決意と魔銃の第3グループ
クルトとの話が終わり、ステージの方に向き直るとそろそろ最後の試合が始まるところだった
第二グループの試合開始は他よりも時間がかかった。理由は言うまでもなく破壊されたステージの修復に時間がかかったからだ
アルケー教官を始め他の教官と数人がかりで修復し、ようやくと言った感じだ。とは言え今回俺たちのクラスは他のクラスよりも早く試合を進めているから時間には余裕がある
他のクラスの対戦相手の分け方はSクラス対Aクラス、Cクラス対Dクラスといった振り分けがされている
今回俺たちがBクラスとやる事になったのはジジイが手を回したという訳ではなく
Bクラスからの総意という話だった、真相は定かではないもののおそらく教室やクラスの子たちを狙い打っての事だろう
まぁ個人的に俺に恨みを持つ3人が主導でやった可能性は高いが・・・まぁ既にEクラスの勝ちは決まっている。消化試合ではあるものの応援はしないとだな
「神至くん、君はこの試合どう見る?」
いつの間にか隣に来ていた宮本くんから声がかけられる
「月夜野さんの指示でみんな統率は取れてるから問題ないって言いたいけど、迦倉さんがなぁ・・・」
「やっぱりそう思う?」
試合が始まる前にBクラスの何人かがアルケー教官に抗議のような事をしている、おそらくは迦倉さんの持ち込みの武器に関してだとは思うが
迦倉さんが今回使うのは塔に行った時とは別の物だ
普段は携行しやすいという理由でライフル型の魔導銃を使っているのだが今回は違う、ミニガン型の魔導銃なのだ
一応実家から送って貰った物で私物らしいのだがみんなの反応があまり良くなかった
俺としては私物ならいいのでは?と思ったがそういう事ではないらしい、殲滅力も申し分ないし、取り回しがしやすい様に小型化もされていた。彼女の私物と言うのは多分本当だ
ディルが「娘にミニガン送るってどんな家だよ!」とツッコんでいたが、生憎と俺は他のお家事情をあまり知らないからそういう家もあるものだと思っていた
どうやら迦倉さんの家も普通とは言い難いらしい
一応試合となるとアレは明らかにオーバースペック、というか皆殺し確定コースになるとは俺も思っている。俺も1度やり合ってみたが全ては捌ききれなかった
「あれ没収されそうじゃないかな」
「かもなぁ」
俺が捌き切れないので、他の学生は蜂の巣になるのは目に見えてる。遠巻きに見ているだけで分からないがアルケー教官も少し引いているように思える
あ、アルケー教官がミニガン担いでった
「没収されちゃったね」
「・・・だな、一応サブマシンガンも持ってるって言ってたからそっちに切り替えるつもりかなぁ」
迦倉さんが軽く地団駄を踏んで文句を言っているのが見えるが内容までは聞き取れない
まぁさすがにそうなるか、暫く文句を言い続けていたようだが諦めて背中から下げていたサブマシンガンに持ち替えて再度交渉を始める
ミニガンよりはマシだと思ったのだろうアルケー教官も疲れた顔で頷いていた
迦倉さん体小さいのによくあんな重たいもん背負ってられるよなぁと素直に関心する
「アレでも十分すぎるくらい凶器だと思うけどな」
「そうか?あっちなら全部捌けるしいいんじゃないか?」
「それは君だけだから、普通は銃弾なんて避けることも出来ないからね?」
少し呆れたように笑う宮本くんを見て、また非常識だったかと頬を掻く
「とりあえず始まる様だ、応援してあげたまえ」
「そうだね」
「うぃ」
クルトに促されステージに目を戻す、今回のグループは失禁気絶3号とユグシルさんがいる。前者はともかく後者の動きは気になるところだ
何せずっと俺を尾行してたらしいからな
その辺の話はアルテとティリファから聞いている
俺がBクラスの3人と揉めた日からずっと俺の後を尾行ていたらしい
中々の隠密技術だウチの暗部が欲しがるんじゃなかろうか
