第二話 伸びない!
「……の、伸びない!」
あれから三週間後の日曜日。
俺はとうとう、アルカディア戦記の最終話を投稿したのだが……。
反応はほぼ無風。
星評価が五、フォロワーが七名というありさまだ。
書籍化して本を出すには、まったく数字が足りていない。
百分の一、いや千分の一以下だろう。
「何が足りなかったんだ……?」
WEB小説の基本とされている事柄は抑えたつもりだった。
王道の異世界転生で、更新ペースは速い。
加えて、初日にどっかーんと三十話も投稿した。
SNSでの宣伝も更新するたびに欠かさずやっている。
それがどうしてこんなにも伸びていないのか。
内容についても、俺は面白いと思うんだけどなぁ……。
「どうしたもんかな」
あれこれと頭をひねるが、上手く行かない。
せめて感想の一つでもついてくれればよかったのだけど、それすらない。
どう対応すればいいのか、手掛かりが何一つとしてない状態だ。
AIに質問を投げてみるが、具体的な答えは何も帰ってこない。
こういう事態には、まだ対応できないらしい。
これは、出来るだけラノベに詳しい人間の意見を聞くしかないな。
「そういえば、いたな。ラノベマスター」
ここでふと、俺は大学時代の知り合いのことを思い出した。
同じ文芸部の後輩でオタク仲間をしていた坂元という男である。
当時は年間二百冊のラノベを読むと豪語していて、仕事も出版関係に就いたとか聞いている。
WEB小説についても、いろいろと知見があるだろう。
「よし、連絡してみるか」
さっそく坂元にラインを送ると、すぐに返事が来た。
どうやら、今日はたまたま時間があるらしい。
すぐに飲みの約束が決まり、俺は準備を始めるのだった。
――〇●〇――
「いやー、先輩久しぶりっす!」
夕方、新宿の居酒屋にて。
数年ぶりに会う坂元は、以前と変わらず人懐っこい顔をしていた。
体形もふっくらとしていて、流行りの美少女キャラが描かれたシャツを着ている。
こいつも社会人になったはずだけど、学生時代から時が止まったみたいだ。
「久しぶり。どうよ、元気してたか?」
「まあなんとかやってますよ。それより先輩、どうしたんですか? 急に飲みに行こうだなんて」
「ちょっとお前に相談したいことあってさ」
「あ、もしかして恋愛相談っすか?」
「うーん、まあ広い意味では?」
すべてはメルルちゃんと結婚するため。
そういった意味では、恋愛相談と言えばそうなのかもしれない。
俺がそう答えると、坂元はほうほうと愉しげな笑みを浮かべた。
俺がいろいろと恥ずかしくてごまかしていると思ったらしい。
「いいでしょう、ギャルゲマスターの俺が何でも答えますよ!」
「ギャルゲマスターって、お前まだギャルゲしてるのか」
「ええ、二次元一筋ですから!」
自信満々に言えることなのか?
俺はそう思いつつも、坂元に尋ねる。
「俺が用があるのは、ギャルゲマスター坂元ではなくラノベマスター坂元だ」
「ほほう?」
「実はとある理由でどうしても大金が必要で。だから、WEB小説で稼ぎたい」
そういうと、坂元は呆気にとられたような顔をした。
そして、俺のことを「正気か?」と疑うような目で見つめてくる。
「……なんすか、もしかして借金とか?」
「推しに一億円投げ銭がしたい」
「はいい?」
完全に思考停止してしまった坂元に、俺は懇切丁寧に事情を説明した。
すると坂元は笑いをこらえるように口元を抑え、ついには吹き出してしまう。
「あっははは! いや先輩、そりゃないですって!!」
「何を!! 俺のメルルちゃんに対する愛を愚弄する気か!!」
「そうじゃないですけど! えーっと、どこから話した方がいいかな……」
坂元は困ったような顔をすると、額を手で抑えた。
そしてうんうんと唸った後、ゆっくりと俺に問い掛けてくる。
「俺はね、先輩が稼いだお金をどう使おうと自由だと思うんです。ぶっちゃけ、Vtuberに貢いじゃう気持ちもわからなくはないですし」
「だろ!? 愛してるなら当然だよな!」
「そこはそうなんですけど、どうしてよりにもよってWEB小説家なんですか!」
「そりゃあ、平均年収八千万だからだろ」
「いやいやいや、あんなのほとんど嘘ですからね! 俺もその記事知ってますけど、ありえないですって!」
なんだと……!?
俺が衝撃の事実に固まっていると、坂元はさらに爆弾を投げつけてくる。
「リアルな収入だと、たぶん平均で二百とかじゃないっすかね。俺、いま編プロにいるんで業界にもちょっとは詳しいっすけど……だいたいそんなもんかなって……」
「う、嘘だろ……!?」
「印税がだいたい一割なのは知ってますよね? それで今だと大判で初版五千ってとこだろうから……。一冊出してだいたい七十万ってとこですかね」
な、七十万!?
それだと、年三冊出しても二百万ちょっとじゃないか!
おいおい、ブラックな俺の給料を下回ってきたぞ!
そんな馬鹿な、年収八千万じゃないのか!?
「WEB小説家の年収は、八千万じゃないのか……?」
「ですから、あれは信用ならないネット記事ですって。WEB小説家もほとんどが八千万なんて稼げるわけないって批判してましたし」
「そんなぁ……! 俺はあれを信じて一か月、三十分睡眠で頑張ったんだぞ……!」
「三十分って、逆にそれでビジネスした方が儲かりません? すごいっすよ?」
いかん、眩暈がしてきた……!
あの地獄の日々は一体なんだったんだ……?
あまりのことに、俺はそのまま居酒屋のテーブルに向かって倒れそうになった。
見かねた坂元がすぐさま手を伸ばして俺の身体を支える。
「ほんとに大丈夫ですか?」
「……俺はもうダメだ、メルルちゃんと結婚できない。もう終わりだああああ!」
「ええっと、ああそうだな……。八千万は可能です! 可能か不可能化で言えば可能です!!」
「ほ、ほんとか!?」
俺はすぐさま、坂元の身体にしがみついた。
すると坂元はうんうんと何度も頷く。
「数はとても少ないですが、八千万以上稼いでる作家は間違いなく実在します」
この坂元の言葉によって、俺の胸に再び闘志が湧いてくるのだった――!
いよいよ、作家の収入源が明らかに!?
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