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道具師ジェマ、所有者固定魔道具師への道。5  作者: こーの新


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 ジャスパーは2人の楽しそうな様子を腕を組んで眺めていた。その口角は少し緩んだ。けれどすぐに引き締められた表情でこれから進む先を見据えた。



「ジェマ、この先はリザード種が増える可能性が高い。備えておけよ」


「うん、分かってる」



 解体を終えたグランドリザードをジェットとハリスと一緒に【次元袋】に収納し終えたジェマは、頷くと腰に下げた道具入れ用の【次元袋】からマカロンを取り出した。ハリスはお菓子のような見た目のそれに首を傾げた。



「それ、なに? オシャレなお菓子屋さんのお菓子みたい」


「同じ名前ではあるんだけど……一応暗殺用の武器、かな」


「え、暗殺?」



 ハリスはその言葉に目を見開いた。ジェマはその驚きをどう捉えたのか、照れ臭そうに頬を掻いた。



「うん、前に依頼を受けて作ったことがあってね。すごく便利だから、私も普段から持ち歩くようにしてるの。この武器、糸が伸びるんだけどね? この糸はジェットの糸を使っているの」


「ピッ!」



 ジェットが誇らしげに2本の脚を上げると、ハリスは怯えたような表情から一転して、ぽんっと手を打った。



「なるほど。ジェットの糸ってことは切れ味抜群ってことか」


「そうそう! ジェットの糸は凄いんだから!」



 ジェマはニマニマしながらジェットのふわふわな頭を撫で回す。ジェットも嬉しそうに頭を摺り寄せて返すと、ハリスはその温かな光景に考えが頭からすっぽり抜け落ちた。


 それだけの切れ味のものを暗殺者が持っているということは。その恐怖は腹の底から冷えたものが込み上げてくるほどだ。けれどその恐怖を忘れてしまうほどには目の前の光景が平和すぎた。ジャスパーはジェマとジェットの様子に頬を緩ませてジェマの肩に座る。



「ほら、行くぞ」


「うん! 行こう!」



 ジェマは元気に立ち上がると、ジャスパーとジェットを肩に載せたまま、ハリスの手を引いて森のさらに奥へと向かって笑顔で歩き出す。ジャスパーはハリスの脳裏を過った恐怖を見て見ぬふりをする。ジェマには、その狂気の武器を作った自覚と覚悟があったから。


 森の奥へと進んでいくと、より景色が薄暗くなるもの。けれどローテンドのそばに近付くにつれて寧ろ森が明るくなっていく。咲くはずがない花や、温暖な地域でしか生きられないリザード種。異常としか思えないような状態にジェマは楽しく採取をしながらも表情を曇らせていった。



「ジェマ、どんどん楽しくない顔してる」



 ハリスが不安げにその頬に振れると、ジェマはパンパンに膨らんだ【次元袋】を手に悲し気に頷いた。



「珍しいものが採取できることは、嬉しい。でも、それはそれだけ、この森の植生がおかしくなっているっていう証拠だから。それは、この森に元々あったもの、あるべきだったものの住処を奪ってしまう。そうなれば、この森でしか暮らせない動物も魔獣も植物も、消えてしまいかねないから」



 ローテンドがいることでようやく生きることができるものがいることもまた事実。ローテンドに守られてより強くなる種がいることも。けれどそれは、本来の姿を破壊する。今は良くても、数年も経てば生き物が暮らすことができなくなりかねない。


 食物連鎖の三角形は、三角形の地盤を支えるの非捕食者が多くいることで上に居座る捕食者たちが安定して暮らすことができる。地盤がぐらついてしまえば、上にいたはずの捕食者たちも飢えて数を減らす。もしくは他の地へ移動してしまう可能性もある。



「この森で生計を立てている人間もいるし、私だってその一人ではあってさ。だから、みんなのことを守るためにも、一刻も早くこの森の日常を取り戻してあげないといけないんだ」



 ジェマの真剣な表情に、ハリスは頷いた。



「分かった。私も手伝う。私も、この森の環境は少し壊しちゃったけど。でも、この森になくなって欲しいからそうしたわけじゃない。今からでも守れるなら、守りたい」



 生きるために狩りをして、その結果で生態系が狂ってしまった。ジェマの話を聞かなければ、思い至らなかったかもしれない。それでもその事実に直面したからには真っ直ぐ向き合おうとするハリス。ジェマはそんな淀みのない瞳に柔らかく笑った。



「ありがとう、ハリス。やっぱりハリスはとっても強いね。それで、すっごく優しい」



 ジェマの誇らしげな言葉に、ハリスは気恥ずかしそうに頭を掻いた。2人の仲良しな様子にジェットもゆらゆらと身体を揺らしていた。



「ピピッ!」



 けれどいきなり鳴き声を上げると、ジェマに警戒心に満ちたジェットの心が伝わった。



「……何か来る、か?」


「……ジャスパー、これ、おかしい」



 ジェマはその異様な気配に声を震わせた。ジェットが伝えてくれる感覚は、それが魔獣ではないことを伝えていた。肌を這う冷気。温かく照らされた場所には似合わないそれに、ハリスはジェマを守るように一歩前に出る。



「……ジェマとジェットは下がれ。ここは我が戦おう」



 地面から這い上がって来る闇。より強い闇を求めるように、ジェマとジェットに向かって這い伸びていくその闇に向かってジャスパーは蹄を向けた。



「土壁」



 けれど闇は土壁をすり抜け、ジェマとジェットに向かって勢いを増す。



「ジェマ!」



 ハリスがジェマを守るように飛び出した瞬間、ジェマはジェットをジャスパーに放り投げた。



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