そんな事を考えていると第3グループの試合が始まった
───
「はじめ!」
アルケーの号令がかかり試合が開始する
最初に動き出したのはBクラスの盾を持った女子生徒とEクラス迦倉だ
「稲見!突っ走らないで!」
「アハハハハハ!戦場は私の物よ!」
一応静止の声はかけるが完全に声が届いていない
1人笑いながら銃を乱射し敵陣に突っ込む稲見を見て頭を抑える輝夜
「みんな稲見のフォローを!足止めは私とアリサで!」
「「「了解!」」」
輝夜の号令で全員が一斉に動き出す
Eクラスのグループ内で最も統制が取れているのはこのグループだろう。約1名命令など全く聞かないものはいるが
独断専攻で稲見が突撃し牽制しながら最初にでてきたBクラスの子を打ち続ける、狙いは盾で行動を完全に封殺している、必要以上に威力が出ていないのは一応人に対する配慮ではあるのだろうか
「アッハハハハ!ほらほら防ぐだけじゃ勝てないよ!」
火薬式の銃と違い反動が少なく、炸裂音も小さい。物質的な銃弾を必要としないのが魔導銃の特徴だ
魔導銃はその構造からどんな人でも扱うことが出来る
魔力を銃弾として生成し発射する、威力に関しては物質的な物よりやや劣る物の殺傷能力は十分にある
構造によって必要とする魔力量や威力も変わる。最低限の魔力さえ込めれば軽いアザが出来るくらいに制御する事も可能だ
それを分かってやっているのだろう、だからこそ派手に動き自身に注目を集め、他が動き易いように立ち回っているとも取れる・・・傍から見れば暴走しているようにしか見えないのだが
その隙に輝夜の指示でフォローに回っている他の2人が接敵する
「お前、神至に絡んだってやつだろ。加減はしないから全力でかかってこい!」
「ほざくな、雑魚クラスがぁ!」
周りを無視しながら1番奥の余裕をこいていた男に攻撃を仕掛けた蜉蝣
扱う獲物は魔導式のトンファーだ
通常の金属製や木製のトンファーとほとんど違いは無いが、魔導式の物はその長さを変えることができ使用者の得意属性を付与することも出来る
対する相手は魔導式の剣、一般的に魔剣と呼ばれるものだ。試合の初めから雷属性を纏っている、仮に金属製の武器であったならば打ち合いになった時に相手を痺れさせることができる
武器同士が接触し金属音とはまた違う少し不気味な音が鳴り響く
Bクラスは基本的にグループのリーダーとなる者を守る戦法を取るのだろう
蜉蝣がその男と戦い始めたことでソレをフォローするように人が集まっていくが
「火、水複合魔法『アイスランス』」
「『アースバレット!』」
「『サンダーボール』」
力人が来た当初は魔法をまともに扱うことの出来ない者が多かったEクラスの面々がそれぞれ近い相手を狙いBクラス全体の動きを阻止する
「ダメ、行かせないあなたの相手は私」
「いいぜ相手になってやる。怪我しても文句言うなよ!」
氷属性という少し特殊な魔法を使い相手の動きを止めたアリサ
はっきり言って威力は大したことは無い
当たったところでダメージにもならないが、その珍しさから警戒をし合流することを諦めさせた
アリサの相手は人間の男だ体格こそEクラスの面々に劣るが動き自体は悪くない
金属製のショートソードを振るいながらアリサに攻撃を仕掛ける
「───っ、危ないかな」
普段冷静な表情をいつも崩さないアリサだが、さすがに単純な力で押されると男性には敵わなわず少し焦りが見える
避け切るのは無理と判断したのか、武器を取り出し相手の攻撃を受け流す
金属同士を擦り合わせる不協和音が響く
「なんだそれ、それが武器かよ」
「そうだけど、なに?」
アリサが手に持っているのは鉄扇だ
閉じた状態で上手いこと攻撃をいなされ少し苛立っているようにも見えるが、それよりもアリサの使う武器に拍子抜けしたようにも見える
「Eクラスの癖に舐めやがって!ハァ!」
