表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の娘:現在休止中  作者: かおもじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
34/35

ちいさなともしび

 昼食とマリーのお昼寝を挟んだ、午後の時間。

 私は自宅の広い裏庭に出て、この身体を使いこなすための訓練を行っていた。



 ドォォォォンッ!!



 空気を劈くような破裂音が響き、衝撃波が庭の木々を激しく揺らす。

 私の目の前にあるのは、AGO時代から設置されている『絶対に壊れない仕様』の案山子だ。それに向け、私は一切の手加減をせずに拳や蹴り、そして魔法を次々と叩き込んでいた。


 もちろん、そのまま全力で暴れれば自宅の庭どころか街の一部が吹き飛んでしまう。だが、この庭には案山子と同様、AGO時代から備え付けられている『破壊不可の結界』が展開されているため、外に被害が及ぶことは絶対にない。


 とはいえ……結界内で荒れ狂う力の奔流は、視覚的にも聴覚的にも十分すぎるほどの迫力を伴っていた。



「……すごぉい……」



 縁側に腰掛けたミアの胸元に抱かれるようにして見学していたマリーが、目を丸くして感嘆の声を漏らしている。怯える様子はなく、純粋な驚きと、どこか憧れを孕んだ眼差しだ。


 私は小さく息を吸い込み、魔力を練り上げる。

 仕上げとばかりに放ったのは、氷属性を纏わせた裂帛の一撃。


 ――『氷葬散華脚』。


 鋭い踏み込みと共に放たれた蹴りが、案山子に深々と突き刺さる。

 その瞬間、案山子の表面から爆発的に極低温の冷気が吹き荒れ、一瞬にして巨大な氷塊へと変えた。さらに余波の冷気は止まらず、案山子の背後から庭の結界の壁際まで、太い氷の道が一直線に走り抜ける。


 直後。

 パキィィィィンッ!


 甲高い硬質な音と共に、案山子を包んでいた氷塊と氷の道が一斉に砕け散った。

 細かく砕けた氷の結晶がキラキラと光を乱反射させ、まるで春の庭に舞い散るダイヤモンドダストのように、幻想的な情景を描き出す。



 ふぅ、と。

 一通り身体を動かし終えた私は、小さく息を吐いて構えを解いた。



「よし、こんなものかな」



 感覚のズレはない。現状での力は完全に制御できている。



「さすがご主人様ですぅ。相変わらず、無駄のない素晴らしい身のこなしですねぇ」



 パチパチと控えめな拍手を送りながら、ミアが優しく微笑みかけてくる。



「ありがとう、ミア」



 私は短く応え、首元にある八芒星のペンダントに手を伸ばした。真ん中に埋め込まれた宇宙を思わせる宝石を指で押さえ、周囲の八芒星の装飾を右回りになぞる。


 ――カチリ。


 小さな、けれど確かな手応えと共に、装飾が一周動く。

 それと同時に、私を縛っていた見えない枷がほんの僅かだけ緩んだ感覚があった。これで、制限が『1』解除されたことになる。


 私は空中に指を滑らせ、半透明のウィンドウを呼び出した。

 見慣れたメインメニューの中から『ステータス』を選択し、現在の自分の数値を視線でなぞる。



 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓


 CHARACTER DATA


 ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛


 NAME: 月ルナ


 TITLE : 英雄の娘


 MAIN LV: 1 / SUB LV: 101


 TOTAL LV: 102


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 HP: 1025 / 1025


 MP: 1025 / 1025


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 STR: 112 DEX: 110


 VIT: 103 AGI: 109


 INT: 107 MND: 106


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 ……ギルドでは、端数を切り捨ててレベル100と言っていたが、正確なトータルレベルは101。それが今新たに1解放されたことで、102となった。それに合わせてステータスの数値も、先程より僅かに上昇している。


 ウィンドウを閉じ、私はその場で軽くシャドーボクシングのように拳を振ってみる。



「……うーん」



 シュッ、シュッ、と風を切る音は鋭い。だが、レベル101が102になったところで、体感としての違いは全くと言っていいほど分からなかった。

 それでも、違いが分からない程度しか変わらないというのは、逆に言えば制御の訓練をする上で非常に身体を慣らしやすいということだ。毎日確実に上限を解放し、焦らずこの僅かな変化を自分のものにしていけばいい。



