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デートと食事と職人と

穏やかな休日に目が覚める

朝日の明かり、窓の外から聞こえる鳥の囀り

そんな穏やか極まる1日の始まり


しかし心は穏やかとは言い難い

昨夜ユグシルさんをBクラスの子に預けた時の話を思い出しため息が出る

調査はさせているが結果がどうなるか分かったもんじゃ───いや大体の想像はつく、しかも嫌な勘ほどよく当たる


今日という1日の始まりにしては最悪というもの極まりない

さて、だらだらしている訳にも行かない

今日は那美さんと出かける日だ

1度憂鬱な思考を切り捨て出かける準備を始める


昨日帰ってきた時点で今日は出かけるということを伝えていたからか寮内にいつもより人が少ない

アンリは試験の内容などを詰めるために学園に行っているし他のみんなも各々好きな様に過ごしているみたいだ

カリオスは仕事してくれてそうかな

普段なら食卓に居座っている男の姿がない

ちゃんと依頼した通り調査に出てくれているみたいだ


「ぼーっとしてないで早く食べて出発してくださいな、女性を待たせては行けませんわよ」

「アルテかおはよう、そうするよ」

さっさと食って行けという視線がこちらを刺してくるので黙々と食べ進める

相変わらず美味いな


「所で神至さんあなたその格好で行くわけでありませんよね?」

「むぐ、そうだけどなんで?」

呆れを隠しもせず溜息をつくアルテ

一応着替えたがかなりラフな格好なのは自覚してる

コレはダメなのだろうか


「デートなのでしょう?そんな格好で言い訳がありませんわ」

「でーと?ってなんだ?」

「なっ!黄泉さんの妹さんと出かけるのでしょう?」

「そうだけど」

「呆れましたわ、あなた一体どう生きてきたんですか」

「どうも何も塔に籠って生きてきたけど」

「・・・そうでしたわね。ティリファさんも呼んでコレは懇切丁寧に説明しないといけないですわね」

大きく溜息を吐いたと思ったら額を抑えながら部屋を出ていってしまった

動きがアンリそっくりだな


その後朝食を食べ終わった辺りでティリファを連れてアンリが戻ってきた

なんかちょっと怒ってない?