「舐めてはないけど、本気でもない」
お互いが正面からぶつかりまた攻撃をいなす
気力と体力を削り合う勝負となりそうだ
「サンダーボール!うーん当たんないか」
「使いたて?とても遅いねあなたの魔法」
近中距離を維持したまま魔法を撃ち合うジャスミン
相手は獣人の女の子でかなり素早い動きで撃ち出された魔法全てを避けている
「まだまだ行くよ!サンダーボール」
「それじゃダメ遅すぎる」
ジャスミンが今対峙しているのは、以前力人がティアラを女子寮まで送り届けた際に会った子だ。本来の実力は見てしかると言うべきか、人間相手で多少気を遅れする部分はあるもののその攻撃全てを的確に避け続けている
「来ないなら私の方から行く」
身軽に動き魔法の連射を避けつつ距離を詰める
「うっそ早すぎ」
対してジャスミンの方は相手の動きの速さに翻弄され中々上手く攻撃が出来ていない現に一度も魔法は当たっていないのだ
魔法を掻い潜りその手に持つ双剣をジャスミンに突き立てる。受ける方もタダではやられることはなくこんを振り上げ攻撃を防ぐ
「あーもー!全然上手くいかない!」
ぷりぷりと怒った様子を見せるジャスミン
「あなたクラスで1番弱い?」
「あーっ!ひっどそれ言っちゃう?そうだけどさ〜」
文句をいいながら自分の身長よりも大きな混ん振り回し構え直す
「コレでも結構頑張ってるんだから、みんなに情けないとこ見せられないの!」
「私もティアラのために負けられない」
お互いが武器を構え直し睨み合うジャスミンも魔法が上手くいかないので戦法を切り替える様だ
「あなたがティアラさんですね?」
「そうですがあなたは?」
「月夜野輝夜と言います、神至さんから聞きましたよ負けて欲しいと懇願して来たと」
お互い距離を保ったまま睨み合い、会話をする
「そうですか、断られてしまいましたけどね。私の事悪く言ってたのでは?」
「いえ、神至さんはそんな人じゃないですよ。あなたの話を聞いて色々調べてたそうなので」
その事を聞き、この間の休日の事を思い出すティアラ
異常とも取れる実力でこちらを捕縛した2人の事を
「そうですか、でもそろそろ」
恐ろしい目をした2人を思い出さないように頭を振り払い言葉を返す、それに同意したのかはたま自分のグループの人間の心配をしてか輝夜も同調する
「そうですね、悠長にしてると稲見が何しでかすか分からないので」
2人ともその言葉を最後に足を止め武器を構える
輝夜は薙刀、ティアラは右手に短剣と左手に銃剣という変わった組み合わせだ
お互いに間合いを少しずつ詰めながら睨み合う
それから輝夜の間合いの少し外まで近づき、動く
「───行きます!」
先に動いたのは輝夜だ
大きく踏み込み一気に間合いを自分に有利なものにする
そのまま刃を下から上に振り上げ一撃を狙う
対するティアラは攻撃を避けながら体勢を低くしその後も臆せず距離を詰め銃剣を向ける
輝夜の攻撃は避けられ逆に間合いを詰められたことで不利になる
直感的に撃たれると感じたのだろう。後ろ手を押し添わせるように走らせながら振り上げた薙刀の勢いそのままに回し柄の部分を銃剣にぶつける
ティアラが引き金を引くのと同時に向きを逸らし致命傷を避けるが放たれた銃弾が輝夜の頬を掠める
近間では薙刀が不利になる事を理解しているのだろう、輝夜が距離を取ろうとするが、その隙をティアラは逃さず短剣を振るう
「──っく!」
今度の一撃は避けられず輝夜の肩を大きく切りつけた
流血こそしていないものの制服は破れている
結界がなければ薙刀を振るえなくなっていただろう
ティアラは反撃される前に大きく距離を取り銃剣を向けて輝夜を牽制する
もう近寄らせて貰えないと悟ったのか輝夜は時間を稼ぐ為に声をかける
「強いんですねティアラさん」
「そうでも無いですよ。私はコレでも第1グループのみんなよりは弱いです」
