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英雄の娘  作者: かおもじ
12/24

受難の対価は

 着替えをしている気配を感じたのか、脱衣場から出ると直ぐにミアが声を掛けてきた。



「テーブルにご主人様の好きなリンゴジュース飲み物を用意しておいたので、冷たいうちに飲んでくださいなぁ。私もお風呂入ってきますねぇ」



「アフターケアも完璧な気配り上手とは、ミア…なんて恐ろしい子…」



 などと冗談半分、本気半分で軽口を叩くと「おだてても何も出ませんよぉ」と居ながらミアはお風呂場へ向かっていった。



 テーブルの椅子に腰を掛け、テーブルのコップとリンゴジュースの瓶に手を伸ばす。コップに満タンに注いだジュースを口に運び、ゴクッゴクッっと一口でコップの中身を半分ほどにする。



 或いはお風呂上りならビールだろという声が上がるのかもしれないが…アルコールを摂取した状態で『アビスゲートオンライン』をプレイする事はフルダイブというシステム上、プレイに不具合を生じさせる可能性が高いと公式に明記されていた。それ故プレイ時間を損なう可能性のあるアルコール類を摂取した事が一度も無いのでその良さは分からない。



「まぁ、リンゴジュース美味しいから良いんだけど…」



 そう言いながらコップに残っていたジュースを飲み干すと、再びコップにジュースを注ぎ込む。その後暫しの間ボーっとしていたが、何の気なしに見た自らの拳に感じ入るものがあり、おもむろに開閉し力を込める。ペンダントの効果は正常に作用しており、己の拳に宿る力がペンダントを装備する前とは明らかに違うのが明瞭に感じられた。



 力や魔力などのステータスはどのジョブを選んでもほぼ10前後からスタートするのだが、10という数値は地球上において所謂アスリートと呼ばれる人達と同じくらいの身体能力と考えて良いだろう。そして今のレベルは丁度100であり、全てのステータスが凡そ100を少し超えた程度だ。装備前よりもかなり能力を抑えた数字ではあるが、それでも地球人の持てる限界を遥かに超えた力であり、まずはその力をコントロール出来るようにならなければならない。



「力のコントロール…やっぱりモンスターと戦うのが一番手っ取り早いかな~」



 実戦に勝る練習はないという言葉を何かで聞いた覚えがあるし、サンドバッグ的な物を殴るよりもモンスターと戦う事で経験を得るのが一番の近道だろう。そんな事を考えているとお風呂場のドアが開く音が聞こえた。どうやらミアがお風呂から上がって来たらしい。その手にはボロ雑巾の様な物を持っており、開口一番こう尋ねてくる。



「あ、ご主人様~、さっきまで着ていたボロボロのお洋服、捨ててしまっても大丈夫ですかぁ?」



 どうやら手に持っていたのは雑巾ではなく先程まで私が着ていた服らしい。今更ながらあんな服で街中を闊歩していたのによく最初の衛兵以外に声を掛けられなかったものだと思ったが…翌々考えると冒険者が街の外から帰って来た時にいつも小奇麗な格好をしている訳もなく、ボロボロの格好で歩く人が居ても皆そこまで気に留めないのかもしれない。



「うん、捨てちゃって大丈夫だよ。…ミアもジュース飲まない?」



 質問に答えを返すと共にお風呂上がりのミアに飲み物を勧める。アイスバケツの様な物に入れられていたリンゴジュースの瓶はまだ冷えており中身も十分にある。折角なので冷たいうちにミアにも飲んで貰いたいという思いと、この世界の話を聞きたいという思いがあった。



「じゃあ私も頂きますねぇ」



 そう言いながらボロボロの服をゴミ箱に処分し、次いで自分のコップを用意してテーブルの席に座る。自分でコップに注ごうとしていた為、機先を制して瓶を持ちコップにジュースを注ぎ込む。



「ありがとうございますぅ。───ふぅ、お風呂上りに飲むとやっぱり美味しいですねぇ。」



 その小さな口に運んだコップの中身を飲み干しミアがそう告げる。それを見届けた所で、改めて聞きたかった事について話題を切り出す。



「それでミア、15年前に冒険者全員が記憶喪失になったって言ってたけど…その後はどうなったの?」



 15年前…実感は無いが突如私が姿を消した日の事を思い出したのか、一瞬なんとも言えない表情をしたミアであったが直ぐにその表情を切り替え、こう語り始めた。



「15年前のあの日、正しく今日と同じ日付けでした。ご主人様が居なくなり、冒険者さん達は記憶を無くし、更に冒険者さん達の事を覚えている人は誰も居なくなりましたぁ。冒険者さん達が何者かっていうのは冒険者ギルドに残されていた書類と顔写真のお陰で大体分かったんですけど…世界は突然の事で大パニックに」



 ここまでは先程も聞いた内容では有るが、改めて考えてみてもとんでも無い話である。突然身元不明の人間が大量に発生し、しかも記憶喪失。それだけでも大問題なのにこの問題はそれだけでは終わらないだろう。それは…



「しかも冒険者さんが全員記憶喪失になってしまったので…モンスターとか諸々の素材を採って来られる人が居なくなってしまって、その上転移魔法も使えなくなってしまった事で世界中の物流に影響が出て一時大恐慌に陥りましたぁ」