「神至さん、コレからデートがどんなものなのか説明致します。その後その格好も正しますのでそのつもりでいてください」

「えー、面倒く───」

「分かりましたね?」

「あっはい」


理由はよく分からないが怒っているのは分かった

口答えしたら何されるか分からないが、恐ろしい目に合うのは想像がつくので大人しく従うしかない


椅子に縛り付けられた上で何処から持ってきたか分からない説明用の魔導ボードまで使い30分程みっちりとデートがどんなものなのか説明された


「あの1つ気になるんだけど」

「なんでしょう」

「別に那美さんと付き合ってはいないよ?」

「そこは気にしなくても大丈夫です、要約すれば男女で出かければデートという認識で問題ありません」

「そういうものなんだね」

「そういうものです」


女性と付き合った経験が無いわけではないがそういった事をした事はなかった、そもそもアレは付き合っていたというにはあまりにお粗末だったのだろう


「あの人の事はお忘れになりなさいな」

「そうですね、アレは私たちから見てもおかしな人でしたので忘れた方がよろしいかと」

心を読まないで欲しいな

まぁ下手に自分のトラウマをつついてもしょうがないか


「ちなみに2人はデートの経験は?」

「「ないですね」」

「えぇぇ・・・」

「何か問題でも?」

「ありません、貴重なご意見ありがとうございました」

これ以上何か言ったら本当にしばかれかねないので口を噤む


「さて次はお召し物ですね」

「さすがにこの服装はまずいか」

「少しラフすぎますわね、ティリファ神至さんの洋服を引っ張り出してきてください。そこから選びます」

「承知致しました、少々お待ちください」

「任せる俺じゃセンスの欠片もないからね」

「そこ、ドヤらないでくださいまし」

「はい」


少ししたところでティリファが俺の持っている洋服を全て持ってきた

「ふむ、物は良さそうなものばかりですわね流石と言っておきますわ」

「こちらとこちらそれからコレを合わせるのはどうでしょう」

「そうですわね、私ならこちらとこちらでも良いと思いますが」


アルテとティリファが洋服を選んでいる間那美さんに連絡を入れる。少し時間がかかりそうだから予定をずらしてもらわないとな


「この組み合わせが無難ですかね」

「そうですわね、私としてはもう少し派手な方が好きですがこれくらいであれば良いでしょう」

「では神至さんこちらを着て行って下さい」

「さっさと着替えてお行きなさい」

「了解、ありがとう2人とも選んでくれて」


自室に戻り服に袖を通す

白いTシャツに黒のパンツ、黒いジャケットを着た、セットアップと言うやつらしい

俺が持っていた服の中ではコレが1番無難らしい

服の事はよく分からないがコレでいいなら良いのだろう

塔に本格的に潜るなら鎧の類でもいいのだがデートというのはそういう物ではないのだろう


ついでに渡されたネックレスを着け準備が完了した

部屋を出ると2人が俺を待っていた様だ

「まあまあですわね」

「悪くはないと思います、神至さん先程の話覚えておりますね?」

「あぁ、みっちり説明してもらったからね」

「では行ってきてください」

そのまま俺は寮から放り出された

2人とも俺の扱い雑になってない?


