第四話 坂元のダメだし
「ど、どこがダメなんだ……?」
俺は恐る恐る、絞り出すような声で坂元に尋ねた。
すると坂元は軽くため息をついて言う。
「俺はあくまで、ライトノベルの編集者ではないということを断ったうえで言いますが……。まず、タイトルとあらすじがまずいですね」
「むむ!」
渾身のタイトルとあらすじを否定されて、俺は眉間に皺を寄せた。
批判されることは覚悟の上だったがそこには自信があったのだ。
「今のアルカディア戦記じゃダメなのか?」
「そうですねぇ……。では聞きますけど、先輩はWEB小説はどんな人が書いてると思います?」
「そりゃ、ほとんどが素人じゃないか? 俺みたいなリーマンとか」
何を当たり前のことを聞き返すのだろう?
WEB小説を書いているのなんて、ごく普通の一般人に決まってるじゃないか。
すると坂元は、パンッと手を叩いて言う。
「そう、作者の大半は素人なんです! 素人が書いた内容もよくわからない小説を手に取りたいと思うかってことなんですよ。『アルカディア戦記 ~英雄たちの凱歌~』って何もわからないじゃないですか!」
「あー、そういわれると……」
「だから、投稿サイトの人気作はだいたいタイトルが長いんです! 最初にこういう作品だと説明することで、読者が手に取るハードルを下げてるんですよ」
「そう言われると、ちょっと説明風の長文タイトルが合理的に思えてきたな」
「……先輩、ぶっちゃけカッコつけて長文を避けたでしょ? それが良くない」
坂元に図星を突かれて、俺はぐっと胸を抑えた。
ランキングを見た時、長文のタイトルが多いことぐらいは気づいたのだ。
でも俺は、それがちょっとダサい気がして避けたのだ。
どうせならオシャレなタイトルで勝負したいと思ってしまったのである。
「短いタイトルでも成功する作品はもちろんあります。ただ、そういう作品はどうしても『誰かが発見してくれるの待ち』になりがちっす。はっきり言って、再現性がなかなかないっすね」
「作品数多いもんなぁ……」
「ええ。主要な投稿サイトは百万を越えますからね」
そりゃ、簡単には発見してもらえないわけである。
タイトルとあらすじの工夫は必要不可欠ってわけか。
そう思っていると、坂元が話を続ける。
「あらすじもこれだとキツいっすね。こっちも情報量が少なすぎるかと。『異世界アルカディアに転生した主人公が、逆境に負けず英雄へとのし上がっていく物語』って、一行じゃないですか」
「いや、シンプルな方がいいと思ってさ」
「ですから、それが許されるのは常連客のいる大作家だけなんですよ。初めはもっと、何がウリなのかとか押し出していかないと! これだと主人公が異世界で何をするのか全く見えてこないっすよ! ぜんぜん、なんにも!」
「そこまで言うほどか……?」
「だってこれ、極論、異世界で囲碁をする話でも使えるあらすじですよね?」
そう言われて、俺はハッとした。
確かにこのあらすじには、のし上がっていく手段は何一つとして書かれていない。
タイトルに戦記とついているのだから、戦いはあるとしてもだ。
何で戦うか記されていない以上、これが囲碁の話だったとしても矛盾しない!
「わかりました? 情報量の少なさが」
「……ああ」
「今度書くときは、詰め過ぎってぐらい詰めるといいですよ。あと内容についてですが……」
「まだあるのか!?」
俺はたまらず、悲鳴のような声を上げた。
タイトルとあらすじの指摘だけで、こちとらダメージを受けているのだ。
その上、内容についてもいろいろと言われたら心が折れてしまいそうだ。
しかしここで、坂元が険しい顔つきで言う。
「……普通、作家志望の人にはここまで言いませんよ。でも先輩、年収八千万になりたいんですよね? メルルちゃんに一億投げるんですよね?」
「そうだった。俺は何が何でも、稼がなきゃならねえ!!」
うおおおおぉっ! メルルちゃん、メルルちゃん!!
俺の中で、たちまち闘志が燃え上がってきた!
メルルちゃんのためなら、坂元の突っ込みなんぞまるで問題ない。
俺はぐっと親指を上げると、どんと来いとばかりに胸を張る。
「坂元、こい!」
「ほんと、先輩ってメルルちゃん好きなんですねえ。じゃあ容赦なく行きますけど……内容については一言、とにかく古すぎです」
「古い?」
「ええ。先輩、もろに『ニート転生』の影響を受けてますよね?」
「そうだけど、悪いか? 大人気のWEB作品だし俺も好きだぞ」
「悪くはないですけど、あれが何年前の作品か知ってます?」
「えーっと、五年ぐらい前だっけ?」
確か、ちょうど新型ウィルスが流行ってた頃に放送されていた記憶がある。
すると坂元は、大きくため息をつく。
「それはアニメの話ですね。『ニート転生』のWEB連載が始まったのは十五年近く前の話です」
「えっ!? そんなに古い作品なの!?」
「そうですよ。古いことが悪いとは言いませんが、当時と今では流行が変わっています。男性向けの場合、主流になるサイトそのものが『作家になろうぜ』から『ヨムカク』に変わったのもデカいです」
「そんなに違うのか? 『作家になろうぜ』と『ヨムカク』って」
今の『作家になろうぜ』は女性向け作品が主流になっているというのは分かる。
けど、昔の『作家になろうぜ』と『ヨムカク』って似たようなもんじゃないのか?
だって同じWEB小説投稿サイトだろ?
そう思っていると、またも坂元は分かってないなとばかりに手を上げる。
「年齢層が違いますね。『ヨムカク』は以前の『なろうぜ』と比べるとかなり若いです。だから、より生っぽい感じが受けますねえ」
「生っぽい感じ?」
「えーっと、何といったらいいのかな。エロとかざまぁとか、人間の感情を直接的に刺激してくる感じというか。剥き出しというか」
うーむ、いまいち要点を得ない説明だな。
これまでの例えが上手かっただけに、落差を感じる。
けれど、それだけ坂元にとっても説明しにくい事柄ということなのだろう。
「とにかく、空気感が違うんです。そうだなぁ、ひとまず『ヨムカク』の月間ランキングを上から百作品ぐらい読んでみてはどうっすかね」
「百ってなかなかだなぁ」
「メルルちゃんのためっすよ」
「そういわれたらやるっきゃねえなあ!」
俺は腕まくりをしてそう答えた。
メルルちゃんのためなら、小説の百や二百ぐらい軽く読み切ってやる!
「その意気です。最後に、これだけダメだししといて言うのも何ですが……。先輩は才能ありますよ」
「……本当?」
「ええ。WEB小説の定石を外しまくってるとはいえ、内容そのものはちゃんと読めるものになってます。それに何より、一か月でこれだけ書き上げたのは凄いです。作家志望者の中でも、上位一パーセントに入れますよ」
坂元はそういうと、俺に向かってそっと手を差し出してきた。
そしてニカッといい笑顔で言う。
「これからも頑張ってください! 俺も、手伝えるところは手伝えますんで!」
「おう!!」
よっしゃ、燃えて来たぞ!!
こうして俺は、坂元と固い握手をして新作に取り掛かることを誓うのだった。




