塔と魔物と性格と
那美さんと話しながら移動をしていたが塔の下まで来るのにそれほど時間はかからなかった
「リキリキとナミナミ来たね〜」
「おう、意外と早かったな神至」
「ごめんお待たせしたね。塔に入る上での注意点の確認程度で済んだから早めではあるかな」
「那美も聞きたいこと聞けたのかしら」
「うん、Sランクになる為にはどれくらいの層まで到達出来れば良いのか知りたかったの」
コレは事前に那美さんと相談していた内容だ、本当は別に聞きたい事があったらしいがそれは聞いていない
俺のランクについて秘密にしておくのもあるが、どうして待ってたのか聞いた時にその話があったので辻褄を合わせるためにそういう事にしてもらった
「へぇ結構冒険者になるの乗り気なのね」
「うん、学園卒業した時の目標とか無かったんだけど、婚約も無くなった今はお姉ちゃんみたいな冒険者になってみたいなって思って」
「そっか、ちゃんと先の事考えるようになったんだ」
なんだか話がしんみりとした感じになりそうだなと思ったがディルが割って入って来た
「Sランクに上がる方法というか、どこまで行けば良いのかは俺としても気になるな、具体的に何層くらい行けば上がれるんだ?」
「基本的には塔を一つ踏破すればいいんだけどそこまで到達する人は中々いないんだよ実は」
EXランクは論外としてSランクがそもそも少ないのだ
人数にして多くて30人程度だろうか
強い魔物を沢山倒せばポイントが溜まりSランクに到達することも可能だけどかなり遠い道のりになる
こっちの方でSランクに到達したのは片手で数えられるくらいじゃなかろうか
「踏破するのってそんなに難しいのかい?」
「まず一人じゃ無理だね、パーティ組んでそれぞれ的確に役割分担してもようやく50層とかがいい所だと思うよ」
それ以上は個々の力がそれなりに高くなければ進む事すら難しい
「そんなになのか」
「その辺は中に入ってそれなりに層が深くなって来ると分かるんじゃないかな」
「なるほどな、とりあえずここで話しててもなんだし行ってみるか」
「出発だ〜!」
迦倉さんの号令で塔の入口へ移動する
皆表情が生き生きとしている、楽しみなのだろう
かく言う俺も初めて入る塔だ結構楽しみにしている
ヨーロッパ風の塔、入口の方もこれまた同じ雰囲気の作りになった少し大きめの扉だ。一度に4、5人くらいは同時に入れそうな両開きのタイプ
先頭に立ちその扉に手をかけ押し開く
扉を開くと渦のようなものが目の前に現れる
「なんか白っぽい渦みたいな感じだな」
「だね〜なんかキラキラして見えるね」
「これ洗濯機みたいにボク達ぐるぐるに回ったりしないプゴ?」
「あはは、しないしない大丈夫だよ」
そう言って手だけを入れて実演してみせる
手だけが渦の中に入りその先にあるはずの手が見えなくなる
「それ大丈夫なのかな?」
「大丈夫だよ空間の繋がりが捻れて渦みたいに見えてはいるけど場所は固定されてるからね」
「中々不思議な感じになってるわね」
「でしょ?何年も何百年も研究されてはいるみたいだけど解明はされてないみたいだね」
塔には分からない事が多い
だからこそ人を惹きつける魅力がある
その魅力に当てられ虫のように群がり、寄り集まり飲まれて消えていく者もいる、俺もその魅力に当てられた人間の1人だ
「さて、そろそろ入ろうかあんまり入口で長話してると他の冒険者たちに怒られちゃうからね」
「そうね時間もそんなにないしさっさと入りましょ」
深於さんの言葉に全員頷き渦の中へ入っていく
渦の中は真っ白で何も見えず何も聞こえない
しかしまっすぐに進んでいく感覚だけはある、まるで初めから道を知っているように
「─────」