少しため息を吐きつつ那美さんが待つ女子寮へ向かった




───




女子寮近くになると門の前で待っている人影が見えた那美さんだ

「ごめん待たせたね那美さん」

「ううん、私も今出てきたところだから」


那美さんの服装は白いロングスカートに黒いふんわりとした服、足元はサンダルのような靴

「服、良く似合ってるね。雰囲気がふわっとしててなんだか那美さんみたいだね」

「ありがとう、ってちょっと待ってわたしそんなにふんわりしてる?」

「なんて言ったらいいのかな?お嬢様っぽい感じ」

「ふーん、そういう事にしておいてあげる」

「ごめん、慣れてなくてねこういうの」

「あははっ、それじゃあ行こっか」

「あぁ」


服装を褒めるという難題は上手く行かなかったが那美さんが笑顔だからよしとしよう


ふたりで歩きながら商業区画に向かう

話題はなんて事のない雑談だ

好きな食べ物だったり趣味の話だったり

お互いの事を少しずつ話す

那美さんは和菓子が好きな事

趣味らしい事はないと言っていたが編み物や料理は得意らしい前に食べた弁当の事を話したら少しつつかれたがあれは機嫌が悪い時だけらしい


俺は肉系の料理が好きな事

趣味は塔の探検である事

そんなに話す事は多くないがそれでも自分の内側を教えるなんていつ以来だろうか


「ねぇ、神至くんっていつから冒険者やってるの?」

「8歳位だったかな?昔の事はあんまり覚えてないんだよね」

「そんなに小さい頃からなんだすごいね」

「養父が冒険者やっててその流れでね」

「神至くんがすごいランクだからお父さんもすごく強かったんじゃないのかな?」

「一応Sランクの冒険者だったよ、通りすがりの剣神って知ってる?」

「すごい人じゃない!Sランクの中でも一般人が知ってるくらい有名だよ!」

「悪名の方が凄そうだけどね」

少し乾いた笑いが出る

養父のやらかしは国ひとつ傾けてるからなぁ


「あー確かにそれもあったね、でも奴隷制度を破壊したとってもすごい偉人として教科書にも載ってるよね」

「うちのパーティ全員でやった事だから俺も共犯だね」

「共犯ってなんだかすごい悪いことしたみたいになっちゃうよ」

「奴隷商人のギルドに喧嘩売って全員叩きのめしただけだからね」

「うーん非常識だね、でもたくさんの亜人種の人達助けたんだよね?」

「そうだね、そういう側面もあるね」

淡々と事実だけを述べる実際には一方的な虐殺だったとは口が裂けても言えないからなぁ


「そっかじゃあ神至くんも偉人のひとりだね」

「そう言ってもらえると俺もちょっと嬉しいね」

「あっそろそろ商業区画に着くよ」


視線を那美さんから前に向けると目の前に広がるのはほかの区画とは違い近代的な商業施設が立ち並ぶ街並みだった

食品店やアクセサリー、洋服店ほぼ全てがこの区画で買えるという触れ込みは正しいとみえる


「へぇ、すごいね」

「でしょ?この区画は他と比べて魔導技術がたくさん使われてるから侵入者に対する防御もすごいんだよ」

なるほど防衛機構が備わった商業区画ということか

他の区画と違い一般の人間が多いからか

ギルドは冒険者がいるし貴族区画は私兵がいる、学園はジジイがいるからなこういった配慮は必要なんだろう


「行こういっぱい紹介したいお店あるんだ」

「なら回るコースは那美さんにおまかせしようかな」

「まっかせて!」

元気よく請け負ってくれた那美さんについて行く

最初は服屋だ

いつもは適当に選んで目に付いた物を買っていく程度だからこんな感じで見て回るのは初めてだな

「これとかいいね、あっちも似合いそう」

