表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の娘  作者: かおもじ
22/24

戸惑いは夕暮れの中に

 解体所から出た後にレニィに案内されたのは、午前中に訪れたのと同じ部屋の前であった。どうやらここがカッツェに割り当てられた執務室の様だ。


 扉の前に立ったレニィがノックと同時に「ルナ様をお連れしました」と部屋の中の人物に声を掛ける。すると一拍と間を置かずに「どうぞ」との返答が聞こえレニィは扉を開く。


 レニィに先導される形で中に入ると、立ったままコチラを出迎えていたカッツェと視線が交わる。その瞳には問題が解決した事に対する安堵の色が浮かんでおり、まずは着席をと促される。


 特段拒否する理由も無い為ルナが革張りの高級そうなソファーにその腰を沈めると、静かにレニィが部屋から退室していった。


「まずは無事の帰還を喜ばせて頂きます。そして依頼の達成、本当にありがとうございました。これで街道の封鎖も解除する事が出来ます」


 ルナがソファー座ると同時にカッツェは腰を折り、コチラに頭を下げながらそう告げてきた。


「いえ、元はといえば私が雌のナイトメアシープを倒してしまったのが原因かもしれませんし…」


 その言葉の通り、自分が雌のナイトメアシープを倒したのが事の発端であり、責任の一端は自分にもあるとも考えていた。しかしそんなルナの言葉に対してカッツェは首を振りながら答える。


「冒険者がモンスターを倒すのは当然の事です。それにお話しではナイトメアシープの方からルナ様に襲い掛かって来たとか…であれば尚更気に病む事は無いでしょう。───むしろルナ様ではない他の誰かが最初に襲われていた場合、最悪死者が出ていたかもしれません。ですので今回の事はルナ様が被害を未然に防いだと考えるべきかと」


「…そうですね、そう言って貰えると助かります」


「こちらとしてはルナ様には感謝しか御座いません。ですから胸を張って依頼達成を誇って頂きたい。───ともあれ、無事依頼を果たされのですからまずは報酬のお話を…」


 そうして話題が報酬の事に移りかけた所で、ルナがその流れを遮る。


「あ、それはまた今度で良いですか?解体したナイトメアシープの素材も買い取って貰いたいし、全部纏めての方が手間が受け取りに来る手間も掛からないので。それよりも先に話したい事があるんですけど…」


 ルビーを売ったお金がまだ残っているし、登録に関しても別に急いではいない。それよりも今はマリーの事を話してしまいたい。


「そうですか…分かりました。では報酬諸々のお話は日を改めてという事に致しましょう。───それで、何か問題が起きたとの事でしたが…一体どの様な?」


「えっと、じゃあ順を追って…まず午前中に依頼を受けて、昼にはドミネス高原でナイトメアシープの討伐を終えました。それで討伐をした場所というのが深王樹の近くだったので、折角だから一目見てから帰ろうと思ったんですけど…その途中で怪しい亜人の集団に遭遇したんです」


「亜人の集団…ですか。この辺りで亜人が集団で行動しているというのは確かに珍しいかもしれませんが…その集団が何か?」


 亜人の集団という予想だにしない言葉が飛び出し、思わず困惑の表情を浮かべるカッツェ。


「ええ、最初に見かけた亜人が何かを必死に探している様子で、それが気になって追いかけてみたんです。そしたらその先にこの子が居て…マリー、姿を見せて」


 ルナが促すとソファー横の一見何もない空間が揺らぎ始め、そこからマリーが徐々にその姿を現す。突如現れた少女に一瞬訝しげな顔を浮かべたカッツェであったが、マリーの顔を見たことでハッと息を吞む。


「尖った耳に金の髪…まさか…エルフですか?」


 常に落ち着き払った様子を崩さないという印象的のカッツェだが、今はその表情にハッキリと驚愕の色を映し出しており、信じられないといった様子で質問をぶつけて来る。


「恐らくは…エルフとエルフィンは祖を同じとする為にその姿はとてもよく似ていると伝承にあります。ですが世界樹から自ら離れたエルフィンはその加護を失い、その影響からか必ず銀髪で生まれます。対してエルフは加護の影響で必ず金髪で生まれるというのを書物で見た事が有ります…この子の特徴的に、エルフである事はほぼ間違いないかと」


 そう訳知り顔で話すルナであるが、今話した内容は『アビスゲートオンライン』の公式設定集に書かれていた事をそのまま口にしただけだ。


「そう…ですね、エルフィンが必ず銀髪で生まれるのは世界樹の加護を失ったからだとも、或いは世界樹の呪いではないかという言い伝えは私も聞いた事が有ります。───ああ、立たせたままで申し訳ない。どうぞお嬢さんもお座りください。ひとまず彼女がエルフだと仮定して、先程の話の続きを教えて頂いても宜しいですか?」


