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呪われ王子と出戻り令嬢の繰り返される幽閉列車の旅  作者: 糸四季


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03 そして誰もいなくなった


「フィン、起きて! 次で降りるわよ!」


 上のベッドですやすや眠っていたフィンが「ふぇ……? 朝ですか?」とまだ半分寝ているような声で返事をする。


「もう昼よ! 寝過ごしたみたいなの」

「……えっ⁉」


 ようやく覚醒したらしく、飛び起きたフィンが天井に頭をぶつけ「あいた!」と叫ぶ。

 昨日はわたしもフィンも疲れていたのかもしれない。まさかこんなに深く眠ってしまうなんて。


「も、申し訳ありません、ご主人様!」

「謝ることないわ。わたしも寝坊したんだもの。次で降りれば何とかなるわよ」


 フィンは梯子を使って降りながら「ぼくって何て役立たず」と落ちこんでいる。


「大丈夫。妹の結婚式に間に合えば良いんだから」

「はい……。そういえば、メーベル夫人はもう降りられたんでしょうか?」

「どうかしら。メーベル氏のところかもしれないわ」

「夫人、どうして起こしてくださらなかったのかな……」


 そういえば変だ。メーベル夫人が起きていたならきっとわたしたちを起こしてくれただろうし、降りたとしても声をかけてくれるはず。

 わたしたちの降車予定をリストで把握しているはずの、車掌の巡回もなかったのだろうか。


 脱いでいたジャケットのポケットに入れていた懐中時計を見ると、やはりもうすぐ午後一時に差しかかろうとしていた。


「とりあえず、部屋を出ましょう。誰かにいまどの辺りか聞いてみないとね」

「そうですね! トランクはぼくがお持ちします!」


 役に立つぞと張り切るフィンの頭を撫でて、わたしたちは7号室を出た。

 廊下には人の姿はなく、車両の窓も部屋の扉もすべて締め切られていた。列車の走る音以外何も聞こえない。


「何だか……静かすぎませんか?」

「そうよね。まさか、この車両の乗客が全員降りたあとだったりするのかしら?」


 冗談のつもりで言ったのに、フィンは笑うことはなくむしろ警戒するような顔をした。

 そのとき、ぐぎゅるるる、と情けない音がした。わたしの腹の虫の主張はいつも大きい上に空気を読んではくれない。


「朝も食べそこねちゃいましたもんね。次の駅で降りたら、まず美味しいものを食べましょう!」

「そ、そうね。とりあえず、隣の車両に行ってみましょうか」


 しかし、隣の二等車に移動しても、側廊下に人の姿はひとつもなかった。昨日はあちこちで思い思いの時間を過ごす乗客の姿があったのに。


「個室をノックしてみましょうか?」

「うーん。どんな人が中にいるかわからないし……食堂車のほうに行ってみましょうか」


 車掌に会えなくても、食堂車で働くスタッフはいるだろう。そう思い食堂車を目指し側廊下を進む。

 けれど他の車両に移ってもやはり人の気配はなく、たどり着いた食堂車にも配膳係はおろかシェフの姿さえなかった。

 ただ、厨房には出来上がった料理がいくつか並んでいて、鍋にも温かなスープがたっぷり用意されていた。この料理を作ったあとに、シェフたちは姿を消したということだろうか?


 ぐぎゅるるる、とまたわたしの空気を読まない腹の虫が鳴る。


「……食べてもいいかしら?」

「良いと思います! ぼくがご用意しますね!」


 仕事だ仕事だ、と嬉しそうにテーブルにカトラリーを並べ始めた。

 明らかにおかしな状況なのに、いつも通り明るくふるまってくれるフィンの存在がありがたい。


 厨房を行ったり来たりする小柄な従僕の姿を横目に、窓の外を眺める。林の向こうにオレンジの屋根で建物が統一された小さな町が見えた。

 何か引っかかるものがあったけれど、その正体がわからない。考えているとフィンが盛り付けを済ませた料理を運んできた。


「お待たせいたしました! 作りたてのようで、温めなくても大丈夫でした」

「ありがとう。本当ね、美味しそうな匂い。あら? フィンの分は?」

「ぼくはこれから、三等車に行ってみようと思います」


 キリリとした顔で宣言するフィンに驚く。


「三等車へ? それならわたしも一緒に行くわ」

「いいえ。三等車は煙臭いですし、ご主人様が行くような場所ではありません。ぼくが行って車掌を見つけてきます!」

「あっ! フィン! でも、もしかしたら列車が停まるかも――……行っちゃった」


 いつもとは違い機敏に動き、フィンは食堂車を出て行った。

 まだ列車は止まる気配はないので、まずは目の前の食事をありがたくいただくことにしよう。早く食べろとばかりにぎゅるるると主張する腹の虫を静かにさせるため、ナプキンを広げた。


 食事を始めて十五分ほどで戻ってきたフィンは、真っ青な顔で息を切らしていた。


「ご、ご主人様……」

「大丈夫? 何かあったの?」

「いいえ。何もないんです」

「え?」


 どういうことかと首を傾げるわたしに、フィンは珍しく険しい表情でこう言った。



「何も……誰も、いませんでした。車掌どころか、乗客もです」



続きが気になる! と思っていただけましたら

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