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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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 ジェマはジャスパーの視線を受けて頷くと、オハイアリィを見る。



「その毛玉の中にいる精霊スコーチアは、魔法剣イグニアを愛するオハイアリィさんの想いから生まれました。なので、生まれながらに貴方の契約精霊ということになります。契約精霊は特別な力を使うときに契約者の力を使うことがあるんです」


「ジェマの契約精霊もか?」



 グラスがジャスパーを指し示す。ジャスパーは一緒にされるのは心外だとでも言いたげに鼻を鳴らした。ジェマはそんなジャスパーに小さく笑うとまたオハイアリィに視線を戻す。



「そうです。でも普通、契約精霊は特別な力を使うときしか契約者の力を使うことはないんです。このスコーチアはその普通を知らないのかなんなのか。生きるためにオハイアリィの力を使っていたためにオハイアリィさんの体調が悪くなっていたんです」


「なら、親父からこの精霊を離せば良いのか?」



 ストレリチアは急くように言う。その必死な様子に、ジェマは首を横に振った。



「契約精霊との繋がりは、物理的な距離の問題ではないんです。魂の繋がりなので」


「じゃあ、どうしたら良いんだっ」



 ストレリチアの瞳に滲む涙に、ジェマは思わずジャスパーを見る。精霊のことは精霊に聞く。人間には精霊の全ては分からない。


 ジャスパーは小さくため息を漏らすと、咳き込むオハイアリィがスコーチアが閉じ込められた毛玉を大切そうに撫でていることに気が付いた。見えなくても、命を削っている張本人であっても。大切にしているものに宿った精霊はそれだけで特別なものだった。



「もしもオハイアリィが良いなら、しばらくこいつを我が預かろう」


「ジャスパーが?」


「ああ。精霊は生まれながらに契約者を守る本能を持つ。野生のものなら、周囲の精霊から力を扱い方を学ぶこともある。それに近いことをすると考えれば、大きな問題はない。ジェマが言うように精霊と契約者の繋がりは魂に根付く。【チェリッシュ】で過ごさせても変わりない」



 ストレリチアは不安げにジャスパーを見つめる。ジャスパーはその視線に気が付きながらも何も言わない。ジェマは代わりにストレリチアの手に触れた。



「不安、ですか?」


「ああ、その教えるって、どれくらいかかるんだ? 親父の命は、持つのか?」


「必要になるのは生命力の補給です。それにもってこいの薬草がここにあるんですから。私がすぐに調薬して持ってきます。スコーチアのことはジャスパーに任せてください。どちらかが亡くなるまで契約は続くんです。オハイアリィさんがスコーチアを大切に想ってくれるなら、共に生きることができた方が良いでしょう」



 ジェマの真っ直ぐな眼差しに、ストレリチアは勢いよく頭を下げた。



「頼む。助けてくれ」


「俺からもお願いしたい。ジェマ、オハイアリィは俺の仲間でもあるんだ」


「はい。精一杯頑張ります」



 絶対に助けられる確証はない。スコーチアがどれだけ早く力の制御ができるようになるかにかかっているからだ。ジェマがどれだけ有効な薬を作ろうが、ジャスパーがどれだけ真剣に教えようが。スコーチアがオハイアリィのために生きる意思を持っているかどうかに関わってくる。



「お嬢ちゃん」



 オハイアリィの静かな声にジェマが振り向くと、オハイアリィは小さく微笑みながら毛玉をジェマに差し出した。



「もしも、この子が私よりも自分を優先するべきときがあれば、この子を優先してあげて欲しい」


「おい! 親父!」


「ストレリチア。それが共生、共に生きるということだ。お嬢ちゃんなら、分かってくれるんじゃないかな」



 ジェマは言葉を紡ぐべきか悩んだ、けれど小さく頷いてオハイアリィを真っ直ぐに見据えた。



「分かりました」


「おい、ジェマ!」


「契約精霊、契約魔獣。どちらも私の大切な仲間で、大切な家族です。オハイアリィさんの気持ちも、分かるんです」



 怒りと焦りを滲ませるストレリチアを前にしても、ジェマは真剣な姿勢を崩さない。真剣に、目の前の命と向き合う。道具師には無縁そうで、けれど大切な素質。


 ジャスパー、ジェット、そしてモアレ。もしもその命が危険だと言われたら。ジェマは迷うことなく自分の命を差し出す。それをジャスパーたちが望まないと分かっていても。それでも守りたい気持ちが勝る。



「私はオハイアリィさんとスコーチアが笑って暮らせるような、そんな未来を作りたいです。それはもちろん、二人の命を救うことでもあります。だから、どうか任せてください」



 ジェマの揺るがない信念にストレリチアは歯を食いしばる。オハイアリィのために命の危険を冒してまでゲッコウソウを取りに行ったジェマ。そのジェマが命を粗末に考えているわけがないことくらい、ストレリチアにも分かっていた。


 それでも、納得はできない。何よりも、大切な父を助けて欲しい。


 言葉にせずとも滲み出るストレリチアの想い。グラスはその肩に手を置いて落ち着かせるようにそっと擦った。



「任せよう。ジェマは、何人もの冒険者や騎士を救ってくれただろう。信じなければ、助からないこともある」



 現にジェマは、アドヴェルの反対を受けてセインの治療には参加しなかった。信じることが、命を救う第一歩だ。



「……分かった。ジェマ、改めて、頼む」



 深く、深く。頭を下げるストレリチアに、ジェマは大きく頷いた。そしてジャスパーがスコーチアを包んだままの毛玉を浮遊魔法で運び、ジェマたちは一度ハリスたちが待つ騎士団詰め所へと向かった。



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