第三話 作家は稼げる!
「俺が言うのもだけど、ほんとにいるのか?」
ちょっと気持ちが落ち着いたところで、俺は改めて坂元に尋ねた。
すると坂元は、すぐに深い頷きを返してくる。
「ええ、いますよ」
「けど、さっき聞いた話だとちょっと無理筋じゃないか?」
「そうっすねえ、小説の印税だけだと厳しいでしょう。数年に一本クラスの大ヒットをしても八千万はなかなかいかない。でも、WEB小説家の収入源っていろいろとありますからね」
複数の収入源?
本の印税のほかに、いったい何があるというのだろう?
俺は小首を傾げるが、坂元はそのまま話を続ける。
「まず、一番はコミカライズ関連っす。監修料と印税が入りますよ。監修料は出版社によってかなりまちまちなんですが、多いところだと月に五万以上は入るとか。それで印税は三パーセント前後が相場っすかね」
「三パーセントだと、大して儲からなくないか?」
「コミカライズは比較的労力が少ないので、数をこなせます。多い人だと十シリーズぐらいはザラですね。同時に二十シリーズって人も見たことありますよ」
「二十!?」
あまりの数に、変な声が出た。
そんなにたくさんこなして、頭こんがらがらないのか……?
WEB小説家って化け物の集まりかよ?
そんな俺の心の声を察したのか、坂元が笑いながら言う。
「流石にそこまで行くと、設定管理とか大変らしいですけどね。設定管理用のツールとかいろいろ導入してる方もいるとか」
「そりゃ大変だ。けど、二十あれば監修料だけで月収百万ぐらいになるな」
「あくまで多い場合ですけどね。他に印税も入るので、上手くやれば大ヒット作がなくても二十作で合わせて二千万ぐらいは見込めるかと」
二千万か……。
さっき聞いた平均値から、一気に夢のある数字に膨らんできたな。
さらに坂元は続ける。
「それだけコミカライズを出してる場合、原作のノベルも年に十冊ぐらいは出してるはずです。電子も合わせると、爆発してなくても一千万はあり得る数字でしょうね」
「……合わせて三千万か。凄いけど、まだまだ八千万には足りないな」
「あとはメディアミックスした場合の版権収入っすかねえ。ヒット作の場合、ここが一番メインになることもあるとか」
おぉ、版権収入……!!
俺もちょっと聞いたことあるぞ。
確か、アニメ化したら入るお金だっけ?
「アニメ化したら入るんだよな? でも、なんか安いとか聞いたことあるぞ」
「直接的な版権料はそんなに大きくありません。ただ、二次使用料とかが膨らむ場合はありますね。昔は円盤の売上、今は配信サイトの売上が歩合で分配されるとか。あとはグッズが出た場合にも、版権料は出ます。コラボグッズとかゲームとか、作品によっては本当にあれこれ展開されてるでしょう?」
「なるほど。街を歩いてても、よく見るもんな」
「あとは何と言っても……これっすねえ」
そういうと、坂元は手首できゅいんっと何かをひねるような仕草をした。
あー、そっちか!
確かに、あの産業って規模が大きいからとんでもない金額が動くらしい。
今でも十兆円ぐらい市場規模があるんだっけ。
「昔は大ヒット作の特権といった感じだったんですけど、最近はメーカーさんがアニメの製作委員会に出資することが増えてまして。ハードルが少し下がってます」
「それで……いくらぐらいになるんだ?」
「細かいことは個々の事例によって全然違うらしいんですけど……。有名な漫画の事例だと、百億を超えたって噂もあります」
「ひゃ、ひゃひゃくおくぅ!?」
たまらず、その場でひっくり返りそうになった。
百億ってなんだ、百億って!!
そんな金額、現実にあり得るのか!?
それだけあれば間違いなくメルルちゃんと一緒になれるぞ!!
あまりのことに俺が目を見開くと、坂元が笑いながら言う。
「あくまで超大ヒット漫画のケースですし、そこまでたどり着くのが至難なんですけどね。アニメ化必須ですし。もっと現実的な稼ぎ方だとインセンティブっすかね」
「インセンティブ? 印税とは違うのか?」
「はい。佐藤先輩も、ヨムカクとなろうぜは知ってますよね?」
「もちろん、もう書いて投稿してるし」
「じゃあ話は早い。その辺のサイトって、metubeみたいにPVに応じてお金を払ってくれるんですよ。知りませんでした?」
そんな仕組みがあったのか……。
そういえば、ヨムカクインセンティブプログラムとかあったような。
銀行口座とか登録するのが怖くて、まだしてなかった気がする。
「知らなかった」
「じゃあ、登録しといたほうがいいっすね。あれで儲かる人は月三十万ぐらい行くみたいですから」
「えっ!? 月給じゃねーか!」
「案外馬鹿にできないんですよ、これもまあ人気次第ですけど」
そういうことか。
じゃあ、俺の小説だとまだまだ厳しいな。
今のところPVは百にも満たないし。
metube並に還元してくれるとしても、うんまい棒が買えるかどうか。
俺が腕組みをして考え込み始めると、ここで坂元が踏み込んでくる。
「そういえば、先輩はもう書いてるとか言ってましたよね?」
「先月からな。なんともう完結済みだ!」
「じゃあせっかくですし、見せてもらっていいっすか? 先輩も、どうせそのつもりで俺を呼んだんですよね?」
「もちろん。これだよ」
そういうと、俺は自信満々に自作のページを開いた。
坂元は職業病なのか「拝読します」と言って、スマホを受け取る。
「ふむふむ……」
スマホを操り、ページを素早く繰る坂元の目は真剣そのもの。
相手が後輩だというのに、自然と緊張してきてしまう。
俺は背筋を伸ばすと、坂元が何を言うのかと固唾を飲んで見守った。
そして――。
「うーん、率直に言うとこれは……」
「なかなかのもんだろ?」
「全然ダメっすね」
坂元の一言に、俺はたちまち石化するのだった――。




