プロローグ WEB小説家の平均年収8000万円!?
『もし一億スパチャしてくれたら、その人と結婚しちゃうなー』
平日の深夜。
俺はいつものように、大好きな麻布メルルちゃんの配信を聞いていた。
麻布と名前に入れていることからもわかる通り、お嬢様を意識したキャラ設定のVtuberなのだが、中身はびっくりするほど真面目で庶民的。
そのギャップにやられて、俺もついつい毎日夜更かししていたのだけれど……。
突然流れて来た会話の内容に、俺はすっかり驚いてしまった。
今までおふざけでも、結婚関連の話題は避けていたからだ。
他のリスナーも驚いたようで、次から次へとコメントが流れる。
『いやだって、一億ですわよ? そりゃねえ!』
大げさな仕草で、さも当然のように言い切るメルルちゃん。
つまり、一億あればメルルちゃんと結婚できる?
俺は大慌てで、証券口座を開くと保有残高を確認する。
「……そりゃ、いきなり増えてたりはしないよなぁ」
節約生活で絞り出した原資をぶち込んだNISA口座。
その残高は「2,005,000」と表示されていた。
これでも、投資を始めた当初から比べると三割ぐらい増えている。
とはいえ、一億にはまだまだ全く足りていない。
何かの拍子にドーンと増えてないかと思ったけど、世界経済はそこまで都合よくはないらしい。
「えーっと、限界まで節約して月二十万円ひねり出す。それをオルカンに全ツッパして、利回り五パーセントだとして……」
スマホの電卓を起動して、結果をシミュレーションする。
するとはじき出された結果は、おおよそ二十年。
条件を甘くしても、はちみつを掛けたぐらい甘くしても十五年だった。
「ダメだ! それだと誰かに取られる!」
そんなにちんたらしていたら、誰かにメルルちゃんを取られてしまう。
可能な限り早く、出来れば二年か三年で一億稼がなくては!
えーい、もっと他にいい稼ぎ方はないものか!
俺はAIを起動すると、効率のいい投資方法を調べさせる。
「不動産か……。ダメだな、借り入れできる属性がない」
AIが真っ先に提案してきたのは、不動産投資だった。
銀行から融資を引っ張って、アパートやマンションを購入していくらしい。
それで物件数を増やせば、いずれは一億まで行けるというのがAIの見立てだ。
ただ問題なのは、俺の社会的な属性の低さである。
吹けば飛ぶような中小企業勤務で年収三百五十万。
悲しいことに、銀行が金を貸したくなる人種ではおおよそない。
そもそもアパート経営以前に、俺自身が安アパートに住んでいるし。
「うーん、FXは流石に博打過ぎるな。ビビットコインも……」
次に提案されたのがFXとビビットコイン。
FXは以前に少しだけやったことがあるが、あの時は大損した。
円安を予想したところ日銀に焼き払われてしまった。
素人にあの鉄火場はいろいろと向いてない。
ビビットコインは成熟期に入っていて、爆上げする気配は今ないし……。
なんか、もっとがっぽり儲かるやつはないのか?
「あー、真面目に働けとか言い出した! このクソAIめ!」
とにかく早く一億欲しいと言ったら、AIは真面目に働けと言い出した。
真面目に働いてどうにかなるなら、とっくの昔に働いとるわい!
だいたい、働いても働いても儲からない今の社会が悪いのだ。
こちとら勤続三年目にして昇給どころか新卒に抜かれるんだぞ!
「せめて、もっと稼げる仕事はないものか?」
稼げる仕事はないのかとAIに尋ねてみる。
すると、第一に候補として挙げられたのが――。
「WEB小説家……平均年収八千万円!?」
平均年収八千万。
それだけあれば、半分税金で持っていかれてもあっという間に一億貯まる。
まったく凄いじゃないか、WEB小説家!
でも、本当にそんなに稼げるのか?
AIはたまに嘘を言うので、俺はすぐに参照元のリンクを確認した。
ヤホーニュースの記事である。
すると確かに、見出しにはWEB小説家の平均年収は8000万円と書かれている。
おまけに、肉体的疲労度も低いのだとか。
マジか、夢の職業じゃないか!
「すっげえ! でも、WEB小説家ってそもそも何なんだ?」
頭にWEBとついていることからして、WEBに文章を投稿する作家なのだろうか。
そう思って調べてみると、どうやら小説投稿サイトというものがあるらしい。
今だと「作家になるぜ」と「ヨムカク」というサイトが二大大手なのだとか。
調べると、他にもいろいろと情報が出てくる。
「へえ、『ニート転生』とか『転ゴブ』もWEB小説だったんだ」
二作とも、俺が良く知っているタイトルだった。
めちゃくちゃ売れていて、駅にも大きな広告が出ていたはずだ。
確かにあのぐらい売れてる作品の作者ならば、年収八千万ぐらいはありそうだ。
いや、もっと多いだろう。
平均八千万なのだから、トップはその数倍はあるに違いない。
「……案外、俺にも書けるかも?」
さっそく「ヨムカク」のサイトを開き、ランキングにある作品を読む。
すると、文章は平易で俺にも書けそうな気配がした。
一応、これでも文学部を出ている。
講義で短編小説を書いたこともあるし、その時は評価も良かった。
「よし、やるぞ!! 年収八千万のWEB作家に俺はなる! 待ってろよ、メルルちゃん!!」
俺は配信を続けているメルルちゃんに呼びかけると、すぐさまサイトに登録して執筆を始めるのだった――。
カクヨムにて、同タイトルで先行公開しています!
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