↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の娘:現在休止中  作者: かおもじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/35

辿り着いた場所で

 小休止を挟み王都への移動を再開してから、一時間半ほどが経過していた。


『アビスゲートオンライン』で見慣れた鹿型のモンスターや、甲虫を大きくしたようなモンスターたちが、街道の脇で思い思いの時を過ごしている。


 彼らはドミネス高原の時と同様、こちらの存在に気づきながらも、襲いくる予兆を一切見せなかった。



『……やっぱり、ここでも同じなんだ』



 格上には手を出さない。

 ゲームと同じように見えるその法則は、この「現実」においても揺るぎないものであることを、彼らの静かな反応が証明していた。


 姿形だけでなく、その振る舞いまでもが、私の知る「彼ら」のままだった。


 何にせよ歩みは順調であり、ついに視線の先に王都の城門――その一部が見えてきた。



『やっとついた……!』



 思わずそう呟き、自然と速くなりかけた足取りにすぐ気がついて自制する。



『あぶないあぶない、落ち着け私』



 ちなみに一人称の「私」は、今は亡き父を見て育った結果、自然と身についたものである。


 常に穏やかで微笑みを絶やさない人だった父は、家内でも泰然とした様子で自らのことを「私」と呼ぶ人だった。その余裕のある態度に憧れ、子供の頃から真似していた結果、「私」の一人称が固定され今に至るというわけだ。


『アビスゲートオンライン』では一人称とアバターのせいで女性に間違われることも多かったが、間違われたところで何かあるわけでもないので、大した問題ではなかった。


 ――とはいえ、今の自分の性別はどちらなのだろうか。体が『葉月』なのは間違いなく、精神は『陽希』のものなので男とも言えるかもしれない。なんとも微妙な所ではあるが。


 ……やや暫く考え込んでみたが、結局のところ別にどちらでもいいか、という結論に達した。


 両親の死後、自身にとっての人生とは『アビスゲートオンライン』であり、それが全てだった。ログインしていない時間はほぼ食事をしているか眠っているかの二択であり、もはや現実での性別などどうでも良くなっていた。


 そして、『アビスゲートオンライン』における性別差でのステータス上昇値に違いはない。現状のステータスを見るに、それはここでも変わらないだろう。であれば、この世界においても性別など些末なことだ。


 その世間とはだいぶズレた感性により自らの中で答えを出すと、改めて城門に視線を送る。周囲に生える木々のお陰で全体像は見えないが、城門までの距離は確実に近づいていた。


 そうして城門まで百メートルほどの距離まで来たところで、ランニングをやめて通常の歩行に切り替える。


 城下に入る際の手続きなどはなかったが、それはゲームでのことである。小走りで城門に向えば衛兵に「何を急いでいるのか」と声をかけられるかもしれないと思い、走るのを止めたのだ。


 呼び止められても何ということもないのだが、少しでも早く城下に入りたいという思いがあり、無駄に時間を浪費するようなことは避けたかった。加えて万が一にも変に絡まれた時に、相手を肉片にしない自信がなかった。むしろ、理由としてはそちらが殆どだ。


 フーッと息を吐き、なるべく自然に衛兵の前を通過する。そうして門の中に入ろうとした瞬間、不意に呼び止められた。



「お嬢さん、ちょっといいかな」



 四十代ほどの人の良さそうな男の衛兵が声をかけてきた。ドキッとしながらも別段後ろめたいこともないため、鷹揚に『なんでしょうか?』と返事をする。



「いやぁ、見たところ服がボロボロみたいだから、怪我でもしてないかと思って声をかけたんだが……」



 言われて改めて自身の衣服に視線を向けると、大羊にやられてボロになっていた所に音の壁を超えた影響が重なり、文字通りボロボロになっていた。



『服はちょっとモンスターと戦った時に……あ、でも、怪我とかはないので大丈夫ですよ!』



両手を広げながら、自身の無事をアピールする葉月



「そうか、それなら良かった。呼び止めてしまって済まなかったね」



『いえ、心配していただいてありがとうございます。お仕事頑張ってください』



 そう愛想よく衛兵に述べ、改めて城門の中に入る。人間ではなくモンスターを想定して作られた城門は三メートルほどの厚さを誇り、その分厚い城門を抜けると同時に、視界に入った光景に思わず声が零れた。



『うわぁ……!』



 ドミネス高原からここに至るまでの道程で見受けてきた風景も『アビスゲートオンライン』と瓜二つであり、そんな世界に生身の体でいられることに感動していたのは事実だ。


 しかし、今目の前に広がる光景はそれとはまた一線を画したものである。『アビスゲートオンライン』が現実になったとしか思えない世界の中で、人々が行き交い、生活を営んでいる。その事実に、思わず涙が零れそうになるほどだった。


