うそとまこと
「さて……どうして二人は私のベッドにいたのかな?」
着替えを済ませ、朝食を囲みながらそう二人を問いただすと、ミアはいつもののんびりとした口調で、実にあっさりと白状した。
「お部屋に戻って寝ていたらいつの間にかマリーちゃんがベッドに居なくってぇ……もしかしたらと思って、ご主人様のお部屋に行ったらマリーちゃんがもう寝てたんですぅ」
ミアの説明を聞いた私はマリーに視線を移すが、当のマリーは不思議そうにきょとんとしているだけだった。何かおかしなことでもあったのだろうか、とでも言いたげな無垢な瞳で私を見上げている。
「……目が覚めたから、ルナの側でも寝たかった……」
私の服の裾をきゅっと握りしめながら、ぽつりと素直な気持ちを口にするマリー。
その真っ直ぐな言葉に、私はちょっとだけ困り顔をしながらも、優しく頭を撫でる。
幼いマリーは仕方ないとして、まだもう一人、問い詰めなければならない相手が残っている。私はぐぎぎと視線の矛先をミアへと向けた。
「マリーの理由は分かったよ。じゃあ、どうしてミアもそこにいたのかな?」
「それはですねぇ、添い寝してるマリーちゃんを見てたらぁ……なんだか凄く羨ましくなっちゃいましてぇ、私も一緒に寝ちゃいましたぁ」
悪びれもせず、むしろ嬉しそうにふわりと微笑むミア。
「……まったく」
思わず額を押さえて呆れ声を漏らしてしまう。口ではそう言いつつも、もちろん本気で怒っているわけではない。
寧ろ……シチュエーションだけで考えれば役得という他ないはずだ。
セミダブルのベッドに三人。
銀髪でスタイル抜群のエルフっぽい美少女と、金髪真正エルフ美幼女にサンドイッチされているという、あの身動きの取れない状況。
世の人々に伝え聞かせたならば、血の涙を流しながら羨まけしからんという声が聞こえてきそうではあるが……残念ながら今は自分も女子であるため、ハーレム展開とは相成るまい。
私は気を取り直すように小さく咳払いをすると、二人に視線を戻した。
「とりあえず、夜はちゃんと自分のお部屋で寝てくださいね」
「一緒がいいのに……」
「善処しますぅ」
ミアが今日一番の笑顔でそう返すが、その表情とは裏腹に真実味のない言葉を返す。
「それは、約束を守る気のない人がする返事だよ……」
……まさか寝る度にこの攻防を繰り広げることになるのだろうか?
そんな少し先の未来への懸念が頭をよぎったが、私は手元にある小箱へ視線を落とし、意識的に話題を切り替えることにした。
「あ、マリー。これを渡しておくね」
昨日、お風呂の前に工房で作っておいたイヤーカフだ。私は箱からその小さな銀の細工を取り出すと、マリーへと手渡した。
「ルナ、これなぁに?」
手のひらに乗せられた銀の細工をまじまじと見つめながら、マリーが不思議そうに首を傾げる。
「そっか、わかんないよね。……イヤーカフって言ってね、こうやって耳に挟んで着けるんだ。それで、これに少しだけ魔力を流すんだけど……」
「……魔力……?」
私はマリーの小さな耳にアクセサリーを着けてあげながら、言葉を区切る。
記憶を失っているマリーに、いきなり「魔力」と言ってもピンとこないだろう。案の定、その顔にはクエスチョンマークが浮かんでいる。
「魔力っていうのはね、皆の体の中に流れているものなんだ。それには不思議な力があるんだよ」
「からだの、なか……?」
「そう。目を閉じて、自分の身体に意識を集中させると、不思議な感じがしない?」
「……なんか、変な感じ……あったかいような、つめたいような……」
「それが魔力だよ。その感じ取ったものを、耳の飾りに流し込むイメージ。……やってごらん」
「んん……こう、かな……?」
マリーがぎゅっと目を瞑りながら念じると、耳元のイヤーカフが僅かに光を帯びる。
すると、さらりとした金糸の髪が、エルフィンの様な美しい銀髪へと変化していった。
「わぁ……色が、変わった……」
自分の髪の毛を指ですくい上げ、目をぱちくりとさせているマリーを見て、私はようやく一息ついた。
イヤーカフの効果はシンプル。装備者の髪の色を変化させるという簡易なユニークアイテムだ。
アビスゲートオンラインでは一度作成したキャラクターの外見を変えることは不可能なため、せめて髪色だけでもと作られたのがこのイヤーカフである。それ故、他に特別な効果は一切ない。
「うん、似合ってるよ。これで街を歩いても安心だね」
「ありがとう、ルナ。ミアとお揃いだね!」
「うふふ、そうですねぇ」
嬉しそうに何度も自分の銀髪に触れているマリーの様子に笑みをこぼしながら、私たちは再び箸を動かし、ミアが用意してくれた朝食を綺麗に平らげた。
「ごちそうさまでした。今日も美味しかったよ、ミア」
「お粗末様でしたぁ。そういえばご主人様、今日のご予定はぁ?」
「そうだね……何はともあれ、冒険者ギルドに行かないと。……結局、冒険者登録も出来てないし」
「ああ、そうですよねぇ。登録しに行ったのに何故か登録せずに依頼だけ受けて来て、依頼をこなしに行ったと思ったら何故かマリーちゃんを連れて帰ってきて、結局登録が終わってないですもんねぇ」
「事実を羅列して攻撃しないで下さい……」
痛いところをチクチクと突き、ダメージを受ける私を見てミアがクスクスと笑う。
そんな私たちのやり取りを見ていたマリーが、不思議そうに首を傾げた。
「ルナ、どこかおでかけするの?」
「あぁ、うん。昨日の帰りに寄った建物だよ。あそこに用事があるんだ」
「……あのお化けみたいなお家……?」
「……まあ、強ち間違ってはいないね」
極彩色のモンスターの口を模したギルドの外観を思い出し、私は思わず苦笑してしまう。
「気を取り直して、お出かけの準備しようか」
「うん、ルナとなら大丈夫!」
元気よく頷くマリーを伴って自室へと戻り、街へ出るための上着を羽織る。冒険に行くわけではないのでサーコートは鞄の中で眠らせたままだ。
そうしてマリーの衣服の乱れも整えてあげてから、二人で玄関へと向かい、それぞれの靴を履いた。
出かける準備をしっかりと整えた私たちを、ミアが見送りに来る。
「それじゃ、行ってくるね」
「いってらっしゃいませぇ。マリーちゃんも、気を付けるんですよぉ。……お昼迄には帰ってきてくださいねぇ」
「うん、行ってくる!」
その元気いっぱいな声に導かれ、手を繋ぎながら街へと足を踏み出す。
昨日のような騒がしい一日にならないことを心の中で切に願いながら、私とマリーは揃ってギルドへと向かうのだった。
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