生徒同士での格差を産ませ差別意識や虐めや暴力を助長させる

それにより弱った生徒を手篭めにし、自分の欲求を解消する道具や奴隷として扱ってきた事

一部生徒にそのことを共有し、同様の振る舞いをする様に誘導する

飽きたり利用価値の無くなった奴隷は娼館に売り付けてその金を自分の物としていた事


「まだあるけど、ざっくりこんなもんで一旦やめようか」

一応全て裏が取れてる。ゲンコツババアのおかげで元学園生だった人からの情報を得て、カリオスに頼んで裏取りするために詳細の調査もしてもらった


観客席から阿鼻叫喚の声が所々聞こえてくる

主に女生徒の声だ、心当たりのある生徒が泣き叫んでいるのだろう

うちのクラスは・・・大丈夫そうかな、妙に納得した顔の月夜野さんと目が合った気がするが気のせいだろう

一応配慮しながらは話してるけど実情全部話すのは、俺もちょっと嫌なんだよなぁ


「随分と大層な妄想じゃないか、なぜ俺がそんな事をしなければならない!」

「だってお前、元奴隷商人ギルドの『劣欲のカリギュラ』だろ?」

「はぁ?ぇ?・・・なんでしって───っ!」


俺の言葉に驚き目を見開く黒井

まさかそこまで知っているとは思ってもいなかったのだろう、つい口をついて自白してしまっている

「やり口知ってるからな、調べるのも簡単だったらしいぞ」

「お前ぇ、お前ぇぇ!何故そこまで!」

「うん?そうか見覚えないのか。じゃあ知らなくていいや。それはともかく認めるのか?」

劣欲のカリギュラと呼ばれていたこいつは、昔うちのパーティと戦争のあった奴隷商人ギルドの副リーダーみたいな立ち位置のやつだ。俺の顔に見覚えが無いということは、アレが起きる前に逃げ出していたんだろう


「いいや、認めるわけが──「じゃあほれ」なっ!?」


黒井の言葉を遮るように空間魔法を使い売買契約書を異空間から取り出し全てばら撒く

ちなみにばら撒いているのはコピーで原本はジジイ経由で国際警察に提出済みだ


モニターにもその全てが映る。冒険者や一部貴族なんかはお世話になったことある店のひとつくらいあるだろう、そこに見知った源氏名のひとつでもあれば尚のこと驚くはずだ。まぁもう誰1人として娼館にはいないんだけど