何か聞こえたような気もするが気のせいだろう、ここには光はなく音も匂いもしない。ただ何も無い世界を歩いているだけなのだから
真っ白な空間を少し歩いていると急に視界が晴れる
目を刺す光に眩しさを感じ目を閉じそして何度か瞬きをする
光に慣れてきた頃、目の前に広がったのは見渡す限りの草原と快晴の空
爽やかな風に乗って優しい土と草花の香りが運ばれてくる
とてもあの塔に入ったとは思えない光景だった
周りを見ると皆の姿が見える
後ろを向いても入ってきたはずの扉はなく見晴らしの良い草原が広がるだけ、あとは冒険者らしき人がいたり魔物がいるだけだ
遠くに大きな水晶も見えるアレは後で説明がいるかな
「おお!すげぇ!なんだコレ!」
「圧巻だね」
「さっきまで夕方だったのに急にお昼になった〜」
「凄い・・・」
「はぁー、凄いわねぇこれ」
「プゴォ」
およそ建物の中とは思えぬ光景に他の子達から感嘆の声が上がる
そうでなくともこの時代においてこれだけ開発の進んでいない草原は中々お目にかかれるものじゃない
「どうかな初めての塔は」
「すげぇ、すげぇな!」
「塔の中ってどこもこんなに広いのかい?」
「種類にもよるけどここは広い方だね、周りの様子も見渡せるし何より空気が澄んでる」
説明の通りかなり広く見えるが一応ここも屋内だ、数キロまっすぐ進むとおそらく壁がある若しくは一周まわって元の場所に帰ってくる
そもそもの空間が捻れて歪んでいるから外の世界の常識などここではほとんど意味をなさないのだ
「入口なくなっちゃったけどこれって帰れるの〜?」
「大丈夫だよ、各層に転移用の大水晶が置いてあるからそこまで行けば塔の入口付近に転移出来るよ」
「そっか〜帰れなくなる訳じゃないんだね〜」
どういう訳か入口は無くなる癖に大水晶に触れれば帰れるようになっている、一度入ったら出られないという塔は現状存在していない、仮にあったとしても誰も帰ってくる事が出来ないから知っている人間がいないと言った方が正しいかもしれないが
「さて、みんな自分の武器持ってきてるね?」
各々返事をしながら学園から支給されたアイテムポーチから得物を取り出し準備をし始めた
空間魔法を扱えない生徒はここに教材やノート代わりのタブレットを収納している、実技で使う体操着や個々人の武具なんかも入れられるため容量はかなり大きい、実はこれだけでもかなりの高級品だ
皆がポーチから得物を取り出すのを確認して俺も空間魔法の中に仕舞っている本来の得物を取り出す
魔導式の鞘に入った刀、コレが俺の得物
銘を『真理』という
鞘は魔導式で機械感のある装飾だが刀の柄の方は古い一般的な物。元々鞘のない刃剥き出しの刀だったため後から鞘を作ったのだ、正直アンバランスさは否めない
他の皆の得物はディルが大剣
宮本くんは魔道式の2振りの刀
那美さんは魔導式の弓
深於さんはメリケンサック
フィークスは大盾に騎馬用の大槍
迦倉さんはライフル型の魔導銃
全員魔法を使えるのものの杖メインで立ち回る子はいないようだ、まぁ実技の時に皆の得物は確認していたのでだいたい把握できているのだが
「それじゃあ1人ずつ実技でやった事を実戦でやってみようか」
「いきなりか!?まずはギルドで貰ったものの説明とかじゃないのか?」
「それはまぁ追々で良いと思うよ、せっかく塔に入ったんだし実技の成果を確認したいしね」
また戦闘かぁとみんな少し反応は複雑そうだったがやる気は十分にありそうだ
「先ずは誰から行く?」
「魔物との戦闘は初めてだからなぁ、見本見せてくれてもいいんじゃないか?」
「それもそうだけど、この層のレベル帯だと見本にならないと思うよ?」
そう言いながら移動を始める
入口周辺はまだ魔物がいない少し進んだ辺りで自然に発生するのだ