「その割にはあっさりじゃなかったですか?」
「っ!それはあなた方の第1グループが異常だからです!」
「まぁそれは確かに、私もそう思わなくは無いですけど。彼らは誰よりもキツイ訓練してましたからね、あの結果は当然かと」
「別にそんな事はどうでもいいんです。どの道私たちのクラスは負けですから。でも私はあの子達の為にも負けられないんです!」
単なる時間稼ぎのつもりだったが急にティアラが声を荒らげる。何かしらの事情があるのは察せるが、こちらには関係ない
そう割り切って行動出来ればどんなに楽だっただろうか
「何かあるんですか?」
哀れみでも同情でもない。ただふと、口をついて出た言葉だった
「この際だからもう構いません、私たちBクラスが負けた場合は売られるのです」
一瞬理解が出来ずに完全に硬直する
真っ白になった頭で出てきた言葉は───
「どういう事ですか?」
───その一言だけだった
「私たちBクラスの、一部の女子生徒はぼぼ奴隷として扱われています。酷いものでしょう?それがこの試合でクラスが負ける事があればその子たち全員が娼館売られる事になっています」
私もですけどねと自らを嘲笑するように、諦めたように笑うティアラ。涙などとうに枯れているのだろう
しかし虚ろにも見えるその瞳にはまだ光が点っている、何か考えがあるのだろう
それが例えろくでもないことであったとしても
「そんな・・・一体誰がそんな事を!」
彼女は本当の事を言っているのだろうか、いやたぶん本当なんだろう。自暴自棄にも見える彼女の態度からそれは何となくだがわかる。じゃあ神至はこの事を知っているのか、知ってて行動していたのかと、この場にいない男に対し恨みが募る
「Bクラスの男子、筆頭はグループのリーダー3人ですかね。あとは担任の黒───」
名前を言いかけたところで彼女の言葉が途切れる
撃ち抜かれたのだ、的確に、こめかみをたったの一撃で。死んではいない、ただ気絶しただけそれは倒れた彼女の様子を見れば分かる
では誰が撃ったのか、考えるまでも無く思い当たる人物の方を向く
こちらに銃口を向けながら、ほくそ笑む迦倉 稲見の方を
既に彼女の足下には最初に前に出たBクラスの子が倒れている、自分の相手を倒し終えて周りの様子を見ていたのだろう。ゆっくりとこちらに近づいてくる
「稲見!なんて事を!」
「輝夜〜ダメよ、敵に絆されちゃ」
「絆されてなんて───」
言いかけて留まる、本当にそうだろうかと。彼女の話を聞いて私はどうしようとしただろうか
「絆される必要なんてないわぁ、大丈夫だから何も心配せずに試合にだけ集中なさい」
「どういう事?」
「力人の事ちょっと調べたのよねぇ。そしたらあら不思議、なぁんにも分からないの。面白いわよねぇ」
微塵も面白く無さそうな声で話す彼女を見て少し思うところがある。迦倉の家は大企業で銃火器や魔導銃を扱うところだ。そこに後暗いところがある事も知っている。そんな家の人間が調べて何も分からないと言っているのだ
「どうして大丈夫だと思うの?」
「彼の知り合いって言ったらいいのかしら?たくさん動いてるみたいなのよ。だからきっと大丈夫」
稲見の表情は相変わらず面白くないと言った感じであるがその言葉に嘘は無い様だった
「私たちは何も考えず試合に勝つことだけでいいのね?」
「ええ、だから呆けて無いで他のみんなを助けに行くわよ」
「何か考えがあるのなら神至さんに任せればいっか」
稲見の言葉に先程までの考えを振り切り、意識を変える
「よし、稲見!さっき聞いた話だとグループリーダーが悪い奴みたいだからあなたは朱裂くんのフォローをお願い」
「ええ、もちろん任せなさい」
それだけ言うと稲見は蜉蝣の方に走っていく
本当に二重人格ではないかと思ってしまうが昔は元々あんな感じだったなと少し感慨深くなってしまう
「私もみんなのフォローしないと」