 かなりの衝撃を受けた様子のカッツェであったが、マリーを気遣うその様子から傍目には既に落ち着いた様に見える。


 その辺りは年の功だろうかはたまた副ギルドマスターと言う立場から来る経験からか…ともあれ望まれている以上話を続けるべきだろう。


「亜人はどうやらこの子…マリーを探しているようでした。そして捕まえたマリーを何処かに連れて行こうとしていた為、私が救助した…という流れです。亜人共が何故マリーを連れて行こうとしたのかまではわかりませんでしたが」


 亜人共は本国に送るとつもりだと言っていたが、今は取り合えず話を進めたいので割愛する。


「なるほど、どういう経緯かは分かりませんが亜人共はマリー嬢を探し連れ去ろうとしていたと。何やら嫌な予感がしますが…情報が少なすぎてなんともという所ですね。───しかし何故エルフが、しかも幼い子供が一体どうやってこの大陸に…?」


 どうやらカッツェとしては目的の見えない亜人共の行動よりも、エルフがこの大陸に渡って来た目的や手段の方が気になるようだ。


「それなんですけど…マリーは自分の名前以外何も覚えていなくて…なのでなぜ自分がここにいるのか、どうやって来たのかも分からないみたいです」


「記憶喪失ですか…それはまた…」


 期待していたのと全く違う答えに何とも言えない表情で言葉に詰まるカッツェ。マリーへの配慮もあってか、なんと言うべきか言葉に迷っているようだ。


 とはいえこちらとしてもミアとの約束の時間が迫っている。悠長に次の言葉を待つ余裕は無く本題に入らせて貰う。


「それでお話したかったのは、マリーに関してというか…今後の事なんです」


 その一言だけで得心がいった様子のカッツェ。


「なるほど…お伽噺にしか出て来ないエルフの子供ですからね、ルナ様が苦慮するのも無理からぬ話ですが…」


「あそこで出会ったのも何かの縁ですし今日は家まで連れて帰ろうと思うのんです。ただ、その後はどうしたら良いのか分からなくて…家族が居るのであれば探してあげたい所ではあるんですけど、マリーには記憶が無いので…」


「そう、ですね…記憶が無い以上何の手掛かりも無く、そもそも居るかどうかも分からない家族を探すというのは雲を掴む様な話です。よしんばマリー嬢に御家族が居たとして、それがこの大陸に居るとも限らないし…しかも人探しの為にエルフの存在を公にすれば誰に狙われるとも分からない。なるほど、これは難儀な問題ですね」


 察しの良いカッツェが今抱えている問題を言語化して並べてくれたのだが…改めて言葉にされた事でその困難さが浮き彫りとなり、ルナは何とも言えず押し黙る。


「正直、ギルドとしてもどうするのが一番良いのか判断に悩む所です。何せエルフ、神話に出て来る様な存在ですから軽々な事は言えませんが…とはいえ副ギルドマスターという立場上何の方向性も示さないという訳にも行かないでしょう。ですからこれはあくまで選択肢としてとらえて頂きたいのですが…」


 そう前置きをするカッツェの言葉に、ルナは首肯で答える。


「まず選択肢の一つとしては、冒険者ギルドが運営する施設でお預かりするというものです。冒険者ギルドが運営している施設ですから何かあっても直ぐに対応できますし、ある程度の自由も効かせる事が出来ます。勿論並行してご家族を探す事も可能ですが…その場合はマリー嬢の存在が露見する可能性が高いという事もご理解願いたいと思います」


「なるほど…」


 マリーの存在を公にするのは気が進まないが、それでもギルドが身を守ってくれた上で家族探しも行ってくれるというのは悪くない提案に思える。


「次にマリー嬢の事を国に報告し、その身柄の安全を確保して貰うというものです。外界の探索に注力しているこの時期ですし、エルフと言う存在が外界との国交において大きな意味合いを持つ可能性が有ると考えれば…或いは国賓の様に扱って貰えるかもしれません。更に身の安全と言う意味では冒険者ギルドよりも安全性は高いと言えますが…恐らくマリー嬢の自由というものは失われるでしょう」


 マリーの身の安全という点だけで言えば、確かに国に保護して貰うのが確実ではあるだろう。ただ、マリーに大きな不便を強いる可能性も在り、余り気乗りのしない選択ではある。


 さてどうしたものかと思案していると、隣に居るマリーがギュッと服の裾を握っている事に気が付いた。マリーも自身の今後が不安なのかと思い声を掛けようとするが、そこに割って入る形でカッツェが声を掛けて来る。


「そして私の思いつく最後の選択肢なのですが…」


 最後…前の二つ以外にもまだ何か選択肢が有るのだろうか?そう思いつつカッツェの提示する最後の案に意識を傾けるルナ。


「それはルナ様がマリー嬢の保護者になる…と言う方法です」


「私が…マリーの保護者…?」


 提示された最後の選択肢は予想だにしなかったものであり、唐突な提案にルナはオウム返しの様にそう呟く事しか出来なかった。

この度は私奴の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。


本作をお読み頂いた上で少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けましたなら


・ブックマークへの追加

・画面下の「☆☆☆☆☆」からポイント評価


等をして応援して頂けると、作者の力になり励みになります。


何卒宜しくお願い致します!オナシャス!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