歩きながら警戒を始める草原系のエリアならボア系の魔物が出てくるだろうしそこまで強くない
ただ、他の子たちは初めて塔に潜るのだ
多少警戒はしておかないと急に襲われた時に対応ができない
そうして足を進めて行くと
1匹の魔物を見つけた
「いた、ストレートボアって言われるイノシシみたいな魔物だね」
通常のイノシシより少し体躯が大きく瞳が赤い、灰色と茶色を足したような体毛に大きく伸びた牙が目立つ魔物だ
名前がストレートボアなのはまっすぐの突進攻撃しかしてこないからこの名前となっている
「近くで見ると結構デカイんだな」
「そうだね、人によってはこれも怖く見えるだろうけど直進しかして来ないから横か後ろにいる限りは安全だよ」
そう言って腰から提げている刀を抜きストレートボアに近づく
まだ少し距離があるからこちらには気付いていない様子
「じゃあちょっとやってみるから参考程度に見ててよ」
ストレートボアの感知範囲の少し外側で皆を待機させ俺は一人で走り出す
走り出した事でストレートボアがこちらに気付く
まっすぐ走るとみんなの方に向かっていく可能性がある、そのため大きく迂回しながらダークボールを展開射出しヘイトをこちらに向ける
小石を投げる程度の威力しか出していないから流石に一撃じゃ倒れないか
反応を見ながら立ち止まるとストレートボアが怒ったように吠えこちらに突進してきた
一般的な人間の全速力より速い速度でこちらに向かって来る。それを引き付け俺の間合いの少し外側まで到達したところで右に少しだけ移動し体を避けた方に向きなおす
ストレートボアが俺の横を通り過ぎる瞬間に刀を振り上げ斬下ろす
そのまま走り抜けていくストレートボアを見ていると次第に減速していき立ち止まった
そのまま振り向くことはなくズルリと首が滑り落ちる少し遅れて残された身体が力無く横に倒れる
これでとりあえずは戦闘終了かな
そのまま放置していると塔に吸収されてしまうのでストレートボアの死体に近づき空間魔法で収納する
魔物は血が出ない身体組成が魔力のみで出来上がっているからだ、しかし肉はあるし牙や角、鱗と言った素材を確保出来る良く考えれば不思議な物だ
ストレートボアを回収したあとみんなの元に戻るとみんな黙ってこちらを見ていた
・・・何かおかしな事があっただろうか?
「魔物ってあんな簡単に倒せるものなのか?」
皆が聞きたかったであろう事をディルが代表して聞いてきた
「この程度ならまだそんなに強くないからね、肝心なのは怖がらずにしっかりと魔物を見ることだよ」
「そういう物なのかな?」
「神至だしね、あんまり参考にならないんじゃないかしら」
皆から疑うような目を向けられる、深於さんに至ってはかなり辛辣な評価だ。だから参考にならないって言ったのに、確かにはじめて塔に入った人からすれば常識外れと思われてもしょうがないのかもしれない。けどストレートボアよりまだ陽門の方が強い
それはともかく思考を切り替えほかのみんなにも戦うように促す
「はい、じゃあ皆も1人ずつ魔物を倒してみようか」
移動しつつ魔物を探していく向かう方向は大水晶の方だ、今日は1人一体ずつ魔物を倒せればいいかなと考えているとまたストレートボアが現れた今度は2体か
「ディルとフィークスやってみる?」
「まじか、大丈夫なのか?」
「プゴ!?さすがに怖いプゴ!」
「大丈夫大丈夫、さぁ行ってみよー」
2人の背中を押しストレートボアの方へ向かわせる
おっかなびっくりと言った感じだが2人とも着実に近づいて行く
そろそろ感知範囲に入るかな
ストレートボアが2人に気付き2体が同時に振り向いた
『『ピギィィ!』』
2体が叫び突進する
どう対応するかな?