「コレで言い逃れは出来ないな」

「キサマァ!よくも、よくも私の計画を台無しにしてくれたなぁ!」

ハイ、完全な自白頂きました

まだ何かごちゃごちゃ言っているが、コイツの話など聞くに絶えない、価値もない。サクッと勝って終わりにしたい


「ジジイ。罪認めたぞコイツ」

「では試合を始めるとするかのぉ」

「学園長いや、どういう事だノーデンス!」

「ほっほっほ、報告は既に上がってきておるのだよ黒井、いや劣欲のカリギュラと呼ぼうか?」

「クソが!」

怒りに身を任せ武器を取り出す黒井

獲物は───へぇそう、面白いもん使うじゃん


黒井の扱う獲物は魔導杖、幾何学模様の入った特殊な金属の棒に大きな魔石がひとつ埋め込まれている

しかしそれだけじゃない多分あれは変形できるタイプだ。杖として見るにはあまりに魔石を覆う魔導機構が大きく分厚い、その形状から察するに鎌になるのだろう

何故あの手のロマン武器は表に出回らないのか、少し残念に思いつつジジイに一言だけ声をかける


「ルールは?」

「特に制限は設けない、武器も魔法も制限なしじゃな」

「分かった」

理の力を使わずとも普通に本気でやって負けることは無いだろう

一応殺さずにボコボコにして、警察に回収はしてもらおうかジジイも手配くらいしてるだろうし


空間魔法を使い自身の愛刀を取り出し装備する

「さて始めるか、仮にお前が勝ったところでもう居場所は無いけどな」

「それではこれよりエキシビションマッチを始める。ダメージ変換の効果はないから、普通に死ぬから気をつけることじゃな」

「許さん、許さん。お前だけは絶対にぃ」


律儀に試合開始を待ってるのがおかしくなってきてしまう

一応体裁はギリギリ保っているのだろう変な奴だ


「両者構えよ、審判はワシが行う」

ジジイの声に合わせ互いに武器を構える

鞘から刀を抜き直立したままだらりと脱力する。刀は地面を向き、左手は鞘に手をかけてリラックスさせる。攻撃の構えと言うにはあまりにも隙だらけに見える事だろう

あちらは杖を後ろに構え魔法の準備をしているのだろうか、若しくはこちらが近づいた瞬間、鎌による反撃をしようとしているのか


まぁどっちでも構わない。俺は俺の出来ることをやるだけだ



「はじめ!」



ジジイの号令と共に黒井が飛び出してくる

魔導杖を振るって攻撃するつもりなのだろう。杖を後ろに構えたままこちらに向かって走ってくる

殴らないと気が済まないとでも言いたそうだ

こちらも相手の動きに合わせ魔法を展開する


『ダークソード』


無詠唱で剣の形をした闇を6本展開する

そのうち4本を自分の背面に待機させ、残る2本を黒井に向けて飛ばす


展開されたダークソードに特に驚いた様子はなくそのまま突っ込んでくる


走りながら杖に光魔法を纏わせダークソードを打ち払う黒井。思ったより魔力が込められていないと思ったのだろう。消滅する俺の魔法にを尻目に少しにやける


「この程度か?神至 力人!」

叫びながらさらに距離を詰める


自分の間合いまで近づいた事で杖を振るう、それと同時に変形させ魔力で刃を生やし切りつけてくる


怒りで動きが単調すぎる

横薙ぎの切り払いをしゃがんで避ける


これくらいは予想していたのか無詠唱でファイアボールが4つ目の前に生成され力人に向け射出される

しゃがんだ体勢から一気に後方へ飛び上がり、空中で身を翻しながら魔法を避ける


地面に2発当たり、小さな爆発を起こす。残りは力人を追従するがダークソードで切り裂き接触する前に消滅する


危なげなく着地し先程と同じ立ち姿で狩斬に声をかける


「中々動けるんだなお前、ちょっと楽しめそうだ」

「ほざくなガキが、生徒如きに負けるほど俺は弱くないんだよぉ!」


お互い言いたいことを言った後に攻勢に出る

力人は刀を狩斬は鎌を構え直し、お互いを切り捨てるために武器を振るう


鎌を用いた袈裟斬りを刀の腹で水を運ぶように受け流す

武器のリーチでは狩斬の方が優位であるがそれを感じさせない立ち回り。一体その身の若さにどれだけの戦闘経験を積んでいるのか。力人は一切の躊躇なく、相手の袈裟斬りを受け流したところから刀を返し切り上げる


両断することは叶わなかったが狩斬の服をその身体に傷を付ける

「くっ!」

「まだだ」


重さなど無いようにまた刀を返し袈裟に下ろす

今度は避けられる


だが攻撃の手は止まない続け様に2撃、3撃と刀を振るい狩斬を確実に追い詰めていく

間合いが近く防戦一方だが杖に変形させ上手いこと最後の攻撃をいなし一度距離を大きく取る狩斬


「コレでも食らっておけ!」

杖を力人に向け魔法を放つ

炎と風のに2属性の球状の魔法が4つ射出される


構えを変え体の後ろに刀を引くようにしてそのまま魔法に突っ込む力人

魔力を纏ってすらいない刀にも関わらず狩斬の魔法を全て切り払う

「攻撃するのに口に出すなよ三下」

「く、クソガキィィイ!」

激昂したのか巨大なファイアボールを生成し力人目掛けて放つ


「この程度」

冷ややかな視線を向けたまま火球を下から切り上げ両断する。そのまま真っ直ぐ狩斬へと距離を詰め振り上げた刀を流れるように振り下ろす


風を切る音が少し鳴り、狩斬は紙一重でその攻撃を避ける

「───ヒヒッ」

一瞬苦悶の表情を向けたが考えがあるのだろう、狩斬は後ろに飛びながらその顔を愉悦に染める

その手に握りしめた鎌を自分との間にいる神至に向けながら



ギンッ!



