第一話 初投稿
「できた、できたぞ!!」
年収八千万のWEB小説家を目指して、はや一か月。
メルルちゃんの配信を聞きながら執筆を続けた俺は、一本の小説を書き上げた。
その名も『アルカディア戦記 ~英雄たちの凱歌~』。
これは戦乱の続く異世界アルカディアに転生した少年が、奴隷から英雄へと成り上がっていく壮大な戦記物である。
涙あり、笑いあり、もちろん感動ありの超大作だ。
ランキングに並んでいる凡作など、まとめてなぎ倒す自信がある。
「来たぞ、俺の時代!」
我ながら、作品の完成度の高さに震えが止まらない。
投稿すれば、瞬く間にランキングを駆け上がることだろう。
そして、一週間もすれば書籍化。
刊行されればたちまち重版の嵐が吹き荒れ、一年も経たずにアニメ化決定。
その後は映画化して、ハリウッド進出して……!
俺の手元には、ザックザック印税が入ってくるに違いない。
俺のペンネームである「サトロン」が世に知れ渡る日も近いだろう!
ははは、勝ったな!!
「メルルちゃん、待っていてくれ! すぐに一億投げるからな!」
俺は投稿ボタンを押すと、すぐにベッドへと入った。
結果が気になるところだが、眠くて仕方がない。
ここ一か月、睡眠も削っていたからな。
ほぼ毎日、エナジードリンクを飲んで疲労をごまかしていた。
明日は幸いなことに、土曜日。
このまま半日ほど寝て、じっくりと体を休めよう。
睡眠負債がたまると怖いからな。
「……おやすみなさい」
こうして俺はゆっくりと意識を手放すのだった。
――〇●〇――
「……あれ、おかしいな?」
翌日の昼過ぎ。
ゆっくりと起き出した俺は、すぐさまヨムカクのサイトをチェックした。
すると評価もフォロワーもゼロ。
見事なまでにゼロ。
……もしや、まだ情報が更新されていないのか?
そう思ってサイトを見ると、他の新着作品には評価もフォロワーもついていた。
「な、なぜだ……!? こんなに伸びないことあるのか!?」
ジャンルは流行りの異世界転生系。
展開も奇をてらわずきちんと王道を抑えているはずだ。
それなのに、ゼロ。
あり得ない、もしかしてサイトのエラーで誰も読めていないのか?
そう思ってアクセス解析を見ると、PVが二十ほどついている。
「どうして評価しない!? ホワイ!?」
思わず英語が出るほど、俺は動揺した。
内容は完璧に仕上がっている自信がある。
それなのにどうして、誰も評価しないんだ!?
あまりのことに頭を抱えた俺は、すぐさまAIに質問を投げる。
『ヨムカクに投稿したんだけど、評価もフォロワーもつかない。どうして?』
『ヨムカクでは、評価とフォロワーが0の作品が半数以上を占めています。どちらもつかないのは、統計的にはごく普通の現象です』
ご、ごく普通!?
驚いて新着ページを見ると、確かに評価もフォロワーもない作品が多数派だった。
それに対してランキングページを見ると、数万単位でフォロワーがいる。
しかも、一日数千ぐらいずつ増えているようだ。
これはもしかして、WEB小説家って思った以上に大変なのか……?
ちょっと途方もない気がしてきたぞ……!
『ヨムカクの読者を増やす方法を教えて』
『流行のジャンルで作品を書く、自主企画に参加する、SNSでの宣伝などが手段として挙げられます』
……自主企画?
そういえば、ヨムカクのトップページにそんな欄があったな。
一応、いくつか手近なのに参加しておくか。
俺は大量にある自主企画の中から「ファンタジー作品集まれ!」と「みんなで読み合いましょう!」に参加しておく。
これで、多少は読者が来るのではないだろうか。
後はSNSでの宣伝だな、こっちはバズれば一気に伸びそうだ。
さっそく小説用のアカウントを作り、界隈の人をフォローしていく。
「みんなも頑張ってるな……」
WEB小説家のアカウントをフォローしていくと、次々と宣伝が流れてくる。
その勢いときたら、あっという間にタイムラインが埋め尽くされるほどだ。
俺も負けてはいられない!
すぐにプロフィール作りに取り掛かる。
名前はもちろんペンネームと同じサトロンで、プロフィールは二十五歳会社員の作家志望だ。
「あとはURLを張って……。超自信作です、絶対に面白いのでみんな読んでくださいっと!」
宣伝文を作って、すぐさま投稿する。
よしよし、これですぐにPVが伸び始めることだろう。
「ついでに、ドドンと一気に三十話公開しちゃうか!」
たぶん、最初の一話だけではみんな良さが分からなかったのだろう。
そう思った俺は、一気に三十話まとめて公開した。
これでみんな、夢中になってフォロワーになってくれるはずだ。
「これで今度こそ、上手く行くだろう!」
こうして一連の作業を終えると久しぶりにメルルちゃんのチャンネルを開く。
作業が佳境に入ってからは、あまり配信を見れてなかったからなぁ。
あー、久々の美声が耳にきくぅ~~!!
『皆様の麻布メルルですわ! 今日も元気に、頑張ってまいりましょう!』
「おおおおっ!」
画面の中のメルルちゃんに合わせて、拳を突き上げる。
うおおやってやる、やってやるぞ!!
俺は億を投げて、メルルちゃんと結婚するんじゃああああああ!!
こうして、俺はそのあと一時間ほどメルルちゃんへの思いを叫び続けるのだった。
……ちなみに後日、アパートの隣人にこんこんと叱られたのは秘密だ。
カクヨムにて、同タイトルで先行公開しています!
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