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英雄の娘  作者: かおもじ


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金色の君は

 大山羊カプラ・モルティスの亡骸を回収したルナは、真っ直ぐに踵を返し、そのまま帰路に……ついていなかった。



「さて、後は戻って報告するだけだけど……時間もあるし、アレでも見て帰ろうかな」



 ここドミネス高原には名物とも言える一つのシンボルがある。それは高原の中央に聳え立つ、巨木という言葉では全く足りない大きさを誇る、一本の大樹。名は『深王樹しんおうじゅ』と言う。


 かつて巨大なクリスタルが埋まっていた場所に生えた樹が、クリスタルのマナを吸収し、天に届く程にまで育った樹木だ。


 実を言えば、天を突くその威容は今いる場所からでも遠くに、ハッキリと見えてはいる。しかし、VRとは違うその迫力を、もっと近くで見てみたいと思った次第だ。



「帰るだけなら30分位だろうし……よし、ちょっと寄り道してこ」



 そうして次の目標を深王樹に定め、素早く走り出すルナ。走ること5分ほど、見る見る大きくなるその威容に、「だいぶ近くまで来たかな……」との思いを抱くが、地面に視線を落とすと深王樹までの距離はそれ程縮まっていない気がする。どうやら深王樹の余りの大きさに、錯覚を起こしているらしい。



「距離感バグり過ぎ……」



 誰に聞かせるでもなく、歩みを止めないままにそう呟いたルナだが、風を裂いて走る自分の音ではない、別の叫び声が遠くから聞こえてきた。


 その方向に目を向けると、衣服を纏った大柄な人間の身体に、狒々(ひひ)の頭がついた、人ともモンスターともつかない異形の集団が目に飛び込んでくる。



「アレは……亜人?」



 亜人とは体の一部がモンスターのような特徴を持っている種族の総称であり、一体一体が様々な特色を持っている。亜人と一括りで纏めているが、共通しているのは彼らが独自の言語を使用することと二足歩行なこと、そして魔神と呼ばれる神を信奉していること位だろう。


 彼らはこの大陸から少し南に離れた場所に在る島々で、魔人と呼ばれる種族と共に暮らしているが、侵攻と略奪を目的に海を渡って大陸に攻め入って来る。女神を信仰する人種と魔神を信仰する魔人・亜人が根本的に相容れる事はなく、そこに交渉の余地はない。故に人種から見た魔人や亜人はモンスターと同一の存在と捉えられている。


『アビスゲートオンライン』でも亜人は世界中至る所に存在していたが、あの様に集団で行動しているのは珍しい光景に思えた。


 そうして眺めているとその中の1体が何やら指示を出し、それに従うようにとある方向に向かって行くのが見えた……が、奇しくもその方向は自らの目的地である深王樹の方向だった。



「何だろう……まぁ、かち合って襲って来たら戦えば良いか」



 奴らの目的が何であれ、自身の目的地が深王樹である以上、行かないという選択肢は無い。


 かち合った結果危害を加えてくる様なら迎え撃てば良いし、関わって来なければ相手にしなければ良いだけだと自らの中で結論を出し、再び深王樹に向けて走り出すのだった。


 △▼△▼△▼△▼△▼△▼



「──よいしょっと、徒競走は私の勝ちかな」



 意図せず競争のような形になったが、どうやら先に深王樹に辿り着いたのはコチラのようである。



「それにしても……」



 邪魔の入らぬうちにと深王樹の近くまで足を運び、その姿を仰ぎ見ている訳だが……一体どれだけの高さが有るのか、どれだけ首を上に向けてもその頂上を見る事は叶わない。



「やっぱりデカすぎじゃない……?」



 地球上には決して存在し得ない巨大な樹木の姿に圧倒され、間の抜けた顔で暫し眺めていたが……後ろから先程と同じような、聞き慣れない言語が耳に飛び込んできた。



「っと、御一行様も到着したみたいだけど……さてさて、何が目的かな?」



 一旦深王樹の影に隠れその様子を伺っていると、亜人の集団は何かを探すような動きをしているのが分かる。どうやら深王樹そのものが目的だった訳ではなく、何かを探してコチラに向かっていたらしい。