金属同士の触れ合い弾ける音が響く

その事に狩斬は驚き目を見開く

なぜなら完全に死角を取ったはずの攻撃を魔法の剣が己の鎌を弾き飛ばしたのだから

「なっ!?」

「どうした、死角から攻撃すれば当たるとでも思ったのか?」


『堕ちろ』

言葉が無い故に気が付けない

中途半端な距離で避け体勢を崩した、斬れば終わるその距離を魔法によって身体が宙に落とされる


確実にチャンスだったのに、斬りつけず宙に落としたのは何故か。それはただ斬って勝つよりも徹底的に叩き潰すと決めたから、魔法も近接もお前では俺に勝てないと刻みつけるためだ


「───っあ!」


頭から空に落ちる感覚。経験したことの無いそれに、狩斬は抵抗する事は出来ずただ空中を藻掻くだけだ。

空に落とした当の本人は、その場から距離を取り刀をだらりと下げたまま魔法を解除する


4、5メートル程落下した狩斬は魔法が無くなった事により今度は地面に向かって落下する


通常の落下であれば対処できるのであろう地面にぶつかる直前に風魔法で自身の体を浮き上がらせて着地を試みるが


その隙を力人が逃すはずもなく着地点に闇魔法で無数の槍を突き立てる


流石に対応しきれなかったのか急所だけは光魔法で保護しながら槍の針山に落下する

土埃が周囲を覆い隠すように広がる。この程度で死ぬとは思っていないのだろう視線は切らず真っ直ぐと落下地点を見据える


「クソっ!くそぉ!こうなったら」

土埃が晴れる直前悪態をつきながら、狩斬がナニカを口に放り込む

そして視界は晴れその姿が顕になる


当然誰もが全身傷だらけで満身創痍になっている。そう思っただろう。しかし現実は違った


赤黒く禍々しい魔力を全身から吹き出しながら傷が再生していく見た目こそ人であるがその姿を人として認識できるものはいなかった

「────展開、ヒヒッヒヒヒッ」


同じ戦場にいる力人でも聞き取れないほど小さな声で何かを呟く狩斬

「コレで終わりだ、短い人生だったなぁ!神至!!」


状況は把握出来ないものの、何かしたのはすぐに分かった。口に放り込んだものもそうだが先程の呟き、アレがブラフだとは思えない


長引かせるとまずいか

そう思い刀を鞘にしまい構えを変える


足は肩幅よりも少し広く立ち、腰を落とし重心を前に体を丸めて左手に鞘を握り、右手は柄を添える居合の構え

「どうした急に丸まってそこから一体何が出来る!」


狩斬の声など届いていない

それほどまでに集中し呼吸を整える


「来ないならこっちから行くぞ!攻撃魔法多重展開『トリプルランス』」

風、炎、光の3属性の槍が無数に展開される

それを気にかける事も、視線すら向ける事なく真っ直ぐとただ真っ直ぐに冷たい視線を狩斬に向ける


視界を覆う程の魔法の雨が射出される、力人の命を消し飛ばすために

当の本人は魔法が放たれたというのにも関わらずまだ動かない、構えたまま魔力を全身から漲らせるように滲み出す


集中が極点にまで達し見るのも全てがゆっくりと見える

問題ないな、そう心で呟き一刀を振るう

神喰(かみじき)一刀流・抜刀術・零之型『(まどか)』」


通りすがりの剣神流と呼ばれる剣術


その正式名称

呟くが早いか刀を振るうが早いか


水面を叩く水滴の様にチンッと刀を鞘に納める音が静かに響く

同時に力人を覆うように射出された魔法、その全てが爆散する

「───はぁ?」


何をしたのか誰にも見えなかった。狩斬を客席の人間もその誰もが抜刀の瞬間を見ることを出来た者はいない

音を超える瞬間一撃。たった一振それだけで攻撃全てを無力化した

「キサマ!一体何をした!?」

「神喰一刀流・抜刀術」


狩斬の声はやはり届かない

音は響かず目線は真っ直ぐ敵を見据えたままだ、まるで魔法など見る必要すらないと言わぬばかりに

続け様に型名を呟く力人その姿を見て反射的に鎌を防御体勢で構える狩斬


その判断は正しかっただろう相手の力量を読み違えてさえいなければ


「壱之型『(はじめ)』」


言い終わると同時に力人の姿が消える

一拍遅れて刀を鞘に仕舞う音が静かに響く


力人は狩斬の後ろに立ち刀を納めていた

その事に気がついたのは観客席にいる人だけだ


では狩斬の方はどうだろう

構えていた鎌は腕ごと両断され、腹には真一文字の傷がありバックリと裂ける

「ゴブッ」