ピシャリと自分の頬を叩き輝夜も他のメンバーの元へ走った
舞い踊るように鉄扇を振るうアリサ
見た目にそぐわない威力に相手の男も少し萎縮ようにショートソードで攻撃を受ける
クラスの女子の中でも比較的華奢な体をしているアリサだがソレを感じさせない程に一撃が重い
攻撃と言うよりは舞と言った方が正しいように見える
クルクルと回転しながらふたつの鉄扇で絶え間なく攻撃を続ける
深於の打撃のラッシュが苛烈で過激とすれば、同じ華奢な見た目のアリサは優雅で壮麗といった動きだ
「攻撃、してこないの?」
「出来たらとっくにしてる!ぐっ───」
男が口を開き少し隙を見せたところでアリサの鉄扇が肋にめり込みミシリと音を立てる
絶え間なく回転し続け遠心力を利用した一撃は、例え女性の力であっても男1人を悶絶させるには十分な威力だった
鉄扇を打ち込まれた肋を押さえながら男がその場に崩れ落ちる
その様子を見て鉄扇を閉じ男に向けるアリサ
いつものように澄ました表情で静かに言葉を紡ぐ
「コレで終わりかな『アイスバインド』」
詠唱と共に男の全身が氷に包まれ顔だけが出た状態になる
威力は弱くとも拘束となれば話は変わるただ相手を氷で動けなくする、時間が経てば少しずつ体は冷え衰弱する
万全の状態であれば破壊することもできたであろうが今は肋にヒビが入っている、そんな状態で無理をすればどうなるか分からないほどこの男も馬鹿ではない
「参った、降参だ。アンタ、Eクラスなのに強いなぁ」
先程までの高圧的な態度や口の悪さはなりを潜めている。自分の実力不足を素直に認めているのだろう
「もう動けないの?」
「ご覧の通りだよ、さっきの攻撃すごいじゃん結界の効果ぶち抜いて肋ヒビいっちまったよ」
自嘲気味に笑う男を見ても特にアリサの表情が変わることはないいつも通りの涼しげな顔だ
「そう、自分で出れる?」
「いや、解除してくれると助かる」
「分かった」
手をかざし拘束を解く
拘束が無くなった事で男はその場に座り込み肋を押さえる
「私はみんなと集まる、追ってきたら」
そこまで言うと鉄扇を顔に向けるアリサ
今度は確実に折るとでも言いたげな目をして真っ直ぐに男を見る
「ははっ、心配しなくてももう動けねぇから。早く行けよ」
男の言葉に嘘は無いと判断したのか、それだけ聞くと踵を返しまだ戦っている他のメンバーの元に走り出す
「はぁ、Eクラスって言うからめちゃくちゃ弱いと思ってたのに全然強いじゃん。参った参ったー、イテテ」
走り去るアリサの背中を見ながら1人その場で座り続ける。どの道クラスの負けは決まっていたのだコレはもうしょうがないなと寝転がる
「クラスの連中に何言われるかねぇ」
男の独り言は周りの歓声にかき消され、そのままゆっくりと目を閉じた
「やっ!はぁ!」
棒術で相手との距離を保ちながら攻撃繰り出すジャスミン
服のいたる所が破れ傷は無いもののその艶肌が露になっている
「まだやる?あなたじゃ勝てない」
「うるさいなぁ私だって1人くらい!」
苛立ちながらの棍による突き込み
予備動作が大きく躱しやすかったのだろう、瞬きする事も無く顔スレスレで棍を避け、すれ違いざまに2撃双剣で斬りつける
何度目かも分からない直撃をくらいジャスミンも、さすがにふらつく。棍を支えに辛うじて倒れずにいるのは彼女の精神的な強さ故のものだろう
外傷は無くとも精神はもう限界のはず、それなのに倒れない相手に恐れ慄く。自身が震えている事に知ってか知らずか呼吸を整える前にジャスミンに追撃する女子生徒
「そろそろ沈んで───ギッ!」
周囲の確認を怠ったからか自身の呼吸が乱れている事に気が付かなかったからなのか横から土魔法の攻撃を受け吹き飛ばされる
「テルクスさんまだ行ける!?」
追撃を阻止したのは合流して来た輝夜だった
「ぐやちゃんナイスゥ、助かったよ。それにうん、まだやれるよ」
