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ジェマはその魔法剣イグニアを見つめる。スレートの遺作の1つにこうして出会えるとは思わなかった。
「オハイアリィさんは、父に気に入られたんですね」
「ああ、スレートは武具は作らないと有名だったな。だが、これを作ってもらったのは、スレートがまだこの街に来たばかり、道具師としてまだ無名の頃だ。食うに困って仕事を選ぶ余裕はないようだったな」
オハイアリィは当時を懐かしむように目を細める。ジェマと出会う前のスレートの話。ジェマはその話に耳を傾けながら、オハイアリィの身体の様子を調べる。
外傷はない。医者の診察の結果を信じるならば、体内にも疾患はない。何を治せば良いのか、どうしたら良いのか。何1つヒントがない。
「ジェマは、武具は作るのか?」
「はい。私は信じた相手には作ると決めています」
「信じた相手、か」
オハイアリィの瞳が優しく細められる。病に伏しながらも何も憎む様子のない瞳を、ジェマは正面から見つめ返した。
「ええ。その方がその力を誰かを貶めるために使ったら、そのときは私が倒します」
「はは、気の強いお嬢ちゃんだ」
オハイアリィは弱々しくも楽し気に笑う。そしてその瞳を魔法剣イグニアに向ける。
「あの剣をくれたとき、スレートも同じことを言っていたな。俺の子どものようなこの剣で悪さをしたら、俺が殺しに行く。この剣は自分の命と思って大切にしろ、とな」
ジャスパーはその言葉に再び魔法剣イグニアに目を向けた。ジェットもジャスパーの真似をしてそちらを見ていたけれど、不意にくるりと首を傾げた。
「ジェット、どうしたの?」
「ほほう? こりゃたまげた。アラクネ種の幼体か」
「ええ。私の契約魔獣のジェットです。すみません、紹介が遅れて。あと、こっちの肩には契約精霊のジャスパーがいるのですが」
「精霊か。俺には見えないな。もしもあのイグニアに精霊が宿っているなら、会話してみたいものなんだがな」
オハイアリィが小さく微笑んだ瞬間、オハイアリィは突然苦し気に胸を押さえて呻き始めた。蹲って嗚咽する姿はあまりにも痛々しく、ジェマは咄嗟にその小さな手で背中を擦った。
「おい、親父、どこが苦しい?」
「大丈夫、大丈夫だ……」
駆け寄ってオハイアリィの手を握ったストレリチアに、オハイアリィは強がるように首を横に振る。グラスはため息を吐くとオハイアリィの顔を覗き込む。
「おい。ストレリチアはお前を治したくてジェマを呼んだんだ。強がってねぇで答えてやれよ」
「馬鹿か、グラス……俺は、弱くねぇんだ……強がりは、弱いやつがすることだ」
息苦しそうに、けれどニヤリと笑ってみせるオハイアリィ。その気概の強さにジェマは目を見開く。そして、不意に背後に感じた気配に振り向いた。
「ジャスパー?」
「いや、我ではない。あそこ、いるな」
「引っ張り出せる? もしかしたら、これは……」
「ああ、十中八九、あいつのせいだな」
ジャスパーはため息を吐くと、魔法剣イグニアを思いきり蹴り飛ばす。カランッと魔法剣が倒れた音にオハイアリィが驚きに目を見開いて視線を向けた。そこから湧き上がる靄。グラスとストレリチアはその靄に目を奪われたが、オハイアリィだけは見えていなかった。
共に冒険をしていたグラスもその靄から現れた揺らめく姿を初めて見たのか、驚きに眉間を皺を寄せた。
「魔法剣イグニアには、精霊がいたのか」
炎を纏った、小さな精霊。闘志を燃やした眼差しをオハイアリィに向けると、オハイアリィがまた呻く。ジャスパーは咄嗟にその身体を押さえつけた。
「おい! やめろ! お前はあのおっさんを殺したいのか! ジェット、こいつを捕らえろ!」
ジャスパーの剛腕に、あっさりと小さな精霊は組み敷かれ、ジェットの糸でぐるぐる巻きにされた。苦しみが過ぎ去ったオハイアリィは、荒く息をしながら床に転がった小さな糸の塊を見て首を傾げた。
「そこに、何か捕まっているのか?」
「はい。おそらく、魔法剣イグニアを愛するあなたの想いから生まれた精霊です。ジャスパー、確か、契約精霊は契約者の魔力や生命力を力に変えるんだったよね?」
「ああ。普段は使わないような強大な力を使うときにな。だから契約精霊は力の使い所というものを考える。が、こいつは普段の生活にオハイアリィの力を使ってやがる」
ジャスパーは怒りに満ちた漆黒の瞳で炎の精霊を睨み下ろす。精霊はビクッとしたものの、自分がしたことを理解していない様子でぷんすかしている。
「おい、俺はスコーチア様だぞ! こんな屈辱、許されるか!」
ぎゃーぎゃーと喚くスコーチアと名乗った精霊。ジェマはジャスパーを見ても反抗する精霊を初めて見て、戸惑ってしまった。一方でジャスパーはその反応からスコーチアの存在についてある程度理解できたようで、蹄をスコーチアの額に叩き込んで気絶させた。
「やかましい」
「お、おぉ……」
「ジャスパー、強いな」
グラスとストレリチアはドン引き。オハイアリィが戸惑う中、ジャスパーがスコーチアを浮遊魔法で持ち上げてオハイアリィの手元に糸玉のまま乗せた。そうしなければ、精霊が見えないオハイアリィには存在が伝わらない。




