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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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 影が手を伸ばしたことにひゅっと息を飲んだハリス。けれどその手がジェットと握手をすると、ジェットが嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる。その様子に、ハリスは深く深呼吸をした。



「モアレ、とかどう?」


「モアレ?」


「そう。コマスで人気の名前っていうわけではないけど、でも、この子っぽい模様だから」



 織物の模様を冠した人は商業の町で大成する。それがコマスの考え方。ハリスの名前も織物の名前の1つから取られている。貧民街に生まれても、親から愛されていた者には願いが込められた名前がある。どんなに裕福な生まれでも、名前すら持たない者もいる。



「モアレ……良いね。可愛い」



 ジェマは嬉しそうに自分の影をつつく。影がふよふよと蠢いて、初めての名前を嬉しそうに受け入れる。ジャスパーは小さくため息を漏らした。



「モアレ、か。世界を滅ぼす災厄にしては可愛い名前だな」



 その言葉にムッとしたモアレがもにょもにょと動いて、ぴょんっと影の塊が飛び出した。



「きゅきゅっ!」



 ジェマもハリスも、ジャスパーもジェットもその姿に固まった。影の塊そのもののような真っ黒な姿。けれど影のような形のないものではなく、どこかぷにぷにもちもちとした身体つき。そのもちもちがジャスパーに突進、というより飛び込む。



「土壁」



 ジャスパーは咄嗟に蹄に魔力を込めて小さな土壁を作り出してその飛び込みを回避。もちもちは土壁に衝突すると、ジャリジャリと音を立てながら土壁を食らい尽くす。



「……その食欲。モアレ……の分体だな」



 ジャスパーは深々とため息を吐く。ジェマはその背中をつついて笑う。



「ジャスパー、ため息吐きすぎ。良いじゃん。凄いよね? 分体って」


「まあ、それができるのはスライム種の特性ではあるが」


「ふふ、魔力をくれて特別なこともできる可愛い子。また家族が増えて嬉しいね」



 ジャスパーはモアレの分体と手を合わせて嬉しそうに笑うジェマを見て苦笑いを浮かべた。



「どんな子でも、家族が増えたら嬉しいくせに」


「ピィピ」



 ジェットもうんうんと頷く。ハリスはジェマがモアレと戯れる姿を眺めながら小さく笑った。



「ジェマは警戒心が無くて、そこが良いね」


「ふふ、そう?」



 ジェマは朗らかに笑って振り向いた。けれどその刹那。



「ジャスパー」


「ああ、感じた」


「ピピィ」


「きゅう……」


「ローテンドの気配、だね」



 ジェマの言いたいことを汲み取った一同。ハリスの言葉に頷くと、ジャスパーとジェットはジェマの肩に、モアレはジェマの影に飛び込んだ。ジェマがハリスの手を握ると、ハリスはその手をしっかりと握り返した。



「行こう」


「うん。気を付けてね」


「ふふ、今の私たちは最強だもん」



 ジェマが自信満々に言うと、ハリスと共に駆け出す。森の最奥部。最も闇に飲まれるはずのそこは、近付くほどに光り輝いていることが分かる。



「あれが生命樹の輝き?」


「そう。ジェマ、舌を噛むから不用意に喋らないで」



 ハリスはそう言うと、遅れがちになったジェマの身体をひょいっと姫抱きに抱えて更に加速する。ジェマは素直に歯を食いしばり、ジェットは糸をジェマに巻き付けてしがみつく。


 やがて森が開けると、視界が一気に明るくなった。その中央に生えるのが生命樹ローテンド。周囲の木々を守るように枝を伸ばしている。その枝の下にできた木陰には、リザード種の上位種、ドラゴンが眠っていた。


 ジェマがジャスパーに目配せすると、ジャスパーは小さく頷いた。



「あのドラゴンは長命なドラゴンだ。賢く言葉も通じるだろう。だが、今はローテンドの守り手としてここに暮らしているはず。戦闘は避けられないだろうな」


「だよね。寧ろここまで接近を許してくれているのがおかしいくらい」



 守り手であるドラゴンは、ジェマたちの方へとのそりと顔を上げる。そして気だるげな顔のまま、深く息を吸う。深呼吸をするような優雅な動き。



「避けろ!」



 ジャスパーの声にジェマはハリスを抱き寄せる。ジェマとハリスが立っているところに向かって、ドラゴンの吐息は吐息でも、灼熱のブレスが吹きかけられる。



「風よ、我が呼び声に応え、具現化せよ! 水よ、我が呼び声に応え、具現化せよ!」


「土壁!」


「ピピィッ!」


「きゅきゅきゅうッ!」



 ジェマの魔法の発動と同時にジャスパーの土壁、ジェットの空間を切り取る闇属性魔法が展開される。そしてむくむくと大きく膨らんだモアレの大きな口がさらにその前に飛び出していってブレスを飲み込んでいく。



「モアレ!」


「ジェマ、出るな! モアレなら余裕だ」



 ジャスパーの言葉が終わると同時にブレスが止む。ジェマやジャスパー、ジェットの魔法の壁の前に飛び出したはずのモアレは、ジュージューと不穏な音を立てつつもごっくんと音を立ててのんびりと飲み込んだ。



「え、本当に大丈夫なの?」



 ジェマはモアレのお腹らしき部分に耳を当てる。中から響くのはジュージューと燃える音。モアレはもにょもにょと動くと、近くに生えていた硬い大木を丸のみにする。体内で大木が燃える。その燃焼でモアレの中にあった炎はゆったりと沈下する。



「きゅふ」



 呑気にげっぷをしたモアレ。ジェマたちは生命樹とドラゴンという脅威を前にしていることも忘れて、新しい家族の愛らしい姿に大笑いしてしまった。



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