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オハイアリィが薬を飲み終えてしばらく。光が収まってきたころにジェマたちはようやく目を開けることができた。
「なっ、お、オハイアリィ!?」
1番最初に目を開けたグラスは、驚愕の声を上げた。ジェマも目を擦って瞬かせると、オハイアリィを見て目を見開いた。
「え、えぇっ!?」
「お、親父? なんだよ、その身体……」
ムキムキの身体に変わらない顔。異様な姿になったオハイアリィに言葉を失っていたストレリチアも、どうにか言葉を絞り出した。
「なんだろうな。身体は全盛期のころのような軽さに感じる」
オハイアリィはぐるっと肩を回すと、身体を見下ろす。そして自分の変わり果てた身体に目を丸くした。
「ほ、ほほう。筋肉痛なしでこの美しい筋肉を得られるとは……」
「親父、そこじゃねぇだろ」
「ああ、オハイアリィ。もう少しまともな驚き方をしてくれ」
どこかすっとぼけているオハイアリィに気が抜けたのか、グラスとストレリチアもドッと疲れた様子で肩の力を抜いた。
一方でジェマはジッと考え込んでいた。スレートの記録には生命力を回復させる、としか書いていなかった。スレートが作ったことがないものだからその副作用については知らなかったのかもしれない。けれど身体だけは若返ったような変化は異様。顔がそのままというのが突っかかるような違和感を感じさせた。
「すみません。私が調薬を間違えたのかもしれません」
「ん? 何を誤っているんだ?」
オハイアリィは目を丸くすると、すくりと立ち上がって部屋の中をふらふら歩いてみる。その足取りはしっかりしていて、さっきまで寝込んでいたとは思えないほどの快活さにその場にいた全員が驚いた。
オハイアリィだけはわくわくが抑えきれない様子で跳んだり回ってみたり。遂には魔法剣イグニアを手に取って振るってみる。
「ほう。全盛期のように戦えるぞ!」
「おいおい、そんなに元気になられちゃ、あの頃の他のメンバーが追い付けねぇよ」
グラスは瞳に涙を溜めながら笑う。オハイアリィの剣裁きが、懐かしくて共に旅をした記憶が蘇るような気がしていた。
「そうだな。今の私と旅ができそうなのはグラスくらいか。あいつらももう親として家庭を守るようになったからな」
「へっ、どうせ俺だけ独身だよ」
唇を尖らせて拗ねたふりをしたグラスは、グイッと腕で涙を拭ってオハイアリィに手を差し出した。
「もし街の危機が近付いたとなれば、頼りにして良いか?」
「ああ。そうしてくれると嬉しい。私もまた、冒険したい、街のために頑張りたいと思うほど身体が軽いんだ」
ニッと笑ったオハイアリィは、ストレリチアに視線を向けた。かつて憧れた父の背中を再び目の当たりにして泣き崩れていたストレリチアは、オハイアリィに見られていることに気が付くと拳で雑に涙を拭う。
「な、なんだよ」
「ストレリチア。心配をかけたな」
「頼むから、元気でいてくれ。もう次は薬を買ってやる余裕もないからな」
ぶっきらぼうに言うストレリチアの頭を、オハイアリィのゴツゴツとした手がわしゃわしゃと撫でる。ストレリチアはまた涙を零して、頷いた。胸につっかえて声が出なかった。
「良い息子を持ったよ。ありがとうな」
「ぅっ……くっ……」
嗚咽して泣きじゃくるストレリチア。グラスがそっとジェマの背に触れて部屋の外へ促す。オハイアリィは部屋を出るジェマとジェット、グラスに目を向けて黙って頷くとまた自分のために涙を流す息子へ視線を戻した。
ストレリチアたちの家を出ると、ジェマたちは冒険者ギルドへ戻った。そのままギルドマスター室へと向かうと、グラスはジェマをソファに座らせて紅茶を用意し始める。
「少し待っていてくれるか? 今回の報酬と薬代を用意するから」
「ありがとうございます」
ジェマは渡された紅茶を飲みながら、少し考え込む。薬の妙な効果。あの緑色の光。生命力に満ちたはずの【命の妙な薬】に魔力が紛れ込んだ可能性に、ようやく思考が辿り着いた。
魔力が流れ込んだこと自体は意識していなかったけれど、魔力が混じることによって何かしらの変化が起きたと考えることができる。魔法を発動させる道具だと魔力が消費されて魔力の通りが悪くなるものの、体内に取り込む薬の場合、薬に溶け込んだ魔力が体内の魔力と混じり合って何かが起こる可能性も考えられる。
確証も何もない。ただの考察。それでも検証をして効果を考えることに意味がある。
「後で、行ってみようかな」
「ん? どこに行くんだ?」
グラスに聞き返されて、ジェマは慌てて首を横に振る。グラスはヒュプノスのことを知っているとはいえ、ヒュプノスとジェマがどんな話をしているのかは、国家にすら知られてはいけない。
「少し調べものをしようかと思って。あの薬の効果についてはもっと検討をして残りの薬の材料の使い道を考えようかと思いまして」
「そうか。残りの材料もあるからな。それにあの効果は、冒険者ギルドでは内密にした方が良さそうだもんな」
若返って全盛期の力を取り戻せる薬、なんて。引退寸前の冒険者たちにとっては喉から手が出るほど欲しいもの。とんでもない薬を生み出してしまったことに、ジェマはごくりと唾を飲んだ。