口から血を吐き出しながらその場に崩れ落ちる

「何故だ・・・何故傷が癒えない!?」

先程魔法を受けた傷はすぐに修復され治ったのに今度は傷が塞がらない

その事に動転したのか立ち上がる事すら叶わない


「呪いだよ、闇魔法の治癒阻害で斬ったもう終わりだ」

「貴様は一体なんなんだ」

これだけ血を吐きながらよく普通に喋れるのは、すげぇなそう思いつつ問に答える


「ちょっと前まで冒険者やってたただのEクラス生徒だ」

その事を聞いて狩斬は仰向けに倒れ笑う


「ククク、キヒヒ」

「負けておかしくなったか?」

「いや、試合は負けたが勝負には勝ったこれで学園諸共お前は終わりだ」

意図は理解できないが先程の呟きと何か関係があるのだろう。問い詰めようと踏み出した瞬間



ガラスの砕ける音が実技棟に響き渡った



天井のガラスを砕き紅のナニカが落下し、狩斬の首にその長すぎる刀身を叩きつけるようにステージごと一刀に臥す


「マジか・・・」

全身から迸る魔力の畝り、魔眼を使っていないにも関わらず可視化されるほど濃密で強大な魔力

先程の狩斬のものと比較にならないほどの強さに少し圧倒される

身長は2m近い、体格はマントの上からでも分かるほどにがっしりとして亜人種だと察せる

顔はマントのフードを深く被っていて見ることは叶わないが鼻筋は高そうだ


その両手に握るのは野太刀。刀と言うにはあまりにも長すぎる刀身。血を啜って来たかのように紅く鮮やかに輝いている


圧倒的な強者を目の前にして力人は、口角を釣り上げ刀を握る手に力が籠る


「あんた何者だ?」


既に首と胴体が分かたれた狩斬の事など眼中に無くただ目の前の強者に声をかける


「オレは邪な者の血で道を敷く者クリムゾン・カーペットだ」

その名乗りに客席から大きな歓声があがる

・・・?有名なのかコイツ

あとその名前ダサくない?

名前もそうだがどこか聞き覚えのある声に少し首を捻り考えを巡らせようとすると


「何用かなクリムゾン殿」

気が付けばジジイが俺の隣に立っていた

どこか警戒している様に見えるがこれはこの男に対してと言うよりは───

思考を遮るようにカーペットが言葉を発する

少し慌てたような感じの声だ


「学園長殿今すぐ全員を避難させろ、もうすぐ結界より大きな隕石が来る」

その言葉を聞き納得したように頷くノーデンス


「皆の者今すぐ学園地下に避難せよ、これより結界が持たない程の大きな隕石が来る」

スピーカーを通して全体に避難命令を下す

この状況に完全について行けなくなってしまったが上を見てその理由を理解した

学園島上空に見える大きな黒い影、それが少しずつ近づき大きくなってきていることに


意外な事にパニックにはなっていない、全員が大人しく避難誘導に従っている。俺としてはこちらの方が理解出来なかった

「ほっほ、入始式の時はあれだけ慌ててたのに随分落ち着いてるのぉ、コレもお主のおかげかの?」

「あの時はオレも知らない事だったから対応出来なかった、すまない」

「悪いのはお主ではなくこやつよ謝る事でもない」

そう話ながら俺を小突くジジイに少しムッとしながら尋ねる

「ジジイどういう事だ?」

「入始式の時学園初の警報がなってのそれはもう楽しいパニックじゃったよ」

「何それ知らないんだけど」

「それはそうじゃろうて、飛来物消滅結界をぶち抜いて島に侵入してきたお主のせいで鳴ったんだからのぉ」

あー、あれか警備員らしき人達に囲まれたな確かにジジイがすぐ来て解放されたけど


「それで?コイツは?」

「彼は去年から現れた学園の救世主みたいな者じゃよ、学園に危機が起こるような問題が発生すると必ず現れそれを知らせてくれる。今みたいに悪い奴を容赦なく殺す所はあるがのぉ」


なるほど、納得は出来ないものの理解は出来た

要はヒーローみたいなものなんだろう悪い奴を倒し、学園の危機も救うそうして今のように歓声があがるほどになったのだろう


「俺は学園区画以外の避難誘導に向かうアレの処理は任せてよろしいか?」

「もちろんじゃいつも助かっておる」

ジジイの返事を聞いて炎に身を包み姿を消す

初めからそれで現れれば良かったんじゃね?と思ったが口にする事はなかった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