様子を見守っていると、2人とも覚悟が決まったのか武器を構えて真正面から受け止める様だ
俺とは違う立ち回りだ武器の性質も考えていていい判断だと思う
突進してきた2体を1人ずつ正面から武器を使って止め各々の武具と牙の衝突する音が響く
ディルは大剣の腹の部分を上手く使い力ずくで押さえ、フィークスは大盾で余裕を持って受け止めていた
少しの間大剣と牙、大盾と牙の擦れ合う音が響き続ける中先に動いたのは2人の方だった
「うおおお!」
ディルが叫びながらストレートボアを押さえていた大剣を掬い上げる様に振り上げる
流石に獣人、人間離れした膂力だ
振り上げられた大剣に打ち上げられるようにしてストレートボアが空中に飛ぶ
そのまま打ち上げられたストレートボアを追いかけ地面に落下するよりも早く両断した
どしりと小さくない音が二つ重なりながら分かたれた死体が落下する
対してフィークスは大盾で押さえていたストレートボアを横に弾き飛ばし体制を崩した所を槍で一突きして仕留めていた
魔法の方も実力を隠しているみたいだったけど近接戦の方も実技の時は手を抜いていたみたいだな
「やったなフィークス」
「怖かったプゴね、でも思ってたより弱かったプゴ」
「そうか?俺より余裕あったと思うけど」
「それはこの体重がなせる技プゴ、ディルくんもこのワガママボディになるプゴ?」
「いや、それは遠慮しとく」
笑い合う2人に待機していたメンバーで駆け寄る
「すごいねフェリンくん、よくあのイノシシ打ち上げたね」
「凄かったね〜バーンて飛んでったよ〜」
「フィークスくんもゆとり持ってストレートボア止めてたよね凄いね」
「私も驚いたわ、すごいのねフィークスくん」
「2人とも他のみんなから見ても凄かったみたいだね、いい感じだね今後もその調子で頼むよ」
「なんか照れるな」
「プゴゴ、褒められるなんて無いから嬉しいプゴね」
少し恥ずかしそうに頭を搔く2人
褒められ慣れていないというのは事実なのだろうが今の2人の実力ならたとえ一人であっても20層位は行けるだろう
「さぁそれじゃあ皆の番だね、いい見本を見せて貰ったからね頑張って行こう」
「お〜!やるぞ〜」
「次は俺にやらせて欲しい」
「私もやってみたいな」
「那美と一緒なら何だってやってやるわ」
皆やる気十分と言った感じだ
しかし俺の時と反応が違いすぎてちょっと悲しくなるな
次いでストレートボアを見つけた時に宮本くんが戦闘に出る
2振りの刀はぱっと見るだけでも中々の業物に見える
しかも魔剣の類いだ、刃の赤い物と緑色の物
どちらも柄の部分に近い刀の腹に魔石が埋め込まれている
火と風の2属性をどう扱うのか見ものだなと考えていると先程の2人と同様にストレートボアの正面にたち迎え撃つ形を取った
「来い!」
あえて叫び注意を自分に引き付ける
ストレートボアもまた吠えながら宮本くんに突進していく
魔剣を用いて正面から受け止めるのかと思ったが接触する直前に飛び上がり回避する
空中でヒラリと身を翻す姿は鮮やかで実は魔物との戦闘経験があるのでは無いかと思わせる程だ
対して目の前から宮本くんが消えたストレートボアの方は急ブレーキをかけキョロキョロしている
その隙を見逃す訳もなく距離を詰める宮本くん2振りの刀を上手く使い傷をつけながら着実にダメージを重ねていく
身体ごと首を振り回す攻撃も冷静に対処してバックステップで距離を取る
また正面に向かい合う形になるが先程より距離が近く完全に宮本くんの間合いだ
ストレートボアが突進するよりも早く牙を切り落とし流れる様にして斬撃を繰り出す