「状況は?」
「私ボロボロ、あっちは元気。あの子めっちゃ早いから気をつけて」
「分かった、私が前に出るから援護頼める?」
「まっかせて!ぐやちゃん来たからなんか元気出てきた」
内心本当はかなり悔しいはずなのにソレをおくびにも出さないで振る舞う、実際先程まで棍を支えにしなければ立てなかったはずなのに今は輝夜と背中合わせに武器を構えて威勢を張る
今の彼女にはそれくらいしか出来ないのだ
「じゃあ行くよ!」
「任された」
魔法の直撃を受けた女は少し悶えたものの立ち上がりすぐに双剣を構え直し2人を正面から見据える
「厄介」
相手はどちらも中距離の薙刀に棍。対する自分は近距離特化の双剣。状況を見れば圧倒的にこちらが不利だ
しかし
「『神名解放』アウラ」
切り札ともとれるその姿に息を飲む
全身から溢れる緑の魔力、体を包むように覆う風
加減など一切ない全身全霊であると誰が見ても分かる
「まっじかぁ」
「これは予想外すぎます」
完全に想定外の事が起きて2人とも唖然とする
神名解放はそもそも儀式で神の名を与えられた者は全員が使える。人によっては神では無いものの名が与えられる場合もあるがそれは今は関係が無い
しかし何故普段から使用しないかと問われればその反動が代償とも取れるほどに大きいからだ
ただの人間が神の力をその身に降ろすのだ。器となる体が弱ければ肉体が爆発四散したとてなんらおかしくはない
神名解放はそれほどまでに強大な力だ。神名解放のその先にある神化など、まともな人間が扱えるはずもないのだ
「コレであなた達も終わり、全員倒して私たちが勝つ!」
圧倒的な決意と覚悟、自身の事など一切省みていないのだろう。そうなった者を誰に止めるとこができようか
双剣を構え直し体勢を低くする
その振る舞いは神と言うよりも獣に近いだろう
「アアアアァァァ!!」
雄叫びを上げ足に力を込める。その姿を見てふたりは固く武器を握り締め構え直す
一撃でも貰えば終わる直感的にそう感じるそれはそうだこちらはそこまでの覚悟はないのだから
彼女がもう一度叫び飛び出そうとした瞬間
ドパンッ
銃声が聞こえた
音とともに攻撃を受けたのだろう彼女の体が吹き飛ばされる。およそ普通の銃弾を受けたとは思えない勢いで飛んでいく、ダメージというよりは意識外からの攻撃によって反応が出来なかったというのが正しいだろう。吹き飛ばさながらも体を包む風が勢いを殺すようにして彼女を足から着地させる
その目に宿っている感情はどれ程の怒りかは計り知ることは出来ない
音の発した方を見ると銃口をこちら側に向けている少女がいる稲見だ
「随分と楽しそうなことしてるじゃない。私も交ぜなさいよ」
三日月のように釣りあがった口角に糸のように細められた目
彼女の少し離れた後方には防具が蜂の巣なった状態で気絶している男が倒れている
蜉蝣が相手をしていた男だ。その蜉蝣は稲見の後ろで申し訳なさそうな顔で頬をポリポリかいている
「ごめん無理、止めらんないわ」
言い終わるより少し早く高笑いをしなが稲見が魔導銃を乱射して突撃していく
ババババッ
魔力のみを込めた今までと変わらない銃撃
その全てをもろに受けるが風が盾となり霧散させる
「いいわねぇあなた、もっと私を楽しませなさい!」
「あなた本当に迦倉稲見?聞いてた話と全然違う」
「どう違うのか教えて欲しいわね!」
言葉を続けながら尚も銃撃を続ける、流石にこのままだとダメージがないと言うのは稲見もわかっているのだろう銃に込める魔力を増やす
「もっと間延びしてると聞いた、それからあなたの攻撃はもう届かない」
彼女の話は事実だろう撃ち込まれる魔力弾は全て風に寄って解されるように消えていく
「ならこういうのはどうかしら?」
魔導銃の青く輝いていた光が黄色くなり銃弾の質が変わり発射音も変わる
ズダダダッ!
