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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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魔法剣イグニアの精霊スコーチア


 ジェマたちはその爆音と揺れに驚いて、けれど鍋から目を離すことはできない。



「モアレ、様子を見てきてくれないかな?」



 ジェマが影に呼びかけると、影から飛び出したモアレがリビングの方へと跳ねていった。



「大丈夫かな?」


「きっと大丈夫。ジャスパーとジェットが向こうにいるからね。だけど念のため、ハリスはここにいて? スコーチアが万が一何か危害を加えようとしたとき、ハリスは身を守る手段がないでしょう?」


「そうだね。見えなかったら受け身の取りようも避けようもないね」



 不安げなハリスに、ジェマは小さく微笑む。ただ、視線は鍋を見つめたまま。


 一方作業部屋を出たモアレはぴょんぴょんと跳ねてジェットの気配がする方へと向かう。家の中の造りなんて知らなくても、同じくジェマと契約している魔獣のジェットの気配を辿れば迷子になることはない。


 モアレが店舗スペースに向かうと、【魔力阻害ボックス】の中でスコーチアが大暴れしていた。



「出せ! 出しやがれ! オハイアリィが大変なんだ! 帰らねぇと!」


「だから、お前のせいでオハイアリィが死にかけていると言っているだろう。帰るために力の使い方をだな」


「ふざけんな! このスコーチア様を怒らせたらどうなると思ってんだ!」



 全く話を聞く様子のないスコーチアに、ジャスパーの笑みが次第に深まり、眉間のシワまで濃くなっていく。ジェットはおろおろしながらも、自慢の糸で【魔力阻害ボックス】がこじ開けられないようにしっかり固定していた。



「ピピッ!」


「きゅわっ」



 ジェットが1本の脚を、モアレが腕のように引き延ばした身体の一部を挙げて挨拶する。その姿に穏やかな笑みを見せたジャスパーは、改めてスコーチアに向き直る。



「少しは黙って話を聞けと言っているんだ」


「うるさいうるさい! 何様のつもりだ! 俺はスコーチア様だぞ!」



 あまりにもギャンギャン、ギャンギャン騒がしいスコーチア。ジャスパーはため息を漏らすと圧を掛けて睨み落とす。



「産まれたてのガキが」



 その言葉と共に放たれた圧倒的な精霊の魔力。オハイアリィの生命力を吸うことができない今のスコーチアに勝てるわけがなかった。スコーチアはすっかり腰を抜かして【魔力阻害ボックス】の隅でガタガタ震えた。



「お、お前の契約者の力、どうなってんだ!」


「違う。これは我だけの力だ。契約精霊が契約者の生命力を使うのは、緊急事態だけ。過剰に使えば、オハイアリィのように命が尽きかけることになるからな」


「は、はぁ? 何言ってんだ……俺は、オハイアリィの強くなりたいって願いを叶え続けた! ずっと、オハイアリィを守っていた!」



 スコーチアの中に刻まれたオハイアリィと共に冒険をしていたころの記憶。言葉を交わすことができなくても、姿を見つけてもらえなくても。オハイアリィの願いのために魂を燃やし、魔法剣イグニアを強化してきた。


 もっともっと、オハイアリィの役に立ちたい。


 スコーチアはオハイアリィと自分のために、より強い力を求めた。そしてオハイアリィから力を借りることで自身が力を増し、オハイアリィがより強い力を振るうことができることに気が付いた。それが、オハイアリィの命を削る行為だとは知らずに。



「お前がオハイアリィから奪っていたのは、生命力だ。精霊は契約者の生命力を借りることで、本来の力を超えた力を発揮する。つまり、お前がその強すぎる力に陶酔して力を振るうほどにオハイアリィは死に近付く。まあ、今回はジェマが生命力を回復させる薬を作っているがな」


「嘘だ! そんなはずない! オハイアリィは、強いんだ! いつだって強くて、もっともっと強くなりたいって願っていた!」



 尚も喚き散らすスコーチア。ジャスパーは白い目でスコーチアを見下ろすと、ふんっと鼻を鳴らした。



「普通契約精霊は、願い以上に契約者を守ることを使命として生まれてくる。お前にはそれがない」


「な、なんだとっ! 俺がっ、俺が契約者を守れていないわけがない!」


「実際、オハイアリィは死にかけているだろ。そろそろ現実を見て、考えろ。お前が変わらないと言うなら、オハイアリィは死ぬ。お前を消してしまうのが最も早いが、オハイアリィはそれで自分が生き永らえることを良しとしないだろうからな。オハイアリィが生きるか死ぬか、お前次第だ」



 ジャスパーはあくまで淡々と現実を突きつけ続ける。その感情的にならない姿に、ジェットは目をキラキラと輝かせる。モアレは退屈そうに大きな口をぐわっと開いて欠伸をすると、その風圧に店内の軽い商品がカタカタ震えた。


 スコーチアは、何も言えないまま膝を抱えた。



「俺は、オハイアリィを、守れていないのか?」


「話、聞いてたか? 学べと言っているんだ」


「でも、俺が奪ったオハイアリィの命は、戻らないだろ?」



 ジャスパーは深くため息を吐いて首を横に振る。なんて話を聞かないやつなんだ。その感情があまりにも表情に現れているのを見て、ジェットはぴょんぴょんと楽し気に飛び跳ねた。



「ああ、その通りだ。だが、ジェマが作る回復薬があれば、多少は回復するはずだ。それを信じて、お前はこれ以上契約者を傷つけず、守る方法を学べ。良いな?」



 ジャスパーの念押しの質問に、スコーチアは落ち込んだ様子で頷いた。ジャスパーはひとまず安心すると、ジェットとモアレの方を振り向いた。



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