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ジェマとハリス、ジャスパー、ジェット、モアレ。シヴァリーとカポックに送られて帰宅すると、ハリスは目を輝かせて家を眺める。
「温かくて、可愛いお家だね」
「でしょ? 私のお父さんが建てたお店兼家だからね」
【チェリッシュ】はスレートがまだジェマと出会う前に建てた。この森の素材だけで造られた、木の温もりを感じられる家。
「お邪魔します」
「ふふ、ただいまで良いよ。おかえり、ハリス、モアレ」
「うん、ただいま」
照れたように笑うハリスと、ぴょんぴょんと飛び跳ねるモアレ。新たな住人に、木々が風に揺れてそよそよと音を立てる。
「さあ、入ろう! ……あ」
ドアを開けて、ジェマは固まる。その視線の先にはジャスパーの部屋。ジェマの考えに気が付いたジャスパーは、小さく笑う。
「向こうの人間用のリビングで生活すれば良い。ハリスは我の部屋に入れないからな。食事は毎日運ぼうか」
「それは、ジャスパーの手間になっちゃわない?」
「平気だ」
不思議そうにジェマの言葉を聞いていたハリスは、ジェマの視線を追う。
「何かあるの?」
「うん。ジャスパーの部屋。いつもそこで一緒にご飯を食べているんだけど、ハリスの身体を小さくする道具がないから、これからは人間用のリビングでご飯を食べようって話になったの」
ハリスの頭には疑問符がいくつも浮かぶ。そしておずおずと小さく手を挙げた。
「ジェマは、小さくなれるの?」
「うん。お父さんが作ってくれた所有者固定魔道具があるから」
「所有者固定魔道具って、確か、その人にしか使えないやつ?」
「そう。その道具しか人間がジャスパーの部屋に入る手段がないの」
ジェマはドアを開けてあげる。ジャスパーとジェットが部屋に入っていく。ハリスはジェットが入っていくのを見て、その後ろから部屋を覗き込む。木造りの温かみのあるミニチュアルーム。
「可愛いね。このトンネルみたいな道具、ジェマは作れないの?」
「んー、所有者固定魔道具は作れない。同じ効果のある魔道具も、まだ作れないかなぁ」
ジェマは肩をすくめるけれど、その瞳には憧れが輝いていた。いつかは自分もスレートのような道具を作りたい。そして父の背中に追いついて、その先の景色を見てみたい。ジェマが道具師になることを決めたときから抱き続ける想いだった。
どれだけ凄いと言われても鼻高々にならずにいられるのは、スレートの凄さを知っているから。スレートならどうしただろうかと自身を顧みることもある。それがジェマを自身の未熟さを振り返る碇になっていた。
「とても凄いお父さんだったんだね」
「うん。お父さんはとっても頭が良くて器用で、世界一の道具師だったの」
ジェマが嬉しそうに笑ったとき、未だに糸でぐるぐる巻きにされていたスコーチアが目覚めた。
「はっ、おい、ここどこだ! オハイアリィ! どこだ!」
身じろいでも解けないジェットのしなやかな糸。スコーチアがオハイアリィの生命力を使って自身の身体を燃やそうとした瞬間、ジャスパーはスコーチアに【魔力阻害ボックス】を被せた。スコーチアが放とうとした魔力の波は【魔力阻害ボックス】に弾かれ、オハイアリィの生命力を吸うことはできない。
「お前のその行動がオハイアリィを殺しかけていることにまだ気が付かないのか」
ジャスパーの声は、静かだった。ジェマはハリスの手を引いてその場を離れる。作業場に向かうと、オハイアリィの生命力を回復させるための薬作りに取り掛かる。まずは試しに、1瓶分。
「ねえ、ジェマ。いきなり現れたあの箱はなに?」
「あれは【魔力阻害ボックス】っていう魔道具だよ。私はまだ作れないんだけど、ボックスの中に通っている魔力の流れの向きであのボックスの中に向かう魔力も外に出て行こうとする魔力も阻害してくれるの。道具の中には魔力の干渉を受けて性質が変わるものもあるから、必須アイテムなの」
「それであの精霊さんを包んだら、その依頼人のお父さんも無事ってこと?」
「そういうこと。スコーチアが精霊の力の使い方を学んでオハイアリィさんの生命力を無暗に奪うことがなくなったら解放してあげられるかな」
ジェマは説明しながらもお湯を沸かし、ゲッコウソウの葉を丁寧に湯がく。
「薬ってすり潰すんだと思ってた」
「これは特殊な薬なの。まずこのお鍋とヘラは特殊な魔道具なの。これで湯がいてゲッコウソウの中に溜め込まれた生命力を抽出したら、それを煮詰めて煮詰めて、とろみが出るまで焦げないように混ぜ続ける。作り方と道具が合っていないと薬にならない」
「なんだか、お料理みたい」
その感想にジェマは微笑む。その視線がチラチラと何かを見ていることに気が付いて、ハリスがその視線を追う。そこに開かれた、1冊のノート。
「それは?」
「……お父さんが遺したノート。今の情報も、ここに書いてあったの」
スレートも作ったことがないほど貴重な薬。スレートがこの知識がいつか役立つかもしれないと記録していたことが、ジェマの助けになっていた。
「素敵なお父さんだね」
「うん、自慢のお父さんなの」
ジェマが嬉しそうに笑うと、ハリスも微笑む。そして2人はじっくりことこと、ゲッコウソウが焦げないように見守りながら薬作りに勤しんだ。
鍋の熱で次第にじんわりと暑くなる作業部屋。汗を拭いながら鍋をかき混ぜていると、リビングの方から激しい爆音が響いた。




