適材適所
35話で漸く冒険に出かける話が出るとか、どんな作品だよ……!
良いんです。メインは3人のイチャイチャなのです。
白煙が少しずつ風に流されていく。
「……ルナ?」
ぽかんとしていたマリーの声にハッとし、私は小さく息を吐き出して我に返った。
私の様子を窺うように首を傾げるマリーへ、私はゆっくりとしゃがみ込み、その小さな両肩に手を置いた。そして、努めて真剣な表情を作る。
(……これは、とんでもない武器になる。でも、今のマリーが扱うにはあまりにも危う過ぎる)
「マリー。今のは……すっごく上手に出来たね。本当にびっくりしたよ」
「本当?」
パァッと花が咲いたように笑うマリー。だが、私は静かに首を横に振る。
「うん。でもね、だからこそ、絶対に約束してほしいことがあるんだ」
「やくそく……?」
「マリーの魔法は、凄く強いから……絶対に、人に向けて撃っちゃ駄目。お友達や、街の人……誰かを傷つけちゃうかもしれないからね」
私の声のトーンからそれが大切なことだと悟ったのか、マリーは真顔になり、こくりと力強く頷いた。
「わかった。私、人には絶対に魔法を撃たないよ!」
「うん、マリーはいい子だね」
(……お金や噴水のような人間の文化は知らなくても、『友達』という言葉はちゃんと通じる。記憶喪失とはいえ、元の生活に馴染みがあった概念はちゃんと残っているみたいだ)
私は安堵の息を漏らし、マリーの頭を優しく撫でた。
ひとまず、最悪の事態は防げるだろう。制御の練習や魔法の手ほどきは、追々やっていくしかない。
その時だった。
チロリン、と。来客を告げるチャイムの澄んだ音が、家の中に響き渡った。
「……はーい。ただいま向かいますぅ」
ミアがいつもの穏やかな口調に戻り、エプロンを整えながら玄関へと向かっていく。
私とマリーも手早く庭から上がり、リビングへと戻った。
程なくして、ミアに案内されてリビングに入ってきたのは、ギルドの制服に身を包んだ若い男の職員だった。
「本日はお休みのところ、突然の訪問を失礼いたします。ルナ様ですね」
「はい。……もしかして、午前中に保留になっていた登録の手続きですか?」
「左様でございます」
職員は恭しく一礼すると、一枚の羊皮紙と、真新しいギルドカードをテーブルの上に置いた。
「特例登録の結果、ルナ様の初期ランクは『Dランク』として受理されました」
「Dランク……」
私はカードを受け取り、そこに刻まれた文字を指でなぞる。
通常、ギルドに登録したばかりの新人冒険者は、一番下のGランクからスタートするのが基本らしい。いきなり中堅の入り口であるDランクから始まるというのは、破格の待遇と言える。
「……ルナ様は来年の外界調査に向けて、一年でAランクへの昇格をご希望されていると、副ギルドマスターから伺っております。相違ないでしょうか?」
「はい、その通りです」
「分かりました……。本来、通常の依頼をこなすだけで一年でAランクに到達することは困難です。ですので……」
職員は、もう一枚の分厚い封筒を差し出してきた。
「副ギルドマスターからの、特別な指名依頼です。この依頼の達成度合いが、今後のルナ様の昇格査定に大きく影響することになります」
私は封筒を受け取り、その重みを手の中で確かめた。
「……これをこなせば、Aランクへの道が開けるんですね」
「はい。ただし、非常に危険度の高い内容も含まれております。受諾されるかどうかは、ルナ様のご意志にお任せいたしますが……」
「――受けます。どんな依頼であれ、私に否やはありません」
一切の迷いなく私が答えると、職員は深く頷き、敬意を込めた眼差しで私を見た。
「承知いたしました。詳細はそちらの封筒に記載されております。武運を祈っております、ルナ様」
職員が帰り、リビングには再び穏やかな静寂が戻ってきた。
ミアが淹れ直してくれた温かい紅茶の香りが漂う中、私はテーブルの上に封筒を置いた。
ペーパーナイフで封を切って中身を取り出すと、そこには一枚だけでなく、十数枚の羊皮紙が束になって入っていた。
「あら? 依頼書がこんなに沢山あるんですねぇ」
横から覗き込んできたミアが、不思議そうに小首を傾げる。
私もそれに同意しつつ、パラパラと書類に目を通した。
「……カッツェの計らいだね」
「副ギルドマスターの、ですかぁ?」
「うん。いくつか候補を提示して『自分で選べ』ってことみたい。どれを選ぶかで、私の能力や判断力を測るつもりなのかもね」
