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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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 全く起きる気配のないモアレをシヴァリーに紹介することは後回しにして、とにかく街へ戻った。シヴァリーとハリスを外に残して冒険者ギルドに顔を出すと、ひょこりと顔を上げたアベリアが受付から飛び出して駆け寄ってきた。



「ジェマちゃん! おかえりなさい! 今日中に帰ってこられて良かったぁ!」



 ぎゅうっと抱き着いたアベリアの背中を撫でてあげながら、ジェマは嬉しそうに笑う。



「ただいま、アベリア。怪我もないから安心してね。それで、ストレリチアさんはいるかな? 頼まれたものを採ってきたんだけど」



 アベリアの丸く見開かれた瞳が、ぱちぱちと瞬く。



「頼まれたものって、まさか、ゲッコウソウ?」


「そうそう。みんなで探してきたんだ。きっと早く必要なものだろうから、呼んできてもらっても良い?」


「う、うん! 分かった。ちょっと待ってて!」



 アベリアが奥の解体室へ駆け込んでいく間に、ジェマは【次元袋】からジェットの糸でぐるぐる巻きになっているゲッコウソウを取り出す。しっかり光が遮断されて、ひんやりとした感覚。これなら品質に問題はない。


 ストレリチアは慌てた様子で解体室から飛び出してくると、ジェマの肩をガシッと掴んだ。



「本当か? 本当にゲッコウソウがあったのか?」


「はい、この中に入ってますよ」



 糸の玉を見せると、ストレリチアは一瞬ポカンとした。けれどすぐにハッとすると、糸をそっとかき分けて中を覗く。



「……本物だ。ジェマ、来い」



 ストレリチアはズカズカとギルドマスター室へと向かう。ジェマが慌ててついて行くと、ストレリチアはノックもせずにギルドマスター室のドアを開けた。



「おい! 採って来てくれたぞ! これ、依頼書ってことにしておいてくれ。で、処理は頼む」



 ストレリチアは依頼書をグラスに渡すと、返事も聞かずに出て行こうとする。その様子にジャスパーがため息を漏らしたとき、グラスの太い腕が伸びてストレリチアの首根っこをグッと掴んで引き戻した。



「最低限、報告に来たことは褒めてやる。が、それをそのまま持って行っても、薬になってなきゃオハイアリィには使えないだろうが」



 深くため息を漏らしたグラスに、ストレリチアは眉間に皺を寄せた。けれどすぐにバツが悪い様子で顔を背ける。



「でも、急がないと」


「急いで意味がないものを持って行くなと言っているんだ。ちょっと座って待っとけ」



 グラスは一喝すると、ジェマの方に向き直る。ジェマは思わず涎が垂れそうなほどの笑みを浮かべた。



「調薬、ですか!」


「ああ。だがその前に。病人に会って欲しい」


「もちろんです。ただ、私は病に詳しいわけではありません。病気について詳しく理解している方はいますか?」


「それなら、俺もついて行こう。彼の病は珍しいものでな。医者にも分からないことが多いと言うので何人かの医者の見解を記録をまとめたりもしたんだ」



 グラスはそう言うと、分厚いファイルを手に取った。それを鞄に詰め込むと、ストレリチアに視線を向けた。



「行くぞ」


「ああ。ジェマ、うちはこのギルドの裏だ。そこに、俺の父親がいる」


「病気なのは、お父さんなんですね」



 ストレリチアが頷くと、グラスがどこか悲し気に眉を下げた。



「オハイアリィと言ってな。俺の昔のパーティーメンバーだった。火属性の魔石付与魔道具の剣を使って戦う姿はいつ見ても勇ましくてな。この街どころか国1番の魔法剣の使い手だと言われていた。だが、あるとき呪いとも言われる病にかかった」


「呪い、ですか」



 呪いと呼ばれる病は様々。医者も治し方が分からず、回復役も効かない病の総称だった。その治療はもはや治療とは言えず、ただ祈祷を繰り返して気持ちばかりの安息を与えるだけ。だからストレリチアのように、幻とも思われるような希少な薬草を求める家族や仲間も多い。それで治るとも限らないけれど。


 シヴァリーとハリスに先に騎士団詰め所に向かってもらうように伝え、ジェマとジャスパー、ジェットはストレリチアとグラスについて冒険者ギルドの裏手に回った。



「いくらゲッコウソウでも、治せないこともあるかもしれませんね」


「ああ。分かってる。だけど、可能性に掛けたい。まあ、こんなことをジェマみたいな子どもに頼むなんておかしいかもしれないが、俺がこの街で1番信頼できると思ったのがジェマだ。だから、頼まれて欲しい」



 ストレリチアは真剣な眼差しをジェマに向けると、辿り着いた木造の平屋の鍵をガタリと開けた。清潔さを保たれた室内に足を踏み入れると、ストレリチアは真っ直ぐに最奥に位置する部屋へと向かった。


 ドアが開かれると、ベッドで横たわる男。グラスより少し年上らしく、左目の傷がなければ冒険者だったとは思えないほどに痩せ細った身体。やつれた顔つきの、落ち窪んだ瞳が薄っすらと開かれる。



「ストレリチア、グラス……こちらの、可愛らしいお嬢さんは?」



 弱々しく震える声。ジェマは一礼をしてその問いに応えた。



「道具師のジェマと申します。ストレリチアさんの依頼で参りました」


「そうか……道具師か……ジェマ、というと、スレートの娘っ子か」


「父をご存じなんですか?」


「ああ、あいつはな。俺の魔法剣イグニアを作った男だ」



 魔法剣イグニア。オハイアリィの視線を追うと、そこには1本の烈火のような装飾が施された剣が丁寧に立てかけられていた。



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