『アビスゲートオンライン』内のNPCは自己学習型AIでプログラミングされており、一見本物の人間の様に見える。それでもやはりAIはAI、どこまで行っても本物の人間とは違う部分が見受けられた。だが先ほどの衛兵然り、今目の前にいる人々の動きや表情は、確かに血の通った人間のそれだ。


(やっぱり、異世界的なナニカなのかな……)


 数時間前に思い浮かべた、空想の類としか思えない仮説がいよいよ現実味を帯びてきたが、ここで立ち止まっていても仕方がないと切り替え、歩を進める。


 向かう先は住宅街。とはいえ、普通の住宅街ではない。


 プレイヤーが冒険の拠点を置く、特殊な結界に遮られた区間だ。


 魔法により空間が拡張されているという設定で作られており、ホームとして登録しているプレイヤーの数だけ住居が構えられている。


 そして、『アビスゲートオンライン』における自身の家も、ここにあったのだ。


 ここがどこまで『アビスゲートオンライン』と似た世界なのかはわからない。だが、ゲームの世界と同じように存在し、それが自分専用の物であれば、ここがどういった場所なのかを考えるヒントになると考えたからだ。


 それ以外にも、自宅へ向かう理由はあと二つあるが……全ては家に辿り着いてからだと、歩くことに集中する。


 ボロボロの服を着ているからか、時折すれ違った人からの視線を感じるが、敢えてその視線を無視して先を急ぐ。神経を擦り減らしながらも大通りを歩き、途中で住宅街へ抜ける裏道に入る。


 一気に人通りが減り、ほっと息をつきながらも歩みは止めず進み続ける。


 十分ほど歩いた先に、小さな噴水のある広場が見えてきた。この広場を抜けた先が、冒険者用の住宅街だ。



『あっておくれよ、マイハウス…』



 冒険者……ゲーム的に言えば、プレイヤーには一人ひとり家が分け与えられている。


 とはいえ、最初に与えられる家は立派な一軒家のようなものではなく、プレハブのような小さな空間である。そこからいくつかの条件を満たすことによって、自分の家のグレードを上げることが可能になるのだ。


 さて、自分の家はどうだったかというと、勿論ゲーム内で実装されている最大級の家に住んで……はいなかった。グレードは上げてあるのだが、上げた後でも住む家のサイズは自分で決められるので、小さめの家にしていた。


 あんまり家が大きくても管理が大変だし落ち着かない。理由は、ただそれだけのことだった。


 とはいえ、自宅の内に工房を併設していたので、そちらの方は十分な広さを確保していたが。


 そうして広場を抜け、さらに数分歩いた先に一軒の家屋が見えてきた。



『あ、あれ……間違いない!』



 はやる気持ちを抑えきれず、小走りに建物に近づいていく。



『私の家だ……』



 そこにあったのは、見紛うことなく自身が活動の拠点としていた、ゲーム時代の家と全く同じ建物であった。


 玄関の前に立ち、どうすべきか少し逡巡しながらも、意を決して扉をノックしてみる。


 一回、二回とノックするも返事はなく、三回目のノックをした所で屋内から返事が聞こえた。



「はぁい、今開けますよぉ!」



 間延びしたような、少し幼さを感じさせる元気な声が響いてきた。


 ひどく懐かしいような、それでいてよく聞き覚えのある声。


 自身の胸がドクドクと鳴るのを感じながら、扉が開かれるのを待つ。



「お待たせしましたぁ、どちら様ですかぁー」



 そう言いながら、勢いよく扉が開かれる。そこから出てきたのは、銀髪と長い耳、抜群のプロポーションに少し不釣り合いな幼顔が特徴の少女だった。



「え、ウソっ!ご、ご主人様……本当に?!」



 大きく目を見開いた少女に向かって、なんと言おうか迷うが、何はともあれと思い一言を絞り出す。



『えっと……ただいま?』


 そう一言返すと、目の前の少女は目に涙を浮かべながら、私の胸に飛び込んできた。


「どこに行ってたんですかぁ……ずっと、ずっと心配してたんですよぉ……十五年も留守番させるなんてヒドイですぅ」


『ご、ごめん、って……じ、十五年!?』


 再会と共に目の前の少女から発せられた言葉。


 その言葉は、今日幾度目か分からぬ大きな衝撃を受葉月に与えることとなった。

この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。

本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら


・ブックマークへの追加

・画面下の「☆☆☆☆☆」からポイント評価等をして応援して頂けますと作者の励みになります。


何卒宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。