今は男性服を見ているが自分の服を選ぶわけではないのにとても楽しそうな那美さんを見て少し心が温まる

どうしてだろう


「那美さん楽しんでるね」

「うん、楽しいよ自分の服もこの間深於ちゃんと初めて選んだんだよ」

「そっか」

「ほらこれとか着てみない?」

彼女が手に取ったのは今着ているのとは別のジャケットだ

シンプルだが襟や袖の部分に刺繍が施されている

今の無地のジャケットよりは格好いいな


「わかったちょっと着てみるよ」

那美さんからジャケットを受け取り今着ている物を脱ぎ袖を通す

「うん、中々いいんじゃないかな」

「じゃあ買っちゃおう!」

「すごい行動力だけどそうだね、コレは買っていってもいいかも」

「じゃあ私が」

「それは待った、流石に自分の分は出すよ」

金にはいくらでも余裕があるし、ここで出してもらうのは何か違う気がする


「お礼なんだから私が出すのに」

「いいのいいの、お礼なら商業区画の案内だけで十分だから」

1度ジャケットを脱ぎ会計を済ます、そのまま袖を通し直しそのまま着ていく

元のジャケットは紙袋にしまってもらった


「次はどこに行こうか」

「食べ歩きできるクレープとかあるよ」

「わかった、行ってみようか」

「こっちだよ」

少し駆け足で進む那美さんに置いていかれないように着いていく


うん? 誰か着いてきてるな

索敵魔法で───いや探知能力を上げるか

制限を外し着いてきている奴らを探す

3人、後ろに2人、その後ろにまた1人か

なんでこんな綺麗に1人ずつ減ってるんだ?


こちらを探るような視線のみを選び探知してみたが

なんでこんないるんだよ、3人はおそらくディル、フィークス、深於さんだろう

2人組はアルテとティリファか?

最後の1人はユグシルさんだろうなぁ

今思えばこちらを見てくる視線に慣れすぎて気が付いていなかったのかもしれない

たぶんこれまでも尾行はあったんだろうな


「神至くん、置いてっちゃうよ」

「それは困るね、俺迷子になるよ」

「あははっ面白い冗談だね」

「いや自慢じゃないけど学園で1度迷子になってるからね」

「えぇ、そうなの?」

「そうなんです」

「ぷっ、あはは」

「あははは」

堂々とした俺の態度に一瞬戸惑ったような顔をするが声を上げて笑う

その姿につられて俺も笑う


ひとしきり笑いあったあとクレープ屋に向かい食べ歩きながらまた店を見て回る

にしても随分大きなクレープを選んだな那美さん

俺はチョコバナナクレープというベーシックな感じの物を選んだが彼女のやつはなんというかとにかくデカイ全部盛りスペシャルクレープというこれでもかと言うくらいに盛り付けのされた物を買っていた


零さずに上手いこと食べているのが素直にすごいと思う

クレープを食べている間はお店の中に入れないのでウインドウショッピングだ

本当に色んな店があるもんだな、今まで塔に籠りきりだったから様々な店に少しばかり圧倒される

俺今までもったいない事してたんだな


ゆっくりと食べ進めながら見て回っていると那美さんはあっという間にクレープを平らげていた

すごい甘味ならフィークスに負けないほどの食べる速さだ

俺も負けじとクレープを平らげた

店見ててあんまりゆっくり味わえなかったな


その後はアクセサリーショップに入ったり書店を見て回ったりとぶらぶらとふたりで商業区画を散策する


あれこれ見て回っているうちに昼になってしまった

「そろそろお昼の時間だね」

「もうそんな時間?それじゃあ予約してあるお店に行こうか」

「予約?」

そういう那美さんに連れていかれたのは偉く豪華なレストランだった


こいう所って普通ドレスコードとかあるものじゃないか?