何度かギルドで相対したカッツェという人物の印象を鑑みるに、恐らく私の読みは当たっているだろう。
私は紅茶を一口含み、心を落ち着かせてから改めて依頼書を一枚ずつ検分していった。
特定の魔物の討伐、危険地帯での素材採取、既存のダンジョンの深層調査……。
どれもが本来冒険者になりたてのルーキーに回ってくるような内容ではない。一年でAランクという特例ルートに乗るための特別査定というのも頷ける。
だが、私にとっては「見覚えがある」ものばかりだった。
(このモンスターは弱点が水属性で、行動パターンは3つ。レベル102の私のステータスでも、被弾をゼロに抑えて3分で完封できる……こっちのダンジョンは地形効果で毒になるから、事前に二人の分の解毒薬と耐性装備を用意すれば余裕……)
誰よりもAGOをやり込み、愛した記憶。
私の頭の中には、既存の魔物やエリアに対する攻略法が概ね刻まれている。だからこそ、依頼書を見るだけで「AGOとの変化さえなければ安全にクリアできる」という結果が透けて見えた。
「査定のポイント『だけ』欲しいなら、候補は幾らでもあるけど……」
これから私たちが挑もうとしているのは、完全に未知の領域である『外界』。
既存の知識で安全に完封できる場所で満足していては、いつか必ず来る「知識の通用しないイレギュラー」に対応できなくなる。
「……ポイント稼ぎは、後半に回してもいいか。レベルの制限が今より解除されれば、加速度的に依頼はこなせるだろうし」
私は、自分の知識の外にある「未知」を探し、視線で文字を追っていく。
すると、一番最後に束ねられていた書類に記載された内容に、ふと視線が止まった。
「……これ、いいかも」
私が思わずそう呟くと、ミアとマリーが同時にこちらへ顔を向けた。
「どんな依頼ですかぁ?」
「うん。ドミネス高原の更に先にある、渓谷の奥で見つかった、『未踏破の小規模ダンジョン』の初期調査」
「みとうは……?」
マリーが私の袖を引きながら、首をこてんと傾げる。
「まだ誰も中に入って調べたことがない場所ってことだよ。カッツェの話では沢山あるらしいけど……どうやら、その中の一つみたいだね」
AGO時代のデータには存在しない、完全なる未知の領域。
そこなら、私の知識による『先読み』は通用しない。制限された力の中で、どこまでアドリブで適応できるかを測るには、最高の試金石になるはずだ。
「でも、誰も入ったことがないってことは、どんな危険があるか分からないんですよねぇ……?」
「だからこそ、意味があるんだよ。これから挑むのは『未知の外界』だからね。……それに対応できるようになるための、第一歩ってところかな」
「……流石ご主人様、そこまで考えていたんですねぇ」
私の言葉に、ミアは得心がいったと言わんばかりに大きく頷く。
「それに今回はあくまで『初期調査』だから、無理に奥まで進む必要はないんだ。入り口も、この場所なら安全にキャンプを設営出来るだろうし……。私が一人で少しずつ中の安全を確保しながら進む形にすれば、外で待つミア達が危険に巻き込まれることはないよ」
「そうですねぇ……戦闘に関しては、私は足手まといですから」
「そこはほら、役割分担だよ」
「……分かりましたぁ。拠点作りとご飯の準備は私にお任せくださいねぇ。ダンジョンの攻略は、ご主人様なら大丈夫ですよね!」
「……だから、今回は調査だけだよ」
ミアの言葉に苦笑しながら返答するが、私の事を信頼しきっているミアは、ニコニコと頷いている。
「あら、そうでしたねぇ」
「私も、ミアと一緒にお留守番してるね!」
「ふふっ、お願いするね。……じゃあ、明日から少し忙しくなるよ。街で遠征用のアイテムを揃えたり、準備しなきゃいけないからね」
元気いっぱいに両手を挙げるマリーの頭を優しく撫でながら、私は手元の依頼書に視線を落とした。
未知のダンジョンへの遠征。
これが、私とミア、そしてマリーの三人で踏み出す、本当の意味での最初の冒険になる。
この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。
本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら
・ブックマークへの追加
・画面下の「☆☆☆☆☆」からポイント評価等をして応援して頂けますと作者の励みになります。
何卒宜しくお願い致します!




