15 再生の光
「危な――!」
フィンを守ろうとしたけれど、後ろから体を抱きしめるように引かれて手が届かなかった。
驚いたフィンが顔を上げた瞬間、スチュワードの青い制服を着た魔法人形が、彼に襲い掛かった。
悲鳴を上げる暇すらなく、あの不気味な長い腕の中にフィンの小さな体が消える。
「フィン‼」
「下がっていろ!」
わたしを押しのけ、王子様が剣を抜く。
フィンを避けた剣が一つ目の顔に突き刺さると、魔法人形の身体が後ろに倒れ、刺された部分から霧散していった。
王子様の腕に抱かれたフィンは、ぐったりと目を閉じている。呼吸すらしていないのではと不安になった。
「フィン! フィン! しっかりして!」
「落ち着け。気を失っているだけだ。魔法人形に襲われるとそうなると説明しただろう」
強い口調で諭されて、そういえばそんな説明を受けたようなと、記憶をたどる。
「そう……そうですよ! どうしてあれがここに⁉ まだ三時間も経っていないですよね⁉」
「ああ。そもそも、ここに現れるのがまずおかしい」
「どういう意味ですか……?」
王子様は難しい顔をしてしばらく考えこんだあと「いや」と首を横に振った。
「まずは、いったん特等車に戻ろう。この子どもをここに置いておいても問題はないが……」
「問題大ありです! 戻りましょう。フィンを安全な場所で寝かせてあげないと」
こんな所にフィンを置いておくなんてとんでもない。たとえ魔法人形を倒した後だったとしてもだ。
わたしがフィンを抱いていこうとしたのだけれど、気を失った体は小さくてもそれなりに重く、結局王子様が運んでくれた。
特等車に戻り、大きなベッドに寝かせると、フィンは貴族のお坊ちゃんにしか見えなかった。
気を失っているだけなのか疑いたくなるほど、微動だにしないフィンの髪を、さらりと撫でる。
「本当にフィンは大丈夫なんですか?」
「ああ。いまは叫んでも揺すっても、何もしても目覚めないだろうが、半日過ぎれば目が覚める。お前がそうだった」
なるほど。わたしが気を失っている間、フィンは叫んだり揺すったりしていたわけね。
泣きながら私の名前を呼ぶフィンの姿が目に浮かぶ。こんな状況だけど、心がほっこりとして笑みがもれた。
「さて、どうする? 探索はもうやめるか?」
「……いいえ、さっきの場所に戻りましょう。フィンのことは気になりますが、ここは安全なんですよね?」
「ああ。この部屋にいる限り、魔法人形に襲われることはない」
「では、やっぱり行きましょう。フィンが半日目覚めることがないと決まっているならとりあえずは安心ですし」
王子様は「いいだろう」とついて来てくれた。
わたしだけで行っても良かったのだけど、淑女をひとりにしない紳士なのだろう。迷わずという感じだった。
守られている。そう感じるたびに体も心もむずむずとして落ち着かない気持ちになった。もちろん、そんな素振りを表には出さないよう気を付ける。
相手は他国の王子様。そしてわたしは離縁したばかりの下位貴族の女。
勘違いをしたり、妙な気になってはいけない。絶対に。
***
「それで、ここにあの化け物スチュワードが現れるのはおかしいというのは?」
フィンが襲われた場所に戻り尋ねると、王子様は左右を見た。食堂車と、二等車の側廊下の先を。
もちろんこの場に、わたしたち以外は誰もいない。
「あれの習性、いや、設定がそうなっている。消滅すれば、復活するまで約三時間が必要で、復活するときは特等車の私の部屋以外、つまり廊下かスチュワードの部屋と決まっていた」
「ランダムと言っても、特等車内に限られていたんですね。では、あの化け物スチュワードは特等車からは移動しないんですか?」
「いや、そういうわけではない。あくまでも復活する場所が決まっているというだけだ。だが、特等車で復活してこちらに移動してきたのなら、反対側である先の車両から現れるのはおかしいだろう?」
「言われてみれば……。では、一体どうして?」
王子様はスーツのポケットから懐中時計を出した。わたしもそれを真似て時間を確認する。
時計は午後一時十五分をさしていた。やっぱり、魔法人形が復活するまでまだ少し余裕がある。誤差があるというなら話は変わってくるけれど。
「まさか……二体目か?」
ハッとしたように顔を上げた王子様の言葉に驚く。
「二体⁉ 一体じゃなかったんですか。それならそうと先に言ってくださらないと」
「いや。これまでは一体しかいなかったんだ。考えすぎだろうか。わからないが……何かが変化しているな。お前の予想は当たっているのかもしれない」
王子様の青い瞳がわたしを真っすぐに見据える。
諦観の色をしていた王子様の目に、光が宿る瞬間を見た。
ここから異世界恋愛らしくなっていきます…!