これで決着かな、魔剣の性能が見れなかったのは残念だが宮本くんの剣技を俯瞰できたのは良い経験になる
一方的な斬撃の嵐にストレートボアは力無く地面に倒れた
「この程度か物足りないな」
「かなり余裕そうに戦ってたな剣静」
「そうプゴね、一度も攻撃受けてないし結構一方的に攻撃してたように見えたプゴ」
「まぁね、動きは直線的だし読みやすかったのはあるかな」
「ズババ〜っとしてたね〜」
「刀2本使ってるとは思えないほど綺麗に立ち回っててすごいわね」
「ありがとう、魔法は苦手だけどこっちは得意なんだ」
「宮本くんお疲れ様、実技の時みたいにいい感じに動けてたね」
「まだまだだよ、神至くん一撃で首落としてたしあの立ち回りは俺にはちょっと難しくてね」
「あれは慣れもあるからね、宮本くんもそのうちできるようになると思うよ」
「ありがとう、頑張るよ」
これで残り3人軽い群れでも居てくれると助かるがそもそもそんなに群れで行動する魔物じゃないからちょっと厳しいかな
宮本くんに労いの言葉を掛けたあとまたみんなで移動始める
そろそろ大水晶が近づいて来た頃だ
この辺りで3人に魔物を一体ずつ倒して欲しいのだが・・・周囲を見渡すと少し離れた所に2体、もしゃもしゃと草を食べているのが見えた
「あそこに2体いるけど誰が行くかい?」
「私と那美でやるわ」
「じゃ〜私が大トリだね頑張って〜2人とも」
「それじゃ頑張って2人とも」
「うん、やるだけやってみる」
「余裕ね見てなさい」
かなり気合いが入っているようだった
まぁ二人なら大丈夫だろう
深於さんは近接で2体を引き付け那美さんは遠距離から弓で補佐する形で戦うようだ
「それじゃ那美頼むわね」
「うん、任せて」
2人が配置に着き準備を整える
「よし、行くわよ!」
「うん『ダークランス』」
掛け声と共に深於さんが走り出す
それと同時に那美さんがダークランスを多重展開する今回は3本だそれだけでなく弓を引き絞り矢を放つ準備までしている
魔術操作のレベルが高いのは分かっていたが想定以上だな弓という集中力を要する武器を扱いながら魔法も同時に維持し続けている
これは凄いな
対して深於さんの方は魔力で身体能力上げ高速でストレートボアに接近する
「食らいなさい!」
得意の顔面パンチでストレートボアを一体怯ませる
もう一体の方が深於さんに気付き突進を始めようとするが
「行って」
那美さんがダークランスを1本射出しストレートボアを足止めする
一瞬硬直した隙を逃すことなく矢を放つ
ストレートボアが飛んできた矢に気付き回避行動を取ろうとするが首に矢が刺さり叫び声を上げる
深於さんはもう一体の方を殴打し続けていたようでもう既にストレートボアはフラフラになってきている
「残り全部でお終い!」
残していた2本のダークランスが射出され胴と頭に突き刺さり一体が倒れる
残ったもう一体の方は連打からの強烈な顔面パンチで地面に叩きつけられ絶命した
・・・うんエグイな、特に深於さん
怖いアレ魔物相手に一方的な殴打とか見た事ないぞ
ただ付き合いが長く仲が良いこともあってか2人の連携は中々のものだった
連携の訓練を実技に盛り込んでもいいかもな
「やったわね!那美」
「やったね深於ちゃん!」
当の2人は初めての魔物討伐に喜んでいるので良しとしようか
「なぁ神至、なんか怖くなかったか?」
「それ、俺も思った魔物を殴打し続けて倒すってあるの?」
「・・・俺も見た事ないよ」
「プゴォ、なんか凄いものを見た気がするプゴ」
「ミオミオすごいね!かっこよかったよ〜」
「そぉ?ありがとう、嬉しいわ」
「流石深於ちゃんだね、魔物をパンチだけで倒すなんてきっと他の人には出来ないよ」
