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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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 グラスがストレリチアの背を支えると、ストレリチアの切れ長な瞳からポロポロと涙が零れ落ちた。



「これで、親父は、助かるのか……」


「必ずとは言えません。ですが、記録にあるゲッコウソウの薬を忠実に再現しています。貴重な薬ですから効果の検証もできません。それでも良いですか?」


「ああ、構わない。可能性があるなら、頼む」



 食い気味に、腕を伸ばしてジェマの肩をガシッと掴むストレリチア。ジェマはその必死な様子に【命の妙な薬】が入った瓶を差し出した。



「大金貨六枚くらいの価値はあるものです。良いですね?」


「大金貨、六枚……」



 給料半年分にも上る高価な薬。瓶を受け取ろうとしたストレリチアの手が止まる。



「高いですが、1本でかなりの効果があるはずです。オハイアリィさんの不調の原因を引き起こした精霊も、今は訓練中です。おそらくオハイアリィさんの魔力や生命力を吸い取らなくなるまで戻って来ることはないですから、継続して薬を飲まなくても大丈夫と考えてもらって構いません」



 もしもジャスパーがスコーチアの訓練をしていなかったら、【命の妙な薬】が何本も必要になっていたかもしれない。それは使用者の命を守り生活を壊すことになる。それは、ジェマの望まないこと。


 道具は人々を守るためにあり、人々が快適な生活を送るためになるものを作るのが道具師。ジェマがスレートから学んだことの1つだった。



「そういうことなら、迷わずに買える。ありがとう」


「ひとまずギルドで給料の先払いという形で支払おう。それから今回の依頼の報酬も一緒に支払うから、オハイアリィに薬を飲ませたらまたギルドに来て欲しい」


「分かりました」


「助かる、グラス。グラスも今からうちに来れるか? 親父、きっとグラスがいてくれたほうが安心だろうから」



 元仲間という確固たる絆は、いつまでも廃れることがない。それは冒険者という背中を預け合い命を懸けた戦いを繰り返した彼らだけが持つ絆。簡単には語れないと言われるほど、死してなお繋がり続けるものがある。



「そう言ってくれるなら。行こうか。……そのお嬢さんは?」



 グラスの言葉に、ジェマはハッとした。そういえば、ハリスを紹介していなかった。



「この子はハリス。私の同居人で、【チェリッシュ】の従業員になってくれることになりました」


「そうか。見ない顔だ、この街に越してきたのか。この街は周囲の街と比べれば人権尊重だったり治安維持に力を入れている節があるからな。特に困ったら騎士団に頼ると良い。ジェマといるということはシヴァリーさんとはきっと知り合いだろう? 彼は平民の味方だ。安心して良い」



 グラスすら信頼を置くシヴァリーは、街の平民たちにとって英雄のような人物だった。そして奴隷を解放した実績のあるハナナも、貴族出身の騎士にしては珍しく街の平民たちから慕われている。


 そんな2人が率いる第8小隊。貴族出身でも平民出身でも、シヴァリーの方針に頷く彼らが平民を大事にしないわけがなく。困ったときに嫌な顔1つせずに助けてくれる彼らは愛されていた。



「シヴァリーさんって、凄い人だったんだ」


「はは、そうは見えないだろうけどな」



 グラスはあっけらかんと笑う。シヴァリーの凄さは、集めた尊敬を笠に着ることもなく同じ目線で笑ってくれる。ジェマもそんなシヴァリーに何度も救われた。



「アイツの話は良いから。早く行くぞ」



 いつもの気だるさはどこへやら。急かすようにドアに向かっていくストレリチアに、ジェマとグラスは慌ててついていく。



「ジェマ、私はここでアベリアと待っているね」


「うん、分かった。アベリア、ハリスをお願い」


「任せて! ハリス、こっちこっち!」



 アベリアが無邪気に手招くと、ハリスもどこか楽し気についていく。ジェマはその姿に少し安心したように笑って、ストレリチアに急かされるまま外に出た。


 そのまま急ぎ足でストレリチアの家に行くと、オハイアリィは静かな部屋で眠っていた。



「親父、ジェマが早速薬を作ってくれたんだ。飲めるか?」



 ストレリチアが軽く揺すって起こすと、オハイアリィは眠たげに目を開けた。症状が悪化している様子はなくて、ジェマはホッとしながらストレリチアに視線を送る。



「その薬は、少しどろっとしてはいるのですが、水で飲むと効果が薄まってしまうんです。スプーンで掬いながら、ゆっくり飲み込んでいってください」


「分かった。親父、用意してくるから」



 ストレリチアが台所に向かうと、オハイアリィはジェマに視線を向けて不安げに眉を下げた。



「イグニアの精霊は、頑張っているのか?」


「はい。今必死に頑張っていますよ。ね、ジェット」


「ピピィ!」



 ジェマは訓練の様子を見ていないけれど、モアレが魔力をたらふく食べて幸せに満ちている感情はずっと伝わってきている。いつも感じているジャスパーの魔力ではない魔力がモアレを通じて供給される感覚。それがスコーチアの努力だということが分かる。



「親父、持ってきたぞ。ほら、飲んでくれ」



 ストレリチアがスプーンを渡して、祈るように見つめる。震える手でオハイアリィが薬を飲むと、オハイアリィの身体がじんわりと緑色に光り輝く。その眩しさにジェマたちは目を覆った。



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