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ジェマがジェットとモアレを抱き締めて褒めていると、ハリスが目覚めた。起き上がって身体の痛みを確認するハリスに、ジェマは慌てて駆け寄る。
「ハリス! 痛いところは? 怪我は?」
「大丈夫。だから、そんなに泣きそうな顔をしないで」
ハリスはジェマの頬を撫でる。そして鋭い視線をローテンドに向けた。
「早く討伐しないと。他のドラゴンが現れたら、次は勝てるか分からないよ」
「うん。そうだね」
ジェマはハリスを引っ張り起こす。ジャスパーはジェマの肩に座った。
「ローテンドは木だからな。火に弱い。ただ、魔物であるからには防御力も強い。ただの火では燃えないということだ」
「じゃあ、どんな火なら良いの?」
「複合魔法、といえば分かりやすいか?」
「他の魔法が混じった魔法なら良いの? でも水はダメだよね。火が消えちゃう。風なら強くはなるけど、ウインドシールドじゃファイヤーボールに混ぜられないし」
「土も火を消してしまうな。だからこそ、ローテンドを倒すのは難しいというわけだ」
風属性魔法ならば火属性魔法と相性が良いが、火属性魔法と組み合わせることができる魔法を扱うこと自体が難しい。光属性魔法と闇属性魔法が扱えるのは王族の血筋のみ。生命樹が脅威として扱われる理由の一つだ。
生命樹は自身が動くことはない。けれど魔力を周囲にばら撒いて周囲の魔物を強化することができる。生命樹が放つ魔力に惹きつけられた魔物たちの強さに阻まれることも、また生命樹の脅威。
「今は近くに魔物がいない。むしろ、ジェットとモアレが強化されている。なら、私のファイヤーボールとジェットとモアレの魔法を組み合わせれば、留めは刺せるはず。ジャスパーとハリスにローテンドの枝の動きを抑えてもらえれば、なんとかなるかも」
ジェマの言葉にジェットは苦笑いを浮かべた。
「そもそも、ローテンドが枝を伸縮させたり攻撃手段に使うことはない」
「え?」
「ローテンドの討伐から帰還した者がいないからそう言われているだけだ」
ローテンドは自身が動くことは全くない。成長の早さは他の植物に勝るものの、それだけのこと。意思を持って動いても、定期的に魔力を放つ以外の力はない。その力が脅威であるわけだが。
「じゃあ、枝の採取してきて良い?」
「ああ、良いぞ。思う存分狩って来い。それが終わったら、焼き尽くそう」
「うん!」
ジェマは喜んでローテンドに駆けていく。ジェットとモアレ、ハリスも一緒に採取をする姿を少し離れて眺めながら、頭を掻いた。
「今回のローテンドの最大の脅威は、モアレだった。なんて、言えないな」
ジャスパーがかつて戦い、この地に封印したグラトニースライム。その封印がローテンドの魔力によって解かれてしまう可能性。それを懸念すれば、ドラゴンがいる可能性を考える以上の脅威だと考えていた。
ドラゴンならばジェマとジェット、ジャスパーの力で抑え込むことは容易。なにより、ジャスパー自身がドラゴン数体くらいなら余裕で仕留める力を持っている。
「まあ、ジェマの成長のためなら我の力を抑えた方が良いってだけだな」
ジャスパーは蹄を見つめる。ジェマを守るために、必要なこと。
ジェマは己の力の強さを知ってしまった。騎士たちより、冒険者たちより強い力を持つことを。そして自分が闇属性魔法を扱えることを。
まだ自分が王家の血を引いていることまでは気が付いていない様子。そんな些細なことよりも重要なのは、ジェマが自身を過信してしまっている現状を変えること。
ジェマは誰かを守るためならば自身の魔力の最大値を超えるほどの魔力を使ってでも力を尽くそうとしてしまう優しさがある。誰よりも強いことを知ってしまった今は、その限界が大きく上振れてしまった。それはジェマの身を守ると誓ったジャスパーにとっては良くないこと。
「契約者よ。ジェマは今回、失う恐怖を改めて知った。だからこそ、これからもっと強く生きることができる。自分の命も、大切にしてくれれば良いが、まあ。あの子には、無理なことだよな」
ジャスパーは空を見上げた。ジェマの優しさは誰よりも良く知っている。何かあれば自分の命よりも大切な人を守ろうとする。ジャスパー自身も、ジェマの命を刈り取ろうとする者から狙われる可能性がある。それでも、覚悟は決めている。
「我がジェマを守る。あの子の命も、あの笑顔も。全てだ。契約者が守りたかったものを全て、我が守ってやる。このジャスパーにここまで誓わせたこと、空の上で誇りに思え」
ジャスパーはジェマに視線を戻す。そしてあんぐりと口を開いた。ローテンドはすっかり丸坊主。葉も枝も無くなっている。
「ローテンドが可哀想に思えてきたな」
「ジャスパー! 凄いよこれ! 刈り取っても魔力がすっごい籠っているの! きっとセインさんの魔道具もセインさんの補助をしてくれる良いものになるよ!」
ジェマの満面の笑み。背後のつるっぱげのローテンド。対照的な2つ。ジャスパーは首を振るとジェマの方へと飛んだ。
「ああ、良かったな」
「うん!」
ジャスパーが守りたいもの。それを目の前にして、ジャスパーは短く息を吐いていつものように肩に腰かけた。