「ルナ、おつかれさまっ!」



 縁側からパタパタと駆け寄ってきたマリーが、私の腰にぎゅっと抱きついた。



「ありがとう、マリー。退屈じゃなかった?」



「うんっ! ルナ、すっごくかっこよかった! どかーんって、きらきらってしてた!」



「ふふっ、ありがとう。かっこよかったなら、頑張った甲斐があったな」



 身振り手振りを交えて興奮気味に語るマリーを見下ろし、私は優しくその頭を撫でる。

 そしてふと、あることを思いついた。


 これからの旅路。もちろん私が全力で守るが、マリー自身にも自分の身を守るための最低限の術はあった方がいい。


 ……それに、彼女はエルフだ。

 『エルフ』はミア達『エルフィン』とは似て非なる種族であり、外界にあるという『世界樹の加護』を受けている……らしい。

 ――AGO時代、設定の隅っこに書かれていただけの知識ではあるが……ファンタジーの王道として魔法の適性が低いはずがないのだ。



「ねえ、マリー。マリーも魔法の練習、してみる?」



「まほう……?」



「そう。私のやった『どかーん』の、うんと小さいやつ。やってみる?」



「やるっ! マリーも、まほうやりたい!」



 目を輝かせて頷くマリーの頭を撫で、私は一度家の中へと戻り、書斎の本棚から一冊の古い本を取り出してきた。

 それは、AGOでゲームを開始した直後、プレイヤーが初期魔法を覚えるために必ず読むことになるチュートリアル用の魔導書だ。


(インベントリとかじゃなく、家に備え付けのアイテムで良かった……)


 現実の世界となった今でも、この本がただのデータではなく『読める本』としてそのまま残っていたことに安堵する。



「マリー、字は……読めないよね?」



「うん……よめない」



「じゃあ、私が読んであげるから、その通りに頭の中でイメージして、言葉を口に出してみて」



 私はマリーの隣にしゃがみ込み、魔導書のページを開いた。

 教えるのは、本当に基礎中の基礎。初期魔法である最下級の雷魔法だ。威力は低く、細い一本の雷が目標に向かって届く程度の、初心者向けの魔法である。



「魔法っていうのはね、魔力を使って放つんだ。今マリーが付けてるイヤーカフに魔力を通すのと、基本は一緒だよ」



「ん……魔力は朝におしえてもらったからわかるよ。おなかの中でぐるぐるしてる」



「ちゃんと覚えてて、マリーは偉いね。……本当は呪文を言わなくても、頭の中のイメージだけで使えるものなんだ。でも、最初は難しいから、呪文の言葉を声に出すことで、魔法の形を引っ張り出す手伝いをするんだよ」



 マリーの頭を撫でながら、私は魔法についての解説を行う。



「いめーじ……」



「一度イメージを掴んじゃえば次からは呪文は要らないし、頭の中の想像が鮮明であればあるほど、魔法の威力は強くなる」



「あたまの中で……」



「まずは私と一緒にやってみよう。両手を前に出して……そう。そして、その指先に、小さな光が集まって弾けるのを想像して。……『雷精よ、我が指先に小さな灯火を』」



 私が読み聞かせる言葉に合わせ、マリーは真剣な表情で案山子へと両手を突き出し、目をぎゅっと瞑った。



「『らいせいよ、わがゆびさきに、ちいさなともしびを』……!」



 マリーが舌足らずな声で詠唱を終えた、次の瞬間。


 ――チリッ、と。

 大気が微かに鳴動し、マリーの小さな両手の間に、尋常ではない密度の魔力が一瞬にして凝縮される。空間が歪むような青白いスパークが弾けたかと思うと。



 ドバァァァァァッシュゥゥゥゥンッ!!!!



「えっ!?」


「ひゃあっ!?」



 私とミアの短い悲鳴すら、空気を焼き焦がす轟音に掻き消された。

 放たれた極太の、青白い雷光の奔流が凄まじい推進力で迸り、一直線に案山子へと殺到する。

 激しい雷撃を浴びた案山子の背後で、破壊不可の結界が、悲鳴を上げるように激しく明滅した。


 バチバチバチバチッ!!


 行き場を失った雷の余波が結界の内部で荒れ狂い、暴風のような衝撃波が渦を巻く。結界内の芝生が一瞬にして黒焦げになり、もうもうと白煙が立ち昇った。

 やがて網膜を焼くような閃光が収まると、濃密なオゾンの焦げた匂いが鼻腔を突く。



「……えぇっ?」



 マリー自身も何が起きたのか分かっていないのか、ぽかんと口を開けて自分の手のひらと、黒焦げになり白煙を上げる結界内を交互に見比べている。



「……嘘でしょ」



「ま、マリーちゃん……今のは……?」



 普段はのんびりとしているミアも、目を白黒させて驚愕の声を漏らしていた。

 無理もない。放たれたのは間違いなく最下級の魔法だ。魔力構成も術式も初期のものと何ら変わらない。

 だというのに、あの規格外の破壊力。

 私の全力の訓練すら完全に封じ込めていた結界が、一瞬とはいえはっきりと明滅して揺らいだのだ。


(『世界樹の加護』って……こんなにデタラメなの……?)


 設定の隅にあった言葉が、現実世界においてこれほどの恩恵をもたらすとは思いもしなかった。


 底知れないエルフのポテンシャルを目の当たりにし、私は僅かに引き攣る頬を抑えながら、マリーの小さな背中を見つめることしかできなかった。


この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。

本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら


・ブックマークへの追加

・画面下の「☆☆☆☆☆」からポイント評価等をして応援して頂けますと作者の励みになります。


何卒宜しくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