「そうかしら?なんか照れるわね」
2人と合流しまた労いの言葉をかけるつもりが男性陣はその場で固まったまま動けなかった
対する女性陣はかなり盛り上がっているようだった
ひとしきり盛り上がったあと最後に迦倉さんが残っていたのでまた魔物探しを始める
大水晶のすぐ側まで行ってしまうと魔物が現れないので元いた場所から少し離れるようにして探す
開けている空間だが思うように見つからない
探し続けておよそ数分後
2体のストレートボアが現れた
「さて迦倉さん最後は君の番だけど行けそうかな?」
「うん、バッチリ〜いつでも行けるよ〜」
本人の気合いは問題なさそうだ
「ディル、少し手伝ってあげてよ」
「いいのか?他のみんなもやりたいと思うが」
「俺は遠慮しとこうかなぁ」
「私もやめとくわ」
「ボクも同じくプゴ」
「私もいいかな」
みんなどこか気まずそうに答える
なるほどディル以外は実技の時の迦倉さんを見ていたのか
「よし、じゃあ頼んだよディル」
「?よく分かんないが押さえてればいいんだろ、それくらいなら余裕だ」
「健闘を祈るよ」
不思議そうな顔をしたディルをみんなで見送る
「あんた結構酷いわよね」
「そんな事ないよ?ただちょっと怖いから誰か代わりに行ってくれないかなぁって思っただけで」
「はは、結構酷いこと言ってるよ神至くん」
ディルがストレートボアと戦闘を始めるとほぼ同時に銃声が鳴り響く
そこから数瞬遅れてディルの驚いたような声が聞こえた
「うぉ!!びっくりした!危ねぇぞ稲見!」
「うふふ、私の射線上にいるあなたが悪いのよ。死にたくなければ避け続けなさい」
「え?誰!?」
ディルの反応も無理もない実技の時に既に知ってはいたが迦倉さんは何故か銃を持って戦い始めると性格が変わり普段ののほほんとした雰囲気とは違いかなりのドSというか女王様みたいな性格になる
「ほら次行くわよ!」
「待て待て待て!うおっ!」
ディルの静止も聞かず容赦なく魔導銃をぶっぱなす迦倉さん
怖いよこの学園の女性たち
若干トラウマをほじくり返されそうに成程に苛烈な彼女を見て身体が少し震える
ちなみに先程の2発目でストレートボアは絶命した
「次はそっちの子ね、イきなさい!」
「うおい!俺に向かって撃つな!魔物はアッチ!」
「うふふふ、あははは!」
全然全く話を聞いていないようだ
「ねぇ神至くん俺今日ほど女性が怖いと思った日はないよジャスでもあんなにならないもん」
「そうだね、同感だよ」
逃げ回るディルを遠い目をしながらみんなで見守ること数分
見事ストレートボア2体を倒し切りディルは生還した
「神至てめぇ知ってやがったな」
「ごめんごめん、このメンバーの中だとディルか宮本くんくらいしか避けられないと思っていい訓練になったでしょ?」
「それはそうだけど、って誤魔化されないぞお前なら全弾完全に避けられるだろ」
「まぁね」
俺が出ても良かったが余裕がありそうだったからディル任せただけの話だ
特に深い意味は無い、豹変した迦倉さんが怖かったというのは黙っておくが
「ごめんね〜ディディ呪いが解けてからなんかあんな感じになっちゃうんだよ〜」
「そ、そうなのか?出来ればもう少し大人しくなってくれると俺的には助かるな」
「無理ぃ〜」
「そういうもんなのか・・・」
迦倉さんの話の通り今まではこういう感じではなかったらしい、俺が呪いを解いてからあの様な豹変ぶりになったという事みたいだから、あのよく分からない反転の呪いは戦闘時の性格がああならないようにする為のものだったらしい
わざわざ呪いをかけるくらいだから昔に何かありそうな気もするが、女性のプライベートについて言及するのは非常識だと思い聞いてはいない
