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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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 ジェットによる訓練は、凄まじいものだった。それはもう、【魔力阻害ボックス】にヒビが入るほど。



「きゅあっ、きゅうっ」



 【魔力阻害ボックス】から漏れた魔力は、直接モアレの胃袋へ。モアレの鳴き声に不安げに駆け寄ったジェット。けれどモアレの表情があまりにも恍惚としていることに気が付くと、慌てて飛び退った。



「ピピッ!?」


「きゅあぁっ!」



 腹らしき部分がもにゅもにゅと蠢き、ごぽごぽと嫌に生命を感じさせる音を立てる。



「ピ?」


「きゅう!」



 ジェットがくりんっと首を回して問いかけると、モアレは頷く代わりにぴょんぴょんと飛び跳ねてみせる。元気であることと、恐らく腹の中でジャスパーとスコーチアがぐるんぐるんと目を回しているであろうことは分かる。


 溢れ出た魔力を食事として、もぐもぐと幸せそうに吸収していくモアレ。するとこちらにも影響が出るわけで。



「ん? なんかすっごい元気?」



 モアレの魔力が伝わってきたジェマ。鍋をかき混ぜるその身体の周囲に緑色の靄が溢れる。ハリスはその様子に目を丸くして、それから鍋の中が光り出すと慌ててジェマの肩を叩く。



「ジェマ、なんか、光ってる!」


「あれ? とろみが出るとは書いてあったけど、光るなんて書いてあったかな。まあ、ゲッコウソウは分からないことがたくさんあるし。そんなものなのかな?」



 魔力を道具に混ぜてはいけません。そんな約束をしたって、本人が気が付かないのだから意味がない。魔力がじんわりと込められた薬が完成してしまった。



「よし。えっと、商品名を考えないといけなくて」



 ジェマは道具師になった日から記録を続けている翡翠色の革表紙の商品ノートを取り出す。ぎっしりと書き込まれたそれの、最後尾。作り方、目的、売る相手を記すと、最後に1番上に商品名を書こうとして手が止まる。



「【回復ポーション】だと被るしなぁ」


「回復どころの話じゃないんでしょ?」


「そうだね。生命力がぎっしり詰まったものだから」


「なんだか、強すぎて妙薬みたいだね」



 奇跡の力を持つと呼ばれる、最高峰の薬たち。幻とまで言われるそれらは妙薬と呼ばれて重宝されている。



「それ、良いかも」



 原材料は入手困難なゲッコウソウ。調薬目的はオハイアリィの生命力の回復。1度聞いてしまうと、妙薬以上に良い名前はない気がして来るほどにしっくりくる。



「よし、決めた」



 さらさらと書き込まれた商品名は、【命の妙な薬】。その妙なネーミングにハリスは首を傾げた。



「その、【な】はいる?」


「いるよ。そのままの名前付けだと、いざ販売ってなったときに道具師ギルドから許可が下りないからね」



 ジェマは誇らしげに胸を張って、その分厚い商品ノートを閉じる。ジェマの経験と発想が詰め込まれたノートには記されない、魔力混入。ジャスパーがこの場にいないことが幸いなのか、不幸なのか。それはこの【命の妙な薬】を飲むことになるオハイアリィ次第だ。


 ジェマはサファイア色のエプロンを外すと、満面の笑みでハリスを振り返る。ハリスはその笑みに頷いて、手を差し出す。



「行こう!」


「うん!」



 固く握られた2人の手。ジェマが出かける気配に、ジェットとモアレは顔を見合わせる。モアレは腹の中にジャスパーとスコーチアを抱え、なんなら毎秒食事中。ジェットは2本の脚を挙げて誰の、とは伝えずに無事を祈ってジェマの元へ急いだ。



「ピピッ!」


「ジェット! 一緒に来てくれるの?」


「ピッ!」



 元気いっぱいにジェマに飛びついたジェットは、するするとジェマの右肩に落ち着く。いつもの定位置。左肩にジャスパーがいなくても、なんとなくこっちに座ってしまうくらいには馴染んでいる。



「じゃあ、オハイアリィさんにこの薬を届けて、帰ったらローテンドでセインさんの杖も作らないとだね」


「そのおじさん、薬で元気になると良いね」


「うん。きっと大丈夫だよ!」



 ジェマはハリスと手を繋いで森を抜けていく。まず向かうのは冒険者ギルド。その少し重たいドアを押し開けると、アベリアが嬉しそうに手を振った。そしてジェマの隣にいるハリスに目を丸くすると、不安げに眉を下げた。



「ジェマちゃん、お友達?」


「うん。ハリスだよ。きっとアベリアも仲良くなれると思うな。ハリス、この子はギルドの受付をしているアベリアだよ」


「初めまして、アベリアさん」


「アベリアで良いよ! ハリス、よろしくね!」



 ジェマに紹介してもらうと安心したのか、アベリアはすっかりいつもの調子でハリスの両手をガシッと握ってぶんぶんと握手を交わす。ハリスはその圧に圧倒されながらも、その素直さに小さく微笑んだ。



「それで、アベリア。グラスさんとストレリチアさんはいる? 思ったより早く依頼の品ができたんだけど」


「えっ、まだこっちの依頼書が完成してないよぉっ。でも、待ってて! すぐに呼んで来るから!」



 アベリアは大慌てでギルドマスター室に駆け込む。丁度一緒にいたらしいストレリチアもドタバタと降りてきた。ジェマの手に握られた緑色の光を放つ薬を前に、ストレリチアは膝から崩れ落ちた。




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