おくびなくレストランに入る那美さんに着いていく

こういう所は俺の常識とはまた違った所があるな

流石、門音のお嬢様といったところか


案内された席に座り料理を待つ

「那美さんココかなり良いお店に見えるんだけど」

「そうでもないよ、私ここよく来るからね」

「そ、そうなんだすごいね」


見るからに豪華だ。赤を基調として金色の刺繍の施された床、同じような装飾をしたテーブルクロス

他の客を見ていてもドレスコードがしっかりとしている、一部を除いてだが・・・入ってきちゃったのか

他の客の中に先程の6人が見えた

深於さん以外が少し青い顔をしているのも見えた、金額に怯えてるのが手に取るように分かる・・・どんな高級店だよここ


ひとまず何も見なかったことにして那美さんとの話を続けて料理を待つ


出された物はコース料理で雑談をしながらあっさりと食べきってしまった

那美さんあれだけでかいクレープ食べてたのにコース料理まで食べ切るとは胃袋も中々の大きさなんだなぁ

素直に感心してしまう

たくさん食べる人がいるとこちらまでなんだか満たされる気分になる

それはフィークスといる時と同様だ


「ごめん神至くんちょっとお手洗い行ってくるね」

「うん、わかった待ってるね」

化粧直しと言うやつだろうか、ちょうどいいこの隙に会計を済ませてしまうか


手を少し上げウエイトレスを呼ぶ

「会計お願いします、これで行けますかね?」

そう言って俺の持っているカードを渡す

カードを受け取った瞬間ウエイトレスが固まり動きがぎこちなくなる

「あぁそうだ今店にいる全員分の会計をお願いしますね」

「えっ!」

かなり大きな声で驚いてしまったので周囲の視線がこちらに集中するのが分かる。しかし少しの間だけでそれもすぐに無くなる

学生と違ってトラブルに巻き込まれないようにする為にこちらと視線を合わせたくないのだろう。


「大きな声を上げてしまい大変申し訳ございませんでした。しかしよろしいのですか?かなりの高額になられますが」

「ええ、構いませんよ。何処かの豪商が戯れに全額払った事にして頂けると助かります」

「かしこまりました」

「あぁそうだついでにコレも」

財布からいくらか持っていた現金を全部取り出しウエイトレスに渡す

「あのぉ、こちらは一体」

「チップとして受け取って頂ければ」

「こっこんなに頂いてもよろしいのですか」

「えぇ変なお願いをしていますから、それに対する対価ですよ」

「かしこまりました完璧にこなして見せます」

そう言うと壊れたロボットのような動きで裏に消えていった


それから少しして支配人のような人が出てきた

「この度はご来店頂き誠にありがとうございます。してお会計に着いて先程従業員から伺ったのですが本当によろしいのですか?」

「はい大丈夫ですよ、美味しいお食事と豪華な装飾を楽しませて頂いたのでほんのお礼ですよ」

「勿体なきお言葉でございます。それからご無礼を承知で伺いますが、お名前をお聞かせいただけますでしょうか」

まぁ急に全員分払うとか言い出したどこの馬の骨とも知れないやつがいたら警戒もするだろう


「神至 力人です。今後ともどうぞよろしくお願いしますね」

「神至様ですね、またのご来店をお待ちしております、お連れ様が戻られる前にカードの方お持ち致しますのでもう少々お待ち下さい」

「ご配慮いただきありがとうございます」

支配人の人が裏に戻ると少しした後に先程のウエイトレスが戻って来た

「こ、この度は誠にありりとうごじいました。こちらら、かかっカードにございます」

何を言われたのやら随分と萎縮してしまった様子

カタコトとどころか言葉が完全におかしくなっている


「どうも、また来させていただきますね」

「は、はい。またのお待ちをお越ししております」

仕事を終えるとまたギコギコと音のしそうな動きで裏に消えていった。そのおかしな動きに少し笑ってしまう

しっかし完全に言葉おかしくなってたな、そんなヤバいのか俺の行動後でアルテに聞いてみるか


ウエイトレスがいなくなってから暫くして那美さんが戻って来た

「ごめんね神至くんお待たせしちゃったね」

「いやちょっと面白いもの見れたから大丈夫だよ」

「なにそれそんな事あるのこのお店。私見た事ないよ」

「壊れたロボットみたいな動きをするウエイトレスさんがいてね面白かったよ」

「そうなんだね、今度来た時見れるかな」

「見れるかもしれないねぇ、それじゃあ行くかい?」

「うんまだ見て周りたい所あるから行こ!お会計は───とアレ?」

「なんかどっかの豪商が気まぐれに全員分払ってくれたらしいよ」

「そんな事あるんだ私たちラッキーだね」

「そうだね〜、それじゃあ次の場所案内してくれるかな?」

「任せてちょっと歩くけどいい所あるの」


那美さんに着いていきレストランを出る

チラッと後ろを見ると何人かの従業員が並んでしかし静かにこちらに礼をしていた

少しだけ手を振りレストランを後にした

尾行組の支払いもコレでとりあえず大丈夫だろう


「美味しかったね」

「那美さんいつもあんなに美味しい料理食べてるんだね」

「いつもって訳じゃないけど商業区画に行った時は寄るようにしてるよ」

「それはそれですごいと思うよ」


レストランから出て暫く歩いた先、商業区画の端近くにあるアクセサリーショップに入る

名前はアーティフェクス魔工房という所だ

「へぇ、ここいいね」

「でしょ?いい雰囲気なんだよねこのお店」

アンティーク調のお店で建物の軋み具合から古くからここにあるのが分かる、ほかの店と違い魔導機構の気配もない


何より目を引くのはこの店の商品だ

機械による加工というより工芸品と言った感じか

手作業での加工なのだろう魔導具なのは見て分かるが魔法を使用した加工ではなく純粋な技量のみで細工が施してある


いくらアクセサリーとはいえ魔石を直接加工するのは至難の業だぞ。普通は魔導具か魔法を使うその方が加工が簡単だからだ。ただその場合魔石に無駄に魔力が入ってしまい魔道具としての質が下がる。効果として付与する魔法が入る余地が少なくなるからだ

それを一切の魔力なしで加工の難しい魔石を手作業でアクセサリーにするとは、どんな職人だよ凄すぎるぞこれは


「いらっしゃい、学園生か」

「あ、パストスさんこんにちは、いつも見てるだけでごめんなさい」

「ん?嬢ちゃん会ったことあるか?」

「そっか呪いが解けてから会ってませんでしたよね。門音 那美です」

知り合いか?