ともかくこれで全員が魔物を最低一体ずつ倒したわけだ、今日のところはこれくらいにして帰ろう明日も授業はある無理をしてもいい事はないだろう
「みんなお疲れ様、今日のところはこれくらいにして帰ろうか」
「そうね、明日も授業はあるし変に無理するのも良くないわね」
「まだ全然余裕だけどそうだな、帰るか」
話しながら来た道を戻る、大水晶から離れて数分と言った位置だったので到着までそれほど時間は掛からなかった
大水晶に近づいてよりその大きさを実感する
二階建ての一軒家分並の高さに周辺の装飾込みでも直径10メートル程の範囲がある
俺が知ってる中でもかなり大きいサイズだ
「何度か見てたけど近くで見ると大きわね」
「そうだね、大きいしとっても綺麗だね」
「どの大水晶もこの位の大きさなのか?」
「結構大きい方だよ、洞窟とか迷宮みたいなエリアだと小さくなるんだけど。これは中々の大きさだね」
「この水晶持って帰ったりとか出来ないのかな?」
「無理だと思うよ、触れた瞬間塔の入口付近に飛ばされるからね」
「そうなんだ、ちょっと残念だね」
みんなの表情に少し疲れが見える、それは大水晶を見てる反応からも分かる
塔に入ってきた時ほどの元気はさすがに残っていないようだ
「じゃあ帰ろうか、大水晶に触れるだけでいいから入る時ほどの警戒はしなくても大丈夫だよ」
みんなの気の抜けた返事を聞きながら全員で一斉に大水晶に触れる
一瞬の浮遊感を感じたと思うと塔の外に出ていた
あたりはもう暗くなっているな
「あんまり遅くならない内に寮に戻ろうか」
「真っ暗だもんね〜、私たち女の子には危険がいっぱいだ〜」
「そうね、これ以上遅くならないうちに帰りましょ」
「うんそうしようか」
「プゴォ、ここから寮まで歩くの面倒臭いプゴ」
「そう言うなって寮長に怒られないようさっさと帰ろうぜ」
「今日は何が食べられるかな」
みんなとは帰る方向が違うのでここで解散かな
「じゃあみんなまた明日ね」
「そうか神至は寮が違うんだもんな、ここでお別れか」
「そうなのかい?」
「うん、俺が使ってる寮は貴族区画にあるからね」
「もしかして今年出来たあの大きな邸宅かな?」
「そうだよ、那美さんよく知ってたね」
「私たちたまに貴族区画に行くことあるのよ、その時見かけたの」
「そうなんだ、良ければ遊びにおいでよ」
「いいの?」
「大丈夫、寮の奴らには話しとくから」
「じゃあ遠慮なく遊びに行かせてもらうわ、ちゃんと出迎えなさいね」
「じゃあ今度お邪魔させてもらうね」
「わ〜い楽しみだ〜」
「俺らも遊びに行くわ」
「またあの美味しいご飯を食べさせてもらうプゴ」
「俺も行ってもいいかな?」
「もちろん」
冒険終わりの一時の団欒に花が咲く
それが心地よくもっと話していたいと思うが時間も時間だ、今日はここまでにしてまた明日学園で皆と話そう
みんなに一言別れを告げて1人寮へ戻る
背後からまだ声が聞こえる
疲れが滲んでいる様に感じるが声色は明るく楽しそうだ、少し寂しく感じるがそれもまた嬉しく思えた
ただ楽しく塔に潜り友達と過ごす、今までなかった経験に言葉にならない充足感を覚えながら帰路に着いた
───
塔から出て分かれた彼らを見つめる瞳がある
羨ましそうに、憎らしそうに
学園からずっとつけていたにも関わらず誰もその存在に気がつく事なかった
月に照らされ正体が見える同じ学園の制服を来た耳の長い少女
その制服はやたらとボロボロになっているが少女の表情は氷のように冷たく動かない
彼らが見えなくなった頃少女もまた影に溶けるように姿を消した