先程よりも重く低い音を響かせながら連射する
銃撃に魔法を乗せ発射する事で、魔力弾から魔法によって生成された土属性の石となって物理的に硬くなる
「器用な事を」
的確に自分を狙ってくる銃撃が厄介なのだろう、少し苛立ったような声で話しながら稲見に向けて駆け出す
尚も風の鎧で銃撃は防がれる事に稲見の方も苛立ちを見せる
「蜉蝣!火で壁作りなさい!」
「えぇ?」
「早くなさい!」
「はいぃ!」
うむを言わさない稲見の声に怯えながら従う蜉蝣
『ファイアウォール』を使い炎の壁を作りBクラスの女子を囲む
魔法を使い始めたばかりで威力、持続時間は短いもののこの状態の相手に炎を当てられただけで稲見としては十分だった
「それでいいわ。チャージマックス全弾放出」
「こんな事をしても無駄」
無理やりに炎の壁を突き破り、稲見に向けて突っ込んで来る
ニヤリと笑う稲見の表情には気付いていない
「いいえ、終わりよ」
ズドドドドッ!
より重く反動も大きくなった連射を正面から浴びせる。するとどうだろう風の鎧はその全てを素通りさせて彼女に全弾命中する
『神名解放』があっけなく解かれ、力無く前のめりに倒れて地面を滑る
「なん、で・・・」
自爆覚悟の大技にも関わらずあっという間に解除され、しかも攻撃が当たった事に驚く少女
完全に制御された状態であればあるいは耐えられたかもしれないが、無理やり発動して不完全な状態だったのが原因なのだろう
ファイアウォールの熱により風が上に巻き上げられて自身を守る風の鎧が薄くなっていたのだ
「化学の授業ちゃんと受けなさい、風は火で巻き上げられるのよ」
稲見の言葉を最後に耳にしながら反動で動けなくなった彼女はそのまま意識を失った
「第3グループ、Eクラスの勝利!」
アルケーの言葉に勝敗が決し、観客席から割れんばかりの歓声が上がる
本実技試験の結果はEクラスの完全勝利に終わった。普段の試験を知る者からすれば大番狂わせもいいとこだろう
観客席にいた他のEクラスメンバーは飛び上がるように喜び、対するBクラスは全体的に無事な人間が少なくお通夜のような雰囲気を醸し出している
ともあれこれで試合は終わりEクラスの要求が通る事になるだろう。この後何もなければの話であるが
───
教官たちの集まる席で1人だけ苛立ちを隠しきれない男がいる
「クソッ!グズ共が何をやってるんだ」
Bクラス担任の黒井その人である
「随分と気がたっているようですね黒井教官」
腕を組み煽るような口調で声をかけてきたのはアンリだ
「うるさい!こんな、こんな事が許されていいはずがない。私のBクラスがEクラスなんぞに負けるなんて」
普段の温厚で優しげな雰囲気など欠けらも無い。その様子にこちらが本来の性格なのだろうとアンリは1人納得する
落ち着かない様子で黒井は立ち上がるとそのまま学園長の元へ行き何か話をし始める
「学園長これは何か卑怯な手を使ったに違いありません。でなければBクラスがEクラスなどに負けることは有り得ませんよ!」
冷めた目で聞いてるノーデンスに恐れをなしたのか少し落ち着き再度話し始める
「これは何かあるはずです。ですから私にチャンスをください」
視線は変わらず冷たいままだが話に少し興味を持ったのだろう。チャンスという言葉に少し眉が上がる
「黒井殿はどうしようと言うのかね?」
「そうですねではこう言うのはどうでしょう」
黒井の提案を聞き愉快そうに口角を釣り上げるノーデンス。先程までの冷たい視線はなりを潜め、随分と可笑しそうに目を細めている。その心内は分からないが、とある人物にとってはろくでもない事になるのは間違いない
「いいでしょう。では全試合が終わった後にエキシビションマッチとして許可しましょう」
「ありがとうございます。かならずや私が正しい事を証明致します」
黒井の提案は受諾された
この男の今までやってきた事は全て報告が上がってきている。ノーデンスは全てを知った上で、その最終的な処分を1人の人物に丸投げしようと考えているのだろう
黒井が去ったあと1人で悪い顔をして笑っている
この後どうなるのかなど目に見えているのだろう。後処理が楽になったと笑いながら腰を上げ観客席を後にする
この行動が学園島全体の危機になりうるとも知らずに