奥から出てきたのは白い髪に髪に負けない量の髭を携えた小さな老人だった

ドワーフかまた珍しい種族がいるもんだな


「ん!?嬢ちゃんあの那美ちゃんか、はぁ〜随分と別嬪さんになったなぁ」

「えへへ、ありがとうございます」

「そっちの坊主は那美ちゃんの彼氏か」

「なっ!へ!?ち、違いますよパストスさん!」

「なんだてっきり──って悪かったな坊主。俺はココの店主パストス・アーティフェクスってんだよろしくな」

「神至 力人です。よろしくお願いします、パストスさんつかぬ事を──」

「あー、俺には敬語はいい、お前さんそんなに得意じゃねえだろ俺と一緒で」


そういう感じかこちらとしても助かるよ

こちらを貫くような視線、推し量ってるな

でも悪い気はしないコレは自分の商品を売るに値するか見定めているんだろう

「助かる、パストスさんこれ全部アンタが作ったのか?」

「おう、そうだぞ」

「すごいなアンタ魔石を魔力なしの手作業で加工してるだろ」

「ほぉ、分かるかいい目してんな」

「魔導具に詳しい仲間がいてな、ソイツから少し教わった事があるんだけどアンタとんでもない腕前だな」

「ガッハッハッ、那美ちゃんいい男連れて来てくれたな」


装飾はどれも月と花を主軸としている

基本的な構成は似ているが全て少しづつ違った形になっている。これは多分意図的に調整している本当にすごい、個人的にいくつか欲しいくらいだ


「どれも調度が整えられてるし、仕上がりが丁寧だ。流石職人だよ、那美さん連れて来てくれてありがとう」

「ちょっと思ってた反応とは違ったけど。うん喜んでもらえたなら何よりだよ」

「目利きはできるし配慮つつ相手を立てるか、実力も相当ありそうだし那美ちゃん本当にいい男見つけたな」

「パストスさん何か言いました?」

「いや、なんでもないぞガッハッハッ」

お節介ジジイだな、でもそうか

呪われている時の那美さんを知っているならこの反応も納得がいくな


「坊主気にいったお前さんの好きなの1つ持ってきな」

「マジで!?」

「大マジだ、こんな目利きできるやつ大人でもそういねぇかんな。でも次からはちゃんと金払ってもらうからな」

「そりゃもちろんこんなすごいのいくらでも出すさ、でもそうだな───これ貰ってもいいか?」

「ッカー!お前さん本当にいい目してるな。いいぜ持ってきな魔法の付与はどうする」

「俺できるから大丈夫だよ、工房少し借りてもいいか?」

「ほぉいいじゃねぇか、そこまで言うなら貸してやらぁ着いてこい」

「ごめん那美さんちょっとまっててね」

「うん、見ながら待ってるね」


俺が手に取ったのは銀色のブレスレットだ

しかもまだ魔法を付与されていない物、本当は購入する時に付与する魔法を決めるのだろうが折角だ、この職人に俺の技量を見てもらいたくなった

魔石に魔力が入らないように全身から漏れ出る魔力を1度完全に止める


店の奥にある工房は卓上の工作機械がいくつか置いてあり壁に手加工用の工具が綺麗に並べてある質素で少し手狭に感じるような広さだった


ここで1人で加工しているんだろう

人生を仕事に捧げた男の大事な仕事場だ下手に荒らす訳には行かないな丁寧にやろう

「この机借りるよ」

「おう、わかってるじゃねぇか普段はそこで付与してんだ。それで?何付与するんだ?」

「こんなにいい物に中途半端な魔法は付与できないからね、魔法無効化の術式を付与しようかなって」

「魔法無効化を魔法で付与するのか?矛盾してねぇか」

「それもそうか、なら吸収と放出の2種類だな」

「おいおいやれんのか?2種類の付与なんて俺でも出来ねぇぞ」

「分かってるよ、難しいのはねでもやれるよ」

「お手並み拝見だな」


集中力の限界を引き上げ指先のみ魔力を放出し付与のイメージする

あらゆる魔法属性の吸収と蓄積、放出かな

2種類だと使い勝手が悪いから3つに増やそう


まずは吸収、1度で吸収できる最大量を俺の今の全力一撃分程度にする。次に蓄積は魔石に貯められる限界手前に調整、最後に放出、コレは蓄積した物を一度に全放出する仕様にイメージを作る

作り上げたイメージを魔法として組み上げる

それを術式に変換し魔石に込める

術式を流し込み安定化させると魔石の中に小さな魔法陣が生成される


「ふぅ、どうかなパストスさん」

「おぉ!すげぇじゃねえか坊主、おめぇさん2つどころか3つも魔法込めやがったな!ガッハッハッ!いいもん見してもらったわ。俺も負けてられねぇな。約束通りコイツはお前さんのもんだ持ってけ」

「ありがとうパストスさん、コレ包装できる?」

「あたぼうよ、俺は一応贈答用の魔導具作るプロだぜ完壁に包装してやらぁ。那美ちゃんと外で待ってな」

「ああ、任せる」


工房から出て那美さんと合流して数分でパストスさんが綺麗に包装した状態で魔導具を持ってきてくれた

「ほれ、できたぞ。また来いよ力人、次来る時までにもっとすごいの作れるようになってやる」

「ああ、約束する」

「那美ちゃんもまたおいで、ついでにお土産話聞かしてくれぃ」

「はい、また来ますねパストスさん」


パストスさんのお店から出ると外はもう夕暮れだった

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