「ん~……何を探してるのか……ちょっと聞かせて貰おうかな?」



 深王樹の下に辿り着くという当初の目的は達成したため、興味本位ではあるが少々盗み聞きさせて貰う事にした。



「こういう時は……このスキルで……!」



 そう言いながらルナは2つのスキルを並行して発動する。


 発動したスキルの名は『地獄耳』と『異種同音』。


『地獄耳』は文字通り遠くの音がハッキリと聞き取れるようになるスキルで、森の中やダンジョンでモンスターを探す時などに使用するのが本来の使い方だが……今のように相手に気付かれないまま会話を盗み聞きするのに使ったりも出来る。


 もう一つのスキル、『異種同音』は人種以外の言葉を人語に翻訳してくれるというものであり、コチラは本来魔物使いがモンスターを使役する時に使うスキルだが、モンスター判定の亜人にも有効である。


 そうして2つのスキルを発動し再び聞き耳を立てていると、今度はその内容がハッキリと理解出来た。



「おい! 本当にこの辺りに居たんだな!」



 その身なりから察するに、集団の中で一番位の高そうな狒々頭の亜人が怒鳴り散らす。



「間違いアリマセン、あの金髪に尖った耳はエルフの子供以外にアリエマセン」



 後ろに控えていた部下らしき亜人がそう答えるが、所々聴き取りにくい部分があった。片言なのは言葉を喋るのが苦手だからなのだろうか? それに今、エルフという単語が聞こえたような……聞き間違いかな?



「オイ、居たゾ! エルフのガキだ!」



 離れた場所からさらに違う亜人の叫び声が聞こえ、その中に含まれた単語から、先程の言葉は聞き間違いでは無いことを教えてくれた。



「エルフィンじゃなくてエルフ……? この大陸にエルフは居ないはずじゃ……?」



 少なくとも『アビスゲートオンライン』においてエルフは設定でしか存在しなかったはずだが……いや、逆に言えば設定としては存在する以上、この世界では実在していてもおかしくないのか……?


『アビスゲートオンライン』では、確かこの大陸の遥か西側に暮らしているという設定だったはずだ……新大陸が解放された判定のこの世界なら、可能性としては十分にあり得る話だった。



「結界が消滅した事でエルフがこの大陸に来れるようになった……って事は無いか。そんな気軽に外界と行き来が出来るならわざわざ外界調査なんて行わない筈……だとすれば何でこんな所にエルフが?」



 この大陸には居ない筈の存在が突然現れたことに対する疑問は残るが、亜人共の様子を見るに、少なくとも今は悠長にその理由を探している暇はなさそうだ。



「状況は分からないけど、どう見ても迷子を探してるって感じじゃなさそうだし……子供が狙われてるのに放っておくってのは流石にね」



 そう言いながらおもむろに手を前に突き出すと、流れる様に印を結びつつこの場に適した術を発動させる。



『隠形術の壱:隠遁』



 そう唱えた瞬間、ルナの姿は立ち消え、周囲から完全に視認することが出来なくなる。とはいえその存在が掻き消えた訳ではなく、周りから見えなくなっただけだ。その証左と言わんばかりに、何も居ないように見える空間から続けざまに声だけが聞こえてきた。



『隠形術の弐:無足忍』



 無足忍とは足音を消す忍術であり、隠遁と掛け合わせることで姿を隠した上に足音も消すことが出来る。


 尾行をする時や建物に侵入する際には必須の忍術であり、先程自らが使用した『鷹の目』の天敵とも言える忍術である。



(制限をつけてるから低レベルのスキルや魔法しか使えないとはいえ、やっぱり色んなジョブの能力が使えるのはこういう時に利便性が高くて良いね)



 そう心の中で独りごちながら、移動を開始した亜人の集団を追跡する。そうして息を潜めながら付かず離れずの距離で移動をしていると、鳥のような頭をした亜人が先程隊長と呼ばれていた狒々頭の亜人に話しかけていた。



「隊長、命令通りエルフのガキは捕らえましたが……どうするおつもりですか?」



 先程片言で話していた一般兵とは違い、今話した鳥頭の亜人は流暢に言葉を話している。装備もそれなりに良さそうな物を身に着けており、どうやら隊長と言われている亜人の補佐役か何かだろう。


 となると言葉が上手いかどうかは地位……というよりかは能力で差があるということだろうか。──まぁ、亜人の生態研究は今はどうでもいい。問題なのは既にエルフの子供を捕らえたという内容に関してだ。


 近くに姿が見えないということは、この集団の他にも仲間がいて、そいつらがエルフを捕らえたということだろう……であればこいつらと合流する前に、先行して捕らえられたエルフの子供を救出するべきか……それとももう少しここで情報を収集し、目的を探るべきか……そう悩んでいると、隊長の狒々頭が部下の質問に答えるように口を開く。



「お前が知る必要はない……が、そうだな、今俺はとても気分が良い、少しだけなら教えてやろう。エルフが他の種族とは比べ物にならない程の魔力を持っているのは知っているな?」



 そう問われた鳥頭の亜人は、頷きながら返事を返す。



「ええ、生まれつき魔力の高い魔人族ですら足元にも及ばぬ程の、途轍もない魔力を持っているというのは聞いた事があります……狙いはその魔力ですか?」



 鷹揚に頷くと狒々頭の亜人はイヤらしい笑みを浮かべながら、上機嫌に話を続ける。



「ああ、何に使うかまでは言えんが、子供とはいえエルフだ……本国に送り届ければ昇進は間違い無いだろう。まさかこんな所でエルフなんてお伽噺に出てくるような存在を捕まえられるとは、俺は本当に運が良い」



 そう言葉にしながら下卑た笑みを浮かべる様子から、もしエルフの少女が国に送られれば、決して無事では済まないことを物語っていた。そんな狒々頭に嫌悪感を覚えつつも、嫌な気分にさせられたのは情報を得るための必要経費だったと思考を切り替える。


 流石に全ての狙いが分かった訳ではないが、それでも子供を攫った上に碌でも無い事に利用しようとしているという事が分かったのだ、これからどうするかの指針としては十分だろう。


 そうして自分の中での決意を固め動き出そうとした所で……どうやら目的の少女の所まで辿り着いてしまったようだった。



(出来れば先に助けておきたかったけど……まぁ、隠れていればいくらでもチャンスはあるか)



 見た所そこまで強そうな亜人はおらず、恐らく正面からの戦いであればそう労せずとも倒せそうではある。とはいえ子供が捕まっている以上、隙を見て助け出した方が確実だろうと、正面から蹴散らす案は自分の中で却下する。


 となると、事を起こす時に動きに迷いが出ないように少女の姿を確認しておいた方が良いだろうと考え、亜人の集団を横から追い越す形で前に進む。すると、そこに居たのは金髪に尖った耳というエルフの典型的な特徴と、西洋の人形に命を吹き込んだかのような完璧な造形をした顔立ちの少女だった。



(銀じゃない、金だ……本当にエルフなんだ)



 思わずその姿に目を奪われていると、狒々頭の亜人がエルフの少女に話し掛ける。安心させるような声色を出そうとしているが、その内から滲み出る下卑た感じは消しきれていない様子だった。



「抵抗しなければ危害を加えるつもりはない。ただし我々と一緒に来てもらうがな」



 そう言われた少女だが、怯えているというよりは状況が分かっていないような様子で狒々頭に問いかける。



「一緒に……貴方は私が何なのか知ってるの?」



 その言葉に、狒々頭の亜人が訝しげな顔をする。その声色にからかいの色は無く、本当に自らの事が分かっていないかのような口振りだった。



「なんだ……? まさかこの娘、記憶が無いのか……?」



 記憶喪失……昨日から続けてその言葉ばかりが耳に入ってくるが、一体この世界はどうなっているのかと思わず首を傾げたくなる。


 というか亜人の言語で話しかけて少女に言葉が通じているのだろうか……エルフだから通じるのか? ……いや、『アビスゲートオンライン』にも言葉を話せる亜人が居た。あの狒々頭もそうなのかもしれない。


 とはいえ、今は言語の問題よりも重要な事がある。この場を何とかするのが先だとタイミングを見計らっていると……姿を隠している自分の方を、エルフの少女が見つめているのに気が付いた。



(まさか、見えてる……!!?)



 その様子に思わず身を


この度は私の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。

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