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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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 報酬を受け取ってグラスと別れ、帰宅したジェマ。ハリスはジェットと一緒に、魔力を食べ続けて大きくなり過ぎたモアレの移動を手伝いに行った。机からはみ出すほどたらふく魔力を食べても、モアレはお腹いっぱいになることはない。その代わり、ジェマの身体に魔力が漲り続けていた。


 ジェマは作業部屋に入って、サファイア色のエプロンに伸ばした手をはたと止めた。



「今、セインさんの杖を作ったら」



 ジェマは震え出した右手を左手で抑え込むように包み込んだ。生命樹の力を得たゲッコウソウの力は凄まじかった。あの【命の妙な薬】は冒険者が欲するだけに留まらない。いくらでも悪用できてしまう。特定の病を治す薬より万能だからこそ、危険が大きすぎる。


 ならば、その力の源となった生命樹を素材にした杖は。


 【命の妙な薬】の効果をジェマの魔力が強めてしまったなら、当然杖にも干渉する。魔力の浸透率が高いほど影響は大きくなる。魔力を多く保有する生命樹もゲッコウソウも魔力の浸透率は高い。今のジェマが触れれば、確実に魔力が混じった何物かが完成してしまう。


 ジェマが扱うなら、まだ平気かもしれない。けれど扱うことになるのはセインだ。【命の妙な薬】の効果を今は喜んでいるオハイアリィも、その効果によって悪影響を受ける可能性がある。



「道具は、みんなを幸せにするものでなければ、ならない」



 ジェマは震えの止まらない手で商品ノートを手に取った。ジェマがこれまで作り上げ、人々に販売してきたものの数々。



「今回の薬は、1歩間違えれば、オハイアリィさんを殺していた」



 スコーチアによって魔力が底を尽き、生命力も底が尽きかけていたオハイアリィだったから、あの妙な現象でことが済んだだけ。万が一、オハイアリィの身体を見て健康な人間が【命の妙な薬】を飲めば。過剰な生命力と魔力の暴走で身を滅ぼしかねない。



「喜んでいる場合じゃ、ない……」



 1人になり、商売人としての仮面が外れた瞬間に溢れてきた恐怖。冷静な思考力が算出する結論に、ジェマは自分の身体を強く抱き締めた。



「私は、傲慢になっていたの……?」



 旅の間に、自分の力の強さを知った。自分にしかできないことを知った。過度な期待は、誠実な商売を揺らがせた。商売人としての誇り、道具師としての誇り。スレートから教わったそれに、ヒビが入っていた。


 求められた結果を残してこそ、その結果を超えてこそ、道具師として正しい姿。超えるべきは、使い手が望むものでなくてはならない。道具は必ず安全でなければならない。中途半端なものを提供してはいけない。いくら、急いでいたとしても。


 本来、薬は十分な実験を行わなければ提供してはいけない。例外は、緊急時と素材がそれ以上手に入らないとき、そして使用者が曖昧でもすぐにと欲したとき。



「今回は、緊急で、素材だって、貴重で……」



 自分に言い聞かせるように言葉を呟きながら、ジェマは膝を抱えた。黒髪が床を擦る。


 何をしても、何が正しいか示してくれる者がいない。失敗を指摘してくれる者がいない。いくらジャスパーたちがそばにいてくれたとしても、道具師として生きた経験がある者はいない。自分で気が付かなければいけない。


 ジェマは店主であり、同時に修業中の身。修業中の身であっても、店主。自ら成長しなければならず、自ら責任を持って客と接しなければならない。



「なんで、今まで、気が付かなかったんだろう」



 ジェマの足元に、水が染みを作っていく。拭うこともできない、ただ、落ちて染み込む涙を、ジェマは呆然と見つめながら自身の身体をより強く抱き締めた。


 扱うものが大きくなっていく間は、気が付かなかった。あれができたから、きっとこれもできる。そんな、漠然とした自信があった。みんなが喜んで、求めて、褒めてくれた。



「どうしよう……どうしよう……」



 ジェマは必死に深呼吸をするものの、呼吸は徐々に乱れていく。その乱れは、ジェットに、モアレに。そしてモアレの胃の中にいたジャスパーにまで伝わった。



「ん? どうした?」


「ジェマが……」


「お前の契約者が?」



 首を傾げながら魔力を爆発させたスコーチアにジャスパーはため息を漏らした。



「……なんでもない。集中して続けろ」



 ジャスパーはジェマのために、目の前のスコーチアに集中する。


 モアレは焦燥感に身を揺らすものの、身体が重たくて動かない。ジェットはおろおろして、けれどモアレを支えたままジェマの元へ駆けつけることもできなかった。



「ピピィッ」


「わ、どうしたの、ジェットちゃん」



 ジェットの悲痛な声に、ハリスは目を丸くした。けれどその両手はモアレを支えている。ジェットは想いを伝えることも、ジェマのピンチを伝えることもできないまま、必死に鳴き声を上げ続けた。



「全く。ピィピィうるせぇ。闇の精霊たちが俺のところまで来たぞ」



 ふらりと揺らめく影。ジェマがその声に顔を上げたとき、影はジェマを包み込むように覆い隠した。


 ジェマはその場から、忽然と姿を消した。



次回、6章へ続く。

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