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呪われ王子と出戻り令嬢の繰り返される幽閉列車の旅  作者: 糸四季


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10/16

10 永遠の今日


 聞き捨てならないことを一気に言われて、思わず言葉に詰まった瞬間、

 ぐぎゅるるる。わたしの空気を読まない腹の虫が盛大に鳴いた。鳴りそうだなと思ったから、お腹に力を入れて我慢していたのに。

 腕の中のフィンに「ご主人様……」とあきれ顔をされてしまった。恥ずかしい。


「まず聞きたいのは、あの化け物が一定時間で復活するというのは、具体的にはどれくらいで……?」

「大体三時間ほどだな」

「何だ、じゃあゆっくり食事出来るじゃないですか。わたしたち、その間に食堂車に行って、朝ごはん食べてきちゃいますね」

「はっ⁉ ……お前、見かけによらず図太いな」


 昨日怖い思いをしたくせに、と言いたいのだろう。

 でも三時間は安全なのだから、いまは食欲を優先して当然。ささっと食べて、ささっとこの安全地帯に戻ってくればいい。


「何とでも言ってください……って、レオンハルト様も行くんですか?」


 腰に剣を差し、ついて来ようとする仕草を見せた王子様。彼の分の食事はワゴンにあるのに。


「行くに決まってるだろう。お前たちが妙な動きをするとも限らない」


 どうやらあの化け物を倒したくらいでは信用できない、ということらしい。それはお互い様なので仕方ない。

 もったいないので、ワゴンを押しながら食堂車へ向かった。厨房の料理は昨日のままで、悪くなっている様子もない。


 フィンが給仕をしてくれると言うのでそれに甘え、わたしと王子様は向かい合って座った。

 まぁそうよね。平民であるフィンが王子様と同じ席で食事なんてしたくないはず。わたしも正直、息が詰まりそう。

 けれど料理がテーブルに並べられると、息の詰まりなんて綺麗さっぱり消えていた。


 クロワッサンやデニッシュ、トーストと何種類ものパンが、まるで出来立てのような良い香りをさせている。これでもかと盛られたフルーツはどれも瑞々しい。

 系列ホテルでも提供されるこのサラミとチーズ、大好きなのよね。二食も抜いてしまった分を取り戻す勢いで食べなくちゃ。


「……レオンハルト様、食べないんですか?」


 ミルクを飲んだきり食事に手をつけない王子様に首を傾げる。


「いつも同じものだと、食べるのも億劫になるんだ」

「はぁ……? 美味しいのに」


 そう言いながら気づいた。目の前の彼が本物の王子様だとして、王子様は二週間も行方不明なのだ。その間ずっと彼がここにいたとするなら、食事は一体どうなっていたのだろう?

 いま食べているものは間違いなく新鮮で、腐ってはいない。誰かが用意しているってこと?


「あの、食べながらお話しをしても?」

「ようやくまともに話しをする気になったか」

「すみません。お腹が空くとどうしても意識がそちらに向いてしまうんです。それで、王子様が魔女に狙われていて、わたしたちがそれに巻きこまれたというのはわかったのですが、汽車が止まらないというのは一体どういうことでしょう? 止まらないなら、この列車はどこに向かって走っているんでしょうか」


 窓の外は明るく、牧歌的な風景が広がっている。通り過ぎていく風景の中に、時々オレンジの屋根を見つけると胸がざわめいた。

 やっぱり、国境側ではなく王都側を走っている気がするのだけど。


「窓の外の風景は偽物だ。意味はないぞ」

「……偽物? いまわたしたちが見ている景色がですか?」

「魔法で作られた幻影のようなものだと思えば良いんじゃないか」


 幻影? この太陽の日差しの温かさを感じ、風の匂いがしそうな風景が?

 思わず窓の向こうをじっと見つめたけれど、どう見ても本物にしか見えない。


「恐らく私たちは、乗っていた汽車と繋げられた、まったく別の空間にいる。この列車は我々の乗っていたものとそっくりだが別物で、どこかに向けて走っているのでもない。恐らく現実世界のある一定の区間と時間をそのまま写し取り、固定したんだろう。だからこの列車はどこにもたどり着かない。永遠に同じ時間を繰り返しているんだ」


 王子様は聞き取りやすい良い声でよどみなくしゃべるけれど……どうしよう。内容が全然頭に入ってこない。彼の言っていることのほとんどが理解不能だった。


「何と言うか……もう少し、わかりやすく言っていただくことは可能ですか?」

「一晩経てば、また同じ景色が通り過ぎるのを見られる」

「あ。いまのはわかりやすかったです。……でも、本当にそんなことが?」


 まるで物語の中の話みたいだ。実際に今日と明日が同じなら、わたしは夢でも見てるんじゃないかと思うだろう。


「私は事実しか言っていない。お前がいま口にしている食事も、厨房にあるものすべて食べきったとしても、明日また同じものが厨房にあるだろう」

「えっ。……この料理も、魔法で出来ているのですか?」


 では、わたしが列車内で食べたと思ったものは、外の景色のように幻影で、本当は何も食べていない状態ということ?

 もしそうだとしたら、食べても食べてもお腹は膨れないし、痩せていくいっぽうだ。


「いや、魔法で作ったものだがこれは幻影ではない。食事が偽物なら、私は今頃こんな風に動けてはいないだろう」

「ああ、おっしゃる通りですね。良かった。食事は本物で」


 二週間も栄養が取れていなかったとしたら、きっととっくに衰弱しているだろう。わたしなら餓死しているかもしれない。


「列車内で食事をしたり、備品を消費したり、何かを壊したりしても、一晩経てば元の状態に戻る。だから料理は腐らないし、消耗品もなくならない。永遠に同じ日が繰り返されているようなものだ」

「ちょ、ちょっと待ってください!」


 思わず立ち上がったわたしに、王子様が綺麗な目を丸くする。

 もしかして、いままでで一番衝撃的な事実を告げられたのではないだろうか。


朝食は火を使わない軽めのものです。

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