 やはり───転移魔法は使えなくなったんだ。現状から察するに私はここが『アビスゲートオンライン』の世界がそのまま現実になったものだと考えている。そうなると当然問題になるのが物流の問題である。仮想現実ならば誰かがアイテムを購入したとしても自動で補充されるが現実ではそうはいかない。無くなった在庫は補充しなければならないし、そもそも仕入れのルートも確保しなければならない。それまでは転移魔法で仕入れていたという設定だったのだろうが…それもなくなったとすれば世界恐慌になるのは当然だろう。



 更にはモンスターの素材を始めとした様々な物を街の外から仕入れる事の出来るはずの冒険者が記憶喪失では、そちらの流れも途絶える。もっと言えば仮想現実の世界ではモンスターは街中まで攻め入ってはこないが、現実ならそんなセーフティゾーンは存在しないという事になる。経済とモンスターという2重の危機を考えると、国の一つや二つ滅んでもおかしくない状況だったと思うのだが…



「そこで各国の代表は新たな冒険者ギルドの設立を行ったんです。記憶を失ったとはいえ冒険者の皆さんはとてもお強いですから…希望者を募ってモンスターの討伐を依頼したり、採取を依頼したり…でも、そんな中である事件が起きました」



「事件?」



「はい、それが『祝福』消失事件です。冒険者一人一人の事は皆さん忘れてしまいましたけど、『祝福』だとかどういう存在かというものは旧冒険者ギルドに資料として残ってましたからぁ…『祝福』に守られているなら安心だと思い皆さん冒険に出ていたんです。でも、ある日気が付いたんです。冒険に出た一部の冒険者さんが一向に帰って来ない事に。一度冒険に出た冒険者さんが長期間帰って来ない事は珍しい事ではないですが、それが何十人も帰って来ないというのは流石おかしいと思い捜索を開始した結果、各地で冒険者さんの死体が発見されました。そこで初めて冒険者さんの『祝福』が失われた事に気が付いたのですぅ」



「…そうなれば、当然冒険者を辞める人は出てくるよね?」



「はい…多くの人が冒険者を辞めるか、続けたとしても安全な場所での狩りや採取程度で済ませる事が多くなりましたぁ。そうなると当然人手が足りなくなるので…冒険者ギルドは大きな一手を打ちました。それが現在の生活の基盤になっている、冒険者登録義務化法ですぅ」



「冒険者登録義務化法?この国…いや、この大陸の人全員に冒険者登録を義務付けるって事?」



「そうですぅ。現在の冒険者ギルドはこの大陸全ての主要国が連盟で運営しているので、当然全ての国の国民に適用される共通の国際法となりましたぁ。とはいえ、登録したから必ず冒険に行けという話ではなく、記憶を失った冒険者さん以外の人達にも、冒険者さんと同じように外に出て狩りをしたり採取をしたり出来るようにして、物流を助けようというものですけどぉ。あ、冒険者登録をしていないとモンスターの素材なんかはギルドで買い取って貰えないので、ご主人様も登録した方がいいですよぉ」



「そうなんだ、じゃあ明日にでも登録に行ってこようかな…所でミア、今更なんだけど私の顔を見て何か気が付かない?」



 ある程度聞きたかった話を聞けた所で、先程浮かんだ疑問が改めて顔を出してきた。なぜ私だけが突然姿を消し若返った姿で現れたのか…ついでに本当に若返った事に気が付いてないのか。



「ええとぉ…?ご主人様の顔ですかぁ…?かわいいお目目とお鼻とお口が付いてて…ちゃんとお耳もありますよぉ。あ、そのペンダント綺麗ですねぇ!」



「うん、分かった、もう大丈夫だよありがとう。因みにどうして私だけ記憶喪失じゃなくて行方不明になって、ミアが私の事を覚えているのかは…分からないよね?」



 どうやら若返っている事には本気で気が付いていないらしい。そこはきっと種族の違いなのだろうと考え、もう一つの疑問を口にする。



「???───大丈夫ならいいんですけどぉ…。ご主人様が姿を消した理由は分からないですけど、姿を消していたからこそミアはご主人様の事を覚えて居られたんじゃないかと思います。もしもご主人様が他の人と同じ状況だったとしたらミアもご主人様の事を忘れてしまっていたと思うので…そう考えると15年待った甲斐がありましたぁ」



 そう健気に話すミアに思わず眼がしらが熱くなるのを感じ、泣き顔を見られまいと照れ隠しの様に「あ、もうこんな時間だね、そろそろ寝よっか」と話を切り上げ席を立ちあがる。



 それに気が付いているのか否か、微笑みながらミアは「そうですねぇ、ご主人様もお疲れでしょうしお休みしましょうかぁ。」と言いコップとジュースを台所に片づけに行く。そうして続けざまに「あ、ご主人様の歯ブラシも洗面所においてあるので、ちゃんと歯磨きして寝てくださいねぇ」と後ろ手に告げてくる。



 その言葉を受けながらルナは


 (やっぱりお母さんみたいだな…)


 そう思いつつ洗面所に足を運ぶのだった。

この度は私奴の作品をお読み頂き誠に有難う御座います。


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何卒宜しくお願い致します!オナシャス!

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