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ジェマたち一行が歩みを進める間、魔物は全く現れなかった。それを良いことに、ジェマはあっちへ行きこっちへ行き。珍しい素材をここぞとばかりに回収していく。
「ほほう、これはチョウジュソウだね! わわ、こっちは何? 見たことない!」
ジェマはこれまでの知識と経験、そしてジャスパーとの契約で使えることになった鑑定魔法の力を使って未知の場所での採取を手早く進めていく。
「鑑定魔法……初めて聞いたけれど、とても便利ね」
「まあ、あんまり使わないけどね。お父さんが遺してくれた書物に書いてあった特徴と照らし合わせれば分かる素材が多いし。ただ、扱いが危ない素材や本当に初めて見た素材には鑑定魔法を使った方が安全だから使うけど」
「ジェマは本当に、1人前の道具師なのね」
その道に生きるならば、すぐに引き出せる知識は武器になる。調べるよりも先に知識と経験を引っ張り出してくることができるなら、情報を構築して1つ1つの作業をより効率的に終わらせることができる。
「ありがとう。でも、私の知識はお父さんのおかげだからね。それにジャスパーとジェットがそばにいてくれるから、できることも広がっていく」
ジェマがジェットのふわふわした頭を撫でると、ジェットは嬉しそうに身体ごと擦り寄った。
ジェットがいなければ【次元袋】はなくて、荷運びを考えて採取する素材の量もぐっと減ったはず。ジャスパーがいなければ、その古からの記憶から答えを導くことも、怪我をするような無謀なことを止めてもらうこともできなかった。
「本当に、良い家族なのね」
「えへへ、でしょう?」
ジェマが自慢げに胸を張ったとき、近くの茂みがカサカサと音を立てた。
「ジェマ、下がって」
ハリスはジェマの前に立つと、拳を握りしめる。確かに武器を持っているような様子はなかったけれど、まさか本当に素手で戦っているとは思わなかったジェマは、咄嗟に【次元袋】からオアシスバトイデアの革手袋を引っ張り出してハリスに手渡した。
「これつけて! 怪我しにくくなるから!」
「平気だけど……でも、ありがとう」
ジェマの心配が伝わると、ハリスは嬉しそうに笑って革手袋を受け取った。それを手に嵌めていると、茂みが大きく揺れて大きな魔物が飛び出してきた。
「……リザードか」
ジャスパーは苦々しく呟く。ジェマも咄嗟に【マジックリング】と【マジックペンダント】を構えた。
「グランドリザード。リザード種の中では穴掘りを得意とする種で、長いしっぽが木のように地中から這い出てきて攻撃してくることもある」
「なにそれ、面倒す、ぎっ」
ハリスは直感的にジェマを抱えて飛び退く。2人が立っていたところを、地中から飛び出してきたグランドリザードのしっぽが勢いよく貫いた。
「ハリス、ありがとう!」
「怪我がなくて良かった。でも、変。私、この森でこんな魔物に出会うのは初めて」
「それだけローテンドに近づいているってことかも。アーサス種より強力な魔物だし、この先はリザード種がローテンドを中心に縄張りを張っているかもしれない」
ジェマの冷静な言葉に、ハリスは頷いた。
「それなら、まずはこの子を倒せないといけないね」
徐に飛び出していったハリス。その進行方向を狙って飛び出してきたグランドリザードのしっぽを思い切り踏みつけて跳び上がる。
「やっぱり、硬いのに柔らかくて、跳びやすい!」
ハリスが拳を握りしめてグランドリザードの脳天を目掛けて上から襲い掛かる。グランドリザードのギョロリとした瞳はその動きを捉えると、しっぽを引いて身体のすぐそばからハリスを串刺しにするべくしっぽを突き出す。
「ハリス! 風よ、我が呼び声に応え、具現化せよ!」
ジェマが【マジックペンダント】で咄嗟に作り出したウインドシールドがフリスビーのように鋭く風を切ってグランドリザードのしっぽ目掛けて飛んでいく。その硬い鱗にぶつかった瞬間、しっぽの動きは止まる。鱗を抉るように回転を続けるウインドシールド。
「はぁっ!」
グランドリザードの意識がしっぽに向いたその隙を突いて、ハリスの拳がグランドリザードの脳天を撃ち抜いた。グランドリザードの身体が傾き、ひっくり返る。その瞬間、ジャスパーが蹄を翳した。
「杭岩」
その詠唱と共に現れた岩の杭がグランドリザードの首を貫いて完全に仕留めた。
「魔法……精霊の力?」
「うん。ジャスパーの土属性魔法だよ」
ジェマは説明をしながら、ナイフを取り出して早速グランドリザードを解体し始める。けれど、ガキッと音がしてナイフが弾かれる。
「鱗、硬すぎ」
「ピッ!」
「そうだね、ジェット、お願い」
ジェットが糸を吐き出して、その闇属性魔法を併せ持つ時空すら切り裂く糸で解体を進めて行く。細かく切り落とされた身体を部位ごとに解体していくのはジェマの役目。
「中はぷにぷにしていて柔らかいね。それにこの頑丈な鱗は鎧になるかも。盾も良いかなぁ」
戦闘が終わればただの道具師。ジェマのそのキラキラと輝く目に、ハリスは思わず小さく吹き出してしまう。そしてジェマの隣にしゃがみこむと、その器用な手捌きを楽しそうに